転生したら捨てられたが、拾われて楽しく生きています。

トロ猫

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本編

お姫様抱っこ

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 いつの間にか教会の外にいた月光さんとシルヴァンからは遠目にも大量の魔力が漏れ出ているのが見えた。
 ――魔力の色。
 自分以外の魔力の色がここまで濃く表れたのを見るのは初めてかもしれない。傍から見ると魔力はオーラのように二人から発されている。
月光さんの魔力の色は青緑のほぼ一色だけど、シルヴァンの魔力はそれに赤紫が加わったような不思議なグラデーションカラーだ。綺麗ではあるのだけど、なんだかその禍々しさに目を奪われ無言になってしまう。

「ミリーちゃん……大丈夫?」

 ラジェが少し息を上げ顔色を悪くしながら尋ねる。見れば、拘束していた誘拐犯(?)も気絶していた。あ、これは以前商業ギルドで魔力が暴走時に私以外が気絶した時と同じ現象だ。
 ピリピリと重圧のように感じるこれ……どうやら、月光さんとシルヴァンから漏れた魔力が影響しているようだ。私はといえば、重圧は確かに肌で感じるけど意外と平気だ。これも日々の気絶枯渇のおかけで増えた魔力のおかげかな。
二人の後ろで倒れている人がいるけど、あれはたぶんノアさんだと思う。大丈夫かな……。
シルヴァンと月光さんに無事を伝えるために手を振ろうとすれば、隣にいたラジェが片膝を地面に突く。

「ラジェ!」
「……僕は大丈夫だよ」

 額から一筋の汗を流しながらラジェが苦しそうに言う。

(かなり苦しそうだけど、どうしよう……この魔法の圧を消せばいいのかな)

 黒魔法でノイズキャンセルのように魔法の圧を遮断すれば、きっと――
 そう思い、黒魔法を展開しようとすれば、魔法の圧が急速に軽減する。

「あれ? あ――」

 抵抗する間もなく身体がフワっと浮き、お姫様抱っこをされる。

「無事でよかった」

 顔を上げるとなんとも言えないつらそうな笑顔でシルヴァンが私をみつめながら言う。いつの間に背後にいたの? 全然気づかなかったのだけど……。

「あの……」
「大丈夫か? どこか怪我をしていないか?」
「だ、大丈夫ですけど……」

 しばらく互いを見つめあう。

「えっと……下ろして――」
「ん? なんだい?」

 これは前と同じ感じで下ろしてはくれなさそうだ。愛想笑いをしながらシルヴァンから視線を逸らし月光さんを探すとなぜか少し離れた場所で正座をしながら待機をしていた。何、あれ……。
 正座をしているというよりも押されて座り込んでいるように見える。見れば月光さんの足に強い魔力の痕跡がある。拘束されている? 多分、シルヴァンの魔法なのだろうけれど……月光さんが完全に抑え込まれている。どうやらシルヴァンのほうが月光さんよりも魔力が高いようだ。
 シルヴァンを見ればニコニコと何事もなかったかのように微笑まれる。
 月光さんが風の魔法を使い拘束を逃れようとすれば、シルヴァンがその魔法を打ち消すように対抗する。両者がしばらく互いを見合う。
 隣にいるラジェもどうしていいか分からないようでこちらを見上げる。これじゃ、埒が明かない。

「あの、彼は私の知り合いですから解放してくれませんか?」
「ああ、彼の素性は分かっているよ」

 シルヴァンはそういうと月光さんに向けていた魔法を消す。
 月光さんはゆっくりとシルヴァンの元へ歩いてくると片膝を突き。首を垂れる。

「公子、ミリアナ嬢はこの月光が護衛しておりますゆえ、こちらへ――」
「護衛と言う割にはそこの二人の存在には気が付かなかったのか?」

 月光さんがちらりとラジェが砂で作ったアリの巣に拘束された誘拐未遂犯を見る。

「この二人はこの敷地内にすでにいたのではないでしょうか? 格好から業者ではないかと。公子は二人を見たことはありますか?」
「私はないが……ノアが起きたら尋ねるとしよう」

 公子――シルヴァンさんはやっぱり貴族なんだよね。
 ラジェが砂のアリの巣を解けば、月光さんが感心したように言う。

「さすが砂の国の子だな。見事な拘束だ」
「あ、ありがとうございます」

 ラジェがやや困惑しながら言う。そういえば、月光さんはラジェの知っているキースの姿ではなく黒ずくめ月光さんだ。
 魔力の圧力から解放されたノアが起きたので誘拐未遂犯の顔を確認させれば、確かに業者の運び屋としてこの教会で数回ほど見かけたことがある人物たちだという。
 とりあえず、気絶したままの二人の誘拐未遂犯はグルグルに紐にまかれて教会の関係者にどこかへと連れていかれた。
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