37 / 89
異世界と少年と私
自衛と安全
しおりを挟む
「次はこれです。土よ。我の前の壁を作り、敵の攻撃を防げ。【土壁】」
ハインツの詠唱と共に大きくなった土が上に登り、次第に高さ二メートルに幅一メートルほどの壁が現れる。
「立派な壁ですね」
「エマ様もすぐにできるでしょう」
同じ壁をイメージして【土壁】と唱える。ハインツと似た壁が目の前に立ち褒められる。
「エマ様は土魔法の覚えが早いでございますな」
シオンも私と同じ詠唱で土壁を展開すれば、ドアのような土壁が目の前に立つ。シオンが首を傾げながら尋ねる。
「ぼくのエマとちがうよ。どうして?」
「本当だね、どうしてだろう。でも、立派だよ」
「シオン様。魔法とは想像です。ひとりひとり思い描く魔法は違います。実際エマ様と私の土壁は違いますでしょう?」
ハインツの説明通り、確かにそれぞれ違う。ハインツの土壁はタイル造りに泥が被せられた壁で、私の壁は珪藻土壁のような造りだ。試しに自分の壁に水をぶつけると一気に壁が投げつけた水分を吸い込んだ。いや、確かに珪藻土壁は便利だけど……私の壁、耐久性なく一発で壊されそう。
もう一度、頑丈な壁のイメージを固め土壁と唱える。現れたのは同じ大きさの壁だ。だが、これは耐久性のあるコンクリート仕様だ。先ほどの珪藻土壁より少し魔力の使用は多いが……結果には満足だ。ハインツが驚きながら土魔法で新しく建てた壁を見上げる。
「こ、これは、とても頑丈そうですね。エマ様」
「ありがとうございます」
試しに水魔法でコンクリート壁を攻撃する。
(うん、これならいけるね)
「ぼくもおなじかべをつくりたい」
何度か練習を繰り返し、シオンもコンクリートの土壁を練り上げたが……何故かドアの形のままの強度な土壁が仕上がった。
(シオンにとって壁とはドアなのだろうか)
ハインツは私たち二人の著しい(?)土魔法の上達をなら次の段階に進めると判断する。シオンが身を守れるようにもう少し土壁を極めたいという希望を伝えるのが遅れてしまいハインツが次の詠唱を始める。
「土よ、我の敵を射抜け【土弾】」
(あ、これは!)
急いでシオンの耳に手を置けばハインツの手から私の土壁を目掛け、銃声と共に土弾が飛ばされる。全ての土弾が命中するも、コンクリートの壁は擦り傷程度のダメージだった。
「やはり己よりも魔力の高い防壁は崩しがたいですな」
穏やかに笑いながらハインツ言う。シオンは大きな銃声のような音も平気そうだけど、ハインツに苦言を言う。
「ハインツさん、大きな音が出るのならば先に言って頂けると……」
「はっ。失礼いたしました。つい、挑戦したくなりました。シオン様を怖がらせてしまったでしょうか?」
「ぼく、だいじょうぶ」
シオンが満面の笑みを見せる。ああ、私が過保護過ぎたのだろうか。いや、虐待によるトリガーが何か分からないので細心の注意を払うのは間違っていないはず。とりあえず、大きい音は大丈夫だと頭の中でメモをする。
魔力量で破壊可能か決定するなら、自分の防壁は破れるのだろうか? ハインツと同じ魔法を撃ってみる。
「【土弾】」
試しに以前渡米時代に一度だけ撃ったことのあるハンドガンを思い浮かべ、コンクリート土壁へ向け土弾を放つとパァンパァンと高い音が辺りに鳴り響く。コンクリートの土壁を確認すれば、土弾は土壁には貫通しなかったものの歪な痕が残っていた。ハインツがコンクリート壁に残った抉れを確認しながら困った表情で言う。
「エマ様、この威力はとんでものうございます」
ああ、やり過ぎた。ハインツの表情を見てすぐにそう思ったけれど時は遅し……。
「ぼくもーぼくもー」
シオンが抉れたコンクリート壁の前で難しい顔をするハインツの横で嬉しそうにジャンプをする。子供に銃の打ち方を教えて良いものなのだろうか? ハインツの反応を確認すると止める気配はないどころか習得するように勧めている。ここは確かに日本ではなく異世界なのだ。子供への攻撃的な指導は許容範囲のようだ。地球でも幼い子供にも銃の打ち方を教えている海外の家庭はあるが……私が日本にいたのなら、こんな事態は迷わずに否定していただろう。でも、シオンが安全でいるのが一番なのだ。シオンに目線を合わせ確認する。
「シオンがお約束を破らないならさっきの魔法を教えるよ」
「うん!」
「まず、普段はこの魔法は無闇に人に向けて撃たない事。自分に向けて撃たない事。全ての練習は私がいるところでやる事。でも……危険だと思ったら迷わず使う事。このお約束出来る?」
「ぼく おやくそくできるよ!」
シオンが嬉しそうに返事をする。これはただ単に魔法を使いたいから返事しただけで、まだこの魔法の危険性について分かっていない様子だ。でも、この世界は危険が多い、かなり多い。シオンが自身を守るためだ……自分の気持ちに蓋をして銃の土弾魔法を教える。一先ず、飛ばすことは出来ないがシオンは尖った土弾を出せるようになった。
天幕に戻り、夕食を取る。食後に灯りの魔法や土魔法でシオンと遊んでいたら、いつの間にか寝ていた。
