2 / 4
2話「お前にアルーシャの側にいる資格はない!」ざまぁ
しおりを挟む「なにが『俺が愛しているのはアルーシャだけです』『俺はアルーシャのことを生涯大切にすると誓います』だ。
お前はすでにアルーシャを傷つけている!
お前にアルーシャの側にいる資格はない!
婚約者のいる身で浮気をしておいて、『本気ではなかった』という言い訳が、通じると思うな!」
ノンネ伯爵は額に青筋をいくつも立て、絶対零度の視線をマイ伯爵令息に向ける。
ノンネ伯爵に睨まれ、マイ伯爵令息は萎縮していた。
「マイ伯爵、婚約破棄をしたときに交わした契約を覚えているかな?」
「もちろんです、ノンネ伯爵。
今後エデルをアルーシャの半径一キロ圏内に近づけないこと……でしたね」
「そうだ。
万が一この契約をエデルが破ったときは、エデルがノンネ伯爵家の乗っ取りを図ったことを社交界に広める……いやエデルをノンネ伯爵家乗っ取りの容疑で訴える」
低く凄むような声でノンネ伯爵が言った。
ノンネ伯爵に訴えると言われたマイ伯爵は、恐怖からか肩をブルリと震わせた。
「お待ちください! ノンネ伯爵!
そんなことを言いふらされては、マイ伯爵家家名に傷が……いやマイ伯爵家の存続に関わります!
長男のルーウィーの結婚や、マイ伯爵家の仕事にも響く!
エデルの愚行はどうか内密に……!」
マイ伯爵は、何度も頭を下げノンネ伯爵に頼み込んだ。
「マイ伯爵、そう思うのならエデルの首に縄をつけてしっかりと監視することだな。
言っておくがアルーシャには、学園を辞めさせるつもりも休学させるつもりもない。
卒業まであと二年あるが、休まずに学園に通わせるつもりだ。
今後アルーシャにはパーティやお茶会に頻繁に出席させる。
特に王族主催のパーティには必ず出席する。
マイ伯爵、わしの言っていることの意味が分かるな?」
ノンネ伯爵がマイ伯爵をジロリと睨む。
「ああ……分かっている」
マイ伯爵は、ノンネ伯爵の言わんとしたことを理解したようだ。
ノンネ伯爵は、マイ伯爵に「息子を学園に通わせるな、パーティにも出席させるな」と言いたいのだろう。
学園を休学させるには、学園に通うのと同等の金額を学園に振り込む必要がある。
二年休学させ、そのあと二年通わせるのはマイ伯爵家には手痛い出費だろう。
隣国の貴族学園に通うとなると、自国の学園に通うときの十倍の費用がかかる。
婚約破棄の慰謝料を絞り取られたマイ伯爵家に、跡継ぎでもないマイ伯爵令息を、他国に留学させるだけの余裕はない。
貴族学園の卒業は貴族としての義務、マイ伯爵令息はその義務を果たせないのだ。
この国では、貴族学園を卒業していない貴族の令嬢は令息は一人前として扱われない。
貴族学園を卒業していないものは、家督を継ぐことも、他の貴族の家に嫁入りや婿入りすることもできない。
マイ伯爵令息は金銭的な理由で貴族学園を卒業するのは不可能。
その上、マイ伯爵令息はアルーシャの参加する王族主催のパーティに参加できない。
つまりマイ伯爵令息は、貴族として死んだも同然。
いくらマイ伯爵令息の見目が良くても、そんな曰く付きの人物を婿に欲しがる家はない。
「エデルはマイ伯爵家から除籍し、地方の修道院に送る。
生涯、アルーシャ嬢の半径一キロ圏内に近づかせないと約束する」
マイ伯爵は全てを諦めたような顔で言った。
「マイ伯爵のその言葉を聞いて安心したよ」
ノンネ伯爵がマイ伯爵の言葉を聞き、ほくそ笑む。
「ちょっと待ってください父上!
父上は俺を伯爵家から除籍するおつもりですか!」
今まで放心状態だったマイ伯爵令息が口を開く。
「黙れエデル!
お前はアルーシャ嬢の半径一キロ圏内に近づくことを禁止されているんだ!
それはつまりエデルは今後、学園に通うことも、パーティに参加することも出来ないということだ!
いつアルーシャ嬢と遭遇するか分からないから、アルーシャ嬢のいる王都には住めない!
