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十一話「リーヴ村②」

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宿屋の一階は、飲み屋と食堂と雑貨屋をかねていた。

宿屋に入った瞬間、一斉に視線を向けられた。

ノヴァさんが睨むと、みんな視線を逸した。

じろじろと見られることはなくなったが、ちらちら見られ小声で話されているのは分かる。

靴も履いてない男がイケメンにお姫さま抱っこされて入って来たんだ、目立っても仕方ない。ひそひそと話したくなる気持ちも分かる。

俺は宿の人間となるべく視線を合わせないようにした。

ノヴァさんは足早にカウンターに近づき、「部屋を一つ頼む」と手短に用件を伝えた。

「今日はダブルベッドしか空いてないよ」

年の頃は三十代前半ぐらいかな、カウンターに立っていたのは胸の大きく開いた服を着た、妙に色っぽい女性だった。

「構わない」

「二階の奥の部屋だよ」

ノヴァさんはカウンターにお金の入った袋を置くと、女性から鍵を受け取り、階段を上がっていく。

「新婚さんかしらね、美男美女で羨ましいこと」

「駆け落ちものかもしれねぇな、女の方は靴も履いてなかったぜ」

「羨ましいね、私もあと十年若かったらね」

俺たちがいなくなったあと、宿屋のご夫婦がそんな話をしていたことを、俺が知るよしもない。


◇◇◇◇◇


部屋の真ん中にドーンとダブルベッドが配置されていた。

あとはテーブルと椅子とクローゼットがあるだけ。

困ったなソファーがない。ノヴァさんはベッドで寝るだろうし、俺はどこで寝よう?

床で寝ればいいか、外よりは温かいだろうし。

ノヴァさんは俺を丁寧にベッドに下ろした。

「食料を買ってくる」

「あのっでも、俺お腹空いてないですから……」

昨日の夜と今朝、ノヴァさんに干し肉とパンを分けてもらった。お腹は空いているがこれ以上は甘えられない。

俺のお腹がグーと音を立てる。タイミング良すぎだろ!

「金のことなら気にするな、私が好きでやっていることだ。疲れただろう、先にその、シャ、シャワーでも浴びているといい」

ノヴァさんはそう言って部屋を出て行った。

だがすぐ扉が開いて、

「施錠を忘れるな、私以外の者が尋ねて来ても決して扉を開けてはいけないぞ!」

と釘をさしてからまた出て行った。

俺は幼稚園児か?

ノヴァさんに言われた通り扉に鍵をかける。

「お風呂か……これを逃したら当分入れそうにないし、せっかくだから入らせてもらおうかな」

セックスしたから汗をかいたし、中に入れられたノヴァさんの精液もかき出したい。

解毒治療だから、精液はかき出さない方がいいのかな? ノヴァさんに聞いておけばよかった。


◇◇◇◇◇


風呂にはシャワーと、小さいがバスタブがついていた。バスローブとタオルもある。

ノヴァさんから借りたマントと、自分のシャツを脱ぎ捨て裸になる。

脱衣場に取り付けられた姿見の前に立つ。

「うわぁ……」

そこには、絵に描いたような美少年が映っていた。

漫画を読んでたから分かっていたはずだけど、これは……。

腰まで届く金色のストレートヘア、サファイアのように輝く瞳、目鼻立ちが整った顔。

白くて肌目が細かな肌、華奢な体。桃色の胸の突起、ピンク色のおちんちん。

昼間ノヴァさんにつけられたうっ血痕が胸や太ももについていて、顔に熱が集まる。
 
自分の体なんだか、ちょっと照れるぐらい綺麗だ。

ちんこがついてなかったら完全に女の子だ。

前世の俺がこの子に「はじらい死草の毒に犯されました。治療のためにあなたの精液を注いでください」って全裸でお願いされたら、秒でフル勃起するな。

学生服を着たザフィーアに「好きです」って上目遣いで告白されたら、男だと分かっていても付き合う!

美少年怖い! 不用意な発言で他人の人生を変える力がある。

実際ザフィーアはエルガー王子の人生を変えてるしな。あんなおこりん坊王子のどこがいいのか俺には分からないが、ザフィーアはエルガー王子にぞっこんだったらしい。趣味悪いな。

俺はノヴァさんみたいに包容力がある大人な男の方がいいけどな。

ノヴァさんのことを考えていたら胸がドキドキしてきた。

いや別に変な意味じゃないからな、ノヴァさんのことは男として尊敬してるっていうか……生まれ変わるならノヴァさんになりたかったというのか。

って、俺は誰に言い訳してるんだ?

さっさと風呂に入ろう。

ノヴァさんが俺を抱いたのも、ザフィーアが美少年だったからなのかな?

前世の俺がはじらい死草でケガしても、助けてくれなかっただろうな。

ズキン……!

なんか今、心臓をナイフで刺されたみたいに痛かった。

お湯につかれば、治るかな?



◇◇◇◇◇
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