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異世界と少年と私

ここはどこ?

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身体を包み込む温かい光が収まると、眩しさで閉じていた目をゆっくりと開く。

「え? ここ、どこ?」

 目の前に広がるのは一面の銀世界。そんな冷たい雪の上に、困惑しながら無防備に座り込んでいた。
 しばらく口を開け呆けていたが、これ現実だ。

「冷たい……」

 手の平に溶けた雪を払いながら正気を取り戻す。水滴を払った先に見えたのは雪の中に埋まっていた黄色とピンクの紐。

「私のエコバッグ!」

 雪をかき分け、私物のエコバッグを二つ回収する。

「中身はどこ?」

 エコバッグはどちらとも萎んでおり軽い。中には何も入っていないようだ。
 とりあえず、中身を確認するためにエコバッグを開いたが――

「なんなの、これ……」

 エコバッグの中は二つとも青黒く歪んだ空間が広がっていた。底すらも見えないよく分からないその空間を凝視する。エコバッグの空き口はテレビのサンドストームにしか見えない。うねりながら交差する青黒いサンドストームはまるで蠢く生物のようだった。
 気持ち悪く思いながらもエコバッグのサンドストームに軽く触れれば、ひんやりとした感触に手が吸い込まれそうになる。急いでエコバッグの空き口から手を離す。
 やだ、何これ。怖い。
 雪の上に落ちたエコバッグを気持ち悪いと思いながらも、今の状況でそれを捨てるのも惜しかった。変なもったいない病、ここで発揮しなくともよいのに……。
 二つのエコバッグを丁寧に空き口が隠れるように畳み、ダウンジャケットのポケットに押し込む。

「%#£△□!」

 急に背後から聞こえた怒鳴り声に身体を強張らせながら振り向く。
 振り向いた先には、黒い装飾を身に付けた騎士のコスプレをした体格のよいヨーロッパ人らしき二人が剣を構え叫んでいた。
 これって何かの配信の撮影? 辺りを見るが二人以外の撮影者や動画は確認できない。二人はどうやら少し離れた背後にいる私には気づいてはいないようだ。

(これ何語?)

 二人から発せられるその言葉は英語やヨーロッパ圏で使用される言葉とは違う。聞いた事もない言語だ。これが何語なのか予想もつかない。

「気を……□%奴……Π#」

 始めはただのランダムな音にしか聞こえなかったその音も次第に慣れ親しんだ日本語のような言葉が聞こえる。

「魔の者め! 遂に姿を現したか。このロワーズがフィエラ神の代わりに貴様を成敗するまでだ」
 
 オリーブ色の髪にこの位置からでもはっきり分かる身体の大きなコスプレ騎士の一人が剣を構え再び怒鳴る。
 魔の者? 成敗? やっぱり何かの撮影?
 今のこの状況でそんなフォロワー集めの撮影に付き合う暇はないと声を出そうとして、一旦口を噤む。なぜなら、コスプレ騎士から漂う緊迫した殺気が全身にひしひしと伝わったからだ。それに発せられる言葉は理解はできるけれど、これは決して日本語ではない。
 日本語で理解できるのに日本語ではない。どういう事? 
 それよりあの二人の剣よく見れば本物だよね?

(もしかして、これ、リアルの奴?)

 コスプレ騎士の二人に魔の者と警戒され剣を向けられた人物を見れば、小さな子供だった。
 え? 子供? 子供に刃物を向けているの?
 銀髪に半袖短パンのその子供はコスプレ騎士の大声に驚いたのか、身体を強張らせ防御のポーズを取りながら指の隙間から辺りを伺っていた。
 あれ? あの防御のポーズに半袖短パンは……さっき近所にいた少年だよね? 絶対にそうだ。外見はなぜかこげ茶の髪から銀髪になっているけれど、雰囲気はつい先ほど道端で出会った少年に似ている。
 髪の色が違うという以外にも、少年は全体的に一回り小さく小綺麗になっている。着用している衣服は綺麗になってはいるが覚えている物と同じものだ。

「おい! レズリー! 気を抜くな」
「団長、しかし……」
「何をボヤッとしているのだ! 行くぞ」

 おい! ちょっと、待て待て。何が『行くぞ』だ。まさか、本気で子供を斬る気? コスプレ騎士の二人が剣を構え直すと、ゾッとするような殺気が伝わってきた。
 小さな子供に何してるの? 沸き上がった焦りと怒りで震える声を絞りながら尻もちをついたまま叫ぶ。

「ちょっと! 何してんのよ!」

 私の震える金切声に二人のコスプレ騎士が驚きながら同時にこちらを振り向く。二人ともこの位置からでも分かる美丈夫な男たちだった。
 オリーブ色の髪のコスプレ騎士が目を見開きながら叫ぶ。

「なっ! もう一匹いたのか!」

 もう一匹って、失礼じゃない? 他のことも含め文句を言おうと立ち上がると穿いていたズボンが一気に踝まで落ちた。
 ズボンが落ち、露わになった太ももを見下ろすと冷たい風を感じて鳥肌が立った。状況が分からず、コスプレ騎士たちを見上げ尋ねる。

「え? どうして」
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