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第二章 夏の段
第42話 地味ぽちゃ系アラサー女子の私がイケメン達と日帰り社員研修をした件・その8
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研修施設のロビーに到着した私と久久野主任はちょうど受付前でスタッフと話をしていた思兼さんを見つけ、声をかけた。
「思兼さん!」
「久久野主任、――伊縄城さん。お疲れ様です」
思兼さんがこちらに気付き、にこやかに挨拶をしてくれた。たった数時間前に会ったばかりだというのに、まるでしばらくぶりかのような懐かしさを感じる。それだけ、今日は濃密な時間を過ごしてきた証だろう。
「八木羽屋副料理長に依頼され、先程千凛屋で伊縄城と花火を調達した」
「ありがとうございます。八木羽屋は夕食の準備で忙しいようですね」
「ああ、種狛が付き合わされている。
存分に顎で使われていたようだから、そろそろキリが良いのではないか」
「なるほど」
「お、なんだ。まだここに居たのかよ」
入口から御影さん、衣吹戸課長が揃ってやって来た。あれからずっと外で作業していたらしく、御二方とも大分日に焼けたようだ。
「お、お疲れ、様です……あ。伊縄城さん、着替えたんだ」
「お疲れ様です。はい……色々ありまして」
「へぇ、お前もそういう服、着るんだな。
また随分と気合入ってんじゃねぇの」
私の格好に気付いた御影さんが含み笑いをしている。さっそく弄る気満々の様子に、つい身構えてしまう。
「あ!雨で乾かなかったので、仕方なく、です! 私だって本当は着る予定じゃなかったんですから」
「良いじゃん」
「ふぇっ!?」
直球な返答に思わず変な声が出てしまった。
「…………可愛い、とっても」
「かっ――――!?!?」
続けて衣吹戸課長までもがあり得ない台詞を言うので、私は頭が錯乱しそうだった。
「素敵ですね。……良く、お似合いです。
繊細な服装のようですから、汚さないようにお気を付けください」
「あっ、……ありがとうございます」
(びっくりするぐらい、皆お世辞上手いなぁ……何かの罰ゲームとかじゃないよね……これ)
イケメン達からお褒めの言葉を贈られるとは一ミリたりとも考えていなかった為、新手のドッキリでは無いかと半信半疑になってしまう。
褒められ慣れていない弊害である。
私がアラサーだからギリギリ平静を保っていられるが、これが新卒女子社員だったら間違いなくイチコロだ。
全員好きになってもおかしくない。
(イケメンって……本当、罪深い存在だ……)
とりあえず、この場は額面通りに受け取っておこう。
「つーか、もう宴会場に行って良いのか?
すっげークタクタで早く飯食いたいんだけど」
《ピピピッ》
「あ、今八木羽屋さんからチャット来ました。
えーと……『こっちはオッケーだから、呼んじゃって良いよ』だそうです」
「ナイス輝彦。じゃあ、さっさと行こうぜ」
「……ぼくも、着替えに行きたい、かな。
シャワー、浴びたい……です」
「暑かったですもんね、外……」
未だ活動的な御影さんに対し、衣吹戸課長はとうに燃料切れらしく、背中に荷物でも乗っているかのように酷い猫背になっていた。
「一旦、休まれた方が良いですね。こちらは気にせず、ゆっくりお越しください。場所は『宿泊棟・穹』の中宴会場ですので、お間違いないようご注意ください」
「承知した。私も休憩後に向かう事にする」
「はい。また後ほど」
時刻も間も無く六時となり、私達は各々宴会場へと向かった。
* * *
思兼さん&御影さんと共に宿泊棟へと移動し、目的地である中宴会場に到着した。
″中″と言う割に、外側から見たところ相当な規模の会場である。この面子に対し釣り合わないレベルの豪華さだ。
意を決し仰々しい扉を開けた私は豪奢な雰囲気に飲み込まれ、しばらく言葉を失った。
黄金色に輝く折上格天井に、青々とした畳が一面に敷かれた重厚な和の空間。
高級そうな座椅子と黒塗りの御膳が用意されており、上座の中央部では八木羽屋さんが鉄板スペースを準備している最中であった。
「おっ、シロちゃん御一行来ましたか!
今から焼くから、座って待っててね~」
「八木羽屋さん! あの、私も手伝います!」
「ありがと~~♪ ホント、シロちゃんだけだよ~。そんな女神みたいな事言ってくれるのなんてさ~。野郎共は食う事しか考えてないから、マジでやんなっちゃうよね~」
口では文句を言いつつも、ウキウキと調理器具を並べている。八木羽屋さんの性格からして、皆の世話を焼くのが意外と楽しいようだ。
「でも、シロちゃんは最後に出番があるから、今は自由に食べてて大丈夫だよ♪ 動ける若手がセコセコ頑張ってくれてるからさ♪」
「八木羽屋さんっ!!」
ちょうどそこへ、八木羽屋さんから借りたであろうエプロンを付けた種狛さんがやって来た。
両手には山盛りのおにぎりが積まれている。
「ねこまるご苦労! それはそっちのテーブルに置いといてくれる~?」
「分かりまし……じゃなくて!!
