10 / 26
10話「じゃが塩ほふほふ!」
しおりを挟む「アリー! 起きるのだ! 庭を見るのだ!」
翌朝、夜が明けきらぬうちに、フェルに起こされた。
「ふぇ~~、もう朝、水くみして……朝食の準備をして……洗濯して……繕い物もしないとね……」
「寝ぼけてないで起きるのだ! 畑にじゃがいもの収穫に行くのだ!」
そうか、もう祖国にいたときのように、朝食の準備をしなくていいんだ。
昨日、種を撒いた植物たちが育っている頃だ!
私はネグリジェを脱ぎ捨て、作業服に着替えた。
クレアさんに新しい寝間着をお願いするのを忘れたので、未だにあの毒々しいデザインのネグリジェを着ている。
デザインはともかく、寝やすい。
王太子が離宮に来ることもないし、誰に見せる訳でもないので、このまま愛用してもいいかもしれない。
ベッドから起きて、髪を結い上げ、作業着に着替える。
庭に行くと、青々としたじゃがいもの葉が一面に広がっていた。
庭の奥に作った果樹園には、腰の高さほどに育ったりんごやみかんの木が見える。
「さっすがフェルの魔法ね! 植物の成長が早いわ!」
「あったり前なのだ! 僕はそのへんの妖精とは格が違うのだ!」
「そうね、とっても凄いわ!」
私はフェルの頭を撫で撫でした。
「わーい、アリーに褒められたのだ!」
私に褒められたのが嬉しかったのか、フェルがふわふわと畑の上を飛びまわっている。
「さぁ、張り切ってじゃがいもの収穫をするわよ!」
「おーー! なのだ!」
「王太子妃様、朝食のご用意が……ひゃあっっ!!」
じゃがいもを半分ほど収穫したところに、クレアさんが来た。
いつの間にか、朝食の時間になっていたようだ。
収穫に夢中になっていて、気が付かなかった。
朝食の前には終わらせたかったのだが、思ったより手間取ってしまった。
「あっ、クレアさんおはようございます。今日の朝食のメニューはなんではすか?」
「僕、オムレツが食べたいのだ!」
フェルはクレアさんの気配に気づき、姿を消している。
「な、ななな……なんでじゃがいもの葉が茂ってるんですか!? だって、昨日畑を耕したばかりなのに……??」
クレアさんはじゃがいもの畑を見て、驚いているようだ。
「え~~と、ここの畑は特別といいますか……」
妖精(フェル)のことを抜きで、植物の急成長をどうやって説明したものか?
なんにも考えてなかったわ。
「も、もしかして……! ノーブルグラント王国のじゃがいもはめちゃくちゃ成長が早いんですか?」
「あ~~、え~~と……」
面倒だから、そういうことにしておこう。
「まぁ、そんなところですね……」
「やっぱり! 大寒波の年も、水害が起きた年も、水不足の年も、隣国の収穫量が変わらなかったのは、そういうからくりがあったからなんですね!」
大寒波、水害、水不足……? 私の知らないところで、そんなのものが起きていたのね。
「僕がいる国は作物の成長が早くなるし、作物が丈夫になるのだ。寒波や水害や水不足程度では、びくともしないのだ!」
フェルが腰に手を当てて「えっへん」と言った。
もしかしてフェルって、祖国の農作物に多大な影響を与えていたのかしら?
そんなことより、今はじゃがいもの収穫だ!
それが終わったら、また種芋を植えなくてはいけない。
「クレアさん、朝食の前に収穫を終えたいんです。手伝って貰ってえますか? 収穫したじゃがいもを、お城のみんなに食べていただきたいです。この畑で育ったじゃがいもは、すっごく美味しいんですよ!」
「じゃがいもの美味しさは、僕が保証するのだ!」
クリアさんはうつむいたまま、体をぷるぷると震わせていた。
やっぱり無理だったかな? お城のメイドさんに畑仕事を手伝わせるなんて……。
「王太子妃様! わたし今日まで王太子妃様のこと誤解してました!」
顔を上げたクリアさんの目には、涙が光っていた。
まずい、泣かせてしまった!
泣くほど農作業をするのが嫌だったのかな?
「王太子妃様は、隣国でちやほやされて育った金遣いの荒く、使用人に乱暴を働く方だと聞いておりました。でも、間違っていました! 自国から門外不出の種芋を持ち出し、食糧難にあえぐ我が国の為に、自らクワを持って畑を耕す方が、そんなことをするわけありません! 王太子妃様は誰よりも、尊いお心の持ち主だったのですね!」
え~~と、私ってそんなに凄い人だったのかな?
