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二話「第三王子」*

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眠りシュラーフ

日が当たらない湿気の多い場所。

衛兵を眠らせ牢の鍵を盗む。

「兄上……! ヴォルフリック兄上!」

十畳ほどの部屋の奥、小さなろうそくがゆらめく。質素な作りの椅子とテーブルと簡易のベッド。

夜のような漆黒の髪、黒曜石のような瞳。

その人はベッドの縁に腰掛けていた。

「ヴォルフリック兄上!」

だんだんエアネストと統合してきたのか、ヴォルフリックを、兄上と呼んでいた。

駆け寄ると兄上は鋭い目でボクを見た。

氷のような冷たい目。

「誰だ」

低く温度のない声だった。

「エアネストです、兄上の弟のエアネストです!」

「知らん」

短く言い切られた。

「出ていけ」

鋭い目で睨まれ、心臓が凍りつく。

何年もほっておかれて急に来られても受け入れられるわけがない。

「嫌です! 出ていきません!」

ボクはヴォルフリックの手に触れる。

「触るな!」

手を払われてしまった。

大勢が近づいてくる足音、話し声。

農民がすぐそこまで来ている。

「兄上逃げてください! もうすぐここに農民たちが押し寄せてきます! 彼らは兄上を袋叩きにする気です!」

「かまわん」

「えっ……?」

「どうでもよい」

この人は生きることを諦めている。

だめなのか? ぼくでは助けられないのか? ヒロインのソフィアでなければ助けられないのか……!

「ここだ! 地下室があるぞ!」

「闇の色の髪を持つみ子!」

「雨が降らないのはやつの呪いだ!」

農民たちの声が地下牢に響く。もうすぐそこまで来ている。

入口は一つ、兄上を連れて逃げるのは無理だ!

それでもボクはこの人を助けたい!

目の前にいるこの人を闇落ちさせたくない! それがボクのわがままでも!

「それでもボクは兄上を助けたいです……!」

ヒロインじゃないからうまく行かないかもしれない……だけど何もせずにはいられなかった。

兄上の首に手を回し唇を奪う。

ボクもヒロインのソフィアと同じプラチナブロンドの髪、目も濃い青、同じ光属性。

ボクの魔力を全部兄上に上げれば、もしかしたら兄上を闇属性から解放出来るかも!

ボクの魔力が兄上に流れていくのが分かる。

兄上お願いです、ボクのキスを拒否しないでください。

むりやり唇を押し付け、魔力がなくなるまでボクは光の魔力を兄上に流し続けた。

くらりと視界が回りボクが倒れたのと、農民が牢に押し寄せて来たのはほぼ同時だった。

兄上、ヴォルフリック兄上の髪の色は…?

ボクの意識はそこで途切れた。



◇◇◇◇◇
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