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決定打

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 拳が何度も剣を弾き、魔王軍幹部レオンに対して、決定打を入れられない。

「お前が剣を振るうごとにお前の部下を一人ずつ殺していく」

 それどころか、レオンはふざけた口上を言いつつ、騎士たちを血祭りにあげていく。
 神聖術の使い手が多い、神灯騎士団だと認識しているのか、ただ単純に素の攻撃力が高すぎるのかはわからないが、一撃の元に葬られているので、神灯騎士団の騎士たちは回復力が高いという持ち味を活かせず、骸を増やし、震え上がっていた。
 中には剣を放棄して神に祈りを下げるものまで現れている。
 ここでこれ以上、レオンに押され続ければクリスに壊滅させられた白翼騎士団の二の舞になることは、容易に想像できた。
 魔王軍に冠斬を放ってから、休めるときなどなく、クリスとレオンとの連戦で、一度マスキオによって回復を施されたとはいえ、もうすでに限界を超えていた。
 腕もところどころ痙攣し、足がもつれ始めている。
 だというのに、途中から回復させるために離脱させたオフィリア帰って来ず、状況はどんどんと悪い方向に流れていっている。

「それが貴様の限界か。部下を思う気持ちを燃やしてもっと自分を追い込め」

 レオンは煽るような言葉を吐いて、攻撃のスピードを上げ続ける。
 当然のように全てを裁き切れるわけもなく、鋭い拳がいくつも入り、肉が弾け飛ぶような衝撃が体を何回も襲う。

「ぐっ!」

 もうすでに倒れてもおかしくはないが、気合いで持ち堪えつつ、騎士たちを絶望させないために剣を振るう。

「貴様と共に挑んできた片割れは逃げたようだな」

 レオンは野生的な顔に獰猛な笑みを浮かべると、そう囃し立てる。
 すぐに反論したかったが、剣を振るうので手一杯で口を動かす余裕はなかったので、聞き流すしかない。

「ここまで酷い状況になれば、流石に展望など見ること不可能だから。それもしょうがないだろう」

 心が弱っているせいか、だんだんと心の中で否定する気力も失せてきてしまった。
 第一にこの状況でも周りものが絶望しないと言い張るには、流石に無理がすぎるという一つの事実があったことが大きかった。

「堕ちたな。もらった」

 レオンは剣を横に大きく弾くと、ハロルドの顎に向けてアッパーを繰り出す。
 確実に綺麗に入る構図が出来上がっていた。
 だが途中で拳は止まり、ハロルドとレオン両者が目を見開いた。

「手隙のものは王子を回復させよ!」

 見るといくつもの光の束が結束して、レオンの腕を掴んでいた。
 この場の誰が見おうともこのことを引き起こした主は明白だった。

 オフィリアだ。
 腹部から血塗れにしながらも毅然とした様子で立っている。
 回復しに行ったというのにどうして血まみれになっているのかとったいた疑問はあったが、ハロルドはひとまず背後に下がり、回復の効力が強く作用するようにする。

「情けない話だが、貴様が回復に向かってから一度もレオンに手傷は負わせられていない」

「そのように疲弊した状態では無理です。先日放った大技はいつになったら打てますか。あれさえ放ってれば形成逆転を狙えるはずです」

「昨日打ったのは、始めて打ったものの24時間後。確実に打てるのは夕刻ごろになる」

「夕刻……。王子、失礼ですが今までこのように放出するタイプのスキルを使うのは始めてでしょうか?」

 オフィリアは目を眇めつつ、剥がれつつある拘束を再度繋ぎつつ、ハロルドに対して尋ねる。
 ハロルドは尋ねられて、冠斬についての自分の理解が足りなかったことに気づき始めた。

「初めてだ。その口ぶりからすると冠斬についての私の考えは間違っているか」

「いえ、間違ってはいませんが、だが少し考え方が固すぎます。威力は半ば以下まで減衰して、反動で一瞬身動きを封じられますが放つことはできます」

「なるほど。無理やり打つことも可能だったか。普通の技なら致命的な弱点になるが、冠斬ならばそれには及ばんな」

 身のうちから何から無理やり削られる感覚に襲われながら、冠斬を発動させる。
 いつもであればすぐにでも発動できるはずだが、時間がかかっている。
 まるで体の奥底から無理やり何かを絞りとっているような常にはない感覚を味わいながら、力が腕に伝わっていく。
 その間にもレオンは危機感を覚えているのか、笑みを浮かべてつつも脂汗を流し、絡め取ろうとする光の束を無理やり引き剥がしつつ前に進んでいく。

