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異世界と少年と私
的中した違和感
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ハインツが夕食を知らせる。
「エマ様、夕食の案内に伺いました」
ここで食べるのだと思っていたけれど、どうやらロワーズの天幕で一緒の席に夕食が準備されるようだ。
私はこの格好で大丈夫だと思うのだが……というかこの服しかないからどうしようもない。けれど、シオンの流石に短パン半袖は不憫過ぎる。
「すみません、シオン用に何か服をお借りすることはできますか?」
「ええ、もちろんでございます」
ハインツが準備してくれたのは、大人用の長袖のシャツとベルト、それから毛皮の肩掛け。シオンにはどれも大きすぎるが、ハインツが調節してくれたおかげでそこまで不恰好ではなくなった。
礼を言い、靴のないシオンを抱き上げ天幕の入り口に向かうとハインツに止められる。
「お坊ちゃまもご一緒に向かわれるのでしょうか?」
「え? そのつもりでしたが……何か不都合があるのでしょうか?」
「い、いえ。ただ、お坊ちゃまには少々早い席かと。それに、お疲れのご様子ですので」
抱き上げたシオンを見れば目がトロンとして開いているのがやっとのようだ。いつの間に急に眠たくなったのだろう? さっきまで元気だったのに。
「今日は疲れたのね。それなら――」
夕食を断ろうとすれば、焦ったハインツにロワーズとの夕食の席を共にするように嘆願される。
「子供の扱いに慣れているメイドを呼びますので、ご安心ください」
ロワーズもだがハインツにもお世話になっているので何度も断るのは失礼だと思い、船を漕ぎ始めたシオンを天幕に呼ばれたメイドのアンに預けることを了承する。 アンは本当に子供の扱いがうまく、夕食が終わるまで側に付いていてくれるとのことだった。シオンが目覚めたら部屋に食事を用意するということだったので、お願いした。
目まぐるしい環境の変化はシオンにとってもストレスだったのだろう。とにかくよく寝て、ゆっくり休んでほしい。できればシオンがまた目覚めるまでには、夕食は早めに切り上げられるといいな。
「それでは、エマ様も着替えをお願いいたします」
「あ、やはりこのままでは――」
「ダメでございます」
ですよね。はい。流石に夕食の席でこの締まりのない服はアウトですよね。ハインツの案内で通されたのは、私たちの使っていた天幕の奥端から入る衣装部屋のような場所だった。すでに部屋に待機していた女性が立ち上がり、美しい所作で会釈する。
「リリアでございます」
「初めまして。エマと申します」
「エマ様、それでは早速こちらにお座りください」
リリアに時間がないからと、素早く椅子に座らされる。部屋を退室するために背を向けたハインツに声を掛ける。
「ハインツさん、何から何までお世話になっております」
「私の方もエマ様には大変感謝しております。ごゆるりとお過ごしください」
ん? ハインツに感謝されるようなことをした覚えがないのだけど。何に感謝しているのか尋ねる前にハインツは綺麗なお辞儀をして衣裳部屋を退室した。
(まぁ、後からなんの話だったのか尋ねればいいか)
この時、ちゃんとハインツに感謝の意味を確かめていれば、いろんな人に要らない誤解をされなかったのにと後々悔やむことになる。
◇◇◇
「顔をもう少し上に」
「え、そんな赤いのを塗るのですか?」
「こちらは、王都でも流行りの色でございます」
リリアに化粧を施され、華やかな衣装を着させられたと思ったら真っ赤な口紅を塗られた。従者に侍女もいるのでロワーズは身分の高い人だとは分かる。なので、身なりを整えるのも承諾したが、この衣装は豪華すぎじゃない? やけに胸元がオープンだし、貴族は普段こんなものを着ているの? スース―する胸元が落ち着かない。
「この胸元もう少し上げられませんか?」
「十分、お美しいですよ」
このままで大丈夫だとリリアに念押しをされ、髪をセットしてもらう。鏡もあったので自分を確認する。自分で言うのもあれだけど、肌も凄くきめ細やかでもちもち。やはり以前より五割増しくらい美人になってる。化粧の効果もあるのだろうが、自分じゃないみたいで違和感が凄い。そんなことを考えてたらリリアに声を掛けられる。
「エマ様、銀の色の御髪を初めて見ました。艶やかな髪に肌、ロワーズ様もご満足されると思います」
ロワーズが満足? 夕食を招いた側として? こんな豪華なセッティングとは知らず……作法とか地球基準だけど大丈夫かな? そんな事を考えていたら、準備が終了した。鏡に写ったのは、ハーフアップの髪型から柔らかく肩から胸元まで流れる髪がやけに艶っぽい仕上がりになっていた。
(これ、大丈夫? なんか、嫌な予感するんだけど)
違和感を覚えながらも、リリアに元いた部屋とは反対の続き部屋へと案内される。
「こちらの部屋にてお待ちください」
「リリアさんは入らないのですか?」
「わたくしですか? わたくしはこちらの部屋にて待機しておりますので、終わりましたらまたお呼び下さいませ」
リリアにお礼を言い部屋に入るが誰もいない。ソファの前にある低い机には、ワイン、果物、それから軽食などが並べてあった。ここってとある方のプライベート部屋だよね? ベッドの上に無造作に置いてある見覚えのある黒い服をジト目で見る……嫌な予感が的中したような気がする。やっぱりこれは夜のプロレスの夕食会のお誘いだ。やられたわ。今からでもさっきまでいたリリアのいる部屋へ戻ろう。振り返り、急いで扉に戻ろうとしたのだが背後から声がした。