横にいるフェルを見ると、ぶんぶんと首を横に振っていた。
そうだよね、私はただの普通の女の子だもんね。
「じゃがいもの収穫ですね! 喜んでお手伝いいたします!」
言うが早いか、クレアさんはメイド服のまま、畑に入っていった。
「まぁ、いっか。手伝ってくれるならなんでも」
私はクレアさんと共にじゃがいもを収穫した。
収穫したじゃがいの一部を、包丁でカットして、また畑に植えた。
フェルが畑に魔法をかけていた。これで明日もじゃがいもを収穫できるわ。
そんなことをしていたので、朝食の時間がかなり遅くなってしまった。
今日の朝食はスクランブルエッグと、かぼちゃのスープとふかふかの白パンだった。
すっかり冷めてしまった朝食を、「シェフの方、温かいうちに食べられなくてすみません。残さず食べるから許して下さい」と、謝ってから、フェルと一緒に美味しく頂いた。
朝食の後は、クレアさんと二人で大鍋でじゃがいもを茹でた。
フェルが私達に体力の上がる魔法をかけてくれたので、バリバリ働ける。
茹で終えたじゃがいもを、クレアさんに見つからないようにこっそりとフェルに渡した。
フェルのおかげでじゃがいもが収穫できたので、フェルには一番に食べてもらいたい。
フェルは「やっぱりアリーと一緒に育てたじゃがいもが一番なのだ!」と言いながら、ほふほふしながら熱々のじゃがいもを頬張っていた。
「クレアさんも一つ食べてみてください」
「えっ? よろしいのですか?」
「ほら、私このお城に来て日も浅いですし、お城での評判も良くないので、私が作ったじゃがいもを、お城の人が食べてくれるか少し不安なんです。でもクレアさんが『美味しい』って太鼓判を押してくれたら、お城の皆さんも安心して食べてくれると思うんです」
「そういうことでしたら喜んで!」
クレアさんはじゃがいもを一つお皿に取ると、お塩を一振りして、口に入れた。
「はふはふっ……! こっ、これは……! い、今まで食べたどのじゃがいもより美味しいです! じゃがいもの革命です! じゃがいも界の王様です!」
そこまで、褒められると、照れくさくなる。
「お城の皆さんも喜んでくれるでしょうか?」
「喜びます! 絶対に喜びます! 王太子妃様が愛情を込めて育てたじゃがいもを、食べないと言う不届き者がいたら、無理やり口に詰め込んでやります!」
クレアさんが、仲間になってくれたので心強い。
「では、私は離宮のキッチンでじゃがいもを茹でますから、クレアさんは、茹で上がったじゃがいもを使用人の方々に配ってきてください。お昼どきなので、食堂で出すのも良いかもしれませんね」
本当は使用人の方々を離宮に呼べればいいのだが、流石に王太子のいない時に、沢山の使用人を離宮に呼ぶのは不味い。
「王太子妃様が精魂込めて作られたじゃがいもです! 命に変えても。食堂に届けます!」
いや、命はかけなくていいですから。
食事用のカートに茹でたじゃがいもをたくさん乗せて、クレアさんは元気よくカートを押して本城に向かった。
フェルの体力を上げる魔法が、クレアさんには効きすぎたのかもしれない。
そのあと、お城から「じゃがいもの革命だ~~!!」「いくらでも食べられる~~!!」「ほっぺが落ちる~~!!」という叫び声が聞こえて来たので、フェルの育てたじゃがいもは大好評だったようだ。
その叫び声を聞いたフェルは「当然なのだ!」という顔をしていた。
137
お気に入りに追加
3,962
あなたにおすすめの小説
覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―
Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。
辺境伯聖女は城から追い出される~もう王子もこの国もどうでもいいわ~
サイコちゃん
恋愛
聖女エイリスは結界しか張れないため、辺境伯として国境沿いの城に住んでいた。しかし突如王子がやってきて、ある少女と勝負をしろという。その少女はエイリスとは違い、聖女の資質全てを備えていた。もし負けたら聖女の立場と爵位を剥奪すると言うが……あることが切欠で全力を発揮できるようになっていたエイリスはわざと負けることする。そして国は真の聖女を失う――
婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~
tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!!
壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは???
一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
【完結】次期聖女として育てられてきましたが、異父妹の出現で全てが終わりました。史上最高の聖女を追放した代償は高くつきます!
林 真帆
恋愛
マリアは聖女の血を受け継ぐ家系に生まれ、次期聖女として大切に育てられてきた。
マリア自身も、自分が聖女になり、全てを国と民に捧げるものと信じて疑わなかった。
そんなマリアの前に、異父妹のカタリナが突然現れる。
そして、カタリナが現れたことで、マリアの生活は一変する。
どうやら現聖女である母親のエリザベートが、マリアを追い出し、カタリナを次期聖女にしようと企んでいるようで……。
2022.6.22 第一章完結しました。
2022.7.5 第二章完結しました。
第一章は、主人公が理不尽な目に遭い、追放されるまでのお話です。
第二章は、主人公が国を追放された後の生活。まだまだ不幸は続きます。
第三章から徐々に主人公が報われる展開となる予定です。
醜い傷ありと蔑まれてきた私の顔に刻まれていたのは、選ばれし者の証である聖痕でした。今更、態度を改められても許せません。
木山楽斗
恋愛
エルーナの顔には、生まれつき大きな痣がある。
その痣のせいで、彼女は醜い傷ありと蔑まれて生きてきた。父親や姉達から嫌われて、婚約者からは婚約破棄されて、彼女は、痣のせいで色々と辛い人生を送っていたのである。
ある時、彼女の痣に関してとある事実が判明した。
彼女の痣は、聖痕と呼ばれる選ばれし者の証だったのだ。
その事実が判明して、彼女の周囲の人々の態度は変わった。父親や姉達からは媚を売られて、元婚約者からは復縁を迫られて、今までの態度とは正反対の態度を取ってきたのだ。
流石に、エルーナもその態度は頭にきた。
今更、態度を改めても許せない。それが彼女の素直な気持ちだったのだ。
※5話目の投稿で、間違って別の作品の5話を投稿してしまいました。申し訳ありませんでした。既に修正済みです。
姉妹同然に育った幼馴染に裏切られて悪役令嬢にされた私、地方領主の嫁からやり直します
しろいるか
恋愛
第一王子との婚約が決まり、王室で暮らしていた私。でも、幼馴染で姉妹同然に育ってきた使用人に裏切られ、私は王子から婚約解消を叩きつけられ、王室からも追い出されてしまった。
失意のうち、私は遠い縁戚の地方領主に引き取られる。
そこで知らされたのは、裏切った使用人についての真実だった……!
悪役令嬢にされた少女が挑む、やり直しストーリー。
私の婚約者を狙ってる令嬢から男をとっかえひっかえしてる売女と罵られました
ゆの
恋愛
「ユーリ様!!そこの女は色んな男をとっかえひっかえしてる売女ですのよ!!騙されないでくださいましっ!!」
国王の誕生日を祝う盛大なパーティの最中に、私の婚約者を狙ってる令嬢に思いっきり罵られました。
なにやら証拠があるようで…?
※投稿前に何度か読み直し、確認してはいるのですが誤字脱字がある場合がございます。その時は優しく教えて頂けると助かります(´˘`*)
※勢いで書き始めましたが。完結まで書き終えてあります。
【完結】小国の王太子に捨てられたけど、大国の王太子に溺愛されています。え?私って聖女なの?
如月ぐるぐる
恋愛
王太子との婚約を一方的に破棄され、王太子は伯爵令嬢マーテリーと婚約してしまう。
留学から帰ってきたマーテリーはすっかりあか抜けており、王太子はマーテリーに夢中。
政略結婚と割り切っていたが納得いかず、必死に説得するも、ありもしない罪をかぶせられ国外追放になる。
家族にも見捨てられ、頼れる人が居ない。
「こんな国、もう知らない!」
そんなある日、とある街で子供が怪我をしたため、術を使って治療を施す。
アトリアは弱いながらも治癒の力がある。
子供の怪我の治癒をした時、ある男性に目撃されて旅に付いて来てしまう。
それ以降も街で見かけた体調の悪い人を治癒の力で回復したが、気が付くとさっきの男性がずっとそばに付いて来る。
「ぜひ我が国へ来てほしい」
男性から誘いを受け、行く当てもないため付いて行く。が、着いた先は祖国ヴァルプールとは比較にならない大国メジェンヌ……の王城。
「……ん!?」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる