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二章・20話「塔でのスローライフ、毒殺と王子様と間接キスと 7」シンデレラ視点
しおりを挟むフィリップ王子との二度目の食事。
もはやフィリップ王子との間接キスに、なんの抵抗も感じない自分が怖い。
順応性、高すぎるだろ。
王子が愉しげに、オレの口に食事を運ぶ。
餌付(えづ)けされている気分だ。
昨夜、オレが食事を取らなかったからだろうか?
朝食の量が多く、料理が少し残ってしまった。
シンデレラはもともと少食なので、食べ物がいっぱいあっても、たくさんは食べられないのだ。
王子は残った食事を海に捨てていた。
「捨てるなよもったいない」
残った料理一皿で、使用人時代のオレの食事三日分のカロリーはある。
いつもお皿に残った豆や芋を食べてたからな。
肉や魚を食べるのは、久しぶりだ。
太らないように毎日筋トレをしよう。
「残った分は、オレがお昼に食べる」
「腐るだろ」
オレの言葉を無視し、王子が窓から料理を捨てていく。
「だからって窓から捨てるなよ」
王子様なのに、行儀が悪いな。
「残った料理を持ち帰り、食べ物の好みを割り出されると面倒だ」
フィリップ王子がそっけ無く答える。
なるほど残り物から相手の好物を割り出し、好物に毒を盛れば相手を殺しやすくなる。
王族も大変だな。
☆☆☆☆☆
食事の後片付けが終わり、オレはテーブルで紅茶をすすっていた。
相変わらずほどよくぬるい。熱いお茶なら武器になるのに。
紅茶を武器にされることを警戒してなのか? 王子が猫舌なのか? おそらく後者だろう。
あのツンツンドS王子が猫舌だと思うと、可愛いく思えた。
なに考えてるんだオレ?! あんなやつ全然かわいくない!
自分の考えを打ち消すように、首を左右にふる。
☆☆☆☆☆
王子が帰るというので、扉まで見送る。
別に見送る義理はないが、王子の機嫌を損ねて食事を運んできてもらえなくなったら困る。
別にあいつが帰るのが、寂しいとかではない。
突然に王子がオレに迫ってきた。
あっという間に壁際に追いつめられてしまう。
なんだよ、襲わないって言ったくせに!
王子の右手が伸び、オレの左頬に触れる。ビクリと肩が震える。
「なっ、なんだよ……!」
キリッと相手をねめつける。
フィリップ王子が心配そうな顔で、オレの顔をのぞき込む。
「腫れていないようで、安心した」
「えっ……?」
オレは昨日のことを思い出す。
ルイス王子に平手打ちされたのは、左の頬だった。
「ひっぱたかれるのには、なれてるからな」
継母や義理の姉に平手打ちをされたのは、一度や二度じゃない。
たたかれてるうちに、ほっぺたの守備力が上がったらしい。
「苦労したのだな」
王子が心苦しげな表情をする。
「別に……」
急にやさしくするなよ、調子がくるう。
青みを含んだ気品のある黒色の瞳で見つめられると、変な気分になる。
オレはフィリップ王子から視線を逸らした。
こんなやつ大嫌いなのに、なんで心臓がドキドキしてるんだ?
「使え」
フィリップ王子がポケットから小瓶を取りだし、オレの手にのせる。
「これは?」
小瓶には緑色の液体が入っていた。
「傷や腫れにきく薬だ」
フィリップ王子はそれだけ言うと、食事用のカートを押して部屋から出ていった。
手の中の小瓶を見て、思案する。
あのドS王子が、やさしいなんておかしい。
きっと中身は媚薬(びやく)に違いない。
オレが傷薬と信じて媚薬を使い、エッチな気分になって身もだえているのを見て、あざ笑う気なのだ。
「こんなもの……!」
窓を開け、小瓶を持った手を外にだす。
『ボクは、今日からおまえと同じ器からしか食事はもとより水もとらない』
ドクン……! と心臓が波打つ。
『そうだな、そのときは君と一緒に死んでやる』
ドクン、ドクンと心臓が早鐘をうつ。
あいつに触れられた頬が熱い。
あのときのあいつの真摯(しんし)な眼差しが、脳裏をよぎる。
オレは小窓を閉めた。
「本当に傷薬だったら、もったいないか……」
捨てるのはいつでもできる。
貧しい人間にとって傷薬は高価なのだ。
破傷風(はしょうふう)の予防薬なんかないこの時代、小さな傷やケガが元でなくなる人間は多い。
消毒薬と傷薬があれば、結果は違ってくるのに……。
貴重なものなので、とりあえず鏡台の引き出しの奥に、隠すようにしまっておくことにした。
引き出しを閉めたとき、鏡の中の自分と目が合った。
「べっ、別にあいつの言葉を信じたわけじゃないからな! オレは貧乏性だから、本当に傷薬だったらもったいなくてとっておくだけで。海に捨てるのは海洋汚染にもつながるし、それに……」
オレは鏡に映る自分に言いわけをした。
鏡の中のオレが不機嫌そうな顔で、こっちを見ていた。
顔が赤いのは、きっと気のせいだ。
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