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105話「宮殿のお風呂と皇太子の計画」***

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「ほへぇ~~」

俺の間の抜けた声が浴室に響く。

流石にボワアンピール帝国の宮殿のお風呂、ラック・ヴィルの宿屋のお風呂も豪華だったけど、広さも豪華さもそれの比じゃない。

大理石の浴槽に獅子の像の口から乳白色の湯が注がれ、赤い花びらが浮かんでいる。

温泉を引いてるのかな? お肌がすべすべになりそう。

「ぁっ……ノヴァさん、そこ気持ちいい」

「そうか、ではもっと突こう」

「あっ…、あっ……ふぁっ」

湯船に浸かりノヴァさんと対面座位でセックスしているのには理由がある。


◇◇◇◇◇


一時間前

「まさか王都に帰って来ていながら、皇族の君が新月の夜に儀式をサボるわけじゃないよね? カルム、僕は君をそんな悪い子に育てた覚えはないよ」

皇太子は顔はニコニコと笑っているのに、纏う空気はピリピリとしていた。

「儀式には出ない! 私はシエルと離れるつもりはない!」

ノヴァさんが剣を構えたまま、俺の腰に手を回す。

「やれやれ困ったね、カルムはへそを曲げてしまったようだ」

皇太子が肩をすくめる。

「兄上のせいでしょう!」

ノヴァさんが皇太子を睨む。

「そんなにザフィーアくんと離れるのが不安? 心配ないよ儀式にはザフィーアくん……いやシエルくんにも出てもらうから」

「なんだと?」

儀式……? 昼間ノヴァさんが言っていた月の神殿で月の女神を迎える儀式のこと?

でもそれって皇族しか参加できないんじゃ?

「あのお方の命令でね、儀式にはシエルくんも参加させるようにとお達しがあったんだ」

「まさか……! いや、しかし……」

ノヴァさんが皇太子の言葉に動揺している。

あのお方って誰? 皇太子より偉い人なの? そんなに皇族以外の人間が儀式に参加するのが珍しいのかな?

「シエルくん、君とカルムの婚姻を認めてもいいよ」

「はっ? えっ……??」

さっきまであんなに反対してたのに??

「何を考えているのですか兄上?」

ノヴァさんはまだ皇太子を警戒しているようだ。

「別に、最愛の弟に駆け落ちされるより、好きな人との結婚を認めて城で暮らして貰った方がいいって思っただけだよ」

皇太子がフフフと笑う。

「但し条件がある」

皇太子が足を組み替え、妖美な笑みを浮かべる。

「条件……?」

「ノヴァ・シャランジェールとシエルの結婚は認められない。カルムはこの国から出さない。どうしても僕から逃げるというなら、カルムの手足を鎖で繋いで地下牢に閉じ込める、シエルくんとは二度と会わせない」

「ふざけるな……!」

ノヴァさんが怒りを顕にする。

「カルムがいくら強くてもどうにもできないよ、あのお方も僕に力を貸してくれるからね」

「くっ……!」

ノヴァさんが眉間にシワを寄せる。

「そう怖い顔をしないで、ノヴァ・シャランジェールとシエルくんの結婚は認められない。だけどカルム・ボワアンピールとザフィーア・アインスの婚姻は認めてもいい」

どういう意味だ?

ザフィーア・アインスには王太子エルガーという婚約者がいて、その婚約は国王とアインス公爵が決めたもの。本人の意思だけでは破棄できないってさっき皇太子が言ったんじゃないか。

その上国王エーアガイツは、王太子エルガーとザフィーアの婚約を破棄させるつもりはないって。 

だからカルム・ボワアンピールとザフィーア・アインスは結婚出来ないんじゃなかったのか?

「カルム・ボワアンピールとザフィーア・アインスの婚姻の障害は、ザフィーアの婚約者のエルガー王太子と、婚約破棄を認めないエーアガイツ国王だ、あとついでに水の神子かな」

水竜メルクーアの加護を承る神子をついでって……ある意味一番厄介な相手だと思うけど。

「カルムとシエルくんに課題を出そう、課題をクリア出来たら結婚を認めて上げる」

「課題……?」

「軍隊を使わずに国王エーアガイツとエルガー王太子を殺してレーゲンケーニクライヒ国を潰してきて」

何を言ってるんだこの人……?!

「実を言うとね、婚約を破棄できないなら死んでもらえばいいというカルムの意見には僕も賛成なんだよ。但し戦争は避けること、軍力は使わずに、レーゲンケーニクライヒ国の国民を無条件降伏させて」

「はっ?!」

今すごいことをサラッと言わなかった??

「レーゲンケーニクライヒ国を潰して、アインス公爵を当主とするアインス公国を起こしてもらう。そうすればシエルくんはザフィーア・アインスの名を堂々と名乗れる。公国の嫡男なら第二皇子のカルムとも身分が釣り合う。アインス公国をボワアンピール帝国の傘下にも入れやすい。僕はカルムと同じ城で暮らせるし、カルムはシエルくんと結婚できる、アインス公爵は愚王に仕えなくて済む、みんな幸せになれると思わない?」

みんなというか主に皇太子が幸せになれるという気がする。

妖美な笑みを浮かべる皇太子に俺もノヴァさんも返す言葉が見つからなかった。

なんかとんでもない計画を打ち明けられた。

「ついでに、レーゲンケーニクライヒ国を裏で操る邪魔な竜を一匹消してきてもらおうか」

「「………………っっ!!」」

皇太子の言った邪魔な竜って、水竜メルクーア!!

神様を消してこいなんて危険な命令を、コンビニでパン買ってきてって感覚で言うな……!!
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