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異世界と少年と私
クロの制御
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リリアの魔法教室の後にハインツから夕食の招待の伝言を受け、シオンと一緒にロワーズの天幕へと向かう。執務中のロワーズは少し疲れているように見えた。
「お疲れでしょうか?」
「いや。大丈夫だ。そなたらの事情をレズリーにもある程度話していたほうが良いと思ってな。レズリーは私の腹心であり、十年以上共に過ごしてきた。信用できる人物だ」
「レズリーさんなら大丈夫です」
ロワーズは安堵したかのように、外で待機していた騎士にレズリーを天幕に呼ぶよう命令をする。すぐに天幕へと到着したレズリーは軽装でなんだか新鮮だった。
「団長。お呼びでしょうか?」
「ああ。話がある。とりあえず食事を取ろう。ハインツ、頼む」
レズリーは私たちに気づくとニッコリと笑い、席を引いてくれる。
「二人ともこんばんは。元気そうだね」
「ありがとうございます」
夕食はステーキだった。ステーキ好きだな。シオンはカトラリーの持ち方がまだ握り手になっており、ナイフは使った事がないようだった。以前のステーキの時も切り分けたので、今回も先にロワーズたちに了承を得てシオンのためにステーキを切り分ける。今はうるさくマナーについて教えることはしない、徐々に習っていけば良いと思う。
食事中の会話は主に私とシオンが今日リリアに習った水魔法についてだった。シオンも会話に参加できて楽しそうだった。食事も終わり、ハインツはお茶を配膳すると何も言わずに退室した。本題ですね。
「レズリー、今から聞く事は他言無用だ」
「了承した」
ロワーズから告げられた私たちの事情にレズリーは驚いたり、眉間に皺を寄せたり、最後には黙り込んで考え込んでしまう。レズリーはしばらく唸るとおもむろに口を開く。
「本当の話なのか?」
「はい。ロワーズさんが伝えた通りです」
まぁ、疑うのは分かるよ。だって夢みたいな話だから。私だって逆の立場で魔法を使う国から来ましたとか言われても残念な子の作り話かなという認識でしかない。
「魔法を全く使わない国か……ここから半年ほど掛かるが、別大陸にスイと言う国があるらしい。そこは黒髪が多く魔法はほとんど使わないと商人に聞いたが……そこでも魔法はゼロではないよ。髪の毛の色が変わった話――それにそんな人口の多い国なんて――」
「レズリー。そこは考えても答えは出ない。重要なのは、今後の銀髪と魔力の高さに加えてユニークスキル保持者という事で引き起こされるかもしれない問題だ」
再びじっと考え込もうとしたレズリーを止め、現実的に起こりそうな問題についての相談を始めたロワーズ。権力や人攫いの話、どれもシオンには聞かせたくないが……知っていたほうがいいかもしれない。シオンを確認するがこれは少ししか理解できていない顔だ。あとでもう一度今日の話の内容を分かりやすいように説明する時間を作ろう。レズリーがこちらをジッと見つめながら言う。
「二人は見目が綺麗だからね。世の中の悪い奴の思考が手に取るように見えるよ。それにしても、妄想魔法なんて聞いたこともないユニークスキルだ。にわかには信じがたい」
「説明するよりもお見せした方がわかりやすいかもしれません」
「おい!」
ロワーズが少し焦ったように止めようとする。
「大丈夫です。実は以前よりも制御できるようになっています」
大丈夫! ロワーズボディビルダーは出さないよ。操作が向上したのに加え、瞑想のスキルが相当集中力を高めてくれている。ここに来る前にも妄想魔法で猫を出して練習した時にはちゃんと成功したから。
「それなら良いが……」
ロワーズはそう言いつつ、訝しげにこちらを見ている。以前あんなのを出してしまったから、疑うのも無理はない。でも大丈夫……多分。
よし。妄想魔法のスイッチをオンにして気合を入れていつもの黒猫を妄想する。黒猫が急に登場したことに、驚き肩を揺らすレズリーを宥める。
「大丈夫ですよ。それでは猫に少し芸をさせます。よろしくね、クロ」
勝手に決めた名前で猫を呼ぶ。仕方ないなという表情でクロがこちらへやってくる。お座り、お手、ゴロンやジャンプをさせる。猫をレズリーに向かわせ、肩の上や頭にジャンプさせ、戻ってきてもらう。
(よかった。言う事をちゃんと聞いてくれている)
「ありがとうね~、えらいねぇ、クロ」
クロを撫でるフリをすると、当たり前でしょって顔でプイっとされる。この猫……絶対意思あるよね。集中して妄想魔法を終了すると、欠伸をしていたクロがスッと消えシオンが寂しそうに手を振る。
「ねこさんまた きえたね」
「また後で出て来てくれるよ」
レズリーがクロのいたテーブルを見たまましばらく止まっていたので声を掛ける。
「今のが妄想魔法です」
「……こんなスキルは見たことない。山猫に触られたが何も感じなかった。実体はないのか。これが妄想……なのか? 創造ではないのか?」
「一応、発動するのに妄想しないといけないんですよ。気を抜いて変なの妄想すると……それが出てきてしまうので使いやすいとはいえないですけど。オンとオフのスイッチがあるのが、大変助かります」
「そうなんだね。今日聞いた事はもちろん俺の口から漏らすことはしない。約束しよう」
レズリーに私たちの天幕へと送ってもらい、今日は解散した。シオンについては何も聞かれなかった。きっと私の妄想魔法のことに対してのインパクトが大きすぎて、頭が追いついていないのだろう。
シオンと寝支度を済ませる。いつもだったら、この後にシオンと灯りの魔法で遊んだりして就寝するのだが、今夜は別の練習をしたいと思う。
「シオン。ユニークスキルの練習をしようか」
「お疲れでしょうか?」
「いや。大丈夫だ。そなたらの事情をレズリーにもある程度話していたほうが良いと思ってな。レズリーは私の腹心であり、十年以上共に過ごしてきた。信用できる人物だ」
「レズリーさんなら大丈夫です」
ロワーズは安堵したかのように、外で待機していた騎士にレズリーを天幕に呼ぶよう命令をする。すぐに天幕へと到着したレズリーは軽装でなんだか新鮮だった。
「団長。お呼びでしょうか?」
「ああ。話がある。とりあえず食事を取ろう。ハインツ、頼む」
レズリーは私たちに気づくとニッコリと笑い、席を引いてくれる。
「二人ともこんばんは。元気そうだね」
「ありがとうございます」
夕食はステーキだった。ステーキ好きだな。シオンはカトラリーの持ち方がまだ握り手になっており、ナイフは使った事がないようだった。以前のステーキの時も切り分けたので、今回も先にロワーズたちに了承を得てシオンのためにステーキを切り分ける。今はうるさくマナーについて教えることはしない、徐々に習っていけば良いと思う。
食事中の会話は主に私とシオンが今日リリアに習った水魔法についてだった。シオンも会話に参加できて楽しそうだった。食事も終わり、ハインツはお茶を配膳すると何も言わずに退室した。本題ですね。
「レズリー、今から聞く事は他言無用だ」
「了承した」
ロワーズから告げられた私たちの事情にレズリーは驚いたり、眉間に皺を寄せたり、最後には黙り込んで考え込んでしまう。レズリーはしばらく唸るとおもむろに口を開く。
「本当の話なのか?」
「はい。ロワーズさんが伝えた通りです」
まぁ、疑うのは分かるよ。だって夢みたいな話だから。私だって逆の立場で魔法を使う国から来ましたとか言われても残念な子の作り話かなという認識でしかない。
「魔法を全く使わない国か……ここから半年ほど掛かるが、別大陸にスイと言う国があるらしい。そこは黒髪が多く魔法はほとんど使わないと商人に聞いたが……そこでも魔法はゼロではないよ。髪の毛の色が変わった話――それにそんな人口の多い国なんて――」
「レズリー。そこは考えても答えは出ない。重要なのは、今後の銀髪と魔力の高さに加えてユニークスキル保持者という事で引き起こされるかもしれない問題だ」
再びじっと考え込もうとしたレズリーを止め、現実的に起こりそうな問題についての相談を始めたロワーズ。権力や人攫いの話、どれもシオンには聞かせたくないが……知っていたほうがいいかもしれない。シオンを確認するがこれは少ししか理解できていない顔だ。あとでもう一度今日の話の内容を分かりやすいように説明する時間を作ろう。レズリーがこちらをジッと見つめながら言う。
「二人は見目が綺麗だからね。世の中の悪い奴の思考が手に取るように見えるよ。それにしても、妄想魔法なんて聞いたこともないユニークスキルだ。にわかには信じがたい」
「説明するよりもお見せした方がわかりやすいかもしれません」
「おい!」
ロワーズが少し焦ったように止めようとする。
「大丈夫です。実は以前よりも制御できるようになっています」
大丈夫! ロワーズボディビルダーは出さないよ。操作が向上したのに加え、瞑想のスキルが相当集中力を高めてくれている。ここに来る前にも妄想魔法で猫を出して練習した時にはちゃんと成功したから。
「それなら良いが……」
ロワーズはそう言いつつ、訝しげにこちらを見ている。以前あんなのを出してしまったから、疑うのも無理はない。でも大丈夫……多分。
よし。妄想魔法のスイッチをオンにして気合を入れていつもの黒猫を妄想する。黒猫が急に登場したことに、驚き肩を揺らすレズリーを宥める。
「大丈夫ですよ。それでは猫に少し芸をさせます。よろしくね、クロ」
勝手に決めた名前で猫を呼ぶ。仕方ないなという表情でクロがこちらへやってくる。お座り、お手、ゴロンやジャンプをさせる。猫をレズリーに向かわせ、肩の上や頭にジャンプさせ、戻ってきてもらう。
(よかった。言う事をちゃんと聞いてくれている)
「ありがとうね~、えらいねぇ、クロ」
クロを撫でるフリをすると、当たり前でしょって顔でプイっとされる。この猫……絶対意思あるよね。集中して妄想魔法を終了すると、欠伸をしていたクロがスッと消えシオンが寂しそうに手を振る。
「ねこさんまた きえたね」
「また後で出て来てくれるよ」
レズリーがクロのいたテーブルを見たまましばらく止まっていたので声を掛ける。
「今のが妄想魔法です」
「……こんなスキルは見たことない。山猫に触られたが何も感じなかった。実体はないのか。これが妄想……なのか? 創造ではないのか?」
「一応、発動するのに妄想しないといけないんですよ。気を抜いて変なの妄想すると……それが出てきてしまうので使いやすいとはいえないですけど。オンとオフのスイッチがあるのが、大変助かります」
「そうなんだね。今日聞いた事はもちろん俺の口から漏らすことはしない。約束しよう」
レズリーに私たちの天幕へと送ってもらい、今日は解散した。シオンについては何も聞かれなかった。きっと私の妄想魔法のことに対してのインパクトが大きすぎて、頭が追いついていないのだろう。
シオンと寝支度を済ませる。いつもだったら、この後にシオンと灯りの魔法で遊んだりして就寝するのだが、今夜は別の練習をしたいと思う。
「シオン。ユニークスキルの練習をしようか」
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