上 下
50 / 99
第一章

50話「もどかしい二人」ハルト・サイド

しおりを挟む


「大丈夫です、ハルト様はいびきをかいていませんでした」

「そう……良かった」

昨夜いびきをかいていなかったことに、胸を撫でおろす。

「どこかの誰かさんは、自分にスリープの魔法をかけて一人だけさっさと寝ちゃうしね。リーゼロッテは一晩中羊の数を数えていたというのに、酷い一夜だったわねリーゼロッテ」

「えっ? リーゼロッテが一晩中羊の数を数えていた?」
「えっ? ハルト様はスリープの魔法を使って眠っていたんですか?」

僕とリーゼロッテの声が揃った。

「僕は昼間ガゼボで仮眠したせいか……なかなか眠れなくて」

「私もです。ガゼボでお昼寝したせいか、寝付けなくて」

リーゼロッテも昨夜は眠れなかったのか、ということは僕はリーゼロッテに少しは男として意識されていたってことかな? 

いや、にやけている場合ではない。リーゼロッテのことはいつか手放すのだから……。

というかなんでアダルギーサは僕がスリープの魔法を使ったことや、リーゼロッテが羊の数を数えているのを知っているんだ?

どこかで見ていたのか? 悪趣味だな。

「良かった。ハルト様に女として意識されてなかった訳ではないのですね」

「えっ? リーゼロッテ今なんて?」

「いえ、何でもありません! ハルト様、次は私にもスリープの魔法をかけてください」

「いいよ。次はリーゼロッテにもスリープの魔法をかけてあげる」

「はい。お願いします」

「『床をともにする必要はない』とか言いながら、しっかり次回を期待してるじゃない。ハルトのむっつりスケベ」

アダルギーサが同じ空間にいるのを忘れていた!

誰がむっつりスケベだ!!

「そっ、そんなわけないだろ! リーゼロッテだって迷惑してるんだ! アダルギーサ、二度と昨日のようなことはしないでくれ!」

「ハルトはこう言ってるけど、あなたはどう思っているのリーゼロッテ? ハルトと一緒に寝るのは嫌だった? ハルトと同じベッドを使って眠ったことは、リーゼロッテにとっての黒歴史になるのかしら? 」

ダイレクトに聞くな! リーゼロッテが困っているじゃないか!

「わっ、私は……別に……。ハルト様となら……嫌では(凄く小さい声)」

リーゼロッテは顔を真っ赤にして、うつむいてしまった。

えっ? なにこの反応?? リーゼロッテは僕と同じベッドで寝るのが嫌じゃなかったの??

「リーゼロッテいまのって……」

「ハルト様、聞こえてたんですか? その、あのっ……いまの言葉に、ふっ、深い意味は……!」

「ああ、うん……分かってる」

リーゼロッテの顔を直視できない。

「あーもうじれったい。これが四十一歳と十八歳の新婚夫婦の会話なのかしら? 年上なんだがらハルトがもっとリードしなさいよ」

「うぐっ……!」

僕は四十一年間魔術一つ筋で、二十九年間屋敷に引きこもっていたんだ! その僕に女性を口説くスキルなんてあるわけがないだろ!

