転生したら捨てられたが、拾われて楽しく生きています。

トロ猫

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本編

もっとカニ

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 次に運ばれてきたのは、ワタリガニのようなカニが丸ごと揚げてあるやつだった。

「こちらはソフトシェルのカニでございます。殻まで堪能することができます」

 殻まで!
 備え付けは、葉野菜とレモンだけだった。
 レモンを振り掛け、ソフトシェルのカニにナイフを入れると簡単に切れた。本当に柔らかいんだ。
 ソフトシェルのカニを口に入れると、外はサクサク中はジュワッとしていて熱々で口の中を火傷しそうになった。

「熱つつ」
 
 これは初めて食べる感触だ。中はジューシーで旨味があり気に入った。これを使えばいろんな料理ができそう。ああ、オーロラソースがあればなぁ、最高だろうな。
 ソフトシェルのカニを完食後に満面の笑みで爺さんとウィルさんを見れば、二人の皿にはまだソフトシェルクラブが残っていた。
 首を傾げながら尋ねる。

「食べないんですか?」
「これは、ちと蜘蛛に似ておってな」
「同意見だ」

 爺さんとウィルさんは、ソフトシェルのカニが虫に似ていると興覚めなことを言い出す。

「ラジェも、キースも問題なく食べています」
「こやつらは蜘蛛を食う砂の国――」

 爺さんがそう言い掛けると、カランとキースがナイフを落とす音がした。
 店員がナイフを拾い退室すると、爺さんが誤魔化すように言う。

「とにかく、これは一口でよいのだ」

 爺さんがソフトシェルのカニの小さな一部を切り取り口に入れる。それで、終わりだというのだ。

「全然食べていないじゃないですか、それなら私にください」
「そこまで言うのなら仕方ないの」
「一回尋ねただけですけど……」
「ほれ、店員が戻ってくる前に早く食べんかい」

 爺さんが給食に嫌いな物が出た時に、友達に押し付けてくる小学生のような動きでソフトシェルのカニが載った皿を私の前に流してくる。
 美味しいから食べるけど……爺さん、大人としてその態度はどうなんだろう?
 爺さんの分もソフトシェルクラブを完食する。ウィルさんは結局、どうにか自分で食べていた。どうやらただの食わず嫌いだったようだ。
 次はメインディッシュのアジュールカニだと店員に告げられる。
 カニカニカニカニ。
 待ちきれない気持ちをできるだけ表情に出さないようにしていると、テーブルに座るみんなが笑い出した。

「え? 何?」
「ミリーちゃん、鼻息が凄いよ」

 ラジェにそう言われ、耳を赤くする。どうやらおすまし顔でフンガーフンガーと鼻を鳴らしていたらしい。恥ずかしい……。

「だって、カニが楽しみなんだもん」

 そしてようやく、今日の本命のカニがやってくる……。

「え?」
「アジュールカニでございます。カニの王様と呼ばれる代物を特別に仕入れました」

 何、この大きさ……覚えているタラバガニの倍くらいあるサイズだ。トゲトゲもまるで凶器だ。

「何をボーッとしておる。ほれ、お主とラジェには爪をやろう。ここが一番美味いぞ」

 爺さんがカニの爪を引きちぎると、私とラジェの取り皿の上に置いた。爪を両手で持ち上げると結構な重量だ。

「はぁ」

 カニの爪を持ち上げたまま感嘆のため息を漏らす。

「なんじゃい、ため息を出して。いらぬのなら私が――」
「ダメです! 今、このカニの爪を褒めたたえていただけです」

 爺さんからカニの爪を死守すると、呆れたように笑われる。

「カニはこの道具を使って開けるが、できないなら手伝ってやろう。ほれ、こうやるのだ」

 爺さんがカニ割り器を使いながらカニの足を開けると、私にその大きなカニの身を見せつけながら自分の口に入れた。爺さんの方がよっぽど子供だ。

「く、頑張ります」

 せっかくなのでツルンと丸ごと取り出して爺さんに見せつけたい。
 カニ割り器を使い、丁寧にカニの爪を割る振りをしながらコッソリと風魔法を使う。クク、これならツルンとカニの爪が出てくるはずだ。
 ニヤニヤしながら隣を見れば、ラジェがカニの爪に苦戦していた。カニを割るのを諦めたのか、耳かきのような棒でカニの身を引きずり出していた。
 大人たちを見れば、カニの虜になっているのか、全員が無言でカニを剥いていた。これは日本も異世界も変わらない光景だ。私も早く食べたいけど、ラジェに声を掛ける。

「ラジェ、大丈夫?」
「僕、これはあまり得意じゃないみたい」
「こことここを割ったら中が見えるはずだよ」
「やってみる」

 ラジェが真剣な顔でカニに向き合ったので、私もカニ開けの最終段階に入る。風魔法でくり抜いた殻を開けると、引き締まったカニの身が現れた。

(やった。綺麗に剥けた)

 切り込みを入れ、関節を持ちながらスーッとカニの身を引けば、スポッと殻からカニの身が取れた。

「ギルド長、見てください」

 ドヤ顔で爺さんに、取れたカニの身を見せると感心しながら拍手された。

「お主がもたもたしている間に、私は三本目だ」

 見れば、大人たちは次々とカニの足を食べていた。

「私とラジェにも一本残してください!」
「それを食べたならな」

 頬を膨らませながらカニの爪を口に入れる。
 ああ、これが天国なんだ。
 カニの身は引き締まっており、旨味が凝縮されている。

 至福至福至福至福。

 こんな極上なカニが世の中にあるなんて……このカニを巡ってカニ戦争が起きそうな美味しさだ。
 今度は、備え付けのバターにカニをつけ食べてみる。

「あー、これも美味しい。いつでも天国に行ける」

 そう漏らすと、ウィルさんが噴き出す。

「なんだか老人のような子供だな」
「トレンチ男爵、気が合うな。私も常日頃そう思っておる」

 ウィルさんと爺さんが仲良く私の老人度について語り始めたので、聞こえないふりしてカニを食べ続けた。

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