上 下
46 / 99
第一章

46話「国王と王太子」王太子・サイド

しおりを挟む


――王太子・トレネン・サイド――


「父上、少しよろしいですか?」

「どうしたトレネン?」

俺が父の執務室を尋ねると、父は机から頭をあげた。

「リーゼロッテのことなのですが」

「いまさら、お前に婚約破棄された女に何かようか?」

父が訝しげな顔をする。俺もリーゼロッテに用ができるとは思わなかった。

「伯父上のところから呼び戻すことはできませんか」

「なぜだ?」

「デリカは王太子妃教育が忙しく、学園に通う余裕がないのです。ですが未来の王太子妃が留年したのでは格好がつきません。

なのでリーゼロッテを、デリカの替え玉として学園に通わせたいのです」

あの愚かな女リーゼロッテでも学園に通い、デリカの席に座っているぐらいはできるだろう。

宿題はデリカにやらせ、テストのときだけデリカを学園に行かせればいい。

リーゼロッテが俺の婚約者だったとき、リーゼロッテの宿題を代わりにやり、王太子妃の仕事を手伝っていた者がいるはずだ。

リーゼロッテからそいつの名前を聞き出し、そいつに王太子妃の仕事をさせるのが俺の真の目的だ。

「トレネンよ、ひとつ確認したいことがあるのだが」

「なんですか父上?」

「リーゼロッテは身持ちが悪く、学園の生徒や庭師など、若い男と見れば見境なく関係を持つふしだらな女だと言っていたな?」

「はい、父上。リーゼロッテは素行の悪さは僕が保証します」

なぜあんなアバズレが、清純なデリカの姉なのだろう? 双子だが顔以外は全く似ていない。

父上は難しい顔をして、何かを考えているようだった。

「リーゼロッテとウィルバートが結婚して二週間……。男好きのふしだらな娘が、何日も男を我慢できるはずがない」

父上は小声でぶつぶつと呟いていた。

アバズレリーゼロッテなら、ウィルバートの寝室に忍び込み、無理矢理にでもウィルバートと関係を持ったはず。

初夜さえ済めばウィルバートの呪いは解ける。さすれば余が魔女にゴブリンになる呪いをかけられる心配もない」

父上は一人で何を言っているのだろう?

「いいだろう。ウィルバートにリーゼロッテを王城によこすように頼んで……いやリーゼロッテを王城に寄越すように王命を下す」

「ありがとうございます! 父上!」

いくらウィルバートが王の兄とはいえ、王命には逆らえまい。

ゴミみたいな女リーゼロッテにも使い道があることに気づいた俺様が、田舎の屋敷から連れ出してやるんだ。

無礼で可愛げのないリーゼロッテでも、さすがに俺の温情に感謝するだろう。



☆☆☆☆☆
しおりを挟む
感想 72

あなたにおすすめの小説

真実の愛がどうなろうと関係ありません。

希猫 ゆうみ
恋愛
伯爵令息サディアスはメイドのリディと恋に落ちた。 婚約者であった伯爵令嬢フェルネは無残にも婚約を解消されてしまう。 「僕はリディと真実の愛を貫く。誰にも邪魔はさせない!」 サディアスの両親エヴァンズ伯爵夫妻は激怒し、息子を勘当、追放する。 それもそのはずで、フェルネは王家の血を引く名門貴族パートランド伯爵家の一人娘だった。 サディアスからの一方的な婚約解消は決して許されない裏切りだったのだ。 一ヶ月後、愛を信じないフェルネに新たな求婚者が現れる。 若きバラクロフ侯爵レジナルド。 「あら、あなたも真実の愛を実らせようって仰いますの?」 フェルネの曾祖母シャーリンとレジナルドの祖父アルフォンス卿には悲恋の歴史がある。 「子孫の我々が結婚しようと関係ない。聡明な妻が欲しいだけだ」 互いに塩対応だったはずが、気づくとクーデレ夫婦になっていたフェルネとレジナルド。 その頃、真実の愛を貫いたはずのサディアスは…… (予定より長くなってしまった為、完結に伴い短編→長編に変更しました)

[完結]婚約破棄してください。そして私にもう関わらないで

みちこ
恋愛
妹ばかり溺愛する両親、妹は思い通りにならないと泣いて私の事を責める 婚約者も妹の味方、そんな私の味方になってくれる人はお兄様と伯父さんと伯母さんとお祖父様とお祖母様 私を愛してくれる人の為にももう自由になります

全てを捨てて、わたしらしく生きていきます。

彩華(あやはな)
恋愛
3年前にリゼッタお姉様が風邪で死んだ後、お姉様の婚約者であるバルト様と結婚したわたし、サリーナ。バルト様はお姉様の事を愛していたため、わたしに愛情を向けることはなかった。じっと耐えた3年間。でも、人との出会いはわたしを変えていく。自由になるために全てを捨てる覚悟を決め、わたしはわたしらしく生きる事を決意する。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

幼馴染の親友のために婚約破棄になりました。裏切り者同士お幸せに

hikari
恋愛
侯爵令嬢アントニーナは王太子ジョルジョ7世に婚約破棄される。王太子の新しい婚約相手はなんと幼馴染の親友だった公爵令嬢のマルタだった。 二人は幼い時から王立学校で仲良しだった。アントニーナがいじめられていた時は身を張って守ってくれた。しかし、そんな友情にある日亀裂が入る。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

王太子殿下から婚約破棄されたのは冷たい私のせいですか?

ねーさん
恋愛
 公爵令嬢であるアリシアは王太子殿下と婚約してから十年、王太子妃教育に勤しんで来た。  なのに王太子殿下は男爵令嬢とイチャイチャ…諫めるアリシアを悪者扱い。「アリシア様は殿下に冷たい」なんて男爵令嬢に言われ、結果、婚約は破棄。    王太子妃になるため自由な時間もなく頑張って来たのに、私は駒じゃありません!

【完結】幼い頃から婚約を誓っていた伯爵に婚約破棄されましたが、数年後に驚くべき事実が発覚したので会いに行こうと思います

菊池 快晴
恋愛
令嬢メアリーは、幼い頃から将来を誓い合ったゼイン伯爵に婚約破棄される。 その隣には見知らぬ女性が立っていた。 二人は傍から見ても仲睦まじいカップルだった。 両家の挨拶を終えて、幸せな結婚前パーティで、その出来事は起こった。 メアリーは彼との出会いを思い返しながら打ちひしがれる。 数年後、心の傷がようやく癒えた頃、メアリーの前に、謎の女性が現れる。 彼女の口から発せられた言葉は、ゼインのとんでもない事実だった――。 ※ハッピーエンド&純愛 他サイトでも掲載しております。

処理中です...