おれ、結局これ全部握ったんですが!?
『具だけ作ればいい』って最初に聞いた話と、一切違うんですけど……っ」
「えっ、このおにぎり全部種狛さんが作ったんですか?!」
てっきり八木羽屋さんが作ったとばかり思っていた。一つひとつに海苔が綺麗に巻かれており、とても美味しそうだ。
「そうそう。意外とこの子真面目でさ~。
上手~く乗せたら、この通り。たっつーとかだと雑だから、器用なねこまるにお願いして良かったわ」
「おいこら、誰が雑だって?」
「キャーッ地獄耳~! ごめんごめん、冗談だって。たっつーはこういう細かい作業は得意じゃないよねって話! でしょ?」
のしのしと御影さんが割り込み、出来上がったおにぎりを物色している。
「あのなぁ、こんな近距離で名指しされて聞こえねーワケあるかよ。……確かにチマチマすんのは性に合わねぇけど。つーか、握り飯なんて誰がやっても一緒だろうが」
悪態を吐きながら御影さんがひょいっと山の一つを手に取り、がぶりと食らい付いた。
「うっま。何だこれ、……たらこか?」
「……焼きたらこだよ。ちゃんと炙って入れたんだ、美味いに決まってるだろ」
「ね? こんな感じで、たくさん種類あるから、お楽しみに~♪」
おにぎりの話で盛り上がっていると、休憩が済んだ衣吹戸課長と久久野主任が入ってきた。
「……凄く、良い匂い」
「確かに。ん、これは――鉄板焼きをやるのか?」
「ご名答~! って言っても、試作品の材料の残りをぱぱっと焼いちゃうだけなんだけどね~。今回、立派な鉄板借りられたんで、祭当日の夜店風に仕上げまーす♪」
《ジュワ――――――ッ》
油の跳ねる気持ちの良い音が会場中に響き、八木羽屋さんが鉄製のヘラで手際良く焼いていく。
「はいはいはい、海の幸!! 山の幸!!
ドンドン焼いちゃうよ~~♪」
「おーっ、すげー。めっちゃ豪華じゃねぇか」
「イカだ! おおおっ、ホタテもある……!
あっ、……御影!! 何してるんだよっ!
横から取るのは卑怯だろ!?」
「美味いもんを目の前にしてんのに、ボーッと突っ立ってるからじゃねーか。卑怯もクソもねぇっつの」
「落ち着け。全く……子供の喧嘩ではないか」
「うん……あ、この焼きそば、美味しい」
早速、絶品料理を前にして争奪戦が勃発し、男性陣が大変な事になっている。
ハラハラと様子を伺っていると、真横に思兼さんがやって来た。
「――――伊縄城さん。こちらへ」
「思兼さん? ……あっ」
スッと手を引かれ、御膳の方へと移動する。
「八木羽屋達は平気ですが、高温の油は火傷の危険性がありますので、今はあまり近くに寄らない方が良いです。それと、飛んだ油が染みになってしまってはせっかくの服も台無しになってしまいますので、ご注意を。我々も先に出来ている物から頂きましょう」
「た、確かに……!
すみません、お気遣いありがとうございます」
「いえいえ。さあ、冷めないうちに」
「はい! いただきます!」
私はお箸を手に取り、大きく口を開けご馳走を迎えた。
* * *
夕飯後、私達は腹ごなしも兼ねてある事をしに公園へ赴く事になった。
ぶらぶらとした足取りで遊歩道を通りながら、横にいた思兼さんと取り止めの無い会話をした。
「はー……もう、食べられない……!
お腹がはち切れそう……」
「たくさん頂きましたね。あ、伊縄城さんの作られた『牛乳かんてん』、美味しかったですよ」
「えっ!? ありがとうございます!
あっあの、お口に合いましたか?」
「はい。――僕は、好きです」
「! それは何より、です」
不覚にもシンプルな言葉にドキッとしてしまった。
「私も頂いたが、食べやすかった。
あれが以前君が話していた甘味か」
後ろから珍しく久久野主任が話に入ってきたので、私はびっくりして振り返った。
牛乳かんてんを作る話を覚えてくれていたのだ。
こんな私との約束を頭の片隅に置いておいて頂いた事に、嬉しさで胸がいっぱいになる。
「はい、そうです。ちょうど良い機会だと思いまして。お気に召して頂いて良かったです」
「ぼ、ぼくも、美味しかったよ。
伊縄城さん、また、作って欲しいな」
「衣吹戸課長! ありがとうございます。
本当ですか……! はっはい。是非!」
「ああ。またお願いする」
(頑張って作った甲斐があったな)
「オモッチー! どうするー?