「させません!」

 ハロルドと同じような状態にガス欠の状態に置かれているのか、オフィリア細くなった束を無理やりに巻き付ける。

「鬱陶しいぞ、木っ葉どもが!」

 それも剥がして手をレオンはハロルドに伸ばしていく。
 だが一歩間に合わずに剣が振るわれた。
 白い衝撃波が飛び、攻撃するために踏み込んでいたレオンに着弾する。

 凄まじい光の奔流がレオンを中心に広がると共に、ハロルド、オフィリア含め全てのものが余波で吹き飛ばされる。
 身動きが取れなくなり、騎士たちに神聖術をかけられながら、立ち上がると、黒くなったレオンが見えた。
 流石に魔王軍幹部というだけあり、あの威力の一撃を受けても原型を止めている。

 死んだかと思うと、黒焦げになったレオンがわずかに動いた。

「ば、ばかな!」

 騎士たちが嘘のような光景に悲鳴をあげる。
 彼らが見た中でも単体の敵に放つ技の最高火力だったというのに、それでまだ命を損なわずにいることが信じられなかった。

「殺す。コロス……。殺すぞ! クソどもがああああ!!!」

 口を開けたと思うと、レオンは犬歯を剥き出しに吠えた。

「侵略戦争を仕掛けているお前らが死ねばいいというのに、なぜ俺が死に目に遭わねばならん。命を持って償え」

 ふらつきつつも立ち上がると、踏み込みで一気にハロルドたちの目の前に現れた。
 すでに拳を後方に引き絞られており、下されれば確実に誰かが亡くなることは分かりきっていた。

 ハロルドが反動で動けない中、反動に慣れていたオフィリアが空中に向けて、光の束を伸ばした。
 限界を超えたその先に手を届かせたオフォリアに対して、驚愕するが、その光の先の先がレオンとは別の方向に向いていることに絶望する。
 だが光の束に向いている先にある大きな赤い光球に気づき、その感情も一瞬で吹き飛び、レオンは空中で身を捻り、ハロルドは反動から半ば立ち直りつつあった足を使ってその場から飛ぶ。

 高密度のエネルギー塊である赤い光球は光の束に小揺るぎもせずに、そのまま進み、レオンの脇腹と腕を抉り、ハロルドの足を消し飛ばし、射線上で反動で動けなくなったオフィリアに直撃する。
 あまりの事態に凄まじい痛身を伴うはずの出来事だというのに、二人は光球が来た先を見つめる。
 ハロルドにはその下で僅かに赤いものがちらつくものが見えた。

「クソが!」

 追撃を避けるためか、レオンはその場から退散していく。
 あまりにも突然すぎる出来事に硬直する騎士もいる中、ハロルドは剣を支えにして立ち上がり、赤いものが見えた地点におよその地点まで剣を杖にして進んでいく。

「陛下、お待ちくだされ」

 横から声をかけられたと思うとマスキオが神聖術を行使したようで、足の傷口に熱が生じると思うと、足にあった喪失感が失せた。
 踏ん張れるようになったため、赤いものが見えた先に投擲する。
 地面が抉れたところを見て、ハロルドはそれ以上赤いものの確認についてこだわることをやめた。

「骨がいくつも折れています。神聖術だけでなく然るべき処置を行うことも必要になります故、テントに早く来てくだされ。戦場で起きたこともできるだけ把握したくあります」

「わかった」

 ハロルドは言葉少なに返事をすると、塵さえ残らず、消滅させられたオフィリアのいた場所を見やる。
 そこは地面が大きく穿ったれたことで奈落を作っていた。
 さっき、オフィリアが気づかなければ確実にレオンもろとも全滅していた。
 昨日の件でクリスをこちらに送り、明確に敵意を示したが、あちらも確実にやる気のようだ。
 王国にもどれない以上、あちらもここでしばらく魔族領を彷徨えるだけの資源を確保しなければ、野盗の真似事をして第三国に逃げる前に捕まり魔族領で縛り首にされることになる。

「もはや戦いは避けられんな」

 ハロルドにとって不思議な人間であったが、有能な人物であったオフィリアの死に報いることも合わさり、戦いに対して決意を強めた。
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