2 / 25
2話「屋根裏部屋のお友達」
しおりを挟む――エラ視点――
「お帰りエラ、今日も一日大変だったね」
「ロルフ様」
自室のドアを開けると、白いネズミが一匹私の足元にかけてきた。
ネズミは私の前まで来ると、琥珀色の髪と翡翠色の瞳の五歳ぐらいの美しい少年の姿に変わった。
「大変、手を怪我してるよ!
僕が魔法で治してあげるね!」
ロルフ様は私の手を取り口づけを落としました。
その瞬間、今朝アルゾンに踏まれた時に出来た怪我がたちどころに治りました。
「ありがとうございます。
ロルフ様」
「エラのためなら治療の魔法くらい、いくらでもかけるよ」
ロルフ様が緑色の目を細めニコリと笑う。
ロルフ様の笑顔には気品が漂っている。
ロルフ様は幼いのに、彼からそこはかとない色気を感じるのはなぜでしょう?
「抜け駆けは良くないぞ、ロルフ」
耳元で声がした振り向くと、私の肩の上に銀色のトカゲがいた。
「エラ、肌がすすで汚れている。
私が綺麗にしてやろう」
「やっ……ヴォルフリック様。
くすぐったいです」
ヴォルフリック様が長い舌をちろちろと伸ばし、私の頬についたすすを舐めてきれいにしていく。
「首筋にもついているな。
そちらも綺麗にしてやろう」
いつの間にか五歳くらいの少年の姿になったヴォルフリック様が、私の首に顔を近づけていた。
「ヴォルフリック様、そこは自分で綺麗にできますから」
「遠慮するな。
エラの肌は白磁のようにきめ細やかで美しい……ぐあっ!」
黒い稲光が走り、次の瞬間ヴォルフリック様は壁まで飛ばされていました。
「調子に乗らないことだね、変態トカゲ」
私の目の前にほうきに乗った見目麗しい少年が現れた。
金色の髪に青い瞳で、ロルフ様やヴォルフリック様と同じく五歳くらいの姿をしていました。
「ヴェルテュ様、お友達に雷の魔法を放ってはいけません」
「大丈夫だよ、エラ。
ちょっとチクッとするだけだから。
十分もすれば動けるよ。
それより今日もそんなに服が汚れるまで働かされて、かわいそうに……。
ワンピースの布が弱り、裾がほつれてるじゃないか。
ボクが魔法で新しいドレスを出してあげるよ」
ぴかっと室内が光ると、私の着ていたボロボロのワンピースは、キラキラと光るサファイアブルーのドレスに変わっていました。
肌触りがとても良いのでおそらくシルクだと思われます。
「ついでに部屋も辛気臭いから綺麗にしよう」
ヴェルテュ様が杖を振るうと、隙間風の吹く壁と、床板がところどころ剥がれた屋根裏部屋が、お城の一室のような豪華な部屋に変わりました。
証明に使っていた短くなったろうそくはシャンデリアに、破れかけた薄いカーテンはひだの多い新品に、夕飯の残りのパンはローストビーフとぶどう酒と熱々のスープと野菜のサラダと新鮮なフルーツに、粗末なテーブルは大理石に変わっていました。
「エラは晩ごはん、まだだろ?
一緒に食べよう」
ヴェルテュ様が私の手を取り豪華な食事の乗ったテーブルまで連れていき、椅子を引いて座らせてくださいました。
足が壊れかけてギシギシいっていた椅子は、細かな細工が施された王様が座るような華美な椅子に変わっていました。
「ヴェルテュ様、こんな豪華な食事は私には贅沢です……」
「エラはいっぱい働いたんだから、たくさん食べないと身がもたないよ。
バランスよく栄養を取って元気にならないと、明日も働けないよ。
はいあーんして」
ヴェルテュ様がフォークにいちごを指し、私の口に近づける。
差し出されたいちごから新鮮なフルーツの香りがして、思わず口を開けてしまいました。
いちごの甘さと酸味が口の中いっぱいに広がる。
こんな美味しいいちごが食べられて、私は今とっても幸せです。
「美味しい?」
「はい、とても」
「じゃあ、食事の代金を頂戴」
「はいっ……へっ?
でも私お金なんて持っていません」
これだけのものを出して頂いて、ただなわけがありませんよね。
「食事の代金は、キス一回」
ヴェルテュ様の唇と、私の唇が重なっていた。
「ソ……ヴェルテュ様!」
相手は幼子とはいえ、婚約もしていない殿方と口づけを交わしてしまいました……!
私は自分の唇を押さえて、彼から距離を取った。
「真っ赤になってかわいいね。
そんな顔されるともう一回、キスをしたくなってしまうな」
「調子に乗るな! この腐れ魔道士!」
「先ほどはよくも雷魔法を放ってくれたな! さっきのお返しだ!」
白い光の矢と水の竜がヴェルテュ様に向かって飛んでいく。
ヴェルテュ様は光の矢と水の竜による攻撃を、結界を張って防いでいた。
「大丈夫、エラ?