浮気して婚約破棄されたお前を、婿に貰いたがる家もない!
マイ伯爵から除籍し、修道院に送る以外に選択肢はない!」
マイ伯爵がエデルを睨み、叱責する。
「アルーシャか学園を卒業するまで、学園を休学します!
アルーシャが学園を卒業してから、復学すればいいでしょう?!
それが無理なら隣国に留学する手だって……」
「休学に留学だと?
寝言は寝てから言え!
お前が婚約破棄されたことで、ノンネ伯爵家にいくら慰謝料を支払ったと思っている!?
これ以上お前に金をかけられるか!
強制労働所へ送られないだけましだと思え!」
マイ伯爵に叱責されたマイ伯爵令息は、がっくりと肩を落とした。
「ノンネ伯爵、お見苦しいところをお見せした。
わたしたちはこれで失礼します」
マイ伯爵が立ち上がる。
「帰るぞエデル!」
マイ伯爵がマイ伯爵令息の腕を掴む。
「離してください父上!
俺はまだアルーシャに会っていない!」
マイ伯爵令息がマイ伯爵の手を振り払う。
「ノンネ伯爵!
アルーシャに会わせてください!
アルーシャは俺に惚れています!
俺が謝ればアルーシャは許してくれるはずです!
お願いします! アルーシャに会わせてください!」
マイ伯爵令息が床に膝を付き、泣きながらノンネ伯爵に懇願した。
「くどい!」
ノンネ伯爵はエデルの言葉に耳を貸さなかった。
「エデル!
これ以上ノンネ伯爵に迷惑をかけるな!」
マイ伯爵はマイ伯爵令息の頬を殴った。
マイ伯爵に殴られるとは思っていなかったのか、マイ伯爵令息は左の頬を抑え呆然としていた。
マイ伯爵は呆然としているマイ伯爵令息の腕を引きずり、応接室の扉へと向かう。
「マイ伯爵、覚えておけ。
マイ伯爵家が我が家に慰謝料を払ったからと言って、我が家とマイ伯爵家の関係が元に戻ったわけではない。
マイ伯爵家の人間には、二度と我が家の敷居を跨がせない。
マイ伯爵家への融資も打ち切る。
分かったな?」
ノンネ伯爵が、マイ伯爵の背中に向かって言い放つ。
「ああ……分かっている」
マイ伯爵は振り返り、疲れた顔でそう答えた。
マイ伯爵は「アルーシャに会わせろ」とわめき散らすマイ伯爵令息を連れ、応接室を出ていった。
☆☆☆☆☆
10
お気に入りに追加
704
あなたにおすすめの小説
【完結】夫は王太子妃の愛人
紅位碧子 kurenaiaoko
恋愛
侯爵家長女であるローゼミリアは、侯爵家を継ぐはずだったのに、女ったらしの幼馴染みの公爵から求婚され、急遽結婚することになった。
しかし、持参金不要、式まで1ヶ月。
これは愛人多数?など訳ありの結婚に違いないと悟る。
案の定、初夜すら屋敷に戻らず、
3ヶ月以上も放置されーー。
そんな時に、驚きの手紙が届いた。
ーー公爵は、王太子妃と毎日ベッドを共にしている、と。
ローゼは、王宮に乗り込むのだがそこで驚きの光景を目撃してしまいーー。
*誤字脱字多数あるかと思います。
*初心者につき表現稚拙ですので温かく見守ってくださいませ
*ゆるふわ設定です
(完結)親友の未亡人がそれほど大事ですか?
青空一夏
恋愛
「お願いだよ。リーズ。わたしはあなただけを愛すると誓う。これほど君を愛しているのはわたしだけだ」
婚約者がいる私に何度も言い寄ってきたジャンはルース伯爵家の4男だ。
私には家族ぐるみでお付き合いしている婚約者エルガー・バロワ様がいる。彼はバロワ侯爵家の三男だ。私の両親はエルガー様をとても気に入っていた。優秀で冷静沈着、理想的なお婿さんになってくれるはずだった。
けれどエルガー様が女性と抱き合っているところを目撃して以来、私はジャンと仲良くなっていき婚約解消を両親にお願いしたのだった。その後、ジャンと結婚したが彼は・・・・・・
※この世界では女性は爵位が継げない。跡継ぎ娘と結婚しても婿となっただけでは当主にはなれない。婿養子になって始めて当主の立場と爵位継承権や財産相続権が与えられる。西洋の史実には全く基づいておりません。独自の異世界のお話しです。
※現代的言葉遣いあり。現代的機器や商品など出てくる可能性あり。
【完結】ドアマットに気付かない系夫の謝罪は死んだ妻には届かない
堀 和三盆
恋愛
一年にわたる長期出張から戻ると、愛する妻のシェルタが帰らぬ人になっていた。流行病に罹ったらしく、感染を避けるためにと火葬をされて骨になった妻は墓の下。
信じられなかった。
母を責め使用人を責めて暴れ回って、僕は自らの身に降りかかった突然の不幸を嘆いた。まだ、結婚して3年もたっていないというのに……。
そんな中。僕は遺品の整理中に隠すようにして仕舞われていた妻の日記帳を見つけてしまう。愛する妻が最後に何を考えていたのかを知る手段になるかもしれない。そんな軽い気持ちで日記を開いて戦慄した。
日記には妻がこの家に嫁いでから病に倒れるまでの――母や使用人からの壮絶な嫌がらせの数々が綴られていたのだ。
婚約破棄目当てで行きずりの人と一晩過ごしたら、何故か隣で婚約者が眠ってた……
木野ダック
恋愛
メティシアは婚約者ーー第二王子・ユリウスの女たらし振りに頭を悩ませていた。舞踏会では自分を差し置いて他の令嬢とばかり踊っているし、彼の隣に女性がいなかったことがない。メティシアが話し掛けようとしたって、ユリウスは平等にとメティシアを後回しにするのである。メティシアは暫くの間、耐えていた。例え、他の男と関わるなと理不尽な言い付けをされたとしても我慢をしていた。けれど、ユリウスが楽しそうに踊り狂う中飛ばしてきたウインクにより、メティシアの堪忍袋の緒が切れた。もう無理!そうだ、婚約破棄しよう!とはいえ相手は王族だ。そう簡単には婚約破棄できまい。ならばーー貞操を捨ててやろう!そんなわけで、メティシアはユリウスとの婚約破棄目当てに仮面舞踏会へ、行きずりの相手と一晩を共にするのであった。けど、あれ?なんで貴方が隣にいるの⁉︎
愛を知ってしまった君は
梅雨の人
恋愛
愛妻家で有名な夫ノアが、夫婦の寝室で妻の親友カミラと交わっているのを目の当たりにした妻ルビー。
実家に戻ったルビーはノアに離縁を迫る。
離縁をどうにか回避したいノアは、ある誓約書にサインすることに。
妻を誰よりも愛している夫ノアと愛を教えてほしいという妻ルビー。
二人の行きつく先はーーーー。
【完結】わたしはお飾りの妻らしい。 〜16歳で継母になりました〜
たろ
恋愛
結婚して半年。
わたしはこの家には必要がない。
政略結婚。
愛は何処にもない。
要らないわたしを家から追い出したくて無理矢理結婚させたお義母様。
お義母様のご機嫌を悪くさせたくなくて、わたしを嫁に出したお父様。
とりあえず「嫁」という立場が欲しかった旦那様。
そうしてわたしは旦那様の「嫁」になった。
旦那様には愛する人がいる。
わたしはお飾りの妻。
せっかくのんびり暮らすのだから、好きなことだけさせてもらいますね。
結婚記念日をスルーされたので、離婚しても良いですか?
秋月一花
恋愛
本日、結婚記念日を迎えた。三周年のお祝いに、料理長が腕を振るってくれた。私は夫であるマハロを待っていた。……いつまで経っても帰ってこない、彼を。
……結婚記念日を過ぎてから帰って来た彼は、私との結婚記念日を覚えていないようだった。身体が弱いという幼馴染の見舞いに行って、そのまま食事をして戻って来たみたいだ。
彼と結婚してからずっとそう。私がデートをしてみたい、と言えば了承してくれるものの、当日幼馴染の女性が体調を崩して「後で埋め合わせするから」と彼女の元へ向かってしまう。埋め合わせなんて、この三年一度もされたことがありませんが?
もう我慢の限界というものです。
「離婚してください」
「一体何を言っているんだ、君は……そんなこと、出来るはずないだろう?」
白い結婚のため、可能ですよ? 知らないのですか?
あなたと離婚して、私は第二の人生を歩みます。
※カクヨム様にも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる