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第一章

76話「リーゼロッテの決意」リーゼロッテ・サイド

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――リーゼロッテ・サイド――


シャインさんの背に乗り、景色を楽しんでいるうちに、いつの間にか眠ってしまっていたみたいです。

シャインさんの体がぐらりと揺れ、振動で目が覚めました。

【すみませんハルト様。動揺してしまって……飛行が乱れてしまいました】

「こっちこそごめん。飛行中にする話じゃなかったね」

ハルト様とシャインさんはどんな話をしていたのでしょうか? シャインさんが動揺するほどの話とは?

「ハルト、最後に一つだけ聞かせて。あんたはリーゼロッテのことどう思っているの? 愛してないの? 呪いを解くための協力をリーゼロッテに求めないの? 

【真実の愛】さえあれば、あんたにかけられた呪いは解けるのよ?

くどいようだけど、魔女にかけられた呪いが解けなかったら、あんた一年後に死ぬのよ。死んだら地獄に落ちるのよ、それでもいいの?」

………………!

一瞬頭がフリーズしました。ハルト様が死ぬ? 魔女様がかけた呪いで、しかも一年以内に?

【真実の愛】の力があれば呪いが解けることは知っていましたが、呪いが解けなかったとき、そんなペナルティがあるなんて……!

心臓が嫌な音を立てています。魔女様の話し方では、私がハルト様のことを愛せばハルト様の呪いが解けるみたいです。

私はハルト様のことをお慕いしています。でもハルト様が私を愛していなかったら、呪いは解けません。

「リーゼロッテのことは愛してないし、彼女を愛することはこれからもないよ」

胸がズキン……! と音を立てる。 心臓をナイフで刺されたみたいに痛い。

そうですよね……ハルト様が私のことを好きになるはずが……ありませんよね。

ハルト様も私のことを好きだったら……。一瞬でも期待してしまった自分が恥ずかしいです。

「そう分かったわ。私はもう何にも言わない。あんたが手放したことを後悔するぐらい見目が良くて、内面も素晴らしくて、お金も持っている男を見つけて、リーゼロッテとくっつけるんだから。その時になって後悔しても遅いのよ」

魔女様には申し訳ないのですが、私はハルト様以外の誰も愛する気はありません。

「僕は後悔なんてしないよ」

ズキンズキン……とまた心臓が嫌な音を立てました。

「後悔しない」とおっしゃったハルト様の声はとても冷たかった。私はハルト様に、微塵も思われていなかったのですね。

ハルト様が私に優しくしてくださったのは、愛ではなく同情だったのですね。

「……意地っ張り」

「アダルギーサ、何か言った?」

「気のせいでしょう、何にも言ってないわよ」

「そう、それならよかった」

そのあとハルト様と魔女様は何も話さなくなりました。会話をしていたとしても、耳に入って来なかったと思います。

ハルト様が私に優しくしてくださった理由が同情でも構いません。

ハルト様は噂に惑わされずに私を見て、私を信じてくれた方だから。

過去と決別する機会を与えてくださった方だから。

ハルト様が嘘偽りなく相手を見つけられたら、ハルト様にかけられた呪いな解けるのですよね? 

ハルト様の呪いが解けるなら、その相手が私じゃなくても構いません。

それは、ガゼボで初めてハルト様の過去を知ったときにも思ったこと。

でも、あれからいろいろあって、私はハルト様を愛してしまった。

ハルト様の真実の愛の相手になれたらと願ってしまった。

ハルト様が私以外の人を愛するのは辛いです。

ハルト様が他の女性の耳元で愛をささやくのも、口づけするのも嫌です。

でもハルト様を死なせないためには、ハルト様が偽りなく愛せる方を見つけなくてはいけません。

決めました。

ハルト様は今回の旅で三カ国を巡るとおっしゃっていました。

必ず一年以内に、ハルト様の【真実の愛】にふさわしいお相手を見つけます。

ハルト様を死なせたりはしません。ハルト様が地獄に落ちるなんて嫌です。

ハルト様には呪いを解いて、幸せに長生きしてほしいですから。

そのときハルト様の隣に立っているのが私じゃなくても……。

ハルト様が愛する人と共に幸せに長生きできるのなら、心臓の痛みにも耐えられます。



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