僕たちが動けない間に、スケベな魔法使いにいやらしい事されなかった?」
ロルフ様が私の手を取り、瞳をうるうるさせながら見上げてくる。
「大丈夫ですよ、ロルフ様」
先ほどヴェルテュ様が放った雷の魔法でヴォルフリック様だけでなく、ロルフ様も動けなくなっていたのですね。
「あやつの唾液がエラの清らかな唇についたなんて許しがたいことだ!
私の魔力で消毒せねばならん!」
「えっ……?」
ヴォルフリック様の銀色の髪とアメジストの瞳が迫ってきて、気がつけばヴォルフリック様の唇と私の唇が重なっていた。
幼子相手とはいえ、婚約者でもない殿方に二度も唇を奪われてしまうなんて……!
「抜け駆けはずるぞ、ヴォルフリック!
僕もエラとキスする!!」
ロルフ様がヴォルフリック様に魔法を放つと、ヴォルフリック様は壁まで飛ばされた。
「エラ、大好き」
琥珀色の髪と翡翠色の瞳が間近に迫ってきて、気がつけばロルフ様に唇を奪われていました。
ヴェルテュ様とヴォルフリック様に続き、ロルフ様にも口づけされてしまいました!
なんてことでしょう!
もうお嫁にいけません!
「エラ、口を開けて。
エラのファーストキスはヴェルテュに奪われたけど、エラの初のディープキスは僕が貰う……」
ディープキスってなにかしら?
そうしている間にも、ロルフ様の整ったお顔が近づいてきて……。
またロルフ様と唇が触れてしまう……そう思ったとき、ロルフ様がヴェルテュ様に拘束されていました。
「先程は光の矢をどうもありがとう、くそネズミ!
ロルフ、光の矢をフルパワーで放っただろ?
危うく消滅するところだったよ!
闇属性のボクに光魔法をフルパワーで放つとか、頭がおかしいんじゃないのかい?」
「煩い!
ロリコン魔法使い!
エラといくつ離れてると思ってるんだよ!」
「それはお互い様だろ!」
ロルフ様とヴェルテュ様が言い争いを始める。
ロリコンとは、どういう意味でしょう?
「あのっ、お二人ともケンカはやめて……」
「エラ、二人がケンカしている間に二人で散歩に行こう。
今宵は月が美しい」
ロルフ様とヴォルフリック様のケンカを止めようとしたのですが、ヴォルフリック様に後ろから抱きつかれてしまいました。
「抜け掛けするな! ドスケベ変態竜!」
「あなたのような変質者は先ほどの雷撃で黒焦げにしておくべきでしたね!」
ロルフ様とヴェルテュ様がヴォルフリック様に魔法攻撃をしかけ、三人のケンカはエスカレート、収集がつかなくなってしまいました。
「三人ともやめてください!
仲良くできないのなら帰ってください!」
私が叱りつけると、三人はおとなしくなりました。
三人とも捨てられた子犬のように項垂れています。
ロルフ様に至っては瞳に涙を浮かべています。
どうしましょう?!
幼い子が相手なのに、強くしかりすぎてしまったでしょうか?
「エラ、ごめんね。
仲良くするから出ていけなんて言わないで……!」
「私には他に行くところがないのだ!
どうかこれからも、ここに住まわせてくれ……!」
「エラに嫌われたらボクは生きていけないよ!」
三人が瞳をうるうるさせながら抱きついてきました。
「私の方こそごめんなさい。
三人は私の大事なお友達なのに、酷いことを言ってしまったわ」
私は三人を同時に抱きしめた。
「エラ、もう怒ってない?」
ロルフ様が愛らしいお顔で小首を傾げます。
「はい、もう怒っていません」
「じゃあ、仲直りのキスして」
チュッと音がして、ロルフ様に唇を奪われてしまいました。
「では私とも仲直りの口づけを」
「もちろん、ボクともしてくれるよね?
ロルフとだけするなんて不公平だもん」
ヴォルフリック様とヴェルテュ様にも、唇にキスされてしまいました。
幼い子たちとはいえ、一日に三人もの殿方と口付けを交わしてしまいました。
もしかして私、とんでもない悪女なのでしょうか?
☆☆☆☆☆
21
お気に入りに追加
755
あなたにおすすめの小説
【完結】「王太子だった俺がドキドキする理由」
まほりろ
恋愛
眉目秀麗で文武両道の王太子は美しい平民の少女と恋に落ち、身分の差を乗り越えて結婚し幸せに暮らしました…………では終わらない物語。
※小説家になろう、カクヨム、エブリスタにも投稿してます。
「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します。
※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのはあなたですよね?
