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異世界と少年と私
倦怠感
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文官の鑑定結果を報告すると、ロワーズは眉間に皺を寄せながら報告書を読んだ。
「文官は三人であるか。上級文官に密偵がおらず、よかったというべきか……」
「すぐに捕えましょうか? それとも泳がせましょうか?」
レズリーも厳しい顔をしながら尋ねた。
「泳がせるのは危険すぎる。秘密裏に捕らえよ。該当の下級文官は処分したことにする」
それからレズリーは、部屋を退出した。
その後、私はというとロワーズと紅茶を啜りながら報告書について話す。
紅茶のカップを置いたロワーズが、報告書にもう一度目を通し尋ねる。
「それで、この密偵ではないが怪しい人物リストとはなんだ?」
「はい。密偵とは表示されませんでしたが……上級文官のドゥボア様の従者が、暗殺者並みのスキル持ちでした」
ロワーズが頷きながら口角を上げる。
「ヤーヒムであるか。あやつの従者は心配する必要ない。ドゥボア家がヤーヒムを監視するために付けている者だ。すでに報告は受けている」
「……そうだったんですね」
監視を付けられているって、過去に何かしら問題を起こしているってことだ。
「ヤーヒムは、仕事面では優秀だ。だが、やつは王都で問題を起こした前科があるので、黒騎士団で見張り付きで預かっている」
「それって女性問題ですか?」
「よく分かったな。まさか、何かされたのか?」
ロワーズの表情が険しくなる。
「メイドのメリーの脚を触っていました」
「エマも触られたのか?」
「いえ、私は触られていませんが……」
ロワーズの顔が怖い。
メリーが触られていたとロワーズに訴えたが、この世界ではよくある事らしい。とくに酒屋なんかでは女給を触るのは当たり前の事らしい。王都でどの様な事件を犯して飛ばされたのか知らないけど、だから従者もお触りくらいなら止めなかったってことか。
「でも、ここは酒屋じゃないです」
「そうであるな。ヤーヒムには私から注意をしておく」
「ありがとうございます」
そんな話をしていると、レズリーから伝言を任された騎士が執務室にやってきた。
「副隊長より、密偵の捕縛について報告します」
「報告せよ」
「密偵は二人捕獲、一人自害であります」
「そうであるか。二人いれば十分だろう。厳しく追求するように伝えよ」
「はっ」
騎士が執務室を退出すると、少しだけ複雑な気持ちになる。
先ほども生きていた人が簡単に死んでしまう……そんな場所にいるのだと……急になんだか気持ちが疲れてしまう。
文官の密偵は、三人でそのうち一人は女性だった。自害をしたのは男性だという。
残りの密偵たちは、これから拷――尋問の時間になるだろう。正直拷問が酷いとかは思わない。密偵の鑑定したスキルから、彼らも他人に危害を加えているのは明確だった。
下級文官に扮していた女性密偵を思い出す。どういう経緯で密偵になったかは知らないけど、あんな笑顔を振りまいておいて、裏ではいろいろやっていたのだろうと思うと恐ろしい。
鑑定はありがたいスキルだけど、人の本質を垣間見るだけでやさぐれそうだ。
ロワーズが立ち上がり言う。
「エマ、今日の仕事は以上だ。よくやった」
「ありがとうございます」
「疲れたであろう? 部屋まで送ろう」
「え? ディエゴさんもいるから大丈夫ですよ」
「いいから、少し歩くぞ」
ロワーズが腕を差し出してくる。こちらのこういうレディ扱いに慣れていないので、ちょっと照れくさい。ロワーズの腕を取り、青の間の部屋へと向かう。後ろからディエゴが静かに付いてきた。
腕組んで歩くと、ピッタリと身体が相手に引っ付いてしまうんだよね。やっぱり、ちょっと慣れないかな。
ロワーズが咳払いをしながら言う。
「この前の病気の騎士の件、レズリーから報告を聞いた。それで、治癒師と相談したが、彼らは胃癌のことは詳しく知らないと申していたそうだ」
「そうでしたか。やはり胃に悪いできものって説明では無理がありましたよね」
「うむ。騎士の治癒師は外傷の怪我を治すことに徹している面がある。この治療、エマが可能なら頼みたいのだが、どうであろう? 報酬も支払う」
「……治せる保証はありませんが、できる限りの事はやります」
胃癌の騎士の治療の話が終わると、青の間に到着していた。部屋の前には、子供たちを護衛していたアリアナが立っていた。
ロワーズとはドアの前で別れの挨拶をすると、胃癌の騎士の治療はまた日を追って連絡すると言われた。
「エマ、もし私が振る仕事に受けたくないものがあれば断ってもらって構わない」
「本当ですか?」
「ああ」
「分かりました。そうさせていただきます」
ロワーズは軽く笑顔を見せると、ディエゴとアリアナに視線を移し言う。
「後は頼むぞ」
「「はっ」」
「文官は三人であるか。上級文官に密偵がおらず、よかったというべきか……」
「すぐに捕えましょうか? それとも泳がせましょうか?」
レズリーも厳しい顔をしながら尋ねた。
「泳がせるのは危険すぎる。秘密裏に捕らえよ。該当の下級文官は処分したことにする」
それからレズリーは、部屋を退出した。
その後、私はというとロワーズと紅茶を啜りながら報告書について話す。
紅茶のカップを置いたロワーズが、報告書にもう一度目を通し尋ねる。
「それで、この密偵ではないが怪しい人物リストとはなんだ?」
「はい。密偵とは表示されませんでしたが……上級文官のドゥボア様の従者が、暗殺者並みのスキル持ちでした」
ロワーズが頷きながら口角を上げる。
「ヤーヒムであるか。あやつの従者は心配する必要ない。ドゥボア家がヤーヒムを監視するために付けている者だ。すでに報告は受けている」
「……そうだったんですね」
監視を付けられているって、過去に何かしら問題を起こしているってことだ。
「ヤーヒムは、仕事面では優秀だ。だが、やつは王都で問題を起こした前科があるので、黒騎士団で見張り付きで預かっている」
「それって女性問題ですか?」
「よく分かったな。まさか、何かされたのか?」
ロワーズの表情が険しくなる。
「メイドのメリーの脚を触っていました」
「エマも触られたのか?」
「いえ、私は触られていませんが……」
ロワーズの顔が怖い。
メリーが触られていたとロワーズに訴えたが、この世界ではよくある事らしい。とくに酒屋なんかでは女給を触るのは当たり前の事らしい。王都でどの様な事件を犯して飛ばされたのか知らないけど、だから従者もお触りくらいなら止めなかったってことか。
「でも、ここは酒屋じゃないです」
「そうであるな。ヤーヒムには私から注意をしておく」
「ありがとうございます」
そんな話をしていると、レズリーから伝言を任された騎士が執務室にやってきた。
「副隊長より、密偵の捕縛について報告します」
「報告せよ」
「密偵は二人捕獲、一人自害であります」
「そうであるか。二人いれば十分だろう。厳しく追求するように伝えよ」
「はっ」
騎士が執務室を退出すると、少しだけ複雑な気持ちになる。
先ほども生きていた人が簡単に死んでしまう……そんな場所にいるのだと……急になんだか気持ちが疲れてしまう。
文官の密偵は、三人でそのうち一人は女性だった。自害をしたのは男性だという。
残りの密偵たちは、これから拷――尋問の時間になるだろう。正直拷問が酷いとかは思わない。密偵の鑑定したスキルから、彼らも他人に危害を加えているのは明確だった。
下級文官に扮していた女性密偵を思い出す。どういう経緯で密偵になったかは知らないけど、あんな笑顔を振りまいておいて、裏ではいろいろやっていたのだろうと思うと恐ろしい。
鑑定はありがたいスキルだけど、人の本質を垣間見るだけでやさぐれそうだ。
ロワーズが立ち上がり言う。
「エマ、今日の仕事は以上だ。よくやった」
「ありがとうございます」
「疲れたであろう? 部屋まで送ろう」
「え? ディエゴさんもいるから大丈夫ですよ」
「いいから、少し歩くぞ」
ロワーズが腕を差し出してくる。こちらのこういうレディ扱いに慣れていないので、ちょっと照れくさい。ロワーズの腕を取り、青の間の部屋へと向かう。後ろからディエゴが静かに付いてきた。
腕組んで歩くと、ピッタリと身体が相手に引っ付いてしまうんだよね。やっぱり、ちょっと慣れないかな。
ロワーズが咳払いをしながら言う。
「この前の病気の騎士の件、レズリーから報告を聞いた。それで、治癒師と相談したが、彼らは胃癌のことは詳しく知らないと申していたそうだ」
「そうでしたか。やはり胃に悪いできものって説明では無理がありましたよね」
「うむ。騎士の治癒師は外傷の怪我を治すことに徹している面がある。この治療、エマが可能なら頼みたいのだが、どうであろう? 報酬も支払う」
「……治せる保証はありませんが、できる限りの事はやります」
胃癌の騎士の治療の話が終わると、青の間に到着していた。部屋の前には、子供たちを護衛していたアリアナが立っていた。
ロワーズとはドアの前で別れの挨拶をすると、胃癌の騎士の治療はまた日を追って連絡すると言われた。
「エマ、もし私が振る仕事に受けたくないものがあれば断ってもらって構わない」
「本当ですか?」
「ああ」
「分かりました。そうさせていただきます」
ロワーズは軽く笑顔を見せると、ディエゴとアリアナに視線を移し言う。
「後は頼むぞ」
「「はっ」」
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