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二章・22話「塔でのスローライフ、毒殺と王子様と間接キスと 9」シンデレラ視点

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食事がすんだあと、

「ドレスは嫌いか?」

フィリップ王子が紅茶をすすりながら聞いてきた。

ひとつのティーカップをふたりで使い、交互に飲んでいる。

王子がオレが口を付けた部分に唇をつけるのを見ると、なぜかこそばゆい気分になる。

不思議と不快感はなかった。

魔法使いの魔法が解け、オレの服はボロい服に戻っている。

王子様がこんなボロボロの服を着た人間と、食卓を囲むことはないだろう。

目障りだから着替えろと言いたいんだろうな。

高貴な身分の王子様が、ボロをまとったオレとの食事に、朝、昼、夜、三回も耐えたのだ。

それだけでもすごいよ。

「クローゼットにドレスが入っていただろう?」

「おまえの用意した服は、ひらひらしていて動きづらいんだよ……」

クローゼットに入っていたのは、パーティーで着るような贅沢(ぜいたく)なドレスばかり。

重いし、かさばるし、筋トレするときに動きづらいし、肩がこる。

もっと普段使いの、普通のドレスがいい。

というかオレは男だから、男物の服がほしい。

紅茶を一口すする。先ほどフィリップ王子が口を付けたところに自分の唇が触れていると思うと、またこそばゆい気持ちになった。

「綺麗(きれい)なドレスを身につけていないオレは目障りか? 一緒にいるのは苦痛か? 食事をするのも嫌か?」

舞踏会で王子がオレをダンスに誘ったのは、オレが華やかなドレスを着ていたからだ。

きっと普段着(ボロボロのふく)で行ったら、誰にも相手にされなかっただろう。

そもそも、お城にすら入れてもらえない。

みすぼらしい服を着た本当のオレなんて、きっと誰の目にも留まらない。

舞踏会でオレに声をかけてきた貴族たちも、目の前にいる王子様も。

望んでいるのは、見てくれが美しい、華美なドレスを着た、高貴な家の娘なのだ。

「いや、いくら煌(きら)びやかなドレスを着ていても、心の汚なさはごまかせない。舞踏会は見てくれだけを美しく着飾り、心の醜悪(しゅうあく)さを隠せたつもりでいる醜い人間の集まりだった。その中で君は、君だけは純粋な瞳をしていた」

「……えっ?」

「ボロをまとっていても、君は美しい」

フィリップ王子の言葉を聞き、オレは花瓶を持って立ち上がっていた。

「なんのまねだ?」

訝(いぶか)しげな表情で、フィリップ王子が首をかしげる。

「いや、オレを口説いて犯す気なのかと……」

ボロをまとっていても美しいとか……どう考えても口説いているとしか思えない。

うまいことを言って、オレを性欲のはけ口にする気か?

フィリップ王子が、深く息をはく。

「君は自尊心が低すぎる」

「余計なお世話だ」

「心配しなくても、君を無理やり犯したりしない。今朝もそう言っただろ?」

とはいえ、二日前に犯されたばかりだ。

簡単には信用できない。

花瓶を持って身構えるオレを見て、フィリップが苦笑いを浮かべ、肩をすくめた。

だけどありのままのオレを受け入れてくれたのは、ウソでも、口説き文句でも、うれしかった。

小指の先ほど、ほんのちょっぴりだけどな。



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