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6話「愚かな親子」

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「真実の愛に生きる、素敵じゃない、私はデールの恋を応援しますよ」

アロンザはニッコリと笑った。

「先週デールを私の執務室に呼び出したとき、男爵令嬢との婚姻に関する書類の他に、王位継承権を放棄し、王族の籍を抜ける書類も一緒に渡しましたよね? デールが真実の愛に生きる=王族を辞めるということですからね。もちろんきちんと書類を確認してからサインしたのでしょう?」

「……ペピンと結婚できることに浮かれて、書類を読んでいなかった」

デールが消え入りそうな声で言った。

「あらあらデールはお間抜けさんね、まさか書類を読まずにサインするなんて」

アロンザがオーバーに驚いたふりをした。王位継承権を放棄する書類と王族の籍を抜ける書類は難しい文言を多用していたので、デールごときが読んでも理解できないことをアロンザは知っていたのだ。

「ちょっとデール! あんた何やってるのよ! 書類も読まずにサインするなんて! 王位継承権を放棄して、王族の籍を抜けてこれからどうやって生きていくのよ!」

ミアがデールをののしる。

「ミアさんも人のことを言えませんよ。先週お城を出る前に、側妃の地位を辞する書類に、ご自分の意思でサインなさったでしょう?」

アロンザの言葉を聞き、ミアの顔色は真っ青になった。

「あ、あれは宝石をくれるって書類じゃあ……?」

「ミアさんは国王陛下と婚姻されてからずっと、側妃に割り当てられた予算以上のお金を遣い、国費を無駄遣いしていましたからね。大きな宝石を一つ上げるから、国王陛下との縁を切ってお城から出ていってという内容の書類を渡したのですよ。まさかミアさんも書類を読まずにサインなさったのですか? もしかして字が読めませんでした?」

「馬鹿にしないで! 字ぐらい読めるわよ! ……何が書いてあるのか理解できなかったけど」

アロンザはミアがサインするように、書類を作るとき宝石を付与する文面は分かりやすく、側妃の地位を辞し、城から出ていく下りは難解な言い回しを多用していた。

「ですから一週間前から、デールは王子ではなくザイツ男爵令嬢の婿むこ。ミアさんは平民なのですよ」

「ちょっと待って! 私はクッパー男爵家の令嬢じゃないの?」 

「ミアさんは、国王陛下と結婚するときに実家の男爵家から除籍されています。ミアさんのご実家のクッパー男爵家は何年も前に没落し、爵位を返上しております。ですからミアさんの今の身分は平民です」

「そんな……」

「デールが貴族社会に残るにはザイツ男爵家を継ぐしかないのだけど、男爵にすらなれるかしらね?」

「それはどういう意味だ?」
 
「デールがザイツ男爵家を継ぐには学園を卒業しなくてはいけないの。今までは教師から事前にテスト問題を聞き出すなどの不正をしていたようだけど、これからはどうなるかしらね? 不正を働いていた教師は首にしたから実力で試験を受けるしかないわ。

王家の雇った優秀な家庭教師もいないし、そもそも男爵家に二人分の学費を支払うお金はあるのかしら? 学園の成績が振るわない二人は王家の奨学金を受けられなくてよ。そうなると学費が払えなくて自主退学するしかないわね」

「自主退学……」

「えっ? デール学園に通えないの? アタシも退学なの? ねぇパパなんとかして!」

黙って聞いていたザイツ男爵は、自身の腕にすがりつくペピンの言葉を無視した。

「王妃陛下、発言をお許しください」

「発言を許可します。ザイツ男爵?」

「一週間、王子殿下……デール様とミア様が当屋敷に滞在し、飲み食いした食費や使用人を雇い入れた費用は……?」

「デールもミアさんも既に王族とは無関係の人間、そちらでなんとかしてください」

「そんな……」

アロンザの言葉に、ザイツ男爵はその場で膝をついた。


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