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二章・4話「二度目の城、王様と王妃様ってどんな人? 1」シンデレラ視点

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実家から王子に拉致(らち)されたオレは、馬車に乗せられ、お城まで連れていかれた。

それから王子に引きずられ、玉座の間。王様と王妃様の御前(おんまえ)に連れていかれた。

玉座の間は六十畳ほどの広々とした空間で、窓には天使が描かれたステンドグラスがはめられていた。

壁際に玉座があり、階段を三段のぼった所に金ぴかの大きなイスが二つ並んで配置され、王様と王妃様が優雅に座っていた。

イスの上には赤い天蓋(てんがい)があり、イスの背後には赤の布地に金の糸で王家の紋章が刺繍(ししゅう)された、大きな布が飾られていた。

二匹の鷹(たか)が向かいあっているのが、エステン国の王家の紋章だ。

イスの下には金や銀の糸を使用してディテールを強化した、精妙(せいみょう)で緻密(ちみつ)なデザインのシルクの赤いカーペットが敷かれていた。

王様は金色の髪に緑色の瞳の、ダンディーなおじさまで。

王妃様は銀色の髪に紫の瞳の、清楚(せいそ)でそそとした美人だった。

ふたりともすごくやさしそうな人で、なんでこんなやさしそうな人から、悪魔みたいな息子が生まれたんだ? オレは不思議に思った。

王様と王妃様は、息子が結婚相手を決めたことをとても喜んでいた。

罪悪感で胸がちくちくと痛む。

息子の結婚を、こんなに喜んでる人たちには申し訳ないが、オレは男だ、王子と結婚なんかできない。

息子さんに拉致(らち)されて、無理くりお城まで連れて来られたことを伝え、結婚を止めさせよう。

頭のいかれた王子はともかく、普通の親なら、男との結婚なんて認めないだろう。

しかも相手は王子様だ。お世継(よつ)ぎとか、国民からの支持とか、いろいろと問題がある。

まともな親なら、素性(すじょう)の知れない男との結婚なんて認めないハズだ。

「国王陛下、王妃様あの……」

「この子はシンデレラ、ボクが結婚相手に選んだ者です」

王子がオレの言葉をさえぎり、王様と王妃様にオレを紹介した。

「まぁ、なんてかわいらしい娘なのでしょう、まるでお人形さんみたい」

「フィリップとシンデレラが結婚したら、美形な子が生まれるな」

王様と王妃様が、オレを見て目を細める。

罪悪感で胸がズキズキと痛む。

すみません、オレは男なんです。

この世界の男は子供を生めない。だから王子に監禁凌辱(かんきんりょうじょく)され、産卵エンドもない。あったとしても全力でお断りします。

お宅の息子に無理やり犯されたあげく、自宅から拐(さら)われてきましたと告げたら、この人たちは卒倒(そっとう)するだろな。

王子は憎い、だが人の良さそうな王様と王妃様に、真実を告げるのは心が痛む。

「この者は、もともと裕福な家の生まれでした。ですが父親の死後、継母(ままはは)と義理の姉に使用人のように扱われてきました」

「まぁ、なんてかわいそう」

「苦労したのだな」

オレの身のうえ話に、王妃様が我(わ)がことのように瞳をうるうるさせ、オレを見つめる。

うん、絶対いい人だ。

「なので貴族社会のマナーもしりませんし、さして教養もありません」

カッチーン! 

そりゃあ、幼いころから帝王学を学んだきた王子には敵わないが。

オレだって父親が生きていたころは教育を受けてたんだ、読み書きぐらいはできるぞ!

「苦労したのね、大丈夫よ、いまから学べばいいのよ。わたくしが教えてさしあげるわ」

「そうだ、学ぶのに遅いということはないぞ」

王様と王妃様がオレをはげましてくれた。

なんか、本当にいい人たちだなぁ。

オレこの世界で実の両親以外に、こんなにやさしい言葉をかけてもらったの初めてかも。

胸が熱くなる、泣きそう。

だからこそちゃんと伝えないと、オレは男だってことも、王子に強制的に連れて来られたことも、王子と結婚する意思がないことも……!

「あの国王陛下……」

「それからもうひとつ、重要なことが」

オレの言葉は、フィリップ王子にさえぎられた。

「なんだまだあるのか?」

「もうなにを聞いても驚かないわ、なんでも言ってちょうだい。わたくしこちらの可愛らしいお嬢さんが気に入ったの。フィリップが選んだ相手なら、どんな条件でも受け入れるわ」

「そうですか、そうだといいんですが……」

フィリップがゆっくりと口を開く。

「この者は、男です」

フィリップの言葉に、場の空気が一瞬にして凍りついた。



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