45 / 99
第一章
45話「まずいわ!」デリカ・サイド
しおりを挟む――デリカ・サイド――
まずい、まずい、まずい、まずい、まずいわ!
トレネン様に「王太子と王太子妃の仕事が忙しくて、とても宿題までは手がまわらないから、宿題は自分でやってくれ」って言われてしまったわ。
宿題をリーゼロッテにやらせようにも、リーゼロッテは結婚して以来学園に来てないし。
その上、協力者のはずのミハエル先生が、わたしの答案と成績優秀者の答案の入れ替えを断ってきた。
それなら「テストの問題と答えをあらかじめ教えて」と言ったら、それも断られた。
「私は教師を辞めて田舎に帰ることにしました」
「はっ? 何それ? ミハエル先生どういうことの!」
「私がデリカ様の不正に手を貸していたのは、リーゼロッテ様の評判を落とすことにつながるからです。リーゼロッテ様の評判が落ちれば、リーゼロッテ様はいずれ王太子殿下に婚約を破棄され、私のもとまで転がり落ちてくると、そう思っていました」
「ミハエル先生の望み通り、リーゼロッテはトレネン様に婚約破棄されたわ! 何が不服なの?」
「ええ確かにリーゼロッテ様は私の望み通り王太子殿下に婚約を破棄されました。ですがすぐに王兄殿下と結婚されてしまいました。結婚を機に学園も辞めてしまった」
「リーゼロッテが学園を辞めた?」
そんな話、聞いてないわ!
「公爵夫妻から伺っておりませんか? リーゼロッテ様の学園での成績は最低、公爵夫妻は『これ以上リーゼロッテの為に学費を出しても金の無駄だ』とおっしゃり、王兄殿下との結婚と同時に、リーゼロッテ様の退学の手続きをされたのですよ。
リーゼロッテ様の成績が悪かったのは、デリカ様に宿題を奪われ、テストの成績をデリカ様のものと入れ替えられていたからなのですが、公爵夫妻はそのことをご存知無かったようですね」
お父様とお母様が、リーゼロッテの退学手続きをした?
まだ卒業までの宿題とか、卒業試験とか、卒業制作のリポートの提出とか、リーゼロッテにやらせることが山ほどあったのに! お父様ったら余計なことを!
「私は王太子殿下に婚約破棄され、評判が地に落ち、傷物になったリーゼロッテ様をお慰めし、リーゼロッテ様と結婚するつもりでした。だからデリカ様の汚い策略にも手を貸したのです」
ミハエル先生がリーゼロッテと結婚を望んでいた?! 聞き間違いじゃないわよね?
「ミハエル先生はわたしの事が好きだったんじゃないの?」
「まさか、成績も素行も態度も最悪なあなたに、惹かれたことなど一度もありません」
ミハエル先生がわたしを蔑んだ目で見下ろし、くすくすと笑う。
「だったらなんで、先生はわたしの事を抱いたのよ!」
色仕掛けで完全にわたしの味方にできたと思ったのに! ミハエル先生がリーゼロッテを好きだったなんて計算外だわ!
「勘違いしないでいただきたい。デリカ様、あなたはあくまでもリーゼロッテ様の代用です」
「わたしがリーゼロッテの代用?」
「そうです。しかしベッドの上で下品にあえぐあなたは見るに耐えなかった。あなたを抱いた事を後悔しています。リーゼロッテ様のイメージが悪くなっただけでした」
わたしの体を好きなように弄んでおいて、そんな風に言うなんて、こいつ最低ね!
「なぜあなたのような頭が空っぽのアバズレが、清楚で清らかで優秀でマナーも学問も完璧て天使のようなリーゼロッテ様と同じ顔をしているのでしょう? 神も罪なことをなさいます」
ミハエル先生が残念そうな顔で首を横に振った。
美人でナイスバディで両親に愛されて育ったわたしが、両親に愛されずボロをまとっているガリ勉のリーゼロッテより劣るというの? バカにして!
「何よ偉そうに! わたしがミハエル先生との関係をみんなに話したらどうなるか分かっているの? ミハエル先生は破滅よ!」
教師が生徒に手を出して、ただで済むとは思ってないわよね?
