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第一章

52話「灰と化す」ハルト・サイド

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「リーゼロッテ、大丈夫?」

「ハルト様……、へ、平気です……。私は、ちっとも動揺していませんから」

僕は席を立ち、リーゼロッテの座ってる席へ向かった。

近くで見ると、リーゼロッテの目には涙が浮かんでいた。

「リーゼロッテ、だめそうなら無理をしないで」

リーゼロッテの涙をハンカチで拭い、
「君のことは僕が全力で守るよ。だからなんの心配もないよ」
彼女が安心するようにほほ笑みかける。

「ハルト様……!」

リーゼロッテの頬の色が、いつもの明るい桃色に戻っていく。

「はい。私、ハルト様のことを信じています」

いつの間にか、リーゼロッテの肩の震えが止まっていた。リーゼロッテが泣き止んでくれて良かった。

か弱い彼女を抱きしめたい衝動に駆られたけど、理性でぐっとこらえる。

リーゼロッテに抱きしめられた。

「ハルト様が一緒なら、なんとかなるような気がしてきました」

「ちょっ、リーゼロッテ……!」

僕はいろんな感情を抑えているのに、そんな情熱的な行動を取られたら困るんだけど……。

「すみません。私ったら……うれしくてつい」

リーゼロッテが僕を解放してくれた。

最近の女の子は、ハグをすることに抵抗がないのかな?

女の子に免疫のない僕は、照れくさくてたまらない。

「お二人さん。お取り込み中申し訳ないんだけど、この手紙どうする?」

アダルギーサの声で我に返る。

「随分とふざけた内容の手紙を送って来たけど、もしかしていつものように寛大な心で、王家の傲慢な要求を許容するつもり?」

「まさか、それはないよ」

僕はなぜ今まで、こんな奴ら王族を助けてきたのだろう。怒りが腹の底からボコボコと湧き上がってくる。

踵を返し、リーゼロッテに背を向ける。いま僕はとても怖い顔をしている。こんな顔をリーゼロッテには見せられない。

何度か深呼吸して、気持ちを落ちつかせる。穏やかな表情を心がけて振り返り、

「リーゼロッテ、君を王の妾になんかにさせないからね」

リーゼロッテの目を見て伝えた。

「私はハルト様のことを信じています」

リーゼロッテの頬が紅色に染まる。

それから、シャインくんとアダルギーサを一べつした。

「シャインくん、アダルギーサ。いまやっと二人の気持ちが分かったよ。大事な人がコケにされるのって、こんなにも腹立たしいものなんだね」

手紙を読んだ直後は、ワルモンドの体を三つに引き裂いて、魔物の餌にしてやりたいくらい、気持ちが荒んでいた。

二人は一瞬キョトンとした顔をしたあと、黒い笑みを浮かべた。

「ようやく理解したわけ? 遅いわよハルト」

「わたくしの王族に対する怒りは、ハルト様が今感じている憤りの千倍はありますよ」

二人の表情を見れば分かる。二人ともワルモンドの行動に対して、かなり腹を立てているようだ

「アダルギーサ。ワルモンドからの手紙を僕に返してくれないかな」

「いいわよ」

アダルギーサから手紙を受け取り、僕はファイアの魔法で手紙を燃やした。数秒で手紙は灰になった。

「これで王命は塵と化した」

ニッコリとほほ笑むと、シャインくんとアダルギーサが声を上げて笑った。

「やるじゃない、ハルト」

「ハルト様手紙だけでなく、国王も灰にしてやりましょう」

そういったシャインくんの目は、人間のものではなかった。素が出てるよシャインくん。シャインくんは相当ストレスが溜まっているようだ。

「それもいいかもね」

僕は相槌を打つ。といっても、ワルモンドを殺しに行くわけじゃないけど。


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