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第二章 夏の段

第44話 地味ぽちゃ系アラサー女子の私がイケメン達と祭の最終局面に挑んだ件・その2

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「お~~い! シロちゃ~~~~ん!!」

 上層階用エレベーターホールへ向かう道すがら、聞き馴染みのある声に呼び止められた。
 私服の八木羽屋やぎはやさんがこちらに向かって走ってくる。今日は非番のようだ。

「八木羽屋さん! お疲れ様です」

「やっほー♪ 研修の時は色々ありがとね♪
 何か用事? この辺で会うなんて珍しいじゃーん」

「こちらこそ、ありがとうございました!
 衣吹戸いぶきど課長に用事があって、仕事場に向かっている所でした」

「えっ! 超偶然~!! オレも今からイブキングんとこ行く途中だったんだ~。シロちゃんにもあげるね~~っ♪ はいっ!」

 八木羽屋さんは持参していたバッグから何かを取り出した。

「前に作ったアメちゃんあったでしょ?
 味が好評だったからアレを改良して、棒付きタイプにしたんだよね~。形もバリエーション増やしてから企画書提出したら、なんとなんと八百万祭で商品化が決定しちゃいました~~!」

「えーっ! おめでとうございます!
 わっ、可愛い……ゾウさんの形だ! 私、当日絶対買います!」

「ありがと~~♪ この間くくのんに販売計画書出したら、『これだけじゃ売上が見込めん』って怒られちゃったから、ねこまるからも色々データもらって徹夜で考えてたんだよね~。
 あとあと、もーいっこあるんだよ~~!
 シロちゃんも作ってくれた牛乳かんてん、あれも商品化入りしたの♪」

「本当ですか!」

「そうそう。カップに入れてトッピング類も用意して販売する予定だから、かき氷感覚で楽しめる内容になってるんだ~! 材料費的にも優しいから、くくのんも『粗利率高くて助かる』って褒められたよ♪」

「そうなんですね! 牛乳かんてん、私も大好きなので、今からとっても楽しみにしています!」

 少年のように目を輝かせながら話をする八木羽屋さんを見て、私まで嬉しい気持ちになった。

「イブキングにも試食手伝ってもらったから、お裾分けで行くとこだったんだよね~。最近氷砂糖取りに来ないし、様子見に行くついでなんだけどさ」

「えっ、珍しいですね。もしかして、多忙過ぎて倒れてたりとか……?」

「どーだろね~。オレも研修以来、見かけてないから気になっちゃって。とりあえず行ってみよっか!」

「はい!」


 八木羽屋さんに同行してもらえるのは、とても心強い。
 私達は颯爽とエレベーターへ乗り込んだ。




 * * *




 セキュリティゲートを突破し、無事に部屋へと辿り着いた。この時間ならば昼夜逆転している衣吹戸課長と出会えるはずだ。


 《コンコンコン》


「衣吹戸課長、失礼しま――――……」

「……あ、八木羽屋くん、伊縄城いなわしろ、さん!?」

 ちょうど身支度を整えた衣吹戸課長がそそくさと部屋から出ようとしている所に鉢合わせし、ビクリと固まっていた。あまりの絶妙なタイミングに心底驚いている様子である。

「イブキングったら、こんな時間にどこ行くの~? ……まっさかまさか、とんずらするつもりじゃーないよね?」

「……ぁ、ぅ……」

 非常にか細い弁明不足な声が聞こえる。

「衣吹戸課長。私達が来た理由はお分かりだと思いますが、『VJ』の件、引き受けてもらえませんか。
 他の方を滅多に褒めない御影みかげさんが、あんなに素直に仕事ぶりを認められていたのは、中々見ないです。それだけ、衣吹戸課長のスキルがずば抜けて秀でている証ではないのでしょうか」

 衣吹戸課長は顔を逸らし、指をくるくると動かして自問自答している。私の押しにも揺らがないようで、決心がつくには程遠そうだった。

「ぼく、なんて……ちょっと、機械に強いだけ、だよ。こんな、暗い奴が、出てきたら、きっと、みんな……」

「じゃあ、オレも一緒に出よっか?」

「「!?!?」」

 衣吹戸課長と私が揃って驚くという摩訶不思議な現象が起きた。

「や、や、八木羽屋くん、出るの……?!」

「うん、いーよ。ステージって結構だもんね? 夜店は他のスタッフにお願いしちゃえば、基本大丈夫っしょ♪」

「八木羽屋さん、VJ出来ますか……?」

「アレでしょ? 音楽を流して色々カッコいー事するヤツだよね?」

「……それは多分、DJじゃないかな……」

「まー、小難しいのはイブキングにやってもらうって! オレは賑やかしでも何でもステージで盛り上げれば文句無い訳でしょ? めっちゃ楽勝じゃん♪」 

 八木羽屋さんが腕組みしながら無敵の笑顔で仁王立ちしている。


「――オレさ。この間の研修、めっちゃ楽しかったんだよね。みんな良いヤツだしさ? イブキングもだけど、前よりもっと色々深く知れて、このメンツで集めてくれた社長には本っ当ーに感謝してんの。
 だから、オレが不得意な事は遠慮なくじゃんじゃん頼っちゃうし、逆にオレで良ければ幾らでも力になってあげたいんだよ」

「八木羽屋くん……」

「てな訳で!! やっちゃいまっしょ~~~~!
 あ、シロちゃんも一緒に出ちゃお♪」

「えっ、えぇ~~~~~~っ!」

 まさかの流れ弾に驚愕する。

「いや、もうみんな出ちゃえば面白いって♪
 あとねー、オレ、イブキングが緊張しない。思いついちゃったんだ~♪ 聞きたい?」

「ひ、秘策……?」

「そ♪ だからさ、信じてみてもらえないかな。ね?」

「――――――う、うん。分かっ、た」


(八木羽屋さん、凄いな。衣吹戸課長に言い訳する時間も与えないどころか、親身になってここまで鼓舞してくれるなんて……)

 男女問わず人気者なのは、八木羽屋さんのこういった裏表の無い真っ直ぐな優しさなのだろう。
衣吹戸課長クラスの手強い相手が、あっさり引き下がるなんて。

(正直、巻き込まれて私も貰い事故になったけどね!)

 私は大いに感心しながら、傍で御二方を見守っていたのだった。
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