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第一章

49話「好……き、って言えない」ハルト・サイド

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――ハルト・サイド――


昨夜アダルギーサのいたずらで、僕とリーゼロッテは同じベッドで寝ることになった。

僕がスリープの魔法が使えたから、良かったようなものの、スリープの魔法が使えなかったらどうなっていたことか……。アダルギーサの悪ふざけにも困ったものだ。

リーゼロッテは、スリープの魔法がなくてもぐっすりと眠れていたようだけど。

それはつまり僕はリーゼロッテに男として認識されていないってことで、それはそれでへこむ。

朝になって魔力が回復した僕は、アダルギーサが扉に施した魔法陣を破り部屋の外に出た。

リーゼロッテを彼女の自室まで送ってから、僕は自分の部屋に戻り、着替えてリビングに向かった。

リビングに向かう途中、普段着用のドレスに着替えたリーゼロッテに遭遇した。

四半時前まで一緒の部屋にいたのに、こうしてまた顔を合わせると照れくさい。

「おはよう、お二人さん」

「昨夜は、よくお休みになられましたか?」

リビングの扉を開けると、含み笑いを浮かべたアダルギーサと、爽やかな笑みを浮かべるシャインくんに出迎えられた。

「おはようじゃないよ! あんなイタズラしたのはアダルギーサだろ! あやうく凍死するところだったよ!」

室内を真冬並に冷やすとかありえない。ソファで寝ていたら凍死するところだったよ。

「凍死しなかったんだからいいじゃない。それにベッドの周りは暖かかったでしょう?」

アダルギーサがケラケラと笑いながら、お皿に乗った苺を一つつまんで口に放り込んだ。

「たしかにベッドの周りは暖かかったけど……」

「新婚なのに寝室を別々にしているから、お膳立てしてあげまのよ」

「余計なお世話だよ。アダルギーサだって知ってるだろ? 僕とリーゼロッテが政略結婚だって。リーゼロッテは、望んで僕の元に嫁いで来たわけじゃない。だから僕とリーゼロッテが床をともにする必要はないんだ」

リーゼロッテには綺麗な体のまま、この家を出て人生をやり直してほしい。

僕はリーゼロッテの人生の汚点でしかない。

僕がリーゼロッテを汚すわけにはいかない。

「貴族の結婚なんてそんなもんじゃないの? 家同士の結びつき、政治の道具、金のため、権力のため、本人の意思とは関係なく結婚させられる。

国王の命令で強制的に結婚させられたのは気の毒だけど、いい加減リーゼロッテと夫婦になったことを認めなさいよ。

あんただってリーゼロッテのことを、嫌いじゃないんでしょ?」

なんでリーゼロッテの前でそんなことを聞くんだよ!

「リーゼロッテのことは嫌いじゃないよ、むしろ好……」

危うく魔女の話術に流されて、リーゼロッテに告白するところだった。

「好、すすす……スイーツが食べたい気分だな。シャインくん、今日の朝食はホットケーキの苺ソース添えにして。飲み物は熱々のコーヒーがいいな」

自分の席に座り、何事もなかったかのように朝食を注文した。

「かしこまりました、ハルト様」

「話題を変えて逃げたわね。このヘタレ」

アダルギーサがチッと舌打ちした。

「リーゼロッテ様はいかがいたしますか? 何か食べたい物は?」

リーゼロッテも自分の席についていた。

「あっ、あの……えっと、わっ、私もハルト様と同じもので……」

リーゼロッテが動揺してるみたいだ。 リーゼロッテの顔をチラリと見ると、彼女の顔はほのかに色づき、耳まで赤かった。

「あらよく見たら、リーゼロッテの目の下にくまができてるわ」

「えっ?」

リーゼロッテの目の下にくま? 今朝はリーゼロッテの顔をまともに見れなかったから気が付かなかった。

でもおかしいな? リーゼロッテは僕より先に寝息を立てていたから、寝不足になるはずがないんだけど。

「リーゼロッテ、もしかして昨日眠れなかった? 僕のいびきがうるさかったかな?」

知らない間にいびきをかいて歯ぎしりしていたらどうしよう?
 
それとも僕のベッドや枕に加齢臭がして臭くて眠れなかった? ……嫌だ考えたくない。

魔女の呪いのせいで肉体年齢はピチピチの十二歳なんだ。加齢臭なんてするはずがない……と思いたい。


☆☆☆☆☆
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