もうこの辺でやろっかー?」
先頭を歩いていた八木羽屋さんが振り返り、大声で尋ねてきた。
私がイケメン達の熱いリクエストに動揺している間に、公園へ到着したようである。
噴水広場とはまた違うエリアらしく、付近にはアスレチック遊具が設置されており、その先に石畳の敷かれた場所に辿り着いた。バーベキューやデイキャンプなどファミリー層向けのレジャーエリアと見受けられる。
「そうだな。ここが良いだろう」
手にした大袋を長椅子に置き、思兼さんが口を開いた。
「皆さんお疲れ様でした。天寺社長からの差し入れにより、今からここで研修最後を締めくくる花火を行います。ここに一通りありますので、お好きな物をお取りください」
「社長からか。随分また粋な計らいだな」
「こういうイベント好きだからね~、社長は。じゃーやりたいヤツ持って、みんなオレんとこ来て~」
「へいへい」
「花火、子供の時以来、だね。楽しみ」
「そうですね。実に、久しぶりです」
皆、童心に帰りわくわくしながら花火を選んでいる。私は手近にあった一本を手に取ると、八木羽屋さんの元へ向かった。
「すみません、よろしくお願いします」
「はいよー! 下に向けてもらって良い?」
「こうですか?」
「オッケー! よーし、いっくよー♪」
《シュボッ!》
八木羽屋さんの指先から眩い光が生まれ、点火する。数秒後、パチパチと花火が燃え出し、美しい夏の風物詩が始まった。
「……良い歳したオトナが、まさか雁首揃えて花火をやる羽目になるとはな」
種狛さんがプラプラと花火を垂らし、独白する。
「夏だし、いんじゃねぇの?
久々にやるとおもしれーじゃん。ほれ」
「ばっ……か、オイ!! 振り回すな!!
あっつ! このっ……こっちに向けるんじゃないっ!!」
ギャーギャー騒ぐ二十代同期組を横目に、私は中腰になり燃え盛る花火を見つめていた。
(不思議だ……私、異世界で、イケメン達と花火してるなんて……)
改めて感慨深い気持ちに浸っていると、ポシェットに入れていた物が肘に当たり、先程もらった赤い球の存在を思い出した。
(あっ、花火屋の親父さんに貰ったオマケ!)
私は線香花火をしていた久久野主任に声を掛けた。
「あの、久久野主任。これってどうやって火を着けたら良いのでしょうか」
「ん、ああ。店主にもらった花火か。
これは……他の精霊達の力が必要だ。
そこで少し待っていろ」
久久野主任が他の方達に呼びかけ、何やら準備をし始めた。皆、一個の小さな花火に対し議論を始め、とても真剣である。
「取り急ぎ、発射台はこのような形状で良いでしょうか」
「良い、と、思います。これなら、打ち上げの、威力にも、耐えられる、はずです。八木羽屋くんは、大丈夫?」
「いつでもオッケ~~!!」
「では、カウントする。十、九、八、七――――」
「伊縄城さん、十分に距離を取ってください」
「はい!」
「せーのっ!!」
「……行き、ます!」
《シュウッ――――ドンッ!!》
「わあああっっ!!」
上空に、小さな打ち上げ花火が舞う。
紅い花弁のように、それはゆっくり煌めきながら儚く消えていった。
「大成功~! 発射薬代わりの風が絶妙にコントロール効いててサイコー! イブキングもしかして初めてじゃないんじゃないの?」
「あ、ありがとう。たまたま、運が良かった、だけだよ」
「小さいながらも見応えがあった。風流だな」
「はい。祭さながらの迫力でしたね」
総力を結集し花火を打ち上げた後、それぞれが思いの丈を伝え、話が盛り上がっているみたいだった。気付けば委員会メンバー同士、和気あいあいとした雰囲気に包まれていた。
この時間を、何かの形で残せないだろうか。
「――――あの、種狛さん。
すみません、お願いがあるんですが……」
「どうした」
「カメラをお借りしてよろしいでしょうか。
せっかくなので記念撮影を行いたいな、と」
「別に、良いけど……ここでか?」
「えーっ、それだとシロちゃん入らないじゃん!」
「『自動撮影モード』にすれば良いのではないでしょうか。全員写りますよ」
「あっ、なるほど……」
「もう少し明かりが無いと画面が暗すぎる。
そうだな……噴水広場で撮影するので、とりあえず移動してもらいたい」
「りょーかーい」
「ありがとうございます、種狛さん!」
「こ、このぐらい、……大した事ねーし」
耳を忙しなく動かしながらぶっきらぼうに返答する種狛さんの顔が、ほのかに赤くなっていたような気がした。
こうして花火も無事に終わり、私達は最後、集合写真を撮って長かった日帰り研修を締めくくった。
* * *
「さて、僕達も帰りましょうか」
他のメンバーを見送った思兼さんと私は、噴水の前で二人きりとなった。
夜の帳が降り、群青色の空に散り散りになった星が鈍く瞬いている。
昼間より多少気温は下がったが、湿度の含んだ空気がじっとりとゼリーのように纏い付き、今宵も熱帯夜になる予感がした。
思兼さんが私の正面にやって来て、顔を近付ける。
「伊縄城さん。目を閉じてくださいますか」
「…………」
会社に帰還する為に思兼さんが促すが、下を向いたまま私は口を固く結び、暗に目を閉じる事を拒んだ。
私の様子を見て疑問に感じた思兼さんが、心配そうに声をかけてくれた。
「……伊縄城さん? どうかされましたか?」
「――――あの……思兼さん。
今日……すみませんでした」
「えっ?」
突然の言葉に、思兼さんが驚いた表情を見せる。
「思兼さんのお仕事、手伝いたかったのですが……時間、足りなくなってしまって……」
ずっと気がかりだった事を申し出た私を見て、思兼さんが優しく諭した。
「――――大丈夫ですよ。
今日は主に、リフレッシュを兼ねたレクリエーションみたいなものですから。
天寺社長が言ってました。
今回の研修は伊縄城さんと委員会メンバーとの″交流″が目的だと」
「″交流″……」
「はい。ですので、伊縄城さんが楽しんでくだされば、問題ありません。
もしかして、気にかけてくれてたんですか?」
「えっ! あ、えっと……」
「では、お言葉に甘えてもよろしいでしょうか。
……今から俺と、デートしませんか?
