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七話「好きになってしまいました」

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ーーリヒト視点ーー


公子が兵士に連行されるのを横目に、おれは姉上に声をかける。

「姉上、ラインハルト王子が公子をやっつけてくれました。目を覚ましてください」

姉上に話しかけるが姉上はピクリとも動かない。

脈はある。手を握ればドクンドクンと脈を打っている。

姉上の閉じられたまぶたを見ていたら、死んだ両親の事を思い出してしまった。もしも姉上がこのまま目を覚まさなかったら……そう考えた瞬間、背筋がぞっとした。

「姉上! 姉上!」

姉上の手を握り、叫ぶ。眠っているだけかもしれない。でも不安で不安でどうしようもなかった。

「医者を呼んでください! いや、それよりも城に運んだ方が早い、城に運び王医に診せます!」

おれが姉上の名を呼んでいる事に気づいたラインハルト王子が、姉上を心配してくださったのだろうか?

ラインハルト王子が指示を出すと、王子の護衛の兵士らしき人が姉上をお姫様抱っこして馬車に連れて行った。

「あなたも一緒に城に来てください」

ラインハルト王子がやさしいお声で話しかけてくださった。

ラインハルト王子は、おれと同い年なのになんてしっかりしているんだろう。

「王子様の馬車におれも乗せてもらえるのですか?」

王子様の馬車に姉上だけでなく、おれも乗せてくださるなんて!

おれはラインハルト王子のやさしさに感銘を受けた。

「大丈夫ですよ。あなたのお姉様を絶対に死なせたりしませんから」

ラインハルト王子に触れられてしまった。感極まって涙がこぼれそうになる。

「ありがとうございます! ラインハルト王子!」

おれはラインハルト王子に深々と頭を下げた。

ラインハルト王子、このご恩は生涯忘れません!


◇◇◇◇◇◇◇◇


お城で王医様に見てもらったところ姉上はすぐに目を覚ました。

王医様の話では、公子に斬られたショックで失神していたらしい。

ラインハルト王子は、おれと姉上が無事だと孤児院に連絡してくださった。王子はおれたちに会う前に孤児院に行き、ローレの病を知り、お医者様と薬を孤児院に届けてくださっていたのだ。

ラインハルト王子はおれたちが、薬代のために身を売りに行ったのではないかと、心配していたらしい。

「身売り? なんの話ですか? おれたちは薬代を工面するために髪を売りに行っただけですが」

おれがそう話すと、ラインハルト王子は心底ホッとしたような顔をした。

ラインハルト王子がおれたちの心配をしてくださったことが嬉しかった。

「孤児院の運営は王族の務めなのに、それをおろそかにしお二人に大切な髪を切らせてしまいました。すみません!」

ラインハルト王子がそう言って、おれたちに頭を下げた。

おれは思わず姉上と顔を見合わせてしまった。

おれたちを助けてくださったラインハルト王子が、おれと姉上に頭を下げる理由がまるで分からない。

おれは慌ててラインハルト王子に駆けより、王子様の肩に手を置いた。

「ラインハルト王子、どうか頭を上げてください」

ラインハルト王子が頭を上げる。

ラインハルト王子の清んだ湖のようなキラキラとした青い瞳と目が合った。

ラインハルト王子がおれをじっと見ている。こんなに至近距離で見つめないでください。恥ずかしいです!

「とても綺麗な髪だったのに、すみません」

ラインハルト王子がおれの髪に触れる。

見つめられただけでドキドキしているのに、髪に触れられて「綺麗」だなんて言われたら、心臓が沸騰してしまいます!

「らっ、ラインハルト王子は短い髪はお嫌いですか?」

テンパってアホみたいな事を聞いてしまった!

おれの髪が長かろうが短かろうが、ラインハルト王子にはどうでもいいことなのに。

「いえとても似合っていますよ。あなたの美しさを引き出している」

ラインハルト王子が天使のようなほほ笑みを浮かべ、お答えくださった。

ラインハルト王子が似合っていると、美しいと褒めてくださった!

おれは今後髪を伸ばさない! 一生この髪形で通す!

おれの鼓動が早まり、体中の熱が上がっていく。

「勇……リヒト様?」

ラインハルト王子がおれの名を呼んでくださったが、おれはラインハルト王子の顔を真っすぐに見られず顔を背けてしまった。

嬉し涙と鼻水でびしょびしょになったこんな顔をラインハルト王子には見せられない!


◇◇◇◇◇◇◇
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