……冷静になれ僕。アダルギーサのペースに流されるな。

傷一つつけずにリーゼロッテを他国に移住させなくてはいけない。

魔女に呪われた汚れた手でリーゼロッテに触れてはいけない。

純粋なリーゼロッテに心を寄せてはいけない。無垢なリーゼロッテを想ってはいけない。

来年死ぬのに……。リーゼロッテのこの先の人生に寄り添えないのに。

一晩添い寝しただけで、何を浮かれているんだ僕は。

「アダルギーサ様、ハルト様をあまりいじめないでください」

「いじめてないわよ。からかっただけ」

「同じことです。ピュアなところがハルト様の良いところなのですから。その良さを失うようなことはおっしゃらないでください」

「分かったわよ」

アダルギーサはふてくされたようにシャインくんから顔をそむけ、目の前の苺を掴み、口に運んだ。

「お待たせいたしました、ハルト様。ホットケーキの苺ソース添えとホットコーヒーです」 

「ありがとう、シャインくん」

僕はいろんな意味を込めてシャインくんにお礼を言って、コーヒーに手を付けた。

朝食の用意が出来たことにより、この話題はここでおしまいになった。


☆☆☆☆☆
しおりを挟む
感想 72

あなたにおすすめの小説

【完結】捨ててください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ずっと貴方の側にいた。 でも、あの人と再会してから貴方は私ではなく、あの人を見つめるようになった。 分かっている。 貴方は私の事を愛していない。 私は貴方の側にいるだけで良かったのに。 貴方が、あの人の側へ行きたいと悩んでいる事が私に伝わってくる。 もういいの。 ありがとう貴方。 もう私の事は、、、 捨ててください。 続編投稿しました。 初回完結6月25日 第2回目完結7月18日

真実の愛がどうなろうと関係ありません。

希猫 ゆうみ
恋愛
伯爵令息サディアスはメイドのリディと恋に落ちた。 婚約者であった伯爵令嬢フェルネは無残にも婚約を解消されてしまう。 「僕はリディと真実の愛を貫く。誰にも邪魔はさせない!」 サディアスの両親エヴァンズ伯爵夫妻は激怒し、息子を勘当、追放する。 それもそのはずで、フェルネは王家の血を引く名門貴族パートランド伯爵家の一人娘だった。 サディアスからの一方的な婚約解消は決して許されない裏切りだったのだ。 一ヶ月後、愛を信じないフェルネに新たな求婚者が現れる。 若きバラクロフ侯爵レジナルド。 「あら、あなたも真実の愛を実らせようって仰いますの?」 フェルネの曾祖母シャーリンとレジナルドの祖父アルフォンス卿には悲恋の歴史がある。 「子孫の我々が結婚しようと関係ない。聡明な妻が欲しいだけだ」 互いに塩対応だったはずが、気づくとクーデレ夫婦になっていたフェルネとレジナルド。 その頃、真実の愛を貫いたはずのサディアスは…… (予定より長くなってしまった為、完結に伴い短編→長編に変更しました)

嘘つきな唇〜もう貴方のことは必要ありません〜

みおな
恋愛
 伯爵令嬢のジュエルは、王太子であるシリウスから求婚され、王太子妃になるべく日々努力していた。  そんなある日、ジュエルはシリウスが一人の女性と抱き合っているのを見てしまう。  その日以来、何度も何度も彼女との逢瀬を重ねるシリウス。  そんなに彼女が好きなのなら、彼女を王太子妃にすれば良い。  ジュエルが何度そう言っても、シリウスは「彼女は友人だよ」と繰り返すばかり。  堂々と嘘をつくシリウスにジュエルは・・・

[完結]婚約破棄してください。そして私にもう関わらないで

みちこ
恋愛
妹ばかり溺愛する両親、妹は思い通りにならないと泣いて私の事を責める 婚約者も妹の味方、そんな私の味方になってくれる人はお兄様と伯父さんと伯母さんとお祖父様とお祖母様 私を愛してくれる人の為にももう自由になります

全てを捨てて、わたしらしく生きていきます。

彩華(あやはな)
恋愛
3年前にリゼッタお姉様が風邪で死んだ後、お姉様の婚約者であるバルト様と結婚したわたし、サリーナ。バルト様はお姉様の事を愛していたため、わたしに愛情を向けることはなかった。じっと耐えた3年間。でも、人との出会いはわたしを変えていく。自由になるために全てを捨てる覚悟を決め、わたしはわたしらしく生きる事を決意する。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

幼馴染の親友のために婚約破棄になりました。裏切り者同士お幸せに

hikari
恋愛
侯爵令嬢アントニーナは王太子ジョルジョ7世に婚約破棄される。王太子の新しい婚約相手はなんと幼馴染の親友だった公爵令嬢のマルタだった。 二人は幼い時から王立学校で仲良しだった。アントニーナがいじめられていた時は身を張って守ってくれた。しかし、そんな友情にある日亀裂が入る。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

処理中です...