仕事、という名目として」
「!?!?!?」
街灯の明かりを背に、思兼さんがにっこりと微笑む。
驚愕している私に続けて、言葉を紡いだ。
「今日は伊縄城さんとあまりご一緒出来ませんでしたから。……お嫌でしたか?」
「そそそそそんな事ない、です!」
(思兼さん、意味分かって言ってるのかな)
「ありがとうございます。では、参りましょう。
夜道は危ないですから、手を貸してくださいますか」
「えっ!! あ、はい……!」
気付けば思兼さんと手を繋ぐ流れになり、嬉しいやら申し訳ないやら混乱する自分がいた。
私は思兼さんと公園の外れの方へと歩き出した。
* * *
しばらく歩くと小さな湖畔が見え、道沿いに樹木で出来た長椅子が等間隔に並んでいるエリアへ到着した。
小脇にはたくさんの向日葵が植った立派な庭園があり、太陽ではなく月の光に照らされた様子はある意味でとても神秘的に見えた。
「座りましょうか」
「あっ、はい!」
拳二つ分程の距離で横並びに座る。
初めてではないものの、やはりこうして近い位置に居られると緊張する。
「今日は一日、お疲れ様でした。
ずっと一生懸命動き回っていましたね」
「いえ、そんな……私よりも皆さんの方が暑い中大変そうで。思兼さんもお疲れ様です」
「……ありがとうございます。気付けば祭りまで一ヶ月を切りましたね。このまま何事も無いといいのですが」
「そう、ですね。私も引き続き、頑張ります!」
思兼さんが私の方を向き、じっと見つめていた。
「……思兼さん?」
「――伊縄城さんに見惚れていました」
「!?!?」
「誤解を招く表現でしたね。ひたむきな女性は、格好良いという意味です」
「あ、そっ、そうですか?!
ありがとう、ございます……」
相変わらず掴めない物言いをする思兼さんに、自由自在に振り回されて顔が火照るのが分かる。こんな冴えない女に言うには、勿体ない言葉だ。
「あの、すみません。全然話変わるんですが。
思兼さんがコピー機の付喪神になっているのって、何か理由があるのでしょうか。
どういった原理でなられているのか私、いまいち仕組みが分からなくて」
私の疑問に対し思兼さんが一瞬答えに詰まったが、すぐに切り替えて話をし始めた。
「――――詳細はお話出来ないのですが、僕の場合はコピー機に限定した付喪神ではありません。人間界の一定のエリアに存在する金属物質に対し、守護するのが僕の役目です」
初めて明かされる思兼さんの付喪神としての仕事に、心底驚く。
「秋になったら、いずれ業務のお願いをする事になるかもしれません。その際に、また色々とご説明しますね」
「わ、分かりました!」
「そろそろ戻りましょう。このまま伊縄城さんを拘束していると、社長に怒られますので」
長椅子から立ち上がろうとした時、思兼さんのポケットから何かが落ち、私の足元に転がってきた。
私が拾いあげると、咄嗟に思兼さんが手から素早く掴み取った。
「! ……すみません。拾ってくださったのに」
「あ、いえ! こちらこそうっかり触ってしまい、申し訳ないです」
大事そうに手にした″それ″を、思兼さんはポケットに仕舞った。
愛おしむような、切ない表情の思兼さんを見てしまい心が揺れる。
「大変失礼しました。……今日は、ありがとうございました。伊縄城さん」
「あ、私の方こそ! ありがとうございました!」
(一体何だったんだろう、……固い物だった気が)
何か引っかかる気持ちを流しつつ、私達は天海区画を旅立ったのだった。
「思兼さん!」
「久久野主任、――伊縄城さん。お疲れ様です」
思兼さんがこちらに気付き、にこやかに挨拶をしてくれた。たった数時間前に会ったばかりだというのに、まるでしばらくぶりかのような懐かしさを感じる。それだけ、今日は濃密な時間を過ごしてきた証だろう。
「八木羽屋副料理長に依頼され、先程千凛屋で伊縄城と花火を調達した」
「ありがとうございます。八木羽屋は夕食の準備で忙しいようですね」
「ああ、種狛が付き合わされている。
存分に顎で使われていたようだから、そろそろキリが良いのではないか」
「なるほど」
「お、なんだ。まだここに居たのかよ」
入口から御影さん、衣吹戸課長が揃ってやって来た。あれからずっと外で作業していたらしく、御二方とも大分日に焼けたようだ。
「お、お疲れ、様です……あ。伊縄城さん、着替えたんだ」
「お疲れ様です。はい……色々ありまして」
「へぇ、お前もそういう服、着るんだな。
また随分と気合入ってんじゃねぇの」
私の格好に気付いた御影さんが含み笑いをしている。さっそく弄る気満々の様子に、つい身構えてしまう。
「あ!雨で乾かなかったので、仕方なく、です! 私だって本当は着る予定じゃなかったんですから」
「良いじゃん」
「ふぇっ!?」
直球な返答に思わず変な声が出てしまった。
「…………可愛い、とっても」
「かっ――――!?!?」
続けて衣吹戸課長までもがあり得ない台詞を言うので、私は頭が錯乱しそうだった。
「素敵ですね。……良く、お似合いです。
繊細な服装のようですから、汚さないようにお気を付けください」
「あっ、……ありがとうございます」
(びっくりするぐらい、皆お世辞上手いなぁ……何かの罰ゲームとかじゃないよね……これ)
イケメン達からお褒めの言葉を贈られるとは一ミリたりとも考えていなかった為、新手のドッキリでは無いかと半信半疑になってしまう。
褒められ慣れていない弊害である。
私がアラサーだからギリギリ平静を保っていられるが、これが新卒女子社員だったら間違いなくイチコロだ。
全員好きになってもおかしくない。
(イケメンって……本当、罪深い存在だ……)
とりあえず、この場は額面通りに受け取っておこう。
「つーか、もう宴会場に行って良いのか?
すっげークタクタで早く飯食いたいんだけど」
《ピピピッ》
「あ、今八木羽屋さんからチャット来ました。
えーと……『こっちはオッケーだから、呼んじゃって良いよ』だそうです」
「ナイス輝彦。じゃあ、さっさと行こうぜ」
「……ぼくも、着替えに行きたい、かな。
シャワー、浴びたい……です」
「暑かったですもんね、外……」
未だ活動的な御影さんに対し、衣吹戸課長はとうに燃料切れらしく、背中に荷物でも乗っているかのように酷い猫背になっていた。
「一旦、休まれた方が良いですね。こちらは気にせず、ゆっくりお越しください。場所は『宿泊棟・穹』の中宴会場ですので、お間違いないようご注意ください」
「承知した。私も休憩後に向かう事にする」
「はい。また後ほど」
時刻も間も無く六時となり、私達は各々宴会場へと向かった。
* * *
思兼さん&御影さんと共に宿泊棟へと移動し、目的地である中宴会場に到着した。
″中″と言う割に、外側から見たところ相当な規模の会場である。この面子に対し釣り合わないレベルの豪華さだ。
意を決し仰々しい扉を開けた私は豪奢な雰囲気に飲み込まれ、しばらく言葉を失った。
黄金色に輝く折上格天井に、青々とした畳が一面に敷かれた重厚な和の空間。
高級そうな座椅子と黒塗りの御膳が用意されており、上座の中央部では八木羽屋さんが鉄板スペースを準備している最中であった。
「おっ、シロちゃん御一行来ましたか!
今から焼くから、座って待っててね~」
「八木羽屋さん! あの、私も手伝います!」
「ありがと~~♪ ホント、シロちゃんだけだよ~。そんな女神みたいな事言ってくれるのなんてさ~。野郎共は食う事しか考えてないから、マジでやんなっちゃうよね~」
口では文句を言いつつも、ウキウキと調理器具を並べている。八木羽屋さんの性格からして、皆の世話を焼くのが意外と楽しいようだ。
「でも、シロちゃんは最後に出番があるから、今は自由に食べてて大丈夫だよ♪ 動ける若手がセコセコ頑張ってくれてるからさ♪」
「八木羽屋さんっ!!」
ちょうどそこへ、八木羽屋さんから借りたであろうエプロンを付けた種狛さんがやって来た。
両手には山盛りのおにぎりが積まれている。
「ねこまるご苦労! それはそっちのテーブルに置いといてくれる~?」
「分かりまし……じゃなくて!!
