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108話「ダイジェスト①」

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【注意・初めに】

・作者は設定を忘れました
・前回までのストーリーを忘れました
・かなり前に「完結までの内容を粗筋でもいいから知りたい」という声を頂いたので、完結までダイジェストで語ります。
・伏線が回収されない可能性が高いです。
・誤字脱字いっぱいで読みにくいです。
・それでもいいよ、何でも許せるよ、という方だけお読みください。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

【本文】

シエルのノヴァはお風呂を終え、月の神殿へと向かった。

二人はヴェルテュが用意した真っ白な法衣に身を包んでいた。

二人が月の神殿に付く頃には、日は完全に傾き、辺りは真っ暗になっていた。

灯りがついてるのは帝都の中で今この月の神殿だけであった。

帝都はヌーヴェル・リュンヌを迎える準備を万全に整えていた。

「ようやくきたね、ちょうどあのお方がお出ましになる時間だ」

ヴェルテュがそう言うと月の神殿が真っ白に光り、銀色の髪に金の目の男とも女とも言い切れぬ容姿を持つ美しい髪が現れた。

「あの方が新月の女神ヌーベル・リュンヌ」

シエルはヌーベルリュンヌの美しさに度肝を抜かれていた。

「ひと月ぶりだなヴェルテュ、久しいなカルム…………待っていたぞシエル」

ヌーヴェル・リュンヌがシエルに向かってそう言うと、シエルはノヴァとヴェルテュがいた空間とは別の空間に転移していた。

元の空間に残されノヴァはシエルが消えたことに動揺していた。

「落ち着いてカルム、ヌーベル・リュンヌ様はシエルに話があるんだよ」

ヴェルテュはこうなることを知っていたようだった。

「待っていたぞシエル、いや竜胆蘭りんどうらん

前世の名を呼ばれシエルは動揺した。

「どうして俺の前世の名前を」

「そなたをこの世界に呼んだのは私だ」

衝撃的な事実にシエルは驚いていた。 

「そなた『水の国の竜』という本を知っているか?」

「俺が前世で読んでいた漫画です、主人公が幼馴染の王子に婚約を破棄されて、冤罪を着せられて川に落ちて死ぬところで終わるっていう胸糞悪い漫画のタイトルです」

「そうだ、ではこのタイトルを知っているか『幼なじみに婚約破棄された僕が、隣国の皇子に求婚されるまで』……」

ヌーヴェル・リュンヌに尋ねられて、頭の中にかかっていた霧が晴れていく気がした。



――シエル回想――



俺は俺が前世を生きていた時、まだ竜胆蘭りんどうらんという名前だった時。

『お姉ちゃん待ってよ、その本捨てるの?』

姉が大量の同人誌を捨てようとしていた。

『ええ、そうよ』

『綺麗な表紙の本なのにもったいないよ、捨てるなら俺にちょうだい』

俺は1巻と書かれた表紙に描かれていた銀色の髪に紫の目の美青年に心を奪われていた。

『いいけどこの話BLよ、【水の国の竜】の連載終了後に原作者が後日談を描いた同人誌なんだけど、原作を知らないと楽しめないし、それからラストが……』

『大丈夫、俺原作の【水の国の竜】読んでたし! BLとかそういうの気にしないから、それからラストのことは言わないで、ネタバレ禁止!』

俺は姉から同人誌を引ったくって自室に持って帰った。

『タイトルは【幼なじみに婚約破棄された僕が、隣国の皇子に求婚されるまで】か、タイトルから想像するにこの銀色の髪に紫の髪の美青年が隣国の皇子様で、皇子様に抱きしめられている金色の髪に青い目の美少年が主人公なんだろうな』

俺は表紙に描かれた美青年を眺めながらドキドキしていた。

『タイトルから想像するに、最後はきっとこの二人が結婚して終わるとかそういう話だよね』

そう思って読み始めた俺が馬鹿だった。

主人公のザフィーア・アインスは、元婚約者のエルガー・レーゲンケーニクライヒ王子のことがずーーーーっと好きで、恩人である隣国の皇子のノヴァを邪険に扱うのだ。

そしてレーゲンケーニクライヒ国に帰ったら、ノヴァをあっさりと捨て元婚約者のエルガー王子と結婚するのだ。

『何考えてんだよこの主人公! 浮気者のクズ野郎で自分に冤罪着せて捨てたカス王子とより戻すとかありえねーだろ! ぜってーねーだろ! 読者に喧嘩売ってんのかよ!』

この話の雑誌に連載された時の漫画版『水の国の竜』が途中で打ち切りになった理由がよくわかった。こんな話絶対読者に受けない! 打ち切りになって当然だ!

『こんなもの!』

俺は苛立ちまぎれに同人誌を壁に叩きつけた。

そのとき本の表紙に亀裂が入ってしまった。

『あっ!』

表紙には俺のお気に入りキャラ、ノヴァ・シャランジェールこと、カルム・ボワアンピール皇子がカラーで描かれていたのに……!

