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11話「迷惑な来訪者」
しおりを挟む私が十歳の誕生日にタイムリープしてから、五年の月日が流れました。
第二王子のファルケ殿下が十歳になったのを機に、国王陛下がファルケ殿下を王太子に任命されました。
ファルケ殿下が立太子されたことは、スタン殿下にとって寝耳に水だったらしい。
スタン殿下には側近もお友達もいないから、誰もスタン殿下に情報を伝えませんものね。
世情に疎くなるはずです。
「スタンは学園を卒業すると同時に王位継承権を剥奪し、王族から除籍する。何もしなければスタンは卒業後と同時に平民になる。平民になりたくなければ学園を卒業する前に、婿入り先を決めておくのだな」
陛下にそう言われたとき、スタン殿下は唇をかみ、手を握りしめ、恨みのこもった目で陛下を睨んでいたそうです。(お父様情報)
本来ならスタン殿下の母親の実家のハッセ子爵家が没落した時、スタン殿下に処分がくだされていても不思議はなかったのです。
ハッセ子爵家が没落した当時、スタン殿下が成人前だったこともあり、市井で一人で暮らすのは難しいと判断され、今まで処分が保留になっていた。
スタン殿下は、学園を卒業するまで猶予を貰えたことに感謝すべきですわ。
その猶予を与えたのは私とお父様なんですが。
今頃スタン殿下は、必死になって婿入り先を探していることでしょう。
スタン殿下のことだから、下位貴族は嫌だ、地方は嫌だ、とわがままを言ってそうですわね。
選り好みできる立場ではないのに、愚かですわ。
十五歳にもなれば、大概の貴族令嬢には婚約者がいます。
跡継ぎともなれば、なおのこと早くから婚約者を決めていますわ。
婚約者がいない高位貴族は限られています。
そうなるとスタン殿下の次の行動は……。
「アリシア! フォスター公爵! いるのは分かって居る! とっとと出てきて俺をもてなさせ! お前の家の傷物の娘を、この俺様がもらってやるって言ってるんだ!! ありがたく思え!!」
公爵家の門前でスタン殿下が叫んでいる。
先触れも出さずにやってきて、当主がいないとわかると邸の前で暴言を吐き、暴れる。
門前にいるのはどこの山猿でしょう?
宮廷ではスタン殿下の教育を猿に任せたのでしょうか?
「俺にこんな扱いをしていいと思っているのか!! 父上に言ってお前たちを不敬罪に問うてやるからな!!」
国王陛下より、スタン殿下が訪ねてきても門前払いしていい、という許可を頂いております。
フォスター公爵家が不敬罪に問われることはありません。
「くそっ! 覚えていろ!! 今日のことは必ず後悔させてやるっっ!!」
二時間ほど放置して置きますと、スタン殿下は捨て台詞を残して帰っていきました。
「あれが噂の第一王子? 想像以上だね」
向かいの席に座るエデルが苦笑いを浮かべた。
せっかく隣国から茶葉を取り寄せたのに、お茶がまずくなってしまいましたわ。
あんな出来損ないのポンコツ王子に惚れていたなんて、前世の私は見る目がありませんでしたね。
やり直し前の世界では、私がスタン殿下に惚れたことで、スタン殿下はフォスター公爵家の後ろ盾を得て、スタン殿下のような愚物が王太子になってしまった。
その結果、ファルケ殿下のように優秀な方が日陰を歩くことに……。
恋は盲目といいますが、やり直す前の世界の私の罪は重いですわ。
やり直し前の世界で私が卒業パーティで殺されたのは、愚王を作らないための神の処置だったのかもしれません。
「放っといていいのアリシア? あの様子だとスタン殿下は君を諦めていないよ。学園に入学したら、スタン殿下はこれ幸いと君に絡んでくんじゃないかな」
エデル殿下が心配そうな顔で尋ねてきた。
来月は学園の入学式がある。
私は十歳の誕生日から足の怪我を理由に、招かれた全てのパーティに断りの返事を書いてきました。
パーティには出席しない、公爵家を訪ねても門前払い。
私と接点を持ちたかったら、学園に通うしかありません。
スタン殿下のことですから、学園に入学したら陛下の監視から開放され、やりたいほうだいできると思っているのでしょうね。
王族が監視の目から開放されることなんてないのに。そのことに気づけるほど、スタン殿下は賢くないですからね。
「それが狙いですわ」
「学園でスタン殿下にわざと騒動を起こさせる気か?」
「ええ、あの方の愚かさ加減を皆に知ってもらういい機会だと思いますの」
スタン殿下に貴族の婿に入って、ぬくぬく暮らすなんてさせませんわ。
処分を下すなら徹底的にやらないと。スタン殿下には絶望を味わっていただきますわ。
「それにしてもエデル、本当に私と一緒に入学いたしますの?」
「もちろんだよアリシア。婚約者を放っておけない。スタン王子に狙われているなら尚更ね」
今、スタンと書いてアホと読んでなかった?
エデル様は私より三年も年上。エデルを狙う暗殺者の驚異は三年前に解消されている。
毎度毎度毎度……屋敷を狙ってくる暗殺者にお父様が切れて、暗殺者の黒幕を退治したのです。
ゼーマン帝国では第一皇子と第二皇子は廃嫡になり、皇妃は幽閉された。
皇帝の弟が次の皇太弟に任ぜられることで、ゼーマン帝国の揉め事は解決した。
暗殺者の脅威がなくなったのでエデルは国に帰ることも可能だ。
しかしエデルは、フォスター公爵家の居心地が気に入ったのか未だにフォスター公爵家に留まっている。
しかも何かあれば私にベタベタとくっついてくるし、過保護な発言を連発してくる。
エデルは三年前に学園に入学できた。
しかしエデルは私と一緒じゃなければ嫌だと駄々をこねて、入学を見送った。
私、エデルに愛されているのかしら? それともただなつかれてるだけ?
どちらにしても、愛されてるなんて思い込みを持つのはやめておきましょう。
やり直す前の人生では、愛されてると思っていた婚約者に婚約破棄され、なつかれてると思った義弟に裏切られて、殺されたのですから。
あんな惨めな思いをするのは一度で充分ですわ。
言っておきますが、エデルは勉強ができなくて学園に通えなかった訳ではありませんわよ。
エデルは学者になれるほど優秀なんですからね。
「分かりました。エデル一緒に学園に通いましょう」
「アリシアは学園では車椅子に乗るつもり?」
「もちろんですわ。私は幼い頃に足に火傷を負って歩けなくなった設定ですもの」
エデル様の治療のおかげで、足は完治し、松葉杖なしで歩けるようになりました。
走ることも、ダンスも、木登りも余裕でできます。
火傷の痕もきれいさっぱりなくなりましたわ。
「僕はアリシアが車椅子で学園に通うことに賛成だよ。車椅子なら介護者の付き添いが必要だからね。なんの遠慮もなく君の側にいられる。それにパーティに参加しても君をダンスに誘う輩も現れない」
エデルはとても嬉しそうにほほ笑んでいた。
エデルが私に抱きつき、ほっぺにキスをした。
犬に舐められたようなものですわ。エデルが私に惚れているなんて、思いあがった感情は持てませんわ。
「アリシアのことは僕が守るからね。アリシアずっと一緒だよ」
妖艶な笑みを浮かべるエデルに不覚にもときめいてしまったことは、エデルには内緒です。
入学式まであと一カ月。入学準備は着々と進んでいく。
スタン殿下、入学式で会えるのを楽しみにしていますわ。
そのときは地獄への片道切符を差し上げますから、旅立つ準備をしておいてください。
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