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七話「ヴォルフリック兄上」*

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エアネスト視点

◇◇◇◇◇

暖かな日差しのふりそそぐ中庭を、幼いボクが駆けている。

銀の髪に紫の目の少年を見つけ、ボクは少年の元にダッシュした。

「兄上大好き!」と言って少年の胸に飛びつく。

少年は嬉しそうにほほえむと「ボクも好きだよ」と言って幼いボクの背に腕を回した。

少年の顔が近づいてきて、それから……??


◇◇◇◇◇


「兄上、ヴォルフリック兄上……!」

自分の叫び声で目が覚めた。

寝ている間にエアネストとボクの記憶が融合されたのか、ヴォルフリックを兄上と呼ぶことに違和感はない。

息苦しいな、何かがボクの胸に乗っているようだ。

「ん……?」

よく見ればそれは誰かの腕だった。

「ふぇっ……?」

隣を見れば彫りの深いイケメンが寝ていた。

「兄上……?」

隣で寝ていたのはヴォルフリック兄上だった。兄上のまつ毛長いな、鼻が高いな、顔のバランスが整っていてきれいだな。思わず兄上の寝顔に見とれてしまう。

じゃなくて! あれからどうなったんだろう?

農民が城に押し寄せてきて、ヴォルフリック兄上を助けるために牢に向かい、兄上にボクの光の魔力を全部上げて……。

「兄上の髪……!」

朝日を浴びて銀色に光る長い髪、その髪に触れボクはホッと息を吐いた。

「良かった、助けられたんだ」

兄上が闇落ちするルートを回避出来た。

「ん、エアネスト……?」

「兄上お目覚めですか?」

大きく見開かれた兄上の目は、アメジストのような美しい紫色だった。

あれ? いま兄上がボクの名を呼んでくれた?

牢で会ったときは冷たい感じで、存在を否定されたから名前を呼ばれただけでもすごく嬉しい。

よく見ればヴォルフリック兄上もボクも服を着ていなかった。んんん? ボクが寝ている間に何があったのかな?

兄上の手がボクの髪をなでる、くすぐったくて目をつぶってしまう。

次の瞬間頭を押さえられ、口にキスされた……!

えええ……!? 何が起きてるの? なんで兄上にキスされてるの??

兄上の舌がボクの口内に……! やっ、だめですよ兄上! ボクたちは兄弟なんですから!

ヴォルフリック兄上は魔王と第二王妃レーア様の子で、ボクは王様と第三王妃ルイーサの子だから血のつながりはない。

血のつながりがないからキスしてもいいのかな? どうなのかな??

「ん、んん……ふっ、ん……!」

兄上の舌に口の中を舐められ、舌をからめとられ、お互いの唾液が混ざったものを飲まされ、ようやく解放された。

「あっ、兄上、何を…!!」

最初に兄上にキスしたのはボクだけど、あれは兄上を救うためのもので、やましい気持ちは一切ない。いわば人工呼吸のようなものだ。でも兄上からされたキスは……!

兄上がボクの髪を撫で、悲しげに眉を下げた。

「やはり戻らないか」

「えっ?」

「口づけで魔力が移ったのなら、また口づけをすれば光の魔力を戻せると思ったのだが……」

えっ? 兄上はボクに光の魔力を返そうとしてくれたの? 兄上のキスも人工呼吸みたいなものだったんだ!

それなのにボクは……変に意識して、バカだな。

「ボクの光の魔力は兄上の闇の魔力と合わさり消えました。だから戻すのは無理です」

「綺麗な金色だったのに」

ボクの髪を撫でる兄上の目がとても切なげに見えた。

「私などのためになぜ捨てた」

「えっ?」

「より輝く金の髪を持つ者と濃紺の目の者が尊ばれるこの国で、お前はプラチナブロンドの髪と濃い青い目を持って生まれた。生まれながらに次期国王の座が約束されていた。それをなぜ捨てた」

「なんかじゃありません」

兄上が驚いた顔でボクを見る。

「兄上はボクの大事な人です!」

ヴォルフリックはゲームの一推しキャラで、血のつながりはなくてもボクの大切な兄上だ!

「だからそんな悲しい言葉を言わないでください」

兄上を真っすぐに見つめる。

兄上が目を細め、ボクの頬をなでる。

「私に触れられるのは嫌ではないか?」

「嫌じゃありません」

超絶美形の兄上に至近距離で見つめられ、頬に触れられ、とてもドキドキしてるけど、全然嫌ではない。

「髪と目が黒くなってから、私に恐れずに話しかけてきたのはお前が初めてだった」

苦労されたのですね。

「私の目を真っすぐ見つめ、嫌がらずに触れてきたのもお前が初めてだ」

「兄上……」

牢での兄上の心痛を思うと胸がズキリと痛んだ。

「これからはボクがいます! ボクが兄上を支えます!」

兄上がふわりとほほえんだ。ゲームのスチル絵でも見たことがない穏やかな表情に、ボクの心臓が跳ねる。

「エアネストは私が好きか?」

「えっ?」

「好きかと尋ねている」

好きか嫌いかと言われたら好きだ。前世ではゲームの一推しキャラだったし、現世では幼い頃に一緒に遊んだ兄上だし、嫌いな訳がない。

「好きです、大好きです!」

兄上が花がほころぶように笑った。それはそれはとても艶美な笑顔で、そんな笑顔を至近距離で見せられ、ボクの心臓は破裂しそうになる。

「私もそなたを愛おしいと思っている」

兄上が目を細める。

兄上は九年間も牢屋に監禁され心が傷ついているんだ。

兄上はボクには心を開いていてくださるみたいだから。ボクが側にいて支えてあげたい!

兄上の手がボクの顎に触れ上を向かされる。目が合うと兄上が穏やかにほほえんだ。

兄上の顔がゆっくりと近づいてきて……えっ? もしかしてこの流れまたキスされちゃうの?

キスしても光の魔力は戻らないのはさっき説明したよね?

兄上が瞳を閉じる。唇と唇があとちょっとで触れ合ってしまう!


トントントントン!


軽快なリズムでドアがノックされ、唇が触れ合う寸前に兄上が止まる。

「ヴォルフリック王子様、エアネスト王子様、国王陛下がおよびです! お支度をなさり玉座の間にお越しください!」

この声には聞き覚えがある、執事のアデリーノだ。

父上が呼んでいる? 執事が兄上の名を呼んだと言うことは、兄上がこの部屋にいることを知っている?

「分かった。支度をするのでしばし待て」

兄上の顔がボクから離れていく。

ホッとしたようなひどく残念なような。ん? いま残念って思った? どうしてそう思ったんだろう??


◇◇◇◇◇
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