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98話「帝都フォレ・カピタール」
しおりを挟むボワアンピール帝国、帝都フォレ・カピタール。
大陸で一番広くて権力が強い国の首都だけあり、その華やかさはレーゲンケーニクライヒ国の王都ヴァッサーの比ではなかった。
前世知識で例えるなら地方都市と新宿ぐらい違う。
洗練された作りの建物、綺麗に整備された道、花壇には色とりどりの花が植えられ、道を歩く人の服装もおしゃれだ。
人口も多分レーゲンケーニクライヒ国の王都の十倍近くいるだろう。
「ここが帝都……フォレ・カピタール」
ポカンとしながら、道を眺めていた。
「ノヴァさんのご実家に向かうんですか?」
ノヴァさんのお父さんとお兄さんにお会いするのか、緊張する。
できれば宿に寄ってシャワーを浴びてから行きたい。昨日の夜、馬車の荷台でノヴァさんと性行為したあとお風呂に入ってない。
第一印象はできるだけよくしたい。
それに俺はノヴァさんの家族に会う前に、ノヴァさんに伝えたいことが……。
俺の本名がザフィーア・アインスだということ。アインス公爵家の令息で元婚約者がレーゲンケーニクライヒ国の王太子だということ。
水の神子立花葵にはめられて、水の神子を害した罪で王都を追われたこと。
国外れの教会に向かう途中で神子か王太子の刺客に襲われ、自ら川に身を投げたこと。
それから俺に前世の知識があること。今ここにいるのはアインス公爵家の子息として十六年生きてきたザフィーアではない。前世竜胆蘭の記憶をもった【シエル】という不確かな存在だといいこと。
全部話してそれでもノヴァさんが俺を受け入れてくれる保証はない。
でも秘密にしたままノヴァさんの家族に会えないし、ノヴァさんと結婚できない。
「いや実家に向かう前にギルドに寄ってシエルの冒険者登録をする。今宵は新月ゆえどこも日暮れ前に店を閉めるので午前中に行きたい」
「そうなんですか?」
ギルドで冒険者登録してくれるんだ。少しでも多く働いてノヴァさんに支払って貰った宿代や服代を返したいな。
「新月と店が早く閉まることに関係が?」
「ボワアンピール帝国は月の女神ヌーヴェル・リュンヌを信仰していることは知っているな?」
「はい」
確かリーヴ村で見た月の女神像は髪の長い美しい少女の姿だった。
「ボワアンピール帝国では新月の夜に王宮の月の神殿に月の女神ヌーヴェル・リュンヌを迎える。そのため人々は日暮れ前に家に帰り夜になっても明かりを灯さず静かに祈りを捧げるのだ。新月の夜に明かりが灯されているのは王宮の月の神殿のみ、その明かりを頼りに月の女神ヌーヴェル・リュンヌは地上に降臨するとされている」
「へぇ~、そうなんですか」
水の竜を祀るレーゲンケーニクライヒ国の祭りとは全然違うんだな。レーゲンケーニクライヒ国の祭りは毎年四月一日に行われる。祭りの日は通りに多たくさんの露店が軒を連ね、歌や舞が披露され、観光客が数多く訪れ、それは賑やかだ。
ボワアンピール帝国のように、厳かな祭りは新鮮だ。
「ギルドに登録したら実家に向かう、日暮れ前には帰りたいと思っている」
「ノヴァさんの実家に行く前に宿屋に寄ってもらえますか?」
「それは構わないがどうしてだ?」
「ノヴァさんのご実家に行く前にシャワーを浴びたいんです」
ノヴァさんが顔を綻ばせる。
「シエルは綺麗好きだな」
「それに……ノヴァさんにすごく大事な話があるんです」
できれば誰もいない場所で二人きりで話したい。レーゲンケーニクライヒ国であったことを全部伝えたい。
俺が前世の記憶を持っていることも含めて、すべてをノヴァさんに知ってもらいたい。
その結果ノヴァさんから拒否されることになったとしても……。
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