おれ、結局これ全部握ったんですが!?
『具だけ作ればいい』って最初に聞いた話と、一切違うんですけど……っ」
「えっ、このおにぎり全部種狛さんが作ったんですか?!」
てっきり八木羽屋さんが作ったとばかり思っていた。一つひとつに海苔が綺麗に巻かれており、とても美味しそうだ。
「そうそう。意外とこの子真面目でさ~。
上手~く乗せたら、この通り。たっつーとかだと雑だから、器用なねこまるにお願いして良かったわ」
「おいこら、誰が雑だって?」
「キャーッ地獄耳~! ごめんごめん、冗談だって。たっつーはこういう細かい作業は得意じゃないよねって話! でしょ?」
のしのしと御影さんが割り込み、出来上がったおにぎりを物色している。
「あのなぁ、こんな近距離で名指しされて聞こえねーワケあるかよ。……確かにチマチマすんのは性に合わねぇけど。つーか、握り飯なんて誰がやっても一緒だろうが」
悪態を吐きながら御影さんがひょいっと山の一つを手に取り、がぶりと食らい付いた。
「うっま。何だこれ、……たらこか?」
「……焼きたらこだよ。ちゃんと炙って入れたんだ、美味いに決まってるだろ」
「ね? こんな感じで、たくさん種類あるから、お楽しみに~♪」
おにぎりの話で盛り上がっていると、休憩が済んだ衣吹戸課長と久久野主任が入ってきた。
「……凄く、良い匂い」
「確かに。ん、これは――鉄板焼きをやるのか?」
「ご名答~! って言っても、試作品の材料の残りをぱぱっと焼いちゃうだけなんだけどね~。今回、立派な鉄板借りられたんで、祭当日の夜店風に仕上げまーす♪」
《ジュワ――――――ッ》
油の跳ねる気持ちの良い音が会場中に響き、八木羽屋さんが鉄製のヘラで手際良く焼いていく。
「はいはいはい、海の幸!! 山の幸!!
ドンドン焼いちゃうよ~~♪」
「おーっ、すげー。めっちゃ豪華じゃねぇか」
「イカだ! おおおっ、ホタテもある……!
あっ、……御影!! 何してるんだよっ!
横から取るのは卑怯だろ!?」
「美味いもんを目の前にしてんのに、ボーッと突っ立ってるからじゃねーか。卑怯もクソもねぇっつの」
「落ち着け。全く……子供の喧嘩ではないか」
「うん……あ、この焼きそば、美味しい」
早速、絶品料理を前にして争奪戦が勃発し、男性陣が大変な事になっている。
ハラハラと様子を伺っていると、真横に思兼さんがやって来た。
「――――伊縄城さん。こちらへ」
「思兼さん? ……あっ」
スッと手を引かれ、御膳の方へと移動する。
「八木羽屋達は平気ですが、高温の油は火傷の危険性がありますので、今はあまり近くに寄らない方が良いです。それと、飛んだ油が染みになってしまってはせっかくの服も台無しになってしまいますので、ご注意を。我々も先に出来ている物から頂きましょう」
「た、確かに……!
すみません、お気遣いありがとうございます」
「いえいえ。さあ、冷めないうちに」
「はい! いただきます!」
私はお箸を手に取り、大きく口を開けご馳走を迎えた。
* * *
夕飯後、私達は腹ごなしも兼ねてある事をしに公園へ赴く事になった。
ぶらぶらとした足取りで遊歩道を通りながら、横にいた思兼さんと取り止めの無い会話をした。
「はー……もう、食べられない……!
お腹がはち切れそう……」
「たくさん頂きましたね。あ、伊縄城さんの作られた『牛乳かんてん』、美味しかったですよ」
「えっ!? ありがとうございます!
あっあの、お口に合いましたか?」
「はい。――僕は、好きです」
「! それは何より、です」
不覚にもシンプルな言葉にドキッとしてしまった。
「私も頂いたが、食べやすかった。
あれが以前君が話していた甘味か」
後ろから珍しく久久野主任が話に入ってきたので、私はびっくりして振り返った。
牛乳かんてんを作る話を覚えてくれていたのだ。
こんな私との約束を頭の片隅に置いておいて頂いた事に、嬉しさで胸がいっぱいになる。
「はい、そうです。ちょうど良い機会だと思いまして。お気に召して頂いて良かったです」
「ぼ、ぼくも、美味しかったよ。
伊縄城さん、また、作って欲しいな」
「衣吹戸課長! ありがとうございます。
本当ですか……! はっはい。是非!」
「ああ。またお願いする」
(頑張って作った甲斐があったな)
「オモッチー! どうするー?
もうこの辺でやろっかー?」
先頭を歩いていた八木羽屋さんが振り返り、大声で尋ねてきた。
私がイケメン達の熱いリクエストに動揺している間に、公園へ到着したようである。
噴水広場とはまた違うエリアらしく、付近にはアスレチック遊具が設置されており、その先に石畳の敷かれた場所に辿り着いた。バーベキューやデイキャンプなどファミリー層向けのレジャーエリアと見受けられる。
「そうだな。ここが良いだろう」
手にした大袋を長椅子に置き、思兼さんが口を開いた。
「皆さんお疲れ様でした。天寺社長からの差し入れにより、今からここで研修最後を締めくくる花火を行います。ここに一通りありますので、お好きな物をお取りください」
「社長からか。随分また粋な計らいだな」
「こういうイベント好きだからね~、社長は。じゃーやりたいヤツ持って、みんなオレんとこ来て~」
「へいへい」
「花火、子供の時以来、だね。楽しみ」
「そうですね。実に、久しぶりです」
皆、童心に帰りわくわくしながら花火を選んでいる。私は手近にあった一本を手に取ると、八木羽屋さんの元へ向かった。
「すみません、よろしくお願いします」
「はいよー! 下に向けてもらって良い?」
「こうですか?」
「オッケー! よーし、いっくよー♪」
《シュボッ!》
八木羽屋さんの指先から眩い光が生まれ、点火する。数秒後、パチパチと花火が燃え出し、美しい夏の風物詩が始まった。
「……良い歳したオトナが、まさか雁首揃えて花火をやる羽目になるとはな」
種狛さんがプラプラと花火を垂らし、独白する。
「夏だし、いんじゃねぇの?
久々にやるとおもしれーじゃん。ほれ」
「ばっ……か、オイ!! 振り回すな!!
あっつ! このっ……こっちに向けるんじゃないっ!!」
ギャーギャー騒ぐ二十代同期組を横目に、私は中腰になり燃え盛る花火を見つめていた。
(不思議だ……私、異世界で、イケメン達と花火してるなんて……)
改めて感慨深い気持ちに浸っていると、ポシェットに入れていた物が肘に当たり、先程もらった赤い球の存在を思い出した。
(あっ、花火屋の親父さんに貰ったオマケ!)
私は線香花火をしていた久久野主任に声を掛けた。
「あの、久久野主任。これってどうやって火を着けたら良いのでしょうか」
「ん、ああ。店主にもらった花火か。
これは……他の精霊達の力が必要だ。
そこで少し待っていろ」
久久野主任が他の方達に呼びかけ、何やら準備をし始めた。皆、一個の小さな花火に対し議論を始め、とても真剣である。
「取り急ぎ、発射台はこのような形状で良いでしょうか」
「良い、と、思います。これなら、打ち上げの、威力にも、耐えられる、はずです。八木羽屋くんは、大丈夫?」
「いつでもオッケ~~!!」
「では、カウントする。十、九、八、七――――」
「伊縄城さん、十分に距離を取ってください」
「はい!」
「せーのっ!!」
「……行き、ます!」
《シュウッ――――ドンッ!!》
「わあああっっ!!」
上空に、小さな打ち上げ花火が舞う。
紅い花弁のように、それはゆっくり煌めきながら儚く消えていった。
「大成功~! 発射薬代わりの風が絶妙にコントロール効いててサイコー! イブキングもしかして初めてじゃないんじゃないの?」
「あ、ありがとう。たまたま、運が良かった、だけだよ」
「小さいながらも見応えがあった。風流だな」
「はい。祭さながらの迫力でしたね」
総力を結集し花火を打ち上げた後、それぞれが思いの丈を伝え、話が盛り上がっているみたいだった。気付けば委員会メンバー同士、和気あいあいとした雰囲気に包まれていた。
この時間を、何かの形で残せないだろうか。
「――――あの、種狛さん。
すみません、お願いがあるんですが……」
「どうした」
「カメラをお借りしてよろしいでしょうか。
せっかくなので記念撮影を行いたいな、と」
「別に、良いけど……ここでか?」
「えーっ、それだとシロちゃん入らないじゃん!」
「『自動撮影モード』にすれば良いのではないでしょうか。全員写りますよ」
「あっ、なるほど……」
「もう少し明かりが無いと画面が暗すぎる。
そうだな……噴水広場で撮影するので、とりあえず移動してもらいたい」
「りょーかーい」
「ありがとうございます、種狛さん!」
「こ、このぐらい、……大した事ねーし」
耳を忙しなく動かしながらぶっきらぼうに返答する種狛さんの顔が、ほのかに赤くなっていたような気がした。
こうして花火も無事に終わり、私達は最後、集合写真を撮って長かった日帰り研修を締めくくった。
* * *
「さて、僕達も帰りましょうか」
他のメンバーを見送った思兼さんと私は、噴水の前で二人きりとなった。
夜の帳が降り、群青色の空に散り散りになった星が鈍く瞬いている。
昼間より多少気温は下がったが、湿度の含んだ空気がじっとりとゼリーのように纏い付き、今宵も熱帯夜になる予感がした。
思兼さんが私の正面にやって来て、顔を近付ける。
「伊縄城さん。目を閉じてくださいますか」
「…………」
会社に帰還する為に思兼さんが促すが、下を向いたまま私は口を固く結び、暗に目を閉じる事を拒んだ。
私の様子を見て疑問に感じた思兼さんが、心配そうに声をかけてくれた。
「……伊縄城さん? どうかされましたか?」
「――――あの……思兼さん。
今日……すみませんでした」
「えっ?」
突然の言葉に、思兼さんが驚いた表情を見せる。
「思兼さんのお仕事、手伝いたかったのですが……時間、足りなくなってしまって……」
ずっと気がかりだった事を申し出た私を見て、思兼さんが優しく諭した。
「――――大丈夫ですよ。
今日は主に、リフレッシュを兼ねたレクリエーションみたいなものですから。
天寺社長が言ってました。
今回の研修は伊縄城さんと委員会メンバーとの″交流″が目的だと」
「″交流″……」
「はい。ですので、伊縄城さんが楽しんでくだされば、問題ありません。
もしかして、気にかけてくれてたんですか?」
「えっ! あ、えっと……」
「では、お言葉に甘えてもよろしいでしょうか。
……今から俺と、デートしませんか?
仕事、という名目として」
「!?!?!?」
街灯の明かりを背に、思兼さんがにっこりと微笑む。
驚愕している私に続けて、言葉を紡いだ。
「今日は伊縄城さんとあまりご一緒出来ませんでしたから。……お嫌でしたか?」
「そそそそそんな事ない、です!」
(思兼さん、意味分かって言ってるのかな)
「ありがとうございます。では、参りましょう。
夜道は危ないですから、手を貸してくださいますか」
「えっ!! あ、はい……!」
気付けば思兼さんと手を繋ぐ流れになり、嬉しいやら申し訳ないやら混乱する自分がいた。
私は思兼さんと公園の外れの方へと歩き出した。
* * *
しばらく歩くと小さな湖畔が見え、道沿いに樹木で出来た長椅子が等間隔に並んでいるエリアへ到着した。
小脇にはたくさんの向日葵が植った立派な庭園があり、太陽ではなく月の光に照らされた様子はある意味でとても神秘的に見えた。
「座りましょうか」
「あっ、はい!」
拳二つ分程の距離で横並びに座る。
初めてではないものの、やはりこうして近い位置に居られると緊張する。
「今日は一日、お疲れ様でした。
ずっと一生懸命動き回っていましたね」
「いえ、そんな……私よりも皆さんの方が暑い中大変そうで。思兼さんもお疲れ様です」
「……ありがとうございます。気付けば祭りまで一ヶ月を切りましたね。このまま何事も無いといいのですが」
「そう、ですね。私も引き続き、頑張ります!」
思兼さんが私の方を向き、じっと見つめていた。
「……思兼さん?」
「――伊縄城さんに見惚れていました」
「!?!?」
「誤解を招く表現でしたね。ひたむきな女性は、格好良いという意味です」
「あ、そっ、そうですか?!
ありがとう、ございます……」
相変わらず掴めない物言いをする思兼さんに、自由自在に振り回されて顔が火照るのが分かる。こんな冴えない女に言うには、勿体ない言葉だ。
「あの、すみません。全然話変わるんですが。
思兼さんがコピー機の付喪神になっているのって、何か理由があるのでしょうか。
どういった原理でなられているのか私、いまいち仕組みが分からなくて」
私の疑問に対し思兼さんが一瞬答えに詰まったが、すぐに切り替えて話をし始めた。
「――――詳細はお話出来ないのですが、僕の場合はコピー機に限定した付喪神ではありません。人間界の一定のエリアに存在する金属物質に対し、守護するのが僕の役目です」
初めて明かされる思兼さんの付喪神としての仕事に、心底驚く。
「秋になったら、いずれ業務のお願いをする事になるかもしれません。その際に、また色々とご説明しますね」
「わ、分かりました!」
「そろそろ戻りましょう。このまま伊縄城さんを拘束していると、社長に怒られますので」
長椅子から立ち上がろうとした時、思兼さんのポケットから何かが落ち、私の足元に転がってきた。
私が拾いあげると、咄嗟に思兼さんが手から素早く掴み取った。
「! ……すみません。拾ってくださったのに」
「あ、いえ! こちらこそうっかり触ってしまい、申し訳ないです」
大事そうに手にした″それ″を、思兼さんはポケットに仕舞った。
愛おしむような、切ない表情の思兼さんを見てしまい心が揺れる。
「大変失礼しました。……今日は、ありがとうございました。伊縄城さん」
「あ、私の方こそ! ありがとうございました!」
(一体何だったんだろう、……固い物だった気が)
何か引っかかる気持ちを流しつつ、私達は天海区画を旅立ったのだった。
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