上 下
6 / 11

6話「イズンの林檎」

しおりを挟む



どんどんと扉を叩く音……。

「中村さんいるんでしょう?
 開けてください借金返してくださいよ!」

扉越しにイラついた中年のおじさんの声が聞こえる。









嫌な感じがして目が覚めた。心臓がまだバクバクと音を立てている。

辺りを見回すと見慣れた築七十年の木造二階建てのアパートの天井はそこにはなく、ゴツゴツした岩とピカピカに輝くリンゴの木があって、
「私、異世界転移したんだった……」
自分の置かれている状況を思い出した。

「異世界に転移して最初に見た夢が、借金取りに追われる夢なんて最低……」

日本にいた時、世界転移系や転生系の漫画や小説をたくさん読んだ。

貧しく孤独な自分を忘れるために、漫画や小説の中の主人公に自分を重ねていた。

彼らは異世界に旅立つ前、恵まれていないことが多かったから……彼らに自分の人生を重ね慰めていた。

彼らのように異世界に行って冒険したい、彼女たちのように異世界に行って王子さまに溺愛されて幸せに暮らしたい、そう願っていた。

「異世界転移する夢は叶ったけど、現実って厳しいな……」

現実は、異世界転移する前から勝ち組のセレブ美人女子大生が王子さまに一目見て寵愛され、冴えない見た目の私は冤罪をかけられ森で断崖に投げ捨てられた。

ぐーきゅるるるるる。

色んなことを思い出していたら、またお腹が鳴った。

「昨日あれだけ食べたのに。
 リンゴじゃあお腹の足しにならなかったかな?」

目の前の光り輝くリンゴの木を見ると、またたくさんの実をつけていた。

「昨日実っていたリンゴの実を全部収穫したのに、一晩でこんなに実ってるなんて……凄いな」

漫画や小説だと不思議な植物との遭遇は異世界転移、転生あるあるなので、私は黄金に輝くリンゴの木について深く考えないことにした。

昨日と同じようにリンゴの実を収穫し口に入れていく。

「ん~~! 甘~~い!
 シャキシャキした食感がたまらな~~い!」

リンゴの実をバクバク食べていると、頭の中に声が響いた。

【力が10上昇しました】
【体力が10上昇しました】

「何、今の声??」

頭の中に響く声に混乱していると、リンゴの実に文字が書かれていることに気付いた。

「『力上昇』って書いてある、こっちには『体力上昇』って……どういうこと??
 こういう時、漫画やゲームみたいに鑑定スキルでもあればな」

【スキル、鑑定を発動します。
 イズンのリンゴ(変異種)。
 神々の国に伝わるというリンゴの木。
 本来イズンのリンゴの実に種はないが、神が特別な方法でリンゴの種を取り出した。
 イズンのリンゴの種は異世界転移による負荷と、聖女の力が加わり、突然変異した。
 本来のイズンのリンゴの実には食べた者の若さを保つ効果がある。
 変異種に実った果実には、スキル習得や、力や体力などを上昇させる効果がある】

突如頭の中に響いた声に、しばしポカーンとしていた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妹に全部取られたけど、幸せ確定の私は「ざまぁ」なんてしない!

石のやっさん
恋愛
マリアはドレーク伯爵家の長女で、ドリアーク伯爵家のフリードと婚約していた。 だが、パーティ会場で一方的に婚約を解消させられる。 しかも新たな婚約者は妹のロゼ。 誰が見てもそれは陥れられた物である事は明らかだった。 だが、敢えて反論もせずにそのまま受け入れた。 それはマリアにとって実にどうでも良い事だったからだ。 主人公は何も「ざまぁ」はしません(正当性の主張はしますが)ですが...二人は。 婚約破棄をすれば、本来なら、こうなるのでは、そんな感じで書いてみました。 この作品は昔の方が良いという感想があったのでそのまま残し。 これに追加して書いていきます。 新しい作品では ①主人公の感情が薄い ②視点変更で読みずらい というご指摘がありましたので、以上2点の修正はこちらでしながら書いてみます。 見比べて見るのも面白いかも知れません。 ご迷惑をお掛けいたしました

婚約破棄されたので実家へ帰って編み物をしていたのですが……まさかの事件が起こりまして!? ~人生は大きく変わりました~

四季
恋愛
私ニーナは、婚約破棄されたので実家へ帰って編み物をしていたのですが……ある日のこと、まさかの事件が起こりまして!?

