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6話「イズンの林檎」
しおりを挟むどんどんと扉を叩く音……。
「中村さんいるんでしょう?
開けてください借金返してくださいよ!」
扉越しにイラついた中年のおじさんの声が聞こえる。
嫌な感じがして目が覚めた。心臓がまだバクバクと音を立てている。
辺りを見回すと見慣れた築七十年の木造二階建てのアパートの天井はそこにはなく、ゴツゴツした岩とピカピカに輝くリンゴの木があって、
「私、異世界転移したんだった……」
自分の置かれている状況を思い出した。
「異世界に転移して最初に見た夢が、借金取りに追われる夢なんて最低……」
日本にいた時、世界転移系や転生系の漫画や小説をたくさん読んだ。
貧しく孤独な自分を忘れるために、漫画や小説の中の主人公に自分を重ねていた。
彼らは異世界に旅立つ前、恵まれていないことが多かったから……彼らに自分の人生を重ね慰めていた。
彼らのように異世界に行って冒険したい、彼女たちのように異世界に行って王子さまに溺愛されて幸せに暮らしたい、そう願っていた。
「異世界転移する夢は叶ったけど、現実って厳しいな……」
現実は、異世界転移する前から勝ち組のセレブ美人女子大生が王子さまに一目見て寵愛され、冴えない見た目の私は冤罪をかけられ森で断崖に投げ捨てられた。
ぐーきゅるるるるる。
色んなことを思い出していたら、またお腹が鳴った。
「昨日あれだけ食べたのに。
リンゴじゃあお腹の足しにならなかったかな?」
目の前の光り輝くリンゴの木を見ると、またたくさんの実をつけていた。
「昨日実っていたリンゴの実を全部収穫したのに、一晩でこんなに実ってるなんて……凄いな」
漫画や小説だと不思議な植物との遭遇は異世界転移、転生あるあるなので、私は黄金に輝くリンゴの木について深く考えないことにした。
昨日と同じようにリンゴの実を収穫し口に入れていく。
「ん~~! 甘~~い!
シャキシャキした食感がたまらな~~い!」
リンゴの実をバクバク食べていると、頭の中に声が響いた。
【力が10上昇しました】
【体力が10上昇しました】
「何、今の声??」
頭の中に響く声に混乱していると、リンゴの実に文字が書かれていることに気付いた。
「『力上昇』って書いてある、こっちには『体力上昇』って……どういうこと??
こういう時、漫画やゲームみたいに鑑定スキルでもあればな」
【スキル、鑑定を発動します。
イズンのリンゴ(変異種)。
神々の国に伝わるというリンゴの木。
本来イズンのリンゴの実に種はないが、神が特別な方法でリンゴの種を取り出した。
イズンのリンゴの種は異世界転移による負荷と、聖女の力が加わり、突然変異した。
本来のイズンのリンゴの実には食べた者の若さを保つ効果がある。
変異種に実った果実には、スキル習得や、力や体力などを上昇させる効果がある】
突如頭の中に響いた声に、しばしポカーンとしていた。
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