「分かっていますよ。皆に言いたいのならお好きにどうぞ。その時はあなたも破滅しますけどね」
「わたしが……破滅?」
「借りにも王太子の婚約者の座につくものが、教師と関係を持っていた……王族はあなたのことを、どのように思うでしょうね?」
先生は私の顔を見てニヤリと笑った。
「ミハエル先生に無理やり襲われたって言うわ!」
「同じことです。傷物になった令嬢に世間は冷たいですよ。リーゼロッテ様は女癖が悪いとはいえ王族に嫁げましたが、あなたはどうでしょう? よくて裕福な商人の後妻になるぐらいしか道はないでしょうね」
悔しいけどミハエル先生の言う通りだわ!
「私を脅す気」
「いいえ、そんなつもりは全くありません。ただ私とあなたが肉体関係を持ったことは、黙っていた方がお互いのためだと申し上げたまでです。
成績の改ざん、複数の男子生徒との密会、下位貴族の女子生徒への嫌がらせ……デリカ様には人に知られたら不味いことが多いでしょう?」
「くっ……!」
「リーゼロッテ様は学園を辞められたので、今後は不祥事を起こしても、リーゼロッテ様のせいにはできませんよ」
腹が立つ! なんなのよ! ミハエル先生の人を食ったような態度は!
「では、私はこれで失礼します。成績のことが心配なら他の男性教諭に当たるのですね。色仕掛けで籠絡するのはお得意でしょう?」
ミハエル先生はそう言って部屋を出ていった。
ふざけんじゃないわよ! わたしだって誰にでも体を許すわけじゃないんだから!
若くて見た目の良い男にしか手を出さないのよ!
ミハエル先生がいなくなったら、学園に残っている教師は女と年寄りしかいないじゃない!
どうしよう? どうすればいいの? 考えるのよデリカ!
そうだ! リーゼロッテは学園を辞めたのよね? それを利用すればいいわ!
リーゼロッテを、わたしの替え玉として学園に通わせればいいのよ! 冴えてる!
卒業するまでわたしの代わりにリーゼロッテに授業を受けさせ、テストも代わりに受けさせ、宿題もリーゼロッテにさせればいいんだわ!
ついでに王太子妃教育の替え玉もさせようかしら?
リーゼロッテが王太子妃教育を受けている間、わたしは遊んでいられるわ!
そうと決まったらさっそく行動しなくちゃ!
まずはトレネン様にお願いしなくては!
「王太子妃教育が忙しくて学園に通う余裕がないから、私の代わりにリーゼロッテを学園に通わせて。
王兄殿下に卒業までリーゼロッテを貸してくださるように頼んで」
瞳に涙を浮かべ、上目遣いでお願いすれば、トレネン様は何でも言うことを聞いてくださるわ!
☆☆☆☆☆
35
お気に入りに追加
2,184
あなたにおすすめの小説
政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~
つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。
政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。
他サイトにも公開中。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます
冬月光輝
恋愛
私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。
そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。
しかも相手は妹のレナ。
最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。
夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。
最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。
それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。
「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」
確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。
言われるがままに、隣国へ向かった私。
その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。
ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。
※ざまぁパートは第16話〜です
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
うたた寝している間に運命が変わりました。
gacchi
恋愛
優柔不断な第三王子フレディ様の婚約者として、幼いころから色々と苦労してきたけど、最近はもう呆れてしまって放置気味。そんな中、お義姉様がフレディ様の子を身ごもった?私との婚約は解消?私は学園を卒業したら修道院へ入れられることに。…だったはずなのに、カフェテリアでうたた寝していたら、私の運命は変わってしまったようです。
公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌
招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」
毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。
彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。
そして…。
婚約破棄をされた悪役令嬢は、すべてを見捨てることにした
アルト
ファンタジー
今から七年前。
婚約者である王太子の都合により、ありもしない罪を着せられ、国外追放に処された一人の令嬢がいた。偽りの悪業の経歴を押し付けられ、人里に彼女の居場所はどこにもなかった。
そして彼女は、『魔の森』と呼ばれる魔窟へと足を踏み入れる。
そして現在。
『魔の森』に住まうとある女性を訪ねてとある集団が彼女の勧誘にと向かっていた。
彼らの正体は女神からの神託を受け、結成された魔王討伐パーティー。神託により指名された最後の一人の勧誘にと足を運んでいたのだが——。
君は妾の子だから、次男がちょうどいい
月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、マリアは片田舎で遠いため、会ったことはなかった。でもある時、マリアは、妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは、結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる