21 / 28
決定打
しおりを挟む拳が何度も剣を弾き、魔王軍幹部レオンに対して、決定打を入れられない。
「お前が剣を振るうごとにお前の部下を一人ずつ殺していく」
それどころか、レオンはふざけた口上を言いつつ、騎士たちを血祭りにあげていく。
神聖術の使い手が多い、神灯騎士団だと認識しているのか、ただ単純に素の攻撃力が高すぎるのかはわからないが、一撃の元に葬られているので、神灯騎士団の騎士たちは回復力が高いという持ち味を活かせず、骸を増やし、震え上がっていた。
中には剣を放棄して神に祈りを下げるものまで現れている。
ここでこれ以上、レオンに押され続ければクリスに壊滅させられた白翼騎士団の二の舞になることは、容易に想像できた。
魔王軍に冠斬を放ってから、休めるときなどなく、クリスとレオンとの連戦で、一度マスキオによって回復を施されたとはいえ、もうすでに限界を超えていた。
腕もところどころ痙攣し、足がもつれ始めている。
だというのに、途中から回復させるために離脱させたオフィリア帰って来ず、状況はどんどんと悪い方向に流れていっている。
「それが貴様の限界か。部下を思う気持ちを燃やしてもっと自分を追い込め」
レオンは煽るような言葉を吐いて、攻撃のスピードを上げ続ける。
当然のように全てを裁き切れるわけもなく、鋭い拳がいくつも入り、肉が弾け飛ぶような衝撃が体を何回も襲う。
「ぐっ!」
もうすでに倒れてもおかしくはないが、気合いで持ち堪えつつ、騎士たちを絶望させないために剣を振るう。
「貴様と共に挑んできた片割れは逃げたようだな」
レオンは野生的な顔に獰猛な笑みを浮かべると、そう囃し立てる。
すぐに反論したかったが、剣を振るうので手一杯で口を動かす余裕はなかったので、聞き流すしかない。
「ここまで酷い状況になれば、流石に展望など見ること不可能だから。それもしょうがないだろう」
心が弱っているせいか、だんだんと心の中で否定する気力も失せてきてしまった。
第一にこの状況でも周りものが絶望しないと言い張るには、流石に無理がすぎるという一つの事実があったことが大きかった。
「堕ちたな。もらった」
レオンは剣を横に大きく弾くと、ハロルドの顎に向けてアッパーを繰り出す。
確実に綺麗に入る構図が出来上がっていた。
だが途中で拳は止まり、ハロルドとレオン両者が目を見開いた。
「手隙のものは王子を回復させよ!」
見るといくつもの光の束が結束して、レオンの腕を掴んでいた。
この場の誰が見おうともこのことを引き起こした主は明白だった。
オフィリアだ。
腹部から血塗れにしながらも毅然とした様子で立っている。
回復しに行ったというのにどうして血まみれになっているのかとったいた疑問はあったが、ハロルドはひとまず背後に下がり、回復の効力が強く作用するようにする。
「情けない話だが、貴様が回復に向かってから一度もレオンに手傷は負わせられていない」
「そのように疲弊した状態では無理です。先日放った大技はいつになったら打てますか。あれさえ放ってれば形成逆転を狙えるはずです」
「昨日打ったのは、始めて打ったものの24時間後。確実に打てるのは夕刻ごろになる」
「夕刻……。王子、失礼ですが今までこのように放出するタイプのスキルを使うのは始めてでしょうか?」
オフィリアは目を眇めつつ、剥がれつつある拘束を再度繋ぎつつ、ハロルドに対して尋ねる。
ハロルドは尋ねられて、冠斬についての自分の理解が足りなかったことに気づき始めた。
「初めてだ。その口ぶりからすると冠斬についての私の考えは間違っているか」
「いえ、間違ってはいませんが、だが少し考え方が固すぎます。威力は半ば以下まで減衰して、反動で一瞬身動きを封じられますが放つことはできます」
「なるほど。無理やり打つことも可能だったか。普通の技なら致命的な弱点になるが、冠斬ならばそれには及ばんな」
身のうちから何から無理やり削られる感覚に襲われながら、冠斬を発動させる。
いつもであればすぐにでも発動できるはずだが、時間がかかっている。
まるで体の奥底から無理やり何かを絞りとっているような常にはない感覚を味わいながら、力が腕に伝わっていく。
その間にもレオンは危機感を覚えているのか、笑みを浮かべてつつも脂汗を流し、絡め取ろうとする光の束を無理やり引き剥がしつつ前に進んでいく。
「させません!」
ハロルドと同じような状態にガス欠の状態に置かれているのか、オフィリア細くなった束を無理やりに巻き付ける。
「鬱陶しいぞ、木っ葉どもが!」
それも剥がして手をレオンはハロルドに伸ばしていく。
だが一歩間に合わずに剣が振るわれた。
白い衝撃波が飛び、攻撃するために踏み込んでいたレオンに着弾する。
凄まじい光の奔流がレオンを中心に広がると共に、ハロルド、オフィリア含め全てのものが余波で吹き飛ばされる。
