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八十四話「レーゲンケーニクライヒ国、国王エーアガイツ・レーゲンケーニクライヒ」②

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ーーレーゲンケーニクライヒ国、第二十四代国王エーアガイツ・レーゲンケーニクライヒ視点ーー


エルガーは余と正妃の間に生まれた。正妃のベツァウベルングはレーゲンケーニクライヒ国で三番目に勢力があるドライ侯爵家の長女だった。

当時の余は国内で二番目の勢力を誇るツヴァイ公爵家の長女と婚約していた。

余は舞踏会でベツァウベルングに一目惚れし、ツヴァイ公爵家の長女との婚約を破棄し、無理やりドライ侯爵家の長女ベツァウベルングを正妃とした。

ベツァウベルングはドライ侯爵家の跡取りであったのでドライ侯爵に反対されたが、侯爵の意見を権力でねじ伏せ、強引にベツァウベルングと結婚した。

ベツァウベルングが王家に嫁入りしたことにより跡継ぎを失ったドライ侯爵は、遠縁の親戚を養子に迎え跡取りにした。その者が無能で領地の財政が傾きかけ、ドライ侯爵からは恨みを買った。領地の経営は余の管轄外だ、自分の領地のことは自分でなんとかせよ。

そんなことよりも余はベツァウベルングの機嫌を取ることに忙しかった。

ベツァウベルングに頼み込み拝み倒し正妃になってもらった余は、ベツァウベルングに強く言うことが出来なかった。

ベツァウベルングの言うことは何でも聞き、わがままを許し、贅沢な生活を許可した。

ベツァウベルングは余と結婚するさい「生涯わたくしだけを愛して下さい、何があっても側室を迎えないで下さい」という二つの条件を出した。

二つ目の条件はベツァウベルングが子を生めなかったとき、王家の血筋が途絶えることになると重臣達に反対されたが、余は無視した。

ベツァウベルングの美しさに骨抜きにされていた余は、ベツァウベルングが出した条件を二つ返事で了承した。

レーゲンケーニクライヒ国は性行為に対する規律が厳しく、性行為できる日や行為の内容まで厳しく決められている。

性行為は子作りのために仕方なくする行為。

しかし国王に世継ぎが出来ないのは国の一大事なので、正妃に三年子が出来ない場合に限り側室を迎えることが許されている。

余の母は余を生んだあと子が生めない体になり、余も幼い頃体が弱かったので、特別に側室が迎えられ弟が生まれた。神子が召喚される年月を計算し、王家にはもう一人子が必要とされたのだ。

弟は神子の婚約者になるために生まれてきた。性的な機能を失い、何の権力も持たず、ただ神子と結婚するためだけに王宮の隅に部屋を与えられ生かされてきた。

余の正妃ベツァウベルングは産後の肥立ちが悪く、医師に二人目を望めない言われたが、余は約束通り浮気をせず、側室を迎えなかった。

神子の結婚相手生贄には余の弟がいる。正妃は跡取りのエルガーを生んでくれた、それだけで十分だ。

それが間違いだったと気づくのは、ずっと後になってからだ。

エルガーが十五歳になる年、神子が召喚される。神子がエルガーに手を出さないように、エルガーが生まれる前に、国内随一の勢力を誇るアインス公爵家の子供との婚約を決めた。

アインス公爵夫人は妊娠中であったが、この世界では男でも妊娠出来るので、生まれて来る子の性別は関係なかった。

アインス公爵家という絶大な権力を誇る貴族に、エルガーの後ろ盾なってほしかったのだ。

国内二位の地位を誇っていたツヴァイ公爵家の令嬢との婚約を破棄してから、ツヴァイ公爵家と王家の関係は上手く行っていない。

ベツァウベルングを無理やり王家に迎え入れたので、ツヴァイ侯爵との関係もぎくしゃくしている。

だからどうしてもアインス公爵家の力を取り込む必要があった。

婚約の話を持ちかけると、アインス公爵は「我が子はまだ生まれてもいません。婚約者の話は子供が無事に生まれ、五歳ぐらいになり王子様とお話しできるようになってからでも遅くはないでしょう」と言い、話を先延ばしにしようとした。

余が神子の話を出すと、アインス公爵はエルガーと自分子供の婚約をしぶしぶではあったが了承した。

我が国において、水竜メルクーアと神子の取り扱いは最重要案件。アインス公爵とて断れまい。


◇◇◇◇◇
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