ハインツの詠唱と共に大きくなった土が上に登り、次第に高さ二メートルに幅一メートルほどの壁が現れる。
「立派な壁ですね」
「エマ様もすぐにできるでしょう」
同じ壁をイメージして【土壁】と唱える。ハインツと似た壁が目の前に立ち褒められる。
「エマ様は土魔法の覚えが早いでございますな」
シオンも私と同じ詠唱で土壁を展開すれば、ドアのような土壁が目の前に立つ。シオンが首を傾げながら尋ねる。
「ぼくのエマとちがうよ。どうして?」
「本当だね、どうしてだろう。でも、立派だよ」
「シオン様。魔法とは想像です。ひとりひとり思い描く魔法は違います。実際エマ様と私の土壁は違いますでしょう?」
ハインツの説明通り、確かにそれぞれ違う。ハインツの土壁はタイル造りに泥が被せられた壁で、私の壁は珪藻土壁のような造りだ。試しに自分の壁に水をぶつけると一気に壁が投げつけた水分を吸い込んだ。いや、確かに珪藻土壁は便利だけど……私の壁、耐久性なく一発で壊されそう。
もう一度、頑丈な壁のイメージを固め土壁と唱える。現れたのは同じ大きさの壁だ。だが、これは耐久性のあるコンクリート仕様だ。先ほどの珪藻土壁より少し魔力の使用は多いが……結果には満足だ。ハインツが驚きながら土魔法で新しく建てた壁を見上げる。
「こ、これは、とても頑丈そうですね。エマ様」
「ありがとうございます」
試しに水魔法でコンクリート壁を攻撃する。
(うん、これならいけるね)
「ぼくもおなじかべをつくりたい」
何度か練習を繰り返し、シオンもコンクリートの土壁を練り上げたが……何故かドアの形のままの強度な土壁が仕上がった。
(シオンにとって壁とはドアなのだろうか)
ハインツは私たち二人の著しい(?)土魔法の上達をなら次の段階に進めると判断する。シオンが身を守れるようにもう少し土壁を極めたいという希望を伝えるのが遅れてしまいハインツが次の詠唱を始める。
「土よ、我の敵を射抜け【土弾】」
(あ、これは!)
急いでシオンの耳に手を置けばハインツの手から私の土壁を目掛け、銃声と共に土弾が飛ばされる。全ての土弾が命中するも、コンクリートの壁は擦り傷程度のダメージだった。
「やはり己よりも魔力の高い防壁は崩しがたいですな」
穏やかに笑いながらハインツ言う。シオンは大きな銃声のような音も平気そうだけど、ハインツに苦言を言う。
「ハインツさん、大きな音が出るのならば先に言って頂けると……」
「はっ。失礼いたしました。つい、挑戦したくなりました。シオン様を怖がらせてしまったでしょうか?」
「ぼく、だいじょうぶ」
シオンが満面の笑みを見せる。ああ、私が過保護過ぎたのだろうか。いや、虐待によるトリガーが何か分からないので細心の注意を払うのは間違っていないはず。とりあえず、大きい音は大丈夫だと頭の中でメモをする。
魔力量で破壊可能か決定するなら、自分の防壁は破れるのだろうか? ハインツと同じ魔法を撃ってみる。
「【土弾】」
試しに以前渡米時代に一度だけ撃ったことのあるハンドガンを思い浮かべ、コンクリート土壁へ向け土弾を放つとパァンパァンと高い音が辺りに鳴り響く。コンクリートの土壁を確認すれば、土弾は土壁には貫通しなかったものの歪な痕が残っていた。ハインツがコンクリート壁に残った抉れを確認しながら困った表情で言う。
「エマ様、この威力はとんでものうございます」
ああ、やり過ぎた。ハインツの表情を見てすぐにそう思ったけれど時は遅し……。
「ぼくもーぼくもー」
シオンが抉れたコンクリート壁の前で難しい顔をするハインツの横で嬉しそうにジャンプをする。子供に銃の打ち方を教えて良いものなのだろうか? ハインツの反応を確認すると止める気配はないどころか習得するように勧めている。ここは確かに日本ではなく異世界なのだ。子供への攻撃的な指導は許容範囲のようだ。地球でも幼い子供にも銃の打ち方を教えている海外の家庭はあるが……私が日本にいたのなら、こんな事態は迷わずに否定していただろう。でも、シオンが安全でいるのが一番なのだ。シオンに目線を合わせ確認する。
「シオンがお約束を破らないならさっきの魔法を教えるよ」
「うん!」
「まず、普段はこの魔法は無闇に人に向けて撃たない事。自分に向けて撃たない事。全ての練習は私がいるところでやる事。でも……危険だと思ったら迷わず使う事。このお約束出来る?」
「ぼく おやくそくできるよ!」
シオンが嬉しそうに返事をする。これはただ単に魔法を使いたいから返事しただけで、まだこの魔法の危険性について分かっていない様子だ。でも、この世界は危険が多い、かなり多い。シオンが自身を守るためだ……自分の気持ちに蓋をして銃の土弾魔法を教える。一先ず、飛ばすことは出来ないがシオンは尖った土弾を出せるようになった。
天幕に戻り、夕食を取る。食後に灯りの魔法や土魔法でシオンと遊んでいたら、いつの間にか寝ていた。
323
お気に入りに追加
1,326
あなたにおすすめの小説
前世は大聖女でした。今世では普通の令嬢として泣き虫騎士と幸せな結婚をしたい!