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

婚約者マウントを取ってくる幼馴染の話をしぶしぶ聞いていたら、あることに気が付いてしまいました 

柚木ゆず
恋愛
「ベルティーユ、こうして会うのは3年ぶりかしらっ。ねえ、聞いてくださいまし! わたくし一昨日、隣国の次期侯爵様と婚約しましたのっ!」  久しぶりにお屋敷にやって来た、幼馴染の子爵令嬢レリア。彼女は婚約者を自慢をするためにわざわざ来て、私も婚約をしていると知ったら更に酷いことになってしまう。  自分の婚約者の方がお金持ちだから偉いだとか、自分のエンゲージリングの方が高価だとか。外で口にしてしまえば大問題になる発言を平気で行い、私は幼馴染だから我慢をして聞いていた。  ――でも――。そうしていたら、あることに気が付いた。  レリアの婚約者様一家が経営されているという、ルナレーズ商会。そちらって、確か――

〖完結〗私は誰からも愛されないと思っていました…

藍川みいな
恋愛
クーバー公爵の一人娘として生まれたティナは、母を亡くした後に父セルドアと後妻ロザリア、その連れ子のイライザに使用人のように扱われていた。 唯一の味方は使用人のミルダだけ。 そんなある日、いきなり嫁ぐように言われたティナ。相手は年の離れた男爵。 それでもこの邸を離れられるならと、ティナはボーメン男爵に嫁いだ。 ティナを急いで嫁がせたのには理由があった。だが、ティナを嫁がせた事により、クーバー家は破滅する。 設定ゆるゆるの架空の世界のお話です。 11話で完結になります。 ※8話は残酷な表現があるので、R15になってます。

妹に婚約者を寝取られましたが、私には不必要なのでどうぞご自由に。

酒本 アズサ
恋愛
伯爵家の長女で跡取り娘だった私。 いつもなら朝からうるさい異母妹の部屋を訪れると、そこには私の婚約者と裸で寝ている異母妹。 どうやら私から奪い取るのが目的だったようだけれど、今回の事は私にとって渡りに舟だったのよね。 婚約者という足かせから解放されて、侯爵家の母の実家へ養女として迎えられる事に。 これまで母の実家から受けていた援助も、私がいなくなれば当然なくなりますから頑張ってください。 面倒な家族から解放されて、私幸せになります!

聖人の番である聖女はすでに壊れている~姉を破壊した妹を同じように破壊する~

サイコちゃん
恋愛
聖人ヴィンスの運命の番である聖女ウルティアは発見した時すでに壊れていた。発狂へ導いた犯人は彼女の妹システィアである。天才宮廷魔術師クレイグの手を借り、ヴィンスは復讐を誓う。姉ウルティアが奪われた全てを奪い返し、与えられた苦痛全てを返してやるのだ――

【完結】恋人との子を我が家の跡取りにする? 冗談も大概にして下さいませ

水月 潮
恋愛
侯爵家令嬢アイリーン・エヴァンスは遠縁の伯爵家令息のシリル・マイソンと婚約している。 ある日、シリルの恋人と名乗る女性・エイダ・バーク男爵家令嬢がエヴァンス侯爵邸を訪れた。 なんでも彼の子供が出来たから、シリルと別れてくれとのこと。 アイリーンはそれを承諾し、二人を追い返そうとするが、シリルとエイダはこの子を侯爵家の跡取りにして、アイリーンは侯爵家から出て行けというとんでもないことを主張する。 ※設定は緩いので物語としてお楽しみ頂けたらと思います ☆HOTランキング20位(2021.6.21) 感謝です*.* HOTランキング5位(2021.6.22)

処理中です...