『ノヴァさん、ごめんね』

キャラクターをさん付けで呼ぶほど
俺はこの同人誌にはまっていた。はまっていただけにこのラストは許せなかった。

ザフィーアとエルガーを祝福し、影で涙をながすノヴァさんのことを思うと胸が張り裂けそうだった。

『俺だったら絶対ノヴァさんを泣かせないのに……!』

同人誌を抱きしめて俺はボロボロと涙を流した。


――シエルの回想終わり―― 



「そなたが壁に投げつけた時同人誌に亀裂が入った、その亀裂のおかげで私はそなたこの世界に呼ぶことができたのだ、この世界の未来を変えるために」

「教えてくださいヌーベル・リュンヌ様!俺はノヴァさんを救うために何をすればいいですか!」

俺はノヴァさんを助けたかった、ノヴァさんを泣かせたくなかったんだ。

「その前に一つ教えておこう、そなたは消えたと思ってるようだがザフィーア・アインスの魂は消えてはいない。そなたの中でずっと眠っていた。ザフィーアとエルガーの婚約が破棄されていないと知り、ザフィーアの魂はそなたの中で再び目覚めはじめた。そなたもそれとなく感じていたのではないか?」 

ザフィーアとエルガーの婚約が破棄されていないと知ってから、胸の中が何だかもやもやざわざわして落ち着かなかった。ザフィーアが目覚めかけていたからだったのか。

「どうすればザフィーアの魂を抑えることができますか? 俺はノヴァさんを悲しませたくないんです!」

ノヴァさんと離れたからか、今も胸の中がモヤモヤしてきてとても気分が悪い。

「ザフィーアの魂を抑え込む方法が一つある」

「その方法を教えてください!」

「その方法とは……」

「その方法とは?」

ヌーヴェル・リュンヌはたっぷり間を空けてから言葉を放った。

「ノヴァはそなたの脱ぎたてのパンツをアイテムボックスの中に集めている、そして時々取り出しては顔に被り匂いを嗅いでいる」

「………………えっ?」

声を発するのに1分ぐらいかかってしまった。ヌーヴェル・リュンヌ様真顔で何を言ってるんですか?

「他にもあるぞ、ノヴァはそなたの精液をコンドームの中に採取し、アイテムボックスにしまい時折取り出して飲んでいる」

「…………うぁぁぁぁぁ!! もうやめてください!」

シリアスな顔して何言ってんだこの神様は!

俺は恥ずかしくて立っていられなくて、その場にうずくまった。穴があったら入りたいとはこのことだ!

「どうだ? そなたの中のザフィーア・アインスはおとなしくなったか?」

「えっ?」

ヌーヴェル・リュンヌ様に言われてはたと気づく、そういえば胸の辺りがざわざわしていたんだけど、いつの間にか治っている。

「ザフィーア・アインスに体を乗っ取られそうになったら、今言った二つのことを思い出せ、あやつは潔癖だからノヴァの変態行為に耐えられまい」

くつくつと笑いながら、ヌーヴェル・リュンヌ様が楽しそうに言った、なんとなくこの人ヴェルテュ様に似てる……。

「わしがそなたはこの世界に呼んだのにはもう一つ理由がある、水竜メルクーア、本当の名は悪竜オードラッへを倒すためだ、わしはやつだけは許せぬのだ」

「はい」

悪竜オードラッへは600年前にレーゲンケーニクライヒ国に現れて、水竜メルクーアという偽名を使い人々を惑わさ、国王に生贄を捧げさせている悪党だ、絶対に許してはいけない。

「わしはこの600年、やつが生贄として捧げられた人々を食べるのを、指をくわえて見ていることしかできなかった。忌々しいことにやつのやっていることは、神の世界ではグレーゾーンに当たり、やつを罰することが出来なかった」

神々の世界のグレーゾーンは広すぎると思う、人間の世界だったら完全にブラックだ。

「しかもわしは知ってしまった、やつが同人誌の最終回でも退治されず、レーゲンケーニクライヒ国にのさばることを」

そうなのだ、作家が何を考えていたか知らないが、悪竜オードラッへはレーゲンケーニクライヒ国の必要悪と認められ退治されないのだ。

作者以外誰も納得しない胸糞展開! 姉が同人誌を捨てようとした気持ちがよくわかる。このラストでは雑誌で連載できないよな、打ち切られて当然だ。

「この世界はそなたがザフィーア・アインスの体に宿ったことで変わり始めている、悪竜オードラッへを退治することに協力してほしい」

「もちろんです民を生贄にするような国王も、人間を食うような竜も認めるわけにはいきません! 協力させてください!」

「助かる、そなたをこの世界に呼んでよかった。もう一つ聞いておけそなた全てが終わったら元の世界に帰る気はあるのか」

「ありません! さっきも言ったでしょ、俺絶対のノヴァさんを泣かせたくないんです!」

俺が消えたらのノヴァさんは絶対に泣く、同人誌のラストみたいにわんわん泣く、俺はあんな悲しい顔をノヴァさんにさせたくない!

「あいわかった、すべてが終わってもそなたの魂がこの世界に残れるようにしよう」

「ありがとうございます」

よかった物語が終わっても俺はこの世界にいられる、ノヴァさんとずっと一緒にいられる。

「それからもう一つそなたに伝えたいことがある、そなたの中には今……」



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