月(ユエ)/久瀬まりか
ファンタジー
伯爵令嬢アイリス・ホールデンには前世の記憶があった。ロラン王国伝説の大聖女、アデリンだった記憶が。三歳の時にそれを思い出して以来、聖女のオーラを消して生きることに全力を注いでいた。だって、聖女だとバレたら恋も出来ない一生を再び送ることになるんだもの!
一目惚れしたエドガーと婚約を取り付け、あとは来年結婚式を挙げるだけ。そんな時、魔物討伐に出発するエドガーに加護を与えたことから聖女だということがバレてしまい、、、。
今度こそキスから先を知りたいアイリスの願いは叶うのだろうか?
※第14回ファンタジー大賞エントリー中。投票、よろしくお願いいたします!!
傍観している方が面白いのになぁ。
志位斗 茂家波
ファンタジー
「エデワール・ミッシャ令嬢!貴方にはさまざな罪があり、この場での婚約破棄と国外追放を言い渡す!」
とある夜会の中で引き起こされた婚約破棄。
その彼らの様子はまるで……
「茶番というか、喜劇ですね兄さま」
「うん、周囲が皆呆れたような目で見ているからな」
思わず漏らしたその感想は、周囲も一致しているようであった。
これは、そんな馬鹿馬鹿しい婚約破棄現場での、傍観者的な立場で見ていた者たちの語りである。
「帰らずの森のある騒動記」という連載作品に乗っている兄妹でもあります。
奪われ系令嬢になるのはごめんなので逃げて幸せになるぞ!
よもぎ
ファンタジー
とある伯爵家の令嬢アリサは転生者である。薄々察していたヤバい未来が現実になる前に逃げおおせ、好き勝手生きる決意をキメていた彼女は家を追放されても想定通りという顔で旅立つのだった。
【完結】聖女ディアの処刑
大盛★無料
ファンタジー
平民のディアは、聖女の力を持っていた。
枯れた草木を蘇らせ、結界を張って魔獣を防ぎ、人々の病や傷を癒し、教会で朝から晩まで働いていた。
「怪我をしても、鍛錬しなくても、きちんと作物を育てなくても大丈夫。あの平民の聖女がなんとかしてくれる」
聖女に助けてもらうのが当たり前になり、みんな感謝を忘れていく。「ありがとう」の一言さえもらえないのに、無垢で心優しいディアは奇跡を起こし続ける。
そんななか、イルミテラという公爵令嬢に、聖女の印が現れた。
ディアは偽物と糾弾され、国民の前で処刑されることになるのだが――
※ざまあちょっぴり!←ちょっぴりじゃなくなってきました(;´・ω・)
※サクッとかる~くお楽しみくださいませ!(*´ω`*)←ちょっと重くなってきました(;´・ω・)
★追記
※残酷なシーンがちょっぴりありますが、週刊少年ジャンプレベルなので特に年齢制限は設けておりません。
※乳児が地面に落っこちる、運河の氾濫など災害の描写が数行あります。ご留意くださいませ。
※ちょこちょこ書き直しています。セリフをカッコ良くしたり、状況を補足したりする程度なので、本筋には大きく影響なくお楽しみ頂けると思います。
どうぞ「ざまぁ」を続けてくださいな
こうやさい
ファンタジー
わたくしは婚約者や義妹に断罪され、学園から追放を命じられました。
これが「ざまぁ」されるというものなんですのね。
義妹に冤罪着せられて殿下に皆の前で婚約破棄のうえ学園からの追放される令嬢とかいったら頑張ってる感じなんだけどなぁ。
とりあえずお兄さま頑張れ。
PCがエラーがどうこうほざいているので消えたら察してください、どのみち不定期だけど。
やっぱスマホでも更新できるようにしとかないとなぁ、と毎度の事を思うだけ思う。
ただいま諸事情で出すべきか否か微妙なので棚上げしてたのとか自サイトの方に上げるべきかどうか悩んでたのとか大昔のとかを放出中です。見直しもあまり出来ないのでいつも以上に誤字脱字等も多いです。ご了承下さい。
義妹がピンク色の髪をしています
ゆーぞー
ファンタジー
彼女を見て思い出した。私には前世の記憶がある。そしてピンク色の髪の少女が妹としてやって来た。ヤバい、うちは男爵。でも貧乏だから王族も通うような学校には行けないよね。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる