上 下
84 / 122

八十四話「レーゲンケーニクライヒ国、国王エーアガイツ・レーゲンケーニクライヒ」②

しおりを挟む
ーーレーゲンケーニクライヒ国、第二十四代国王エーアガイツ・レーゲンケーニクライヒ視点ーー


エルガーは余と正妃の間に生まれた。正妃のベツァウベルングはレーゲンケーニクライヒ国で三番目に勢力があるドライ侯爵家の長女だった。

当時の余は国内で二番目の勢力を誇るツヴァイ公爵家の長女と婚約していた。

余は舞踏会でベツァウベルングに一目惚れし、ツヴァイ公爵家の長女との婚約を破棄し、無理やりドライ侯爵家の長女ベツァウベルングを正妃とした。

ベツァウベルングはドライ侯爵家の跡取りであったのでドライ侯爵に反対されたが、侯爵の意見を権力でねじ伏せ、強引にベツァウベルングと結婚した。

ベツァウベルングが王家に嫁入りしたことにより跡継ぎを失ったドライ侯爵は、遠縁の親戚を養子に迎え跡取りにした。その者が無能で領地の財政が傾きかけ、ドライ侯爵からは恨みを買った。領地の経営は余の管轄外だ、自分の領地のことは自分でなんとかせよ。

そんなことよりも余はベツァウベルングの機嫌を取ることに忙しかった。

ベツァウベルングに頼み込み拝み倒し正妃になってもらった余は、ベツァウベルングに強く言うことが出来なかった。

ベツァウベルングの言うことは何でも聞き、わがままを許し、贅沢な生活を許可した。

ベツァウベルングは余と結婚するさい「生涯わたくしだけを愛して下さい、何があっても側室を迎えないで下さい」という二つの条件を出した。

二つ目の条件はベツァウベルングが子を生めなかったとき、王家の血筋が途絶えることになると重臣達に反対されたが、余は無視した。

ベツァウベルングの美しさに骨抜きにされていた余は、ベツァウベルングが出した条件を二つ返事で了承した。

レーゲンケーニクライヒ国は性行為に対する規律が厳しく、性行為できる日や行為の内容まで厳しく決められている。

性行為は子作りのために仕方なくする行為。

しかし国王に世継ぎが出来ないのは国の一大事なので、正妃に三年子が出来ない場合に限り側室を迎えることが許されている。

余の母は余を生んだあと子が生めない体になり、余も幼い頃体が弱かったので、特別に側室が迎えられ弟が生まれた。神子が召喚される年月を計算し、王家にはもう一人子が必要とされたのだ。

弟は神子の婚約者になるために生まれてきた。性的な機能を失い、何の権力も持たず、ただ神子と結婚するためだけに王宮の隅に部屋を与えられ生かされてきた。

余の正妃ベツァウベルングは産後の肥立ちが悪く、医師に二人目を望めない言われたが、余は約束通り浮気をせず、側室を迎えなかった。

神子の結婚相手生贄には余の弟がいる。正妃は跡取りのエルガーを生んでくれた、それだけで十分だ。

それが間違いだったと気づくのは、ずっと後になってからだ。

エルガーが十五歳になる年、神子が召喚される。神子がエルガーに手を出さないように、エルガーが生まれる前に、国内随一の勢力を誇るアインス公爵家の子供との婚約を決めた。

アインス公爵夫人は妊娠中であったが、この世界では男でも妊娠出来るので、生まれて来る子の性別は関係なかった。

アインス公爵家という絶大な権力を誇る貴族に、エルガーの後ろ盾なってほしかったのだ。

国内二位の地位を誇っていたツヴァイ公爵家の令嬢との婚約を破棄してから、ツヴァイ公爵家と王家の関係は上手く行っていない。

ベツァウベルングを無理やり王家に迎え入れたので、ツヴァイ侯爵との関係もぎくしゃくしている。

だからどうしてもアインス公爵家の力を取り込む必要があった。

婚約の話を持ちかけると、アインス公爵は「我が子はまだ生まれてもいません。婚約者の話は子供が無事に生まれ、五歳ぐらいになり王子様とお話しできるようになってからでも遅くはないでしょう」と言い、話を先延ばしにしようとした。

余が神子の話を出すと、アインス公爵はエルガーと自分子供の婚約をしぶしぶではあったが了承した。

我が国において、水竜メルクーアと神子の取り扱いは最重要案件。アインス公爵とて断れまい。


◇◇◇◇◇
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

俺は北国の王子の失脚を狙う悪の側近に転生したらしいが、寒いのは苦手なのでトンズラします

椿谷あずる
BL
ここはとある北の国。綺麗な金髪碧眼のイケメン王子様の側近に転生した俺は、どうやら彼を失脚させようと陰謀を張り巡らせていたらしい……。いやいや一切興味がないし!寒いところ嫌いだし!よし、やめよう! こうして俺は逃亡することに決めた。

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

悪役側のモブになっても推しを拝みたい。【完結】

瑳来
BL
大学生でホストでオタクの如月杏樹はホストの仕事をした帰り道、自分のお客に刺されてしまう。 そして、気がついたら自分の夢中になっていたBLゲームのモブキャラになっていた! ……ま、推しを拝めるからいっか! てな感じで、ほのぼのと生きていこうと心に決めたのであった。 ウィル様のおまけにて完結致しました。 長い間お付き合い頂きありがとうございました!

愛などもう求めない

白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。 「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」 「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」 目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。 本当に自分を愛してくれる人と生きたい。 ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。  ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。 最後まで読んでいただけると嬉しいです。

BLR15【完結】ある日指輪を拾ったら、国を救った英雄の強面騎士団長と一緒に暮らすことになりました

厘/りん
BL
 ナルン王国の下町に暮らす ルカ。 この国は一部の人だけに使える魔法が神様から贈られる。ルカはその一人で武器や防具、アクセサリーに『加護』を付けて売って生活をしていた。 ある日、配達の為に下町を歩いていたら指輪が落ちていた。見覚えのある指輪だったので届けに行くと…。 国を救った英雄(強面の可愛い物好き)と出生に秘密ありの痩せた青年のお話。 ☆英雄騎士 現在28歳    ルカ 現在18歳 ☆第11回BL小説大賞 21位   皆様のおかげで、奨励賞をいただきました。ありがとう御座いました。    

攻略対象5の俺が攻略対象1の婚約者になってました

白兪
BL
前世で妹がプレイしていた乙女ゲーム「君とユニバース」に転生してしまったアース。 攻略対象者ってことはイケメンだし将来も安泰じゃん!と喜ぶが、アースは人気最下位キャラ。あんまりパッとするところがないアースだが、気がついたら王太子の婚約者になっていた…。 なんとか友達に戻ろうとする主人公と離そうとしない激甘王太子の攻防はいかに!? ゆっくり書き進めていこうと思います。拙い文章ですが最後まで読んでいただけると嬉しいです。

期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています

ぽんちゃん
BL
 病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。  謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。  五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。  剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。  加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。  そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。  次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。  一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。  妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。  我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。  こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。  同性婚が当たり前の世界。  女性も登場しますが、恋愛には発展しません。

処理中です...