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第一章

6話「さようなら」

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「そこで男好きで底意地の悪い悪魔のような貴様に白羽の矢が立ったのだ。貴様の公爵家での行いを聞いて、俺も貴様が自分の婚約者であることを恥ずかしく思っていたからちょうどよかった。リーゼロッテ貴様はデリカをいじめるだけでは飽き足らず、学園では下位貴族の令嬢を罵り、家では使用人に辛くあたっているそうじゃないか」

それをしているのもデリカです。デリカは己の犯した罪を全て私に押し付ける気ね。

ちらりとデリカに視線を送ると、デリカは「お姉様が睨んできます。怖~~い」といって王太子殿下に媚び、また嘘泣きを始めた。

「いい加減にしろ! この性悪女!」

王太子殿下からクッキーを投げつけられました。お茶でなくてよかったです。

「お前の顔など二度と見たくない!」

奇遇ですね、私も同じ気持ちです殿下。

「北の森に行くまでの馬車は出してやろう! 歩いて行かせて逃げられたら困るからな!」

「殿下のお心遣いに感謝いたします」

余計な気遣いです、殿下。

「公爵夫妻がお前のクローゼットにあった荷物をトランクに詰めてくださった! お前はただ馬車に乗り北の森にある伯父上の屋敷に行けばいい!」

「はい、殿下」

私の部屋のクローゼットにはお祖母様の古着しかありませんよ、殿下。王宮から支払われたと思われる支度金は両親が全て使ってしまったのですね。

「二度と王宮に顔を見せるな!」

「承知いたしました、殿下」

王宮には厳しい王太子妃教育の思い出と、王太子と王太子妃の仕事を押し付けられ苦しめられた思い出しかない。そんな場所には二度と足を踏み入れたくありません。

「お姉様が王兄殿下と結婚してくださって良かったわ。ごきげんようお姉様、結婚おめでとうございます」

デリカが扇で口元を隠し、くすりと笑う。

私には王命である婚姻を覆すことはできない。私から婚約者を奪ったと思っているデリカは、さぞ自尊心が満たされたことだろう。

王太子殿下は顔と身分しか取り柄がないポンコツなのですが、それを今口にしたところでどうにもなりません。

「ええありがとうデリカ、あなたも王太子殿下とお幸せにね」

私はその場でカーテシーをして、踵を返した。



☆☆☆☆☆

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