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第一章
47話「双子の兄弟」国王・サイド
しおりを挟む――国王ワルモンド・クルーゲ・サイド――
幼い頃からウィルバートが嫌いだった。
余よりたった数分早く生まれ、第一王子というだけで、奴は何の努力もせずにすべてを手にしていた。(ワルモンドが、ウィルバートが努力してる姿を見てないだけ)
両親の愛情も、王太子の地位も、海の国一の美少女の婚約者も、学年主席の座も、全てなんの苦労もなく手にしていた。(ワルモンドの性格が悪いからみんな逃げていっただけ)
対して私に与えられたのはやつの残りカスのゴミばかり。(被害妄想)
パラパラと本をめくっただけで本の内容を理解し、古文書や魔導書の翻訳ミスを指摘し、効率の良い魔法陣を作り出すウィルバートを、皆が天才とモテはやした。
私だってそれなりに優秀なのに、ウィルバートの双子の弟に生まれたせいで、阿呆扱いされた。(自分でそう思っているだけ、対して優秀じゃない)
憂さ晴らしにウィルバートの名を語って女遊びをした。奴の評判を地の底まで落としてやるために。(陰険)
しかしウィルバートが女遊びをしているという噂を広げても、誰も彼もウィルバートを咎めなかった。
「ウィルバート様は天才なので、多少の破天荒な振る舞いは仕方ない」
「ウィルバート様の天才的な頭脳を、そんな些細なことで失う訳にはいかない」
重臣や研究者は口を揃えてそう言い、ウィルバートの悪い噂をもみ消しにかかった。
ウィルバートの婚約者の海の国の公女に、「ウィルバートは毎日城下に出て町娘と遊んでいる」と伝えたが、
「ウィルバート様はそのような事をする方ではありません」と公女に一蹴された。
そんな時たまたま付き合った女が、町娘に化けた魔女だったのは僥倖だった。
魔女は俺の名乗ったウィルバートという名と、金髪碧眼の美少年という、二つの手がかりで、本物のウィルバートの居場所を突き止めた。
魔女が余とウィルバートを待ちがえ、本物のウィルバートに呪いをかけたと知ったとき、余は笑いが止まらなかった。
馬鹿な魔女のお陰でやっと余にも運が向いてきた。
当時国王だった父上も、ウィルバートが魔女に呪いをかけられたことは容認できなかったらしい。
父上はウィルバートを廃太子し、北の森にある屋敷に幽閉した。
後は余が立太子し、海の国の公女を余の婚約者にすれば、余の全ての望みが叶うはずだった。
だが余が立太子した時、海の国の公女はウィルバートとの婚約を破棄し、自国に帰っていた。
すぐに海の国に使者を送り、公女に余との婚約を打診したが、公女はすでに自国の有力者の子息と婚約していた。
公女は海の国の王族の血を引いていた。海の国はクルーゲ国以上の大国。
脅しをかけ、公女との婚約を無理やり成立させるわけにもいかない。
海の国の公女との婚約を諦め、自国の貴族の娘と婚約した。
ウィルバートが北の屋敷に幽閉されたあと、奴の部屋を漁っていた。金貨でも隠していないかと、部屋の中を物色していたのだが。
そのとき奴の部屋から、古文書の誤字をまとめた本と、新しい魔法陣を記した本と、ルーン文字が刻まれた魔石を見つけることが出来たのはラッキーだった。
それらの研究成果を、余の名前で発表した。
そして今までウィルバートが発表していた物は、余から盗んだ物だと噂を流した。
余は天才として、人々から褒め称えられ、ウィルバートは他人の研究成果を盗んで発表していた卑劣な男として、世間に認識されていった。
ウィルバートを支持していた重臣や学者は、ハニートラップを仕掛けて城から追い出した。
その後余は高貴な血を引く美しい女性と結婚し、子宝に恵まれた。
トレネンと名付けた第一王子はすくすくと成長し、顔も頭も性格も良く民にも慕われる王太子となった。
全てが順調だった。
一カ月前……。余の前に、二十九年振りに魔女が現れるまでは……。
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