長岡更紗
恋愛
庶民聖女の私をいじめてくる、貴族聖女のニコレット。
王子の婚約者を決める舞踏会に出ると、
「卑しい庶民聖女ね。王子妃になりたいがためにそのドレスも盗んできたそうじゃないの」
あることないこと言われて、我慢の限界!
絶対にあなたなんかに王子様は渡さない!
これは一生懸命生きる人が報われ、悪さをする人は報いを受ける、勧善懲悪のシンデレラストーリー!
*旧タイトルは『灰かぶり聖女は冷徹王子のお気に入り 〜自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのは公爵令嬢、あなたですよ〜』です。
*小説家になろうでも掲載しています。
【完結】「幼馴染が皇子様になって迎えに来てくれた」
まほりろ
恋愛
腹違いの妹を長年に渡りいじめていた罪に問われた私は、第一王子に婚約破棄され、侯爵令嬢の身分を剥奪され、塔の最上階に閉じ込められていた。
私が腹違いの妹のマダリンをいじめたという事実はない。
私が断罪され兵士に取り押さえられたときマダリンは、第一王子のワルデマー殿下に抱きしめられにやにやと笑っていた。
私は妹にはめられたのだ。
牢屋の中で絶望していた私の前に現れたのは、幼い頃私に使えていた執事見習いのレイだった。
「迎えに来ましたよ、メリセントお嬢様」
そう言って、彼はニッコリとほほ笑んだ
※他のサイトにも投稿してます。
「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」
表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
【完結】「ループ三回目の悪役令嬢は過去世の恨みを込めて王太子をぶん殴る!」
まほりろ
恋愛
※「小説家になろう」異世界転生転移(恋愛)ランキング日間2位!2022年7月1日
公爵令嬢ベルティーナ・ルンゲは過去三回の人生で三回とも冤罪をかけられ、王太子に殺されていた。
四度目の人生……
「どうせ今回も冤罪をかけられて王太子に殺されるんでしょ?
今回の人生では王太子に何もされてないけど、王子様の顔を見てるだけで過去世で殺された事を思い出して腹が立つのよね!
殺される前に王太子の顔を一発ぶん殴ってやらないと気がすまないわ!」
何度もタイムリープを繰り返しやさぐれてしまったベルティーナは、目の前にいる十歳の王太子の横っ面を思いっきりぶん殴った。
「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します。
※小説家になろうにも投稿しています。
この誓いを違えぬと
豆狸
恋愛
「先ほどの誓いを取り消します。女神様に嘘はつけませんもの。私は愛せません。女神様に誓って、この命ある限りジェイク様を愛することはありません」
──私は、絶対にこの誓いを違えることはありません。
※子どもに関するセンシティブな内容があります。
※7/18大公の過去を追加しました。長くて暗くて救いがありませんが、よろしければお読みください。
なろう様でも公開中です。
辺境伯聖女は城から追い出される~もう王子もこの国もどうでもいいわ~
サイコちゃん
恋愛
聖女エイリスは結界しか張れないため、辺境伯として国境沿いの城に住んでいた。しかし突如王子がやってきて、ある少女と勝負をしろという。その少女はエイリスとは違い、聖女の資質全てを備えていた。もし負けたら聖女の立場と爵位を剥奪すると言うが……あることが切欠で全力を発揮できるようになっていたエイリスはわざと負けることする。そして国は真の聖女を失う――
【完結】あなたのいない世界、うふふ。
やまぐちこはる
恋愛
17歳のヨヌク子爵家令嬢アニエラは栗毛に栗色の瞳の穏やかな令嬢だった。近衛騎士で伯爵家三男、かつ騎士爵を賜るトーソルド・ロイリーと幼少から婚約しており、成人とともに政略的な結婚をした。
しかしトーソルドには恋人がおり、結婚式のあと、初夜を迎える前に出たまま戻ることもなく、一人ロイリー騎士爵家を切り盛りするはめになる。
とはいえ、アニエラにはさほどの不満はない。結婚前だって殆ど会うこともなかったのだから。
===========
感想は一件づつ個別のお返事ができなくなっておりますが、有り難く拝読しております。
4万文字ほどの作品で、最終話まで予約投稿済です。お楽しみいただけましたら幸いでございます。
【完結】「私が彼から離れた七つの理由」
まほりろ
恋愛
私とコニーの両親は仲良しで、コニーとは赤ちゃんの時から縁。
初めて読んだ絵本も、初めて乗った馬も、初めてお絵描きを習った先生も、初めてピアノを習った先生も、一緒。
コニーは一番のお友達で、大人になっても一緒だと思っていた。
だけど学園に入学してからコニーの様子がおかしくて……。
※初恋、失恋、ライバル、片思い、切ない、自分磨きの旅、地味→美少女、上位互換ゲット、ざまぁ。
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します。
※他サイトにも投稿しています。
※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」
※小説家になろうで2022年11月19日昼日間ランキング総合7位まで上がった作品です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる