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第一章 春の段
第5話 地味ぽちゃ系アラサー女子の私が改めてダイエットを決意した件
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朝食を終えた思兼さんと私はオリエンテーションのために会議室へと向かった。
「どうぞ、お入りください」
「は、はい。失礼します」
開放感のある窓ガラスには、青々とした天空世界が悠然と映し出されていた。
奥側に視線を移すと、壁一面覆い尽くしそうな巨大スクリーンに目を奪われる。ここでお偉い様方が雁首揃えて重役会議でも行うのだろうか。
奥を見ると、豪奢な絵画が規則正しく一列に飾られ、この会議室を使用する面々が一流クラスの者達である事が容易に想像できた。
これまで勤めていた会社の粗末な会議室とは比べられないほどの差があり、思わず絶句してしまう。
「お好きな席におかけください。先にお配りした契約書内容と合わせて、規則や設備等のご説明をいたします」
「よろしくお願いします」
思兼さんがIDバングルをスクリーンに向け、テキパキと入力し始める。すると、会議室の照明が薄暗くなり「八百万グループ」のロゴマークが大画面に現れた。
* * *
「――以上になります。何か、ご質問等ありましたらお知らせください」
おそらく、軽く二時間は経過したと思われる。
お堅い説明を聞くのは苦手なのだが、凛々しいお顔とイケボのおかげで何とか耐える事ができた。
「……すみません。聞いても良いですか?」
「はい、どうぞ」
「私の配属先の――【神霊企画推進部】のメンバーさんは、他に何人ぐらいいるんでしょうか」
「新設部署ですので、現状は伊縄城さんおひとりです」
「えっ!!」
硬直する私。
――ひ、ひとり部署?
異世界から来た人間たったひとりで?
大丈夫なの、それ……?
「ただ、僕の所属している部署と同じ、経営本部管轄にありますし、業務については全面的にバックアップいたしますので、心配は無用です。他の社員も、伊縄城さんをサポートしますのでご安心ください」
私の焦燥を感じ取ったのか、思兼さんがすかさずフォローを入れてくれたのは嬉しかったけれど――
不安でいっぱいになってしまった私は、俯く事しかできなかった。
思兼さんがさらりと話題を変える。
「明日から就業開始となりますが、終業後に懇親会及び歓迎会を社員食堂にて行いますので、後ほどご連絡しますね」
「あああ~……やっぱりやるんですね。分かりました……」
はぁ、とため息をつく。
八木羽屋さんの戯言は、几帳面な思兼さんにより、しっかりとスケジュールに組み込まれていた。残念ながら。
「当日はよろしくお願いします。少し、お時間が迫っておりますので、次に制服の採寸を行います」
「へっ!? 思兼さんがやるんですか?」
「いえ、神霊総務部の女性社員が担当します。僕はその間、別の業務で抜けますので終わりましたらバングルからご連絡ください」
「でっ、ですよね~!」
《コンコンコン》
「はい、どうぞ」
「失礼いたします」
ガチャリ、と扉が開く。
艶やかな黒髪の女性が会釈をする。
「伊縄城さん、先程お話した神霊総務部所属の大都野さんです」
「初めまして、伊縄城さん。大都野と申します。制服のサイズを測らせて頂きますね。よろしくお願いします」
「伊縄城です、こちらこそよろしくお願いします!」
綺麗な声だなぁと改めてお顔を拝見すると、度肝を抜く端麗さで二度驚く。
思兼さんと並ぶと、圧倒的な美男美女オーラに、私の存在など塵に等しい。
「では、僕はここで一旦失礼します。大都野さん、よろしくお願いします」
「承知しました」
美女とふたり、会議室に残される。
何を話せばいいか迷っていると、大都野さんが声をかけた。
「緊張しなくて大丈夫ですよ。リラックスしてくださいね、すぐに終わりますので。まずは上半身から失礼しますね」
「はっ、ハイ!」
同性とはいえ、自分の身体を触られるというのはやはり慣れない。
平静を装いつつ、大都野さんの手に全てを委ねた。
* * *
「お疲れ様でした。採寸が終わりましたので、楽にして結構ですよ」
「あっ、ありがとうございます」
大都野さんがIDバングルに情報を打ち込んでいく。
「伊縄城さんは、上下13号ですね。在庫ございますので、夕方にはお部屋に届くよう資材部へ連絡しておきます」
ズ――――――ン。
いや、ずっと見ないフリしてきたから今更なんだけども。
改めて、太ったな……私。
大都野さんみたいになりたいなんて、おこがましい事は言わないけど、流石に恥ずかしい。
「伊縄城さん?」
「あっ! ごめんなさい、ちょっと気が抜けちゃって」
「いえいえ。女性らしいデザインなので、きっと伊縄城さんに似合うと思います。明日、また歓迎会でお会いできるのを楽しみにしていますね」
「ええっと、すみません。あのう……歓迎会って、私詳しく知らないんですけど、どれくらいの規模で行うのでしょーか……」
イヤな予感がした。
大都野さんも知ってるという事は、他部署の方々もかなり参加するものだろうか。
「そうですねぇ……確か、経営本部の社員は大体出席するはずです。二百柱ぐらいでしょうか」
「二百!?」
会ったこともない末端の新入りに、そんなに来るものなの?!
