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四十一話「白樺の森」
しおりを挟む馬車を降りたボクの目の前に広がっていたのは、一面に広がる白樺の森だった。
夏の太陽の光をうけた木々のすき間から、キラキラと日差しが降り注ぐ。
「えっと…?」
シュタイン領に、精霊の森以外に森らしい森なんてあったかな?
「念のために聞くけど、カールここはどこ?」
「死の荒野にございます」
「そう、だよね……」
昨日まで地平線まで荒野が続いていた。
「一夜にして死の荒野が、白樺の森に変わったのでございます」
そんな馬鹿な……と言いたいが、一つ思い当たる節がある。
昨日ボクがこの地に植えた白樺の枝だ。あの一本の枝が一晩で広大な森になった?
常識で考えたらありえない。
だけどあの白樺の枝は精霊からもらったもの、白樺の枝に精霊の力が宿っていたのなら、死の荒野が一夜で白樺の森になったとしても不思議ではない。
「森を調べた農民の話では、モンスターも大型の肉食獣も出現せず、果実の取れる樹木があり、魚が群れをなす川があり、飲むと体力が回復する清らかな泉があるそうです」
「すごいね!」
すごい以外の感想が出てこない。
荒野の問題と、モンスターの問題が一度に解決した。
森の周りには、一夜にして出現した森を不思議そうに眺めている農民がいた。農民たちはボクらに気づき、駆け寄ってきた。
「精霊様! 精霊の御子様!!」
農民たちが兄上を見てひざまずき、手を合わせる。
「豊かな森をありがとうございます!!」
農民たちが口々に兄上にお礼を伝える。
「お前たちは礼を言う相手を間違えている」
兄上の言葉に農民たちはきょとんとして、首をかしげた。
「精霊の森に住む精霊に会い、白樺の枝を授かり、一夜にして死の荒野を白樺の森に変えたのは私ではない。そこにいるエアネストだ!」
皆の視線が一斉にボクに集まる。
「精霊様から白樺の枝をさずかった?」
「精霊様に愛されし者……!?」
「まさに精霊様の愛し子!」
「精霊様の愛し子に、感謝申し上げます!」
一人がそう言うと皆が口をそろえて、
「「「精霊様の愛し子に、感謝申し上げます!!」」」
と言って、ボクを拝み始めた。
人々に感謝され、拝まれることに慣れていないボクは戸惑うばかり。
「精霊の森に住む精霊様に、白樺の枝をいただいたお礼を伝えてきますね」
ボクは兄上の腕をつかみ早足で馬車に乗り込み、逃げるようにその場を後にした。
◇◇◇◇◇
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