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16話「畑の拡大」

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「レオニス様、今度はこちらからお願いがあるのですか、フェルの妖精の存在は皆には秘密にしていただけませんか?」

レオニス樣には、フェルの力についてもお話した。

だけど、大勢の人にはフェルの存在を知らせたくない。

私が、隣国で品種改良された種芋を、持参しておきたい。

「それは難しいだろう。見たところ妖精殿は自己顕示欲の強いタイプのようだ。いつまでも姿を消してじっとしていられるとは思えない」

確かに、フェルは褒められたり、愛されたりするのが大好きだ。

「隠そうとして、つまらない噂や誤解が広がるのなら、最初から君に妖精の加護があると、皆に話しおいたほうが良いと思う」

レオニス様のおっしゃる事にも一理あるわ。

「妖精に愛されている君が我が国に来たことで、作物の成長が促進され、国民は飢えから救われた。そう国民に伝えたい。その時に君の悪い噂を払拭したい。俺は君にも妖精殿にも国民に愛され、敬われてほしいと思っている」

「僕もアリーが誤解されたままなのは嫌のだ」

「もちろん、君の力を悪用しようとするものもいるだろう。そうならないように、君のことも妖精殿のことも全力で守ると誓う」

そうまで言われてしまうと、断る理由がない気がする。

「フェルはみんなに存在が知られても平気なの?」

「それがアリーの為になるなら、僕は構わないのだ」

「フェルがそう言ってくれるなら」

「決まりだな」







そんなことがあって数日が経過しました。

レオニス様が畑を拡大することを許可してくれたので、王都近郊の畑で農作業をしていた庭師の人たちを呼び戻し、お城の庭に畑を作ってます。

「きゃ~! 彼が噂の妖精様ね!」
「お美しいわ!」
「可愛い!」
「フェル様、お菓子食べますか?」

フェルは女性の庭師に大人気だ。

……というより、私の周りには女性の庭師しかいないのですが。

「レオニス様、男性の庭師は呼び戻さなかったのですか?」

今日はレオニス様も、畑作りを手伝ってくれています。

漆黒の衣服を脱ぎ、白の長袖のシャツと茶色のズボンと黒のブーツに着替えたレオニス様は、普段の威圧感がだいぶ薄くなりました。

「君の周りを俺以外の男がうろつくのは嫌だ」

「そんな理由ですか?」

「俺にとっては大事なことだ。妖精殿だけでも手を焼いているというのに、これ以上君を慕う男が増えたらたまらない」

レオニス様は、見かけよりも嫉妬深い性格のようだ。

心配しなくても、私に好意を持つ殿方なんて現れないと思うけど。

「それより、この格好はどうだろう? 君の衣服とおそろいにして見たのだが」

そう言われれば、レオニス様とシャツとズボンの色が被ってた。

「どうと言われましても……」

威圧感は消えましたが、格好いいとは言い難い。

それをストレートに伝えたらレオニス様は傷つくだろう。

どう伝えたものかしら?

「ダサいのだ。こんなにダサいペアルックを見たのは初めてなのだ」

「フェル……!」

いつの間にか私の側に戻ってきていたフェルが、歯に衣着せぬ物言いをした。

「レオニス様に失礼よ」

「僕は本当の事を言っただけなのだ」

レオニス様をちらりと見ると、傍目にもわかるくらいわかりやすく落ち込んでいた。

「そうか、ダサいのか……俺は軍服以外のことはよくわからなくてな……」

えーと、こういうときはどうすればいいのかしら?

とりあえず、話を逸らそう。

「レオニス様、畑も大きくなったことですし、じゃがいも以外の食物も育ててみたいのですが」

「それは良い案だな。庭師と相談して適当な食物の種を用意させよう」

「ありがとうございます」

よかった、上手く話を逸らせた。

「それから、あと二つお願いがあります」

「何だ?」

「城で収穫した野菜でお城の使用人の食料問題は解決しました。ですが城下にはまだまだ飢えに苦しんでいる民がいます」

「そうだな。妖精殿の加護のおかげで、王都近郊の作物は例年よりも害虫や病気に強く、少量の水でもよく育っている。しかし収穫までにはまだ時間がかかる」

「僕が直接魔法をかけた城の野菜と違い、それ以外の場所の植物は通常より少し育ちが良くなる程度なのだ。僕が長くこの城に滞在すれば、もっと大きな効果を得られるだろうけど、最初の年はこの程度なのだ」

「国中の作物に妖精殿の魔法をかけて貰うことはできないのか?」

「そんなの無理に決まっているのだ。焦らずに効果が広がるのを待つのだ」

「殿下、この国の窮状はわかっているつもりです。ですがフェルに無理をさせたくありません」

「わかっている。すまない。妖精殿がいてくれるだけでもありがたいことなのに、欲をかいてしまった」

レオニス様はしょんぼりしてしまった。

「わかってくれればよいのだ」

フェルはあまり気にしていないようだ。

「レオニス様、お願いというのはそのことなのです。お城で採れた野菜を使って城下で炊き出し出しをしたいのです」

「炊き出しだと?」

「はい、母が旅をしていたとき、街の食堂を借りて炊き出しをしている国があったと教えてくれました」

「食堂ならば調理道具や椅子やテーブルも揃っている。城である程度下ごしらえをしてから行けば、熱々の料理を民に提供できる。良いアイデアだ。侍従長に話し、すぐに実行させよう」

「ありがとうございます。それで二つ目のお願いなのですが」

「なんだ? 俺にできることならなんでも言ってくれ」

「フェルと森に行きたいのです」

「はっ??」

レオニス様があっけに取られていた。

「庭師の方々が教えてくれました。王都近郊には様々な植物が生えている森があると」

「まぁ、確かにあるにはあるが」

「こう見えてフェルは薬草にとても詳しいのです」

「そうなのだ、僕は植物全般にとっても詳しいのだ!」

フェルはえっへんと言って、胸を張った。

「フェルの力が国中に行き渡るには時間がかかります。なので森に行って、痩せた土地でも育ち、成長が早く、食べられる薬草を採取してこようと思うのです。その薬草をお城で栽培してから、種を増やしてから民に配れば、食糧問題は解決すると思うんです」

どんなに頑張っても、お城で作った野菜だけでは、国中の人をお腹いっぱいにすることはできない。

ならば、他の方法をためさなくては。

「良いアイデアだと思うが、まさか君が自ら取りに行くとは言わないよな?」

「まあ、よくお分かりになりましたね」

「危険すぎる。妖精殿だけで行くことはできないのか?」

「アリーと僕はいつも一緒なのだ。アリーが一緒じゃないなら、僕は森にいかないのだ」

フェルが私の胸に飛び込んできた。

「私もフェル一人では心配なので、一緒についていきたいです」

私はフェルの体を抱きしめ、彼の頭を撫で撫でした。

庭師さんが「いいなぁ」「羨ましい」「私も妖精様を抱っこしたいです」と囁いている。

「君たちは、夫の前で堂々と……そんな破廉恥な……!」

そんな中、レオニス様だけ不機嫌でした。

「はいっ?」

レオニス様はなんで眉間にしわを寄せているのかしら?

「わかった。森での植物の探索を許可しよう。その代わり、腕の立つ騎士を同行させる。そこだけは譲れない」

「ありがとうございます!」

森での散策の許可が降りたわ!

祖国ではお城でずっと暮らしていたし、嫁いできてからも外に出れなかったから、散策を楽しみにしてたのよね!

いっぱい食べられる食物を収穫して、レオニス様を驚かせてやりましょう!

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