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第一章
13話「虐待の疑い」ハルト・サイド
しおりを挟む屋敷を訪ねてきたリーゼロッテは、染みのついたドレスを身にまとい、荷物は壊れかけた古いトランク一つだった。
とても澄んだ目をした少女で、噂通りの悪女には見えなかった。
「シャインくん、男遊びするような子はあんなに澄んだ目をしてないよ。それにリーゼロッテの手にはペンだこがあった。仕事や勉強に熱心に取り組んでいた証拠だ。着てる服も、トランクに入っていた服も地味だった。ここに来たときリーゼロッテが着ていた服には紅茶の染みがついていた。これらのことから推測するに、リーゼロッテは家で何らかの虐待を受けていた可能性が高い」
「虐待ですか?」
「王太子との婚約中に何かあったのかもね。シャインくん、リーゼロッテの悪い噂の出どころについて調べてくれないか?」
「承知いたしました、ハルト様」
「その必要はないわよ」
シャインくん以外の声が聞こえ、リビングの入り口に目を向ける。そこには真紅の髪と瞳の妖艶な女が立っていた。
「久しぶりね、ハルト」
「アダルギーサか、驚かさないでくれよ」
「アダルギーサ様、どうしてこちらに?」
「長年お一人様だった王兄が結婚したって風の噂で聞いたから、結婚祝いを持って来たのよ。甥っ子の婚約者を略奪するなんて、すみに置けないわね」
リボンのついたワインボトルを片手に、アダルギーサがウィンクした。
「残念だけどアダルギーサ、僕には甥の婚約者を略奪する趣味はないよ。ワルモンドがウィルバートとリーゼロッテの結婚を強行したのさ。本人の同意を取らずにね」
「あらそうなの? 私はてっきり王太子に浮気され、双子の妹に罪をなすりつけられ、両親にいじめられていた可愛そう少女を、あんたが救ったのかと思っていたわ」
「浮気、罪をなすりつけられる、いじめ? 何の話をしているんだ、アダルギーサ」
「言葉通りの意味よ、リーゼロッテ・シムソンは子供の頃から公爵家の長女として厳しい教育を受けて育った。
王太子の婚約者になってからは、苛酷な王太子妃教育も始まり、眠る時間も満足に確保できなかった。
子供の頃から要領がよくずる賢い双子の妹のデリカに両親の愛も婚約者も奪われ、妹がやっていた悪事を全て押し付けられ、リーゼロッテは二十歳以上年上の王兄に嫁がされたのよ」
「じゃあ男遊びを繰り返していたり、学園で貴族の令嬢をいじめていたのは
……?」
「全て双子の妹のデリカよ。リーゼロッテは王太子妃の教育が忙しくて、そんなことをしている暇はなかったわ」
「そうだったのか……」
リーゼロッテは家や王宮でそんな仕打ちを受けてきたのか。
「リーゼロッテ様、おかわいそうですね」
シャインくんがハンカチで目元を抑えていた。
「リーゼロッテの境遇は、どこかの誰かと似ているわね。双子の弟に冤罪を着せられ、王太子の座を奪われた誰かさんと」
アダルギーサが僕の目を見て言った。
「昔のことだよアダルギーサ。そもそも誰のせいでこんな目に合っていると思っているのさ」
アダルギーサをジロリと睨む。
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