「思兼部長、張り切っておりましたよ。注目されると思いますが、頑張ってくださいね!」
「ぶ、部長!? 思兼さんって、部長なんですか?!」
「はい、先月付で昇進されたので、現在部長職ですね。部長昇進と同時に、精霊から神に昇格もされました」
もらった名刺、古かったのか……っていやいや。
思兼さんってもしかして、かなりのスーパーハイスペック神様じゃないの?
ぐるぐると頭の中を情報が錯綜する。
神様の部長ってどんなお仕事量なのか、計り知れない。
が、私なんかに構ってるヒマなんてないぐらい、物凄く多忙なんじゃないだろうか。
「何かお困りの事があれば、いつでも神霊総務部へご連絡くださいませ。本日はありがとうございました」
「あっ、私の方こそ、今日はどうもありがとうございます……」
新情報に追いつけないまま、呆然と大都野さんを見送った。
* * *
――――うん。
とにかくだ。
痩せよう。
話はそれからだ。
考える事をやめた私は、今日イチの出来事について、強く強く決心したのだった。
「どうぞ、お入りください」
「は、はい。失礼します」
開放感のある窓ガラスには、青々とした天空世界が悠然と映し出されていた。
奥側に視線を移すと、壁一面覆い尽くしそうな巨大スクリーンに目を奪われる。ここでお偉い様方が雁首揃えて重役会議でも行うのだろうか。
奥を見ると、豪奢な絵画が規則正しく一列に飾られ、この会議室を使用する面々が一流クラスの者達である事が容易に想像できた。
これまで勤めていた会社の粗末な会議室とは比べられないほどの差があり、思わず絶句してしまう。
「お好きな席におかけください。先にお配りした契約書内容と合わせて、規則や設備等のご説明をいたします」
「よろしくお願いします」
思兼さんがIDバングルをスクリーンに向け、テキパキと入力し始める。すると、会議室の照明が薄暗くなり「八百万グループ」のロゴマークが大画面に現れた。
* * *
「――以上になります。何か、ご質問等ありましたらお知らせください」
おそらく、軽く二時間は経過したと思われる。
お堅い説明を聞くのは苦手なのだが、凛々しいお顔とイケボのおかげで何とか耐える事ができた。
「……すみません。聞いても良いですか?」
「はい、どうぞ」
「私の配属先の――【神霊企画推進部】のメンバーさんは、他に何人ぐらいいるんでしょうか」
「新設部署ですので、現状は伊縄城さんおひとりです」
「えっ!!」
硬直する私。
――ひ、ひとり部署?
異世界から来た人間たったひとりで?
大丈夫なの、それ……?
「ただ、僕の所属している部署と同じ、経営本部管轄にありますし、業務については全面的にバックアップいたしますので、心配は無用です。他の社員も、伊縄城さんをサポートしますのでご安心ください」
私の焦燥を感じ取ったのか、思兼さんがすかさずフォローを入れてくれたのは嬉しかったけれど――
不安でいっぱいになってしまった私は、俯く事しかできなかった。
思兼さんがさらりと話題を変える。
「明日から就業開始となりますが、終業後に懇親会及び歓迎会を社員食堂にて行いますので、後ほどご連絡しますね」
「あああ~……やっぱりやるんですね。分かりました……」
はぁ、とため息をつく。
八木羽屋さんの戯言は、几帳面な思兼さんにより、しっかりとスケジュールに組み込まれていた。残念ながら。
「当日はよろしくお願いします。少し、お時間が迫っておりますので、次に制服の採寸を行います」
「へっ!? 思兼さんがやるんですか?」
「いえ、神霊総務部の女性社員が担当します。僕はその間、別の業務で抜けますので終わりましたらバングルからご連絡ください」
「でっ、ですよね~!」
《コンコンコン》
「はい、どうぞ」
「失礼いたします」
ガチャリ、と扉が開く。
艶やかな黒髪の女性が会釈をする。
「伊縄城さん、先程お話した神霊総務部所属の大都野さんです」
「初めまして、伊縄城さん。大都野と申します。制服のサイズを測らせて頂きますね。よろしくお願いします」
「伊縄城です、こちらこそよろしくお願いします!」
綺麗な声だなぁと改めてお顔を拝見すると、度肝を抜く端麗さで二度驚く。
思兼さんと並ぶと、圧倒的な美男美女オーラに、私の存在など塵に等しい。
「では、僕はここで一旦失礼します。大都野さん、よろしくお願いします」
「承知しました」
美女とふたり、会議室に残される。
何を話せばいいか迷っていると、大都野さんが声をかけた。
「緊張しなくて大丈夫ですよ。リラックスしてくださいね、すぐに終わりますので。まずは上半身から失礼しますね」
「はっ、ハイ!」
同性とはいえ、自分の身体を触られるというのはやはり慣れない。
平静を装いつつ、大都野さんの手に全てを委ねた。
* * *
「お疲れ様でした。採寸が終わりましたので、楽にして結構ですよ」
「あっ、ありがとうございます」
大都野さんがIDバングルに情報を打ち込んでいく。
「伊縄城さんは、上下13号ですね。在庫ございますので、夕方にはお部屋に届くよう資材部へ連絡しておきます」
ズ――――――ン。
いや、ずっと見ないフリしてきたから今更なんだけども。
改めて、太ったな……私。
大都野さんみたいになりたいなんて、おこがましい事は言わないけど、流石に恥ずかしい。
「伊縄城さん?」
「あっ! ごめんなさい、ちょっと気が抜けちゃって」
「いえいえ。女性らしいデザインなので、きっと伊縄城さんに似合うと思います。明日、また歓迎会でお会いできるのを楽しみにしていますね」
「ええっと、すみません。あのう……歓迎会って、私詳しく知らないんですけど、どれくらいの規模で行うのでしょーか……」
イヤな予感がした。
大都野さんも知ってるという事は、他部署の方々もかなり参加するものだろうか。
「そうですねぇ……確か、経営本部の社員は大体出席するはずです。二百柱ぐらいでしょうか」
「二百!?」
会ったこともない末端の新入りに、そんなに来るものなの?!
「思兼部長、張り切っておりましたよ。注目されると思いますが、頑張ってくださいね!」
「ぶ、部長!? 思兼さんって、部長なんですか?!」
「はい、先月付で昇進されたので、現在部長職ですね。部長昇進と同時に、精霊から神に昇格もされました」
もらった名刺、古かったのか……っていやいや。
思兼さんってもしかして、かなりのスーパーハイスペック神様じゃないの?
ぐるぐると頭の中を情報が錯綜する。
神様の部長ってどんなお仕事量なのか、計り知れない。
が、私なんかに構ってるヒマなんてないぐらい、物凄く多忙なんじゃないだろうか。
「何かお困りの事があれば、いつでも神霊総務部へご連絡くださいませ。本日はありがとうございました」
「あっ、私の方こそ、今日はどうもありがとうございます……」
新情報に追いつけないまま、呆然と大都野さんを見送った。
* * *
――――うん。
とにかくだ。
痩せよう。
話はそれからだ。
考える事をやめた私は、今日イチの出来事について、強く強く決心したのだった。
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