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第一章
51話「招かれざる者、国王からの手紙」ハルト・サイド
しおりを挟む食後のコーヒーをすすっていると、玄関のベルが鳴った。
「こんな辺鄙なところにもお客が来るのね」
アダルギーサが眉をしかめる。
この屋敷を訪ねてくる人間は限られている。恐らくワルモンドの使者だろう。
「わたくしが出ます」
シャインくんが鋭い目つきで言った。僕もこのとき、険しい顔をしていたと思う。
「シャインさん、怖い顔してましたけど何かあったのでしょうか?」
リーゼロッテが不安そうに僕に問う。
「ここを訪ねてくる人間は限られている。おそらくいま玄関にいるのは王家からの使者だろう」
「えっ?」
リーゼロッテの顔が強張った。
リーゼロッテも、王家にはいい思い出がないのだから当然か。
しばらくしてシャインくんが戻ってきた。手には上質の紙で作られた封筒が握られていた。
「先程国王ワルモンド様からの使者が訪れて、ハルト様にこの手紙をお渡しするようにと」
シャインくんから手紙を手渡された。宛名は僕になっている。手紙の裏を見ると、見覚えのある蝋印が押されていた。
「国王の蝋印か……」
気乗りはしないが後回しにするのも面倒だ。シャインくんにペーパーナイフをもらい手紙を開封した。
手紙の内容に目を通す……。
ぐしゃりと音を立て、僕の手の中にあった手紙が歪んだ。
ワルモンドは、よほど僕を怒らせるのが好きなようだ。
「ハルト様、手紙にはなんと書かれていたのですか?」
リーゼロッテが眉尻を下げて僕に聞いてきた。
「ハルト、リーゼロッテがあんたの身を心配してるわよ。気づいていないでしょうけど、あんたいま人を殺しそうなほど険しい顔をしてるわよ」
アダルギーサに言われて気づいた。でも今は穏やかな表情を作れそうにない。
「あんたでもそんな顔するのね。貸しなさい、アタシが読んであげるわ」
アダルギーサが僕の手から、手紙を奪い取っていった。
「『拝啓
親愛なるウィルバート・エックハルト・クルーゲ殿。
兄上ご無沙汰しております。この度はご結婚おめでとうございます。
新妻を迎えての暮らしはいかがですか?
初夜はつつがなくお進みになられましたか? いくら女気のない兄上でも若い娘と婚姻を結んだのですから、当然床をともにされましたよね?
兄上には花嫁の体で二週間お楽しみ頂いたことと存じます。
なのでそろそろリーゼロッテを返していただきたい。あれはいろいろと使い道のある娘ですので。
リーゼロッテには余の夜の仕事の相手を市でもらいたいのです。
リーゼロッテも辺鄙な北の森で暮らすより、余のもとで仕事の手伝いをした方が有意義に時間を過ごせるでしょう。
リーゼロッテが身一つで来てもいいように、すでに城ではリーゼロッテが暮らす準備が整っております。
後日兄上の屋敷に馬車を送ります。リーゼロッテを一人で乗せてください。
なお、これは王命なので拒否権はないものと心得てください。
ワルモンド・クルーゲ』」
リーゼロッテが息を呑む音が聞こえた。
シャインくんから黒いオーラが漏れ出している。
「ようするに、リーゼロッテをワルモンドの妾としてよこせってことね! ふざけた内容だわ!」
アダルギーサが手にしていた手紙を、さらにぐしゃぐしゃに握りつぶした。
リーゼロッテの肩が小刻みに震えている。顔色は青いし、唇は紫色だ。
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