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第二話 旅立ち
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ヒーラーとなるための修行が始まった。私以外にも、同じ年頃の少年少女が日々修行を積んでいる。辛いことも多かったけれど、ヒーラーとして出来ることが増えていくのは楽しかった。
シャルルからは毎日のように手紙が届いた。教会の規則で、手紙は週に一度しか出せなかったので、私の方は週に一度しか返せなかったけれど、それでも彼とのやりとりはとても楽しかった。驚くことに、シャルルはメキメキと頭角を現し、早期卒業できそうだと言う。シャルルが頑張っているのだから私も頑張らなきゃ。早く一人前になりたい、そう思いながら日々の修行を続けていた。
修行を始めてから三年後。珍しいことに、教会が色めきだっていた。どうやら教会に誰かが現れたらしい。
「ルエット、お前に来客だ」
施設長に言われて行けば、そこには見知った顔があった。幼い顔つきは残るものの、端正な顔立ちに目を奪われる。
「久しぶり」
輝く笑顔を浮かべて、見惚れていた私を抱きしめたのはシャルルだった。
「シャル!?ど、どうして……?!」
「早期卒業しそうだって言ったの忘れたの?」
「え、アカデミーって五年制だったよね?」
「うん。でももう終わったから。迎えに来たんだ」
にこにこと上機嫌なシャルルに私は戸惑う。
「え、ええっと。いきなりそんなことを言われても……」
「もう話はつけてあるから、大丈夫だよ」
話はつけてある?疑問に思いながら施設長を見ると、彼はやれやれといった表情で頷いた。
「基本的な修行は終えている。あとは応用だが、本を読んでなんとかしろ」
そう言われて、分厚い本を渡された。
「重いよね?僕が持つよ」
本はシャルルの手に移って、鞄に仕舞われてしまった。
「え、え?ちょ、ちょっと……」
「さ、行こっか」
シャルルは、状況が飲み込めていない私の手を取って自室へと促した。準備をしろということだろうか。シャルルの有無を言わせないような圧に負けて、私は準備を始めた。
「それで、準備したらどこに行くの?」
「うーん、まずはここに近い街に行こうか。装備と食糧を揃えなきゃね」
シャルルは本気で旅をするつもりらしい。確か、幼い頃の約束だ。それを三年の月日を経ても覚えているとは。純粋なシャルルに苦笑する。けれど一つ、引っかかることがあった。百年に一人と言われる程の逸材をアカデミーが手放すだろうか、と。
「……シャルはさ、アカデミーで引き留められたりしなかった?」
「ああ、引き留められたよ。けど僕の一番はルエットだから。ずっとずっと、会いたかった」
ぎゅう、と強く抱きしめられる。三年という時間はシャルルにとって長かったようだ。
「これからは、ずっと一緒だよ」
抱きしめ返していいものか悩んでいると、耳元で囁かれた。シャルルの息が耳にかかり、ぞわぞわと背筋が粟立った。
「ちょ、ちょっと。シャル、くすぐったいよ」
私が笑うと、シャルルは残念そうな顔で離れた。
「昔は抱きしめ返してくれたのに……」
「あはは、いつの話よ」
私は笑いながら、鞄に最低限の荷物を入れた。
早く、早く、と急かすシャルルに押されて私は教会を後にした。
つづく
シャルルからは毎日のように手紙が届いた。教会の規則で、手紙は週に一度しか出せなかったので、私の方は週に一度しか返せなかったけれど、それでも彼とのやりとりはとても楽しかった。驚くことに、シャルルはメキメキと頭角を現し、早期卒業できそうだと言う。シャルルが頑張っているのだから私も頑張らなきゃ。早く一人前になりたい、そう思いながら日々の修行を続けていた。
修行を始めてから三年後。珍しいことに、教会が色めきだっていた。どうやら教会に誰かが現れたらしい。
「ルエット、お前に来客だ」
施設長に言われて行けば、そこには見知った顔があった。幼い顔つきは残るものの、端正な顔立ちに目を奪われる。
「久しぶり」
輝く笑顔を浮かべて、見惚れていた私を抱きしめたのはシャルルだった。
「シャル!?ど、どうして……?!」
「早期卒業しそうだって言ったの忘れたの?」
「え、アカデミーって五年制だったよね?」
「うん。でももう終わったから。迎えに来たんだ」
にこにこと上機嫌なシャルルに私は戸惑う。
「え、ええっと。いきなりそんなことを言われても……」
「もう話はつけてあるから、大丈夫だよ」
話はつけてある?疑問に思いながら施設長を見ると、彼はやれやれといった表情で頷いた。
「基本的な修行は終えている。あとは応用だが、本を読んでなんとかしろ」
そう言われて、分厚い本を渡された。
「重いよね?僕が持つよ」
本はシャルルの手に移って、鞄に仕舞われてしまった。
「え、え?ちょ、ちょっと……」
「さ、行こっか」
シャルルは、状況が飲み込めていない私の手を取って自室へと促した。準備をしろということだろうか。シャルルの有無を言わせないような圧に負けて、私は準備を始めた。
「それで、準備したらどこに行くの?」
「うーん、まずはここに近い街に行こうか。装備と食糧を揃えなきゃね」
シャルルは本気で旅をするつもりらしい。確か、幼い頃の約束だ。それを三年の月日を経ても覚えているとは。純粋なシャルルに苦笑する。けれど一つ、引っかかることがあった。百年に一人と言われる程の逸材をアカデミーが手放すだろうか、と。
「……シャルはさ、アカデミーで引き留められたりしなかった?」
「ああ、引き留められたよ。けど僕の一番はルエットだから。ずっとずっと、会いたかった」
ぎゅう、と強く抱きしめられる。三年という時間はシャルルにとって長かったようだ。
「これからは、ずっと一緒だよ」
抱きしめ返していいものか悩んでいると、耳元で囁かれた。シャルルの息が耳にかかり、ぞわぞわと背筋が粟立った。
「ちょ、ちょっと。シャル、くすぐったいよ」
私が笑うと、シャルルは残念そうな顔で離れた。
「昔は抱きしめ返してくれたのに……」
「あはは、いつの話よ」
私は笑いながら、鞄に最低限の荷物を入れた。
早く、早く、と急かすシャルルに押されて私は教会を後にした。
つづく
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