「誰かいるのか? ハインツか?」
「エマ様、夕食の案内に伺いました」
ここで食べるのだと思っていたけれど、どうやらロワーズの天幕で一緒の席に夕食が準備されるようだ。
私はこの格好で大丈夫だと思うのだが……というかこの服しかないからどうしようもない。けれど、シオンの流石に短パン半袖は不憫過ぎる。
「すみません、シオン用に何か服をお借りすることはできますか?」
「ええ、もちろんでございます」
ハインツが準備してくれたのは、大人用の長袖のシャツとベルト、それから毛皮の肩掛け。シオンにはどれも大きすぎるが、ハインツが調節してくれたおかげでそこまで不恰好ではなくなった。
礼を言い、靴のないシオンを抱き上げ天幕の入り口に向かうとハインツに止められる。
「お坊ちゃまもご一緒に向かわれるのでしょうか?」
「え? そのつもりでしたが……何か不都合があるのでしょうか?」
「い、いえ。ただ、お坊ちゃまには少々早い席かと。それに、お疲れのご様子ですので」
抱き上げたシオンを見れば目がトロンとして開いているのがやっとのようだ。いつの間に急に眠たくなったのだろう? さっきまで元気だったのに。
「今日は疲れたのね。それなら――」
夕食を断ろうとすれば、焦ったハインツにロワーズとの夕食の席を共にするように嘆願される。
「子供の扱いに慣れているメイドを呼びますので、ご安心ください」
ロワーズもだがハインツにもお世話になっているので何度も断るのは失礼だと思い、船を漕ぎ始めたシオンを天幕に呼ばれたメイドのアンに預けることを了承する。 アンは本当に子供の扱いがうまく、夕食が終わるまで側に付いていてくれるとのことだった。シオンが目覚めたら部屋に食事を用意するということだったので、お願いした。
目まぐるしい環境の変化はシオンにとってもストレスだったのだろう。とにかくよく寝て、ゆっくり休んでほしい。できればシオンがまた目覚めるまでには、夕食は早めに切り上げられるといいな。
「それでは、エマ様も着替えをお願いいたします」
「あ、やはりこのままでは――」
「ダメでございます」
ですよね。はい。流石に夕食の席でこの締まりのない服はアウトですよね。ハインツの案内で通されたのは、私たちの使っていた天幕の奥端から入る衣装部屋のような場所だった。すでに部屋に待機していた女性が立ち上がり、美しい所作で会釈する。
「リリアでございます」
「初めまして。エマと申します」
「エマ様、それでは早速こちらにお座りください」
リリアに時間がないからと、素早く椅子に座らされる。部屋を退室するために背を向けたハインツに声を掛ける。
「ハインツさん、何から何までお世話になっております」
「私の方もエマ様には大変感謝しております。ごゆるりとお過ごしください」
ん? ハインツに感謝されるようなことをした覚えがないのだけど。何に感謝しているのか尋ねる前にハインツは綺麗なお辞儀をして衣裳部屋を退室した。
(まぁ、後からなんの話だったのか尋ねればいいか)
この時、ちゃんとハインツに感謝の意味を確かめていれば、いろんな人に要らない誤解をされなかったのにと後々悔やむことになる。
◇◇◇
「顔をもう少し上に」
「え、そんな赤いのを塗るのですか?」
「こちらは、王都でも流行りの色でございます」
リリアに化粧を施され、華やかな衣装を着させられたと思ったら真っ赤な口紅を塗られた。従者に侍女もいるのでロワーズは身分の高い人だとは分かる。なので、身なりを整えるのも承諾したが、この衣装は豪華すぎじゃない? やけに胸元がオープンだし、貴族は普段こんなものを着ているの? スース―する胸元が落ち着かない。
「この胸元もう少し上げられませんか?」
「十分、お美しいですよ」
このままで大丈夫だとリリアに念押しをされ、髪をセットしてもらう。鏡もあったので自分を確認する。自分で言うのもあれだけど、肌も凄くきめ細やかでもちもち。やはり以前より五割増しくらい美人になってる。化粧の効果もあるのだろうが、自分じゃないみたいで違和感が凄い。そんなことを考えてたらリリアに声を掛けられる。
「エマ様、銀の色の御髪を初めて見ました。艶やかな髪に肌、ロワーズ様もご満足されると思います」
ロワーズが満足? 夕食を招いた側として? こんな豪華なセッティングとは知らず……作法とか地球基準だけど大丈夫かな? そんな事を考えていたら、準備が終了した。鏡に写ったのは、ハーフアップの髪型から柔らかく肩から胸元まで流れる髪がやけに艶っぽい仕上がりになっていた。
(これ、大丈夫? なんか、嫌な予感するんだけど)
違和感を覚えながらも、リリアに元いた部屋とは反対の続き部屋へと案内される。
「こちらの部屋にてお待ちください」
「リリアさんは入らないのですか?」
「わたくしですか? わたくしはこちらの部屋にて待機しておりますので、終わりましたらまたお呼び下さいませ」
リリアにお礼を言い部屋に入るが誰もいない。ソファの前にある低い机には、ワイン、果物、それから軽食などが並べてあった。ここってとある方のプライベート部屋だよね? ベッドの上に無造作に置いてある見覚えのある黒い服をジト目で見る……嫌な予感が的中したような気がする。やっぱりこれは夜のプロレスの夕食会のお誘いだ。やられたわ。今からでもさっきまでいたリリアのいる部屋へ戻ろう。振り返り、急いで扉に戻ろうとしたのだが背後から声がした。
「誰かいるのか? ハインツか?」
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