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第一章
50話「もどかしい二人」ハルト・サイド
しおりを挟む「大丈夫です、ハルト様はいびきをかいていませんでした」
「そう……良かった」
昨夜いびきをかいていなかったことに、胸を撫でおろす。
「どこかの誰かさんは、自分にスリープの魔法をかけて一人だけさっさと寝ちゃうしね。リーゼロッテは一晩中羊の数を数えていたというのに、酷い一夜だったわねリーゼロッテ」
「えっ? リーゼロッテが一晩中羊の数を数えていた?」
「えっ? ハルト様はスリープの魔法を使って眠っていたんですか?」
僕とリーゼロッテの声が揃った。
「僕は昼間ガゼボで仮眠したせいか……なかなか眠れなくて」
「私もです。ガゼボでお昼寝したせいか、寝付けなくて」
リーゼロッテも昨夜は眠れなかったのか、ということは僕はリーゼロッテに少しは男として意識されていたってことかな?
いや、にやけている場合ではない。リーゼロッテのことはいつか手放すのだから……。
というかなんでアダルギーサは僕がスリープの魔法を使ったことや、リーゼロッテが羊の数を数えているのを知っているんだ?
どこかで見ていたのか? 悪趣味だな。
「良かった。ハルト様に女として意識されてなかった訳ではないのですね」
「えっ? リーゼロッテ今なんて?」
「いえ、何でもありません! ハルト様、次は私にもスリープの魔法をかけてください」
「いいよ。次はリーゼロッテにもスリープの魔法をかけてあげる」
「はい。お願いします」
「『床をともにする必要はない』とか言いながら、しっかり次回を期待してるじゃない。ハルトのむっつりスケベ」
アダルギーサが同じ空間にいるのを忘れていた!
誰がむっつりスケベだ!!
「そっ、そんなわけないだろ! リーゼロッテだって迷惑してるんだ! アダルギーサ、二度と昨日のようなことはしないでくれ!」
「ハルトはこう言ってるけど、あなたはどう思っているのリーゼロッテ? ハルトと一緒に寝るのは嫌だった? ハルトと同じベッドを使って眠ったことは、リーゼロッテにとっての黒歴史になるのかしら? 」
ダイレクトに聞くな! リーゼロッテが困っているじゃないか!
「わっ、私は……別に……。ハルト様となら……嫌では(凄く小さい声)」
リーゼロッテは顔を真っ赤にして、うつむいてしまった。
えっ? なにこの反応?? リーゼロッテは僕と同じベッドで寝るのが嫌じゃなかったの??
「リーゼロッテいまのって……」
「ハルト様、聞こえてたんですか? その、あのっ……いまの言葉に、ふっ、深い意味は……!」
「ああ、うん……分かってる」
リーゼロッテの顔を直視できない。
「あーもうじれったい。これが四十一歳と十八歳の新婚夫婦の会話なのかしら? 年上なんだがらハルトがもっとリードしなさいよ」
「うぐっ……!」
僕は四十一年間魔術一つ筋で、二十九年間屋敷に引きこもっていたんだ! その僕に女性を口説くスキルなんてあるわけがないだろ!
……冷静になれ僕。アダルギーサのペースに流されるな。
傷一つつけずにリーゼロッテを他国に移住させなくてはいけない。
魔女に呪われた汚れた手でリーゼロッテに触れてはいけない。
純粋なリーゼロッテに心を寄せてはいけない。無垢なリーゼロッテを想ってはいけない。
来年死ぬのに……。リーゼロッテのこの先の人生に寄り添えないのに。
一晩添い寝しただけで、何を浮かれているんだ僕は。
「アダルギーサ様、ハルト様をあまりいじめないでください」
「いじめてないわよ。からかっただけ」
「同じことです。ピュアなところがハルト様の良いところなのですから。その良さを失うようなことはおっしゃらないでください」
「分かったわよ」
アダルギーサはふてくされたようにシャインくんから顔をそむけ、目の前の苺を掴み、口に運んだ。
「お待たせいたしました、ハルト様。ホットケーキの苺ソース添えとホットコーヒーです」
「ありがとう、シャインくん」
僕はいろんな意味を込めてシャインくんにお礼を言って、コーヒーに手を付けた。
朝食の用意が出来たことにより、この話題はここでおしまいになった。
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