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①失言

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「……も、やめっ……、や……っ!ぅあ、あああっ!」

 ぱん、ぱちゅ、ずちゅっ。激しく打ち付けるような律動が絶え間なく続く。私がどんなにやめてと叫んでも、乞うても、雄紀ゆうきの動きが止まることはない。確か、夕食の後に夫婦で酒を飲んで、それからえっちな雰囲気になって……。窓の隙間から漏れる朝日に、自分が随分と抱かれていたことを知る。

「っは、そういうわりには余裕そうだね」

 ずるる、と陰茎を引き抜いた雄紀は、言い終わるのと同時に深く挿入した。ずちゅっ、という音と共に快感が駆け抜けてゆく。

「あああ―――ッ!」

 頭がばかになって、何も考えられなくなる。逃げ出したいのに、両手は雄紀の手に絡められシーツに押さえつけられているし、腰をへこへこ逃がしても太く固い肉棒が追いかけてくる。もう何度イったのか分からない。助けて。
 縋るように雄紀を見ると、彼は目を細めて笑った。

「ひな、かーわい……♡」





 喉の渇きで目を覚ます。時計の短針は十二を指していた。あれから、どうやら気を失ってしまったようだ。

「んん~~~………」

 腕を伸ばして、大きく伸びをする。腰や身体中が酷く痛むのは、気を失うまでセックスをしていたせいだろう。

「ひな、おはよ」

 起こしに来てくれたのだろうか。エプロン姿の雄紀が声をかけてきた。

「……おはよ」

 驚くほど掠れた声だ。んん、と咳払いすると、雄紀は笑顔で話しかけてくる。

「お腹空いたでしょ?お昼にしよーよ」
「うん……」
「今日はひなの好きなオムライスだよ」
「ありがと」

 雄紀は私にご飯を振る舞うのが好きらしい。好物も全て覚えてくれて、恋人時代の私はまんまと胃袋を掴まれてしまった。

「……お風呂、先に入ってからでもいい?」

 気を失うほどセックスをしたとは思えないほど、身体は綺麗だった。世話焼きの雄紀が拭いてくれたのだろう。それでも、シャワーを浴びてサッパリしたいのだ。雄紀は不服そうだったが、私は構わずシャワーを浴びることにした。
 私の夫、高橋 雄紀は所謂絶倫だ。恋人の時は淡泊だと思っていたが、婚前交渉でこどもができてしまわないよう彼なりに気を使っていたようだ。しかし、結婚してからというもの、彼は毎日私の身体を求めた。仕事終わりで疲れているはずなのに。最近では、専業主婦である私の方が根を上げていた。せめて、週に五回……いや、四回……できれば三回にしてほしい。
 悶々とした頭で浴室を出ると、テーブルには出来立てのオムライスが置かれていた。とろとろ卵のオムライスに、デミグラスソースがかかっている。美味しそうな匂いが鼻腔をくすぐる。

「わ~!美味しそう!」
「じゃ、食べよっか」

 スプーンをオムライスに割り入れると、バターライスが顔を覗かせた。邪道と言われるかもしれないが、私にとってオムライスにバターライスの組み合わせは至高なのだ。美味しさのあまり半分ほど食べ進めて、我に返る。

「……ねえ、雄紀」
「なーに?」
「あの、ね……」

 私の食べる姿をニコニコしながら見つめている雄紀に話しかける。話題が話題なだけに、言いにくいことだが、今ここでハッキリさせなくては。

「え……えっちの、ことなんだけど……」
「うん?」

 雄紀は笑顔のままだ。彼が笑顔でいることが多いけれど、表情から感情を読み取るのは結婚してからも難しく、今も私は彼の感情を図りかねていた。

「あの……回数を、減らしてもらえないかなって……」
「……回数を?」
「う、うん……」
「具体的には?」
「……週に、三回とか……?」
「えー。週に三回かあ」

 雄紀はうーん、と声を漏らして、眉を下げる。

「困ったなあ。俺、それじゃあ欲求不満になりそう」
「……っ!」

 雄紀の足が私の足にすり寄って、絡ませる。

「今も、風呂上がりのひなに欲情してるんだけど」
「で、でも……今日はもう……!」
「ん。分かってる。……でも、ひなでヌくのはいいよね?」

 正面に座っていた雄紀が隣に座り、机に肘をついて私をじっと見つめた。左手はズボンの中で、ごそごそと動いている。

「え、ちょ、ちょっと……!ここでするの?!」
「うん。だってひなの食べる姿、ちょーエロいんだもん。俺のも頬張ってほしいくらい」

 私は勢いよく席を立った。雄紀の自慰姿など、恥ずかしくて見ていられない。自室に行こうとする私の手首を彼が掴んだ。

「ねえ、どこいくの?オムライス半分残ってるよ」
「残りは後で食べるから……」
「えー、出来立ての方が美味しいよ」
「だ、だって、雄紀のお、オナニー、見たくないし……」
「俺のオナニー見たくないの?」
「う、うん……。あ、そうだ」

 私は恥ずかしさを誤魔化すために言葉を重ねる。それがまさか彼の地雷を踏むことになろうとは思ってもみなかった。

「そんなにえっちが好きなら、他の女の人に性欲処理してもらえば?」
「……は?」

 雄紀の声が低くなる。怒ると声が低くなる雄紀。つまり彼は、怒っているわけで……。しまったと思ったがもう遅かった。

「何それ。俺がセックス好きでひなを抱いてると思ってんの?」
「い、いや……そういうわけじゃ……!」
「それに、俺が他の女を抱いてもいいワケ?ひなの俺への愛はそんなちっぽけなもんだったの?」

 ギリギリと手首を掴む手に力が加わり、私は顔を歪めた。

「愛するひなのためにお願い聞いてあげようと思ったけど、やめた。あんなに毎日ひなに愛を注いでいたのに、まだ分からなかったんだ」

 雄紀は私の手首を掴んだまま、歩き出す。その方角は、寝室で。私は彼の拘束から逃れようと手首を捩るが、びくともしない。圧倒的な力の差に、血の気が引いていく。

「や、やだ!雄紀!私が悪かったの!ごめんなさい!だ、だから……!もう今日は……!」

 私の言葉に、雄紀の動きが止まった。安堵したのも束の間、雄紀が振り返る。雄紀は、薄く笑っていた。でも目が笑っていなかった。無機質な硝子のような瞳は黒く濁っている。底なしの闇を彷彿とさせるその瞳に、ヒュ、と喉が絞まるのを感じた。

「ひーな。もうあきらめな?明日も休みだし、たーっぷり教えてあげる。俺がどれだけひなを愛しているのかってコトを、ね」

つづく
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