身動きが取れなくなり、騎士たちに神聖術をかけられながら、立ち上がると、黒くなったレオンが見えた。
流石に魔王軍幹部というだけあり、あの威力の一撃を受けても原型を止めている。
死んだかと思うと、黒焦げになったレオンがわずかに動いた。
「ば、ばかな!」
騎士たちが嘘のような光景に悲鳴をあげる。
彼らが見た中でも単体の敵に放つ技の最高火力だったというのに、それでまだ命を損なわずにいることが信じられなかった。
「殺す。コロス……。殺すぞ! クソどもがああああ!!!」
口を開けたと思うと、レオンは犬歯を剥き出しに吠えた。
「侵略戦争を仕掛けているお前らが死ねばいいというのに、なぜ俺が死に目に遭わねばならん。命を持って償え」
ふらつきつつも立ち上がると、踏み込みで一気にハロルドたちの目の前に現れた。
すでに拳を後方に引き絞られており、下されれば確実に誰かが亡くなることは分かりきっていた。
ハロルドが反動で動けない中、反動に慣れていたオフィリアが空中に向けて、光の束を伸ばした。
限界を超えたその先に手を届かせたオフォリアに対して、驚愕するが、その光の先の先がレオンとは別の方向に向いていることに絶望する。
だが光の束に向いている先にある大きな赤い光球に気づき、その感情も一瞬で吹き飛び、レオンは空中で身を捻り、ハロルドは反動から半ば立ち直りつつあった足を使ってその場から飛ぶ。
高密度のエネルギー塊である赤い光球は光の束に小揺るぎもせずに、そのまま進み、レオンの脇腹と腕を抉り、ハロルドの足を消し飛ばし、射線上で反動で動けなくなったオフィリアに直撃する。
あまりの事態に凄まじい痛身を伴うはずの出来事だというのに、二人は光球が来た先を見つめる。
ハロルドにはその下で僅かに赤いものがちらつくものが見えた。
「クソが!」
追撃を避けるためか、レオンはその場から退散していく。
あまりにも突然すぎる出来事に硬直する騎士もいる中、ハロルドは剣を支えにして立ち上がり、赤いものが見えた地点におよその地点まで剣を杖にして進んでいく。
「陛下、お待ちくだされ」
横から声をかけられたと思うとマスキオが神聖術を行使したようで、足の傷口に熱が生じると思うと、足にあった喪失感が失せた。
踏ん張れるようになったため、赤いものが見えた先に投擲する。
地面が抉れたところを見て、ハロルドはそれ以上赤いものの確認についてこだわることをやめた。
「骨がいくつも折れています。神聖術だけでなく然るべき処置を行うことも必要になります故、テントに早く来てくだされ。戦場で起きたこともできるだけ把握したくあります」
「わかった」
ハロルドは言葉少なに返事をすると、塵さえ残らず、消滅させられたオフィリアのいた場所を見やる。
そこは地面が大きく穿ったれたことで奈落を作っていた。
さっき、オフィリアが気づかなければ確実にレオンもろとも全滅していた。
昨日の件でクリスをこちらに送り、明確に敵意を示したが、あちらも確実にやる気のようだ。
王国にもどれない以上、あちらもここでしばらく魔族領を彷徨えるだけの資源を確保しなければ、野盗の真似事をして第三国に逃げる前に捕まり魔族領で縛り首にされることになる。
「もはや戦いは避けられんな」
ハロルドにとって不思議な人間であったが、有能な人物であったオフィリアの死に報いることも合わさり、戦いに対して決意を強めた。
0
お気に入りに追加
53
あなたにおすすめの小説
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
最強執事の恩返し~大魔王を倒して100年ぶりに戻ってきたら世話になっていた侯爵家が没落していました。恩返しのため復興させます~
榊与一
ファンタジー
異世界転生した日本人、大和猛(やまとたける)。
彼は異世界エデンで、コーガス侯爵家によって拾われタケル・コーガスとして育てられる。
それまでの孤独な人生で何も持つ事の出来なかった彼にとって、コーガス家は生まれて初めて手に入れた家であり家族だった。
その家を守るために転生時のチート能力で魔王を退け。
そしてその裏にいる大魔王を倒すため、タケルは魔界に乗り込んだ。
――それから100年。
遂にタケルは大魔王を討伐する事に成功する。
そして彼はエデンへと帰還した。
「さあ、帰ろう」
だが余りに時間が立ちすぎていた為に、タケルの事を覚えている者はいない。
それでも彼は満足していた。
何故なら、コーガス家を守れたからだ。
そう思っていたのだが……
「コーガス家が没落!?そんな馬鹿な!?」
これは世界を救った勇者が、かつて自分を拾い温かく育ててくれた没落した侯爵家をチートな能力で再興させる物語である。
異世界あるある 転生物語 たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?
よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する!
土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。
自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。
『あ、やべ!』
そして・・・・
【あれ?ここは何処だ?】
気が付けば真っ白な世界。
気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ?
・・・・
・・・
・・
・
【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】
こうして剛史は新た生を異世界で受けた。
そして何も思い出す事なく10歳に。
そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。
スキルによって一生が決まるからだ。
最低1、最高でも10。平均すると概ね5。
そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。
しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。
そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで
ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。
追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。
だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。
『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』
不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。
そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。
その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。
前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。
但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。
転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。
これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな?
何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが?
俺は農家の4男だぞ?
異世界の約束:追放者の再興〜外れギフト【光】を授り侯爵家を追い出されたけど本当はチート持ちなので幸せに生きて見返してやります!〜
KeyBow
ファンタジー
主人公の井野口 孝志は交通事故により死亡し、異世界へ転生した。
そこは剣と魔法の王道的なファンタジー世界。
転生した先は侯爵家の子息。
妾の子として家督相続とは無縁のはずだったが、兄の全てが事故により死亡し嫡男に。
女神により魔王討伐を受ける者は記憶を持ったまま転生させる事が出来ると言われ、主人公はゲームで遊んだ世界に転生した。
ゲームと言ってもその世界を模したゲームで、手を打たなければこうなる【if】の世界だった。
理不尽な死を迎えるモブ以下のヒロインを救いたく、転生した先で14歳の時にギフトを得られる信託の儀の後に追放されるが、その時に備えストーリーを変えてしまう。
メイヤと言うゲームでは犯され、絶望から自殺した少女をそのルートから外す事を幼少期より決めていた。
しかしそう簡単な話ではない。
女神の意図とは違う生き様と、ゲームで救えなかった少女を救う。
2人で逃げて何処かで畑でも耕しながら生きようとしていたが、計画が狂い何故か闘技場でハッスルする未来が待ち受けているとは物語がスタートした時はまだ知らない・・・
多くの者と出会い、誤解されたり頼られたり、理不尽な目に遭ったりと、平穏な生活を求める主人公の思いとは裏腹に波乱万丈な未来が待ち受けている。
しかし、主人公補正からかメインストリートから逃げられない予感。
信託の儀の後に侯爵家から追放されるところから物語はスタートする。
いつしか追放した侯爵家にザマアをし、経済的にも見返し謝罪させる事を当面の目標とする事へと、物語の早々に変化していく。
孤児達と出会い自活と脱却を手伝ったりお人好しだ。
また、貴族ではあるが、多くの貴族が好んでするが自分は奴隷を性的に抱かないとのポリシーが行動に規制を掛ける。
果たして幸せを掴む事が出来るのか?魔王討伐から逃げられるのか?・・・
神々の間では異世界転移がブームらしいです。
はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》
楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。
理由は『最近流行ってるから』
数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。
優しくて単純な少女の異世界冒険譚。
第2部 《精霊の紋章》
ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。
それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。
第3部 《交錯する戦場》
各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。
人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。
第4部 《新たなる神話》
戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。
連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。
それは、この世界で最も新しい神話。
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-
ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。
断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。
彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。
通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。
お惣菜お安いですよ?いかがです?
物語はまったり、のんびりと進みます。
※本作はカクヨム様にも掲載しております。
神速の成長チート! ~無能だと追い出されましたが、逆転レベルアップで最強異世界ライフ始めました~
雪華慧太
ファンタジー
高校生の裕樹はある日、意地の悪いクラスメートたちと異世界に勇者として召喚された。勇者に相応しい力を与えられたクラスメートとは違い、裕樹が持っていたのは自分のレベルを一つ下げるという使えないにも程があるスキル。皆に嘲笑われ、さらには国王の命令で命を狙われる。絶体絶命の状況の中、唯一のスキルを使った裕樹はなんとレベル1からレベル0に。絶望する裕樹だったが、実はそれがあり得ない程の神速成長チートの始まりだった! その力を使って裕樹は様々な職業を極め、異世界最強に上り詰めると共に、極めた生産職で快適な異世界ライフを目指していく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる