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八十五話「レーゲンケーニクライヒ国、国王エーアガイツ・レーゲンケーニクライヒ」③

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ーーレーゲンケーニクライヒ国、第二十四代国王エーアガイツ・レーゲンケーニクライヒ視点ーー

エルガーは一人っ子なこともあり、母である正妃に甘やかされて育った。

多少スケベでアホに育ってしまったが、親のひいき目、可愛い我が子は立派に王太子としての勤めを果たし、ゆくゆくは名君になると信じていた。

本当に親バカであったと思う。

エルガーが十三歳の時、婚約者のザフィーアに抱きつき泣かせてしまったことがある、あの時もっとしっかり叱っていれば。

いやエルガーが五歳の時、ザフィーアの手を握り振りほどかれた時に、もっと強く注意しておけばこんなことにはならなかったかもしれない。

余が数日仕事で王都を離れている間に、エルガーが婚約者のザフィーア・アインスと婚約破棄していようとは。

しかも卒業パーティーという貴族がたくさん集まる場で、断罪し、牢屋に入れていようとは……。

ろくに調べもせずに、ザフィーアを王都から追放するとは……。

神子を新たな婚約者に据えるなどと言い出すとは……。

夢にも思わなかった。

頭が痛い。余がツヴァイ公爵家の長女と婚約破棄したいと言った時、父上もこんな気持ちだったのだろうか?

余はツヴァイ公爵家の長女を皆の前で断罪し辱めるような真似はしていないぞ。

とりあえずバカ息子を叱りつけ神子を諦めさせるのは後だ!

今世紀の神子タチバナアオイは、幼い頃お祖父様に話に聞いていた先代の神子とは趣きが違った。

祖父の話していた先代の神子は神秘的な容姿に儚げな雰囲気の少年だった。元の世界に帰れない事や神子の役目の重さから瞳は憂いに満ちていたという。だがタチバナアオイは全然違う。

確かにこの世界にはない黒い髪と目は神秘的で、目鼻立ちの整った顔は庇護欲をそそるが、瞳は憂いに満ちていたない。むしろいきいきしている。今の神子は民をメルクーアの生贄にすることなど、屁とも思っていない。

約一世紀の間に、異世界で何があった?!

神子には我が弟をあてがい婚約者にする話をしていたので、安心していた。よもや神子がいつの間にかエルガーに近づきたぶらかしていようとは。

いやタチバナアオイの野心に満ちた目を見たとき気づくべきであった、この者は不能な王弟ごときで満足する人間ではないと。

こんなことなら成人を待たずに、エルガーとザフィーアを結婚させておくべきであった!!

正妃の顔色を伺わず側室を迎えるべきであった! 一人息子では廃嫡も出来ぬ!

それよりまずはアインス公爵への謝罪が先だ。アインス公爵もアインス公爵だ。なぜザフィーアの王都追放を許した? アインス公爵なら止められたはずだ! アインス公爵は息子《ザフィーア》への愛情はないのか?

とにかく急いでザフィーアを王都に呼び戻し、エルガーに謝罪させた後、ザフィーアを再びエルガーの婚約者に迎えなくては!

ザフィーアはエルガーに惚れている、幼い頃からエルガーだけを一途に思い続けている、その恋心に付け込めば数々の非礼を許してくれるはずだ。

アインス公爵も息子のザフィーアが頼めば嫌だとは言わないだろう。

ツヴァイ公爵家を抑えるためにはアインス公爵家の力が必要なのだ。

そんな余のもとに、アインス公爵家の長子ザフィーアが国外れの教会への移送中に兵士に斬られ崖下に落ちて死んだという知らせが届いた。


◇◇◇◇◇◇
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