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十五話「王都への旅立ち前夜、私は王様の花嫁になる運命なの?」
しおりを挟む―ヒロイン視点―
一カ月後
「いよいよ明日は王都に向けて出発ですね。王都とはどんなところなのでしょう? 大きな町ならおいしい食べ物もありますよね? 王都の音楽やファッションにも触れてみたいです」
明日はイオニアス王国の王都への旅立つ日。
シェーンフェルダー公爵領は森と湖に囲まれた、とてものどかなところだった。お城の人たちも町の人たちも、みんな親切で私にやさしくしくれた。
レヴィン様は私のわがままに付き合い、お城の中や町を案内してくれた。
レヴィン様と一緒にいて分かったことは、レヴィン様はお城の人たちにも、町の人たちにもとても愛されているってこと。
こんなに素敵な人が独身で、婚約者も恋人もいないなんて不思議。
この世界の人は結婚が早いのに、王の弟であるレヴィン様に婚約者も婚約者候補もいないなんて。
詳しく聞きたいけど、レヴィン様はその辺のことを何も教えてくださらない。ドミニクさんも何も話してくれない。
私はレヴィン様のことが好き、レヴィン様のことをもっと知りたい。
最初はただの憧れだった。金髪碧眼の美少年、絵に描いたような王子様。
でも今は憧れじゃなくて、レヴィン様が本気で好きだ。
女性に免疫のないところも、時々ツンデレになるところも、時折見せる悲しげな表情も……好き、全部好き、大好き。
王都から帰ったら、告白してみようかな?
相手は王子様、身分違いの恋だけど告白するぐらいいいよね?
「レヴィン様が一緒なので、すごく気強いです」
知らない世界でひとりぼっちの私を、レヴィン様はずっと支えてくれた。
レヴィン様がいなかったら、私の心はとっくに折れていた。
「シェーンフェルダー公爵領を案内してくださったみたいに、王都のことも案内してくださると嬉しいです」
にっこりと笑いかけると、レヴィン様に目を逸らされた。
時々こんな風に目を逸らされることがある、嫌われているのかな……?
そんなとき、レヴィン様はいつも悲しげな顔で俯いていらっしゃる。
今日はいつもにも増して、沈んだ表情をしていらっしゃっる。
シェーンフェルダー公爵領を立つ日が決まり、王都行きが近づくにつれレヴィン様の表情は曇っていった。
今日はこの世の終わりみたいな顔をしている。
「…………女神様」
「ほのかでいいって言ってるじゃないですか、レヴィン様」
王子様→レヴィン王子→レヴィン様と段階的に名前の呼び方を変えることに成功した。
でもレヴィン様はずっと私のことを「女神様」と呼んでいる。私はレヴィン様に名前で呼んでもらいたいのに。
私がいくら「ほのかでいいですよ」と言っても「女神様を名前で呼ぶことが許されているのは陛下だけです」と返されてしまう。レヴィン様の態度はかたくなだ。
国王陛下ってそんなに偉いの?
陛下の弟であるレヴィン様だって十分高い地位にいるんだから、私を名前で呼んでもいいと思うんだけどな。
「王都に行く前に、女神様にお伝えしなければならないことがあります」
レヴィン様がいつになく神妙な面持ちで、私を見つめる。
「なんですか? レヴィン様」
レヴィン様がいつもは見せない真剣な表情に、場の空気がピリリとする。
「あなたは…………王都に行き、王に謁見し…………」
「それは聞きました。王様ってどんな方なのでしょう? 気難しい方でないとよいのですが。陛下はレヴィン様の実の兄上なんですよね、お顔立ちは似ているんですか?」
レヴィン様が美形なんだから、王様もきっと凛々しいお顔をしているハズ。
レヴィン様とは十五歳も年が離れてるんだよね?
美少年というよりは、美青年って感じかな? それともイケオジ?
「あなたは国王に拝謁し………………陛下の花嫁になります」
「えっ……?」
レヴィン様の言葉に頭の中が真っ白になった。
「レヴィン様……いまなんて……?」
「あなたは王と結婚するのです」
再度伝えられた言葉に、目の前が真っ暗になる。
「そんな…………」
息ができない、酸素はどこ……?
「これは神話の時代からの我が国の決まりで……」
レヴィン様はなんでそんなことを、淡々と言えるの?
「聞きたくありません!」
聞きたくないよそんな言葉……!
「女神様……」
「どうして、どうしてそんな酷いことが平然と言えるのですか……!」
涙で視界がにじむ。
レヴィン様お願い、それ以上なにもおっしゃらないで……!
「兄上は聡明な方で、女神様と少し年は離れていますが、見目も良く剣術も得意で……」
レヴィン様の口から、他の男性を推す言葉なんか聞きたくない!
「そんなこと言ってるんじゃありません……!」
「女神……様」
「どうして? どうして……レヴィン様の口から、他の人と結婚する話を聞かされなくちゃいけないの!? 私は、私の気持ちは……!」
神話とか約束事とか知らない! 女神なんてなりたくてなったんじゃない!
十五歳も年上の会ったこともない男と結婚するなんて嫌だよ!
「私はレヴィン様のことが好きなんです……!」
レヴィン様に感情をぶつけてしまった。
私の完璧な片思い。
無表情で他の男と結婚しろなんて言う人を、好きになっても意味ないのに……。
「女神……」
「触らないで……!」
私はレヴィン様の手を払い、部屋を飛び出した。
涙があふれ、頬を流れた。
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