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2話「お前にアルーシャの側にいる資格はない!」ざまぁ

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「なにが『俺が愛しているのはアルーシャだけです』『俺はアルーシャのことを生涯大切にすると誓います』だ。
 お前はすでにアルーシャを傷つけている!
 お前にアルーシャの側にいる資格はない!
 婚約者のいる身で浮気をしておいて、『本気ではなかった』という言い訳が、通じると思うな!」

ノンネ伯爵は額に青筋をいくつも立て、絶対零度の視線をマイ伯爵令息に向ける。

ノンネ伯爵に睨まれ、マイ伯爵令息は萎縮していた。

「マイ伯爵、婚約破棄をしたときに交わした契約を覚えているかな?」

「もちろんです、ノンネ伯爵。
 今後エデルをアルーシャの半径一キロ圏内に近づけないこと……でしたね」

「そうだ。
 万が一この契約をエデルが破ったときは、エデルがノンネ伯爵家の乗っ取りを図ったことを社交界に広める……いやエデルをノンネ伯爵家乗っ取りの容疑で訴える」

低く凄むような声でノンネ伯爵が言った。

ノンネ伯爵に訴えると言われたマイ伯爵は、恐怖からか肩をブルリと震わせた。

「お待ちください! ノンネ伯爵!
 そんなことを言いふらされては、マイ伯爵家家名に傷が……いやマイ伯爵家の存続に関わります!
長男のルーウィーの結婚や、マイ伯爵家の仕事にも響く!
 エデルの愚行はどうか内密に……!」

マイ伯爵は、何度も頭を下げノンネ伯爵に頼み込んだ。

「マイ伯爵、そう思うのならエデルの首に縄をつけてしっかりと監視することだな。
 言っておくがアルーシャには、学園を辞めさせるつもりも休学させるつもりもない。
 卒業まであと二年あるが、休まずに学園に通わせるつもりだ。
 今後アルーシャにはパーティやお茶会に頻繁に出席させる。
 特に王族主催のパーティには必ず出席する。
 マイ伯爵、わしの言っていることの意味が分かるな?」

ノンネ伯爵がマイ伯爵をジロリと睨む。

「ああ……分かっている」

マイ伯爵は、ノンネ伯爵の言わんとしたことを理解したようだ。

ノンネ伯爵は、マイ伯爵に「息子を学園に通わせるな、パーティにも出席させるな」と言いたいのだろう。

学園を休学させるには、学園に通うのと同等の金額を学園に振り込む必要がある。

二年休学させ、そのあと二年通わせるのはマイ伯爵家には手痛い出費だろう。

隣国の貴族学園に通うとなると、自国の学園に通うときの十倍の費用がかかる。

婚約破棄の慰謝料を絞り取られたマイ伯爵家に、跡継ぎでもないマイ伯爵令息を、他国に留学させるだけの余裕はない。

貴族学園の卒業は貴族としての義務、マイ伯爵令息はその義務を果たせないのだ。

この国では、貴族学園を卒業していない貴族の令嬢は令息は一人前として扱われない。

貴族学園を卒業していないものは、家督を継ぐことも、他の貴族の家に嫁入りや婿入りすることもできない。

マイ伯爵令息は金銭的な理由で貴族学園を卒業するのは不可能。

その上、マイ伯爵令息はアルーシャの参加する王族主催のパーティに参加できない。

つまりマイ伯爵令息は、貴族として死んだも同然。

いくらマイ伯爵令息の見目が良くても、そんな曰く付きの人物を婿に欲しがる家はない。

「エデルはマイ伯爵家から除籍し、地方の修道院に送る。
 生涯、アルーシャ嬢の半径一キロ圏内に近づかせないと約束する」

マイ伯爵は全てを諦めたような顔で言った。

「マイ伯爵のその言葉を聞いて安心したよ」

ノンネ伯爵がマイ伯爵の言葉を聞き、ほくそ笑む。

「ちょっと待ってください父上!
 父上は俺を伯爵家から除籍するおつもりですか!」

今まで放心状態だったマイ伯爵令息が口を開く。

「黙れエデル!
 お前はアルーシャ嬢の半径一キロ圏内に近づくことを禁止されているんだ!
 それはつまりエデルは今後、学園に通うことも、パーティに参加することも出来ないということだ!
 いつアルーシャ嬢と遭遇するか分からないから、アルーシャ嬢のいる王都には住めない!
 浮気して婚約破棄されたお前を、婿に貰いたがる家もない!
 マイ伯爵から除籍し、修道院に送る以外に選択肢はない!」

マイ伯爵がエデルを睨み、叱責する。

「アルーシャか学園を卒業するまで、学園を休学します!
アルーシャが学園を卒業してから、復学すればいいでしょう?!
 それが無理なら隣国に留学する手だって……」

「休学に留学だと?
 寝言は寝てから言え!
 お前が婚約破棄されたことで、ノンネ伯爵家にいくら慰謝料を支払ったと思っている!?
 これ以上お前に金をかけられるか!
 強制労働所へ送られないだけましだと思え!」

マイ伯爵に叱責されたマイ伯爵令息は、がっくりと肩を落とした。

「ノンネ伯爵、お見苦しいところをお見せした。
 わたしたちはこれで失礼します」

マイ伯爵が立ち上がる。

「帰るぞエデル!」

マイ伯爵がマイ伯爵令息の腕を掴む。

「離してください父上!
 俺はまだアルーシャに会っていない!」

マイ伯爵令息がマイ伯爵の手を振り払う。

「ノンネ伯爵!
 アルーシャに会わせてください!
 アルーシャは俺に惚れています!
 俺が謝ればアルーシャは許してくれるはずです!
 お願いします! アルーシャに会わせてください!」

マイ伯爵令息が床に膝を付き、泣きながらノンネ伯爵に懇願した。

「くどい!」

ノンネ伯爵はエデルの言葉に耳を貸さなかった。

「エデル!
 これ以上ノンネ伯爵に迷惑をかけるな!」

マイ伯爵はマイ伯爵令息の頬を殴った。

マイ伯爵に殴られるとは思っていなかったのか、マイ伯爵令息は左の頬を抑え呆然としていた。

マイ伯爵は呆然としているマイ伯爵令息の腕を引きずり、応接室の扉へと向かう。

「マイ伯爵、覚えておけ。 
 マイ伯爵家が我が家に慰謝料を払ったからと言って、我が家とマイ伯爵家の関係が元に戻ったわけではない。
 マイ伯爵家の人間には、二度と我が家の敷居を跨がせない。
 マイ伯爵家への融資も打ち切る。
 分かったな?」

ノンネ伯爵が、マイ伯爵の背中に向かって言い放つ。

「ああ……分かっている」

マイ伯爵は振り返り、疲れた顔でそう答えた。

マイ伯爵は「アルーシャに会わせろ」とわめき散らすマイ伯爵令息を連れ、応接室を出ていった。
 


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