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十一話「御者が必要なんだ」

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「ところで殿下、今日はどのようなご用件でこちらにいらしたのですか?」

おじいちゃん先生がぼくに尋ねる。

「バルドリックに用事があるんです。ちょっと借りてもいいですか?」

「どうぞどうぞ、ご自由にお持ちください」

おじいちゃん先生がまるで自分の所有物のように言う。

「バルドリックちょっといい?」

「オレは構わないんですが……」

バルドリックがうなずく。だがどうやら背後が気になるらしい。バルドリックの後ろを見ると、勇者様が殺気だった目でこちらを睨んでいた。

もしかして勇者様の親友のバルドリックを、勇者様の許可なく借りたから怒ってる?

「よ、よかったらリヒトも一緒に来る?」

できるだけ爽やかに勇者様に声をかける。

勇者様の表情が緩み一気に顔が赤くなる。勇者様は無言でこくこくと頷いた。

よかった勇者様の機嫌が治ったみたいだ。


◇◇◇◇◇


誰もいない部屋に場所を移し本題に入る。

「それで殿下がオレになんのご用ですか?」

「バルドリックは馬車の操縦ができるんだよね?」

「ええまぁ、少しなら」

前に教会を訪れたとき、神父様のお供で街に買い出しに行くときは、バルドリックが馬車の操縦していると聞い事がある。

「それが何か?」

「モーントズィッヒェル公爵領まで行きたいんだけど、バルドリックには御者を頼みたいんだ」

「えっ? オレがですか? 殿下ならお城の人に頼めるのでは?」

「それじゃダメだから頼んでるんだよ」

お城の人にインゲルベアド公爵のお見舞いにモーントズィッヒェル公爵領に行きたいと言ったら、インゲルベアド公爵の病気はうつる病気なのでダメですと断られた。

「オレなんかの運転でいいなら」

「ありがとうバルドリック」

バルドリックの手を握る。殺気を感じ振り向くと、勇者様が冷たい目でこちらを見ていた。

ぼくは慌てて手を離した。勇者様の大事な親友に危害を加えたりしませんから安心してください。

「でもお城の馬車なんて操縦できるかな?」

「その点は大丈夫、教会の幌馬車を使うから」

「はっ?」

バルドリックが鳩が豆鉄砲を食らったような顔をする。

「護衛の兵士には内緒で行くから」

「はいっ!?」

バルドリックの顔が青くなった。

どうにもぼくとフリード公子を会わせないように画策している勢力があるような気がしてならない。

フリード公子の手紙の返事しかり、フリード公子がぼくの誕生日パーティーに来なかったことしかり、モーントズィッヒェル公爵領に行くことを止められたことしかり。

病気がうつるという理由だけで、甥が伯父の病気を見舞うのを止められるのはどうにも解せない。

インゲルベアド公爵の部屋に入らなくても、城に行き家族に見舞いの言葉をかけるぐらい許されそうなのに。絶対にモーントズィッヒェル公爵領に行ってはいけない、という感じで止められるのはおかしい。

だから内緒で行くことにした。

「そういう事でしたら、アリバイ工作が必要ですわね」

バルドリックでもリヒトでもない声に、びくりとして振り返る。入り口にリーゼロッテが立っていた。

「えっ? 協力する気なのかリーゼロッテ?」

バルドリックが引き気味にリーゼロッテに問う。

「当たり前です。王子様は私とリヒトとローレの恩人、ひいては孤児院の恩人。恩人の頼みをむげに断るなど人の道に反します。一度了承しておきながら、その舌の根も乾かぬうちになかったことにするなど言語道断ですよ、バルドリック」

リーゼロッテの凜とした態度にバルドリックが怯む。

「さすが姉上、正論です! おれもラインハルト王子に協力します!」

「文句はないわね、バルドリック?」

「……はい」

バルドリックは勇者姉弟に説き伏せられた。

どうやらこの孤児院の陰の支配者はリーゼロッテらしい。


◇◇◇◇◇


「王子様は私たちとかくれんぼをしていますの、大人は立ち入り禁止ですわ」

リーゼロッテにアリバイ工作を任せ、ぼくと勇者様とバルドリックは教会の幌(ほろ)馬車を使いモーントズィッヒェル公爵領を目指す。

教会の馬車は食料品の調達の名目で、リーゼロッテが神父に掛け合って使用許可を取ってくれた。

神父は馬車にぼくが乗っている事を知らない。

「なんかとんでもない事に巻き込まれたかも……」

バルドリックが泣きそうな顔でぼやいた。


◇◇◇◇◇
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