上 下
11 / 26

11話「迷惑な来訪者」

しおりを挟む



私が十歳の誕生日にタイムリープしてから、五年の月日が流れました。

第二王子のファルケ殿下が十歳になったのを機に、国王陛下がファルケ殿下を王太子に任命されました。

ファルケ殿下が立太子されたことは、スタン殿下にとって寝耳に水だったらしい。

スタン殿下には側近もお友達もいないから、誰もスタン殿下に情報を伝えませんものね。

世情に疎くなるはずです。

「スタンは学園を卒業すると同時に王位継承権を剥奪し、王族から除籍する。何もしなければスタンは卒業後と同時に平民になる。平民になりたくなければ学園を卒業する前に、婿入り先を決めておくのだな」

陛下にそう言われたとき、スタン殿下は唇をかみ、手を握りしめ、恨みのこもった目で陛下を睨んでいたそうです。(お父様情報)

本来ならスタン殿下の母親の実家のハッセ子爵家が没落した時、スタン殿下に処分がくだされていても不思議はなかったのです。

ハッセ子爵家が没落した当時、スタン殿下が成人前だったこともあり、市井で一人で暮らすのは難しいと判断され、今まで処分が保留になっていた。

スタン殿下は、学園を卒業するまで猶予を貰えたことに感謝すべきですわ。

その猶予を与えたのは私とお父様なんですが。

今頃スタン殿下は、必死になって婿入り先を探していることでしょう。

スタン殿下のことだから、下位貴族は嫌だ、地方は嫌だ、とわがままを言ってそうですわね。

選り好みできる立場ではないのに、愚かですわ。

十五歳にもなれば、大概の貴族令嬢には婚約者がいます。

跡継ぎともなれば、なおのこと早くから婚約者を決めていますわ。

婚約者がいない高位貴族は限られています。

そうなるとスタン殿下の次の行動は……。

「アリシア! フォスター公爵! いるのは分かって居る! とっとと出てきて俺をもてなさせ! お前の家の傷物の娘を、この俺様がもらってやるって言ってるんだ!! ありがたく思え!!」

公爵家の門前でスタン殿下アホが叫んでいる。

先触れも出さずにやってきて、当主がいないとわかると邸の前で暴言を吐き、暴れる。

門前にいるのはどこの山猿でしょう? 

宮廷ではスタン殿下の教育を猿に任せたのでしょうか?

「俺にこんな扱いをしていいと思っているのか!! 父上に言ってお前たちを不敬罪に問うてやるからな!!」

国王陛下より、スタン殿下が訪ねてきても門前払いしていい、という許可を頂いております。

フォスター公爵家が不敬罪に問われることはありません。

「くそっ! 覚えていろ!! 今日のことは必ず後悔させてやるっっ!!」

二時間ほど放置して置きますと、スタン殿下は捨て台詞を残して帰っていきました。

「あれが噂の第一王子? 想像以上だね」

向かいの席に座るエデルが苦笑いを浮かべた。

せっかく隣国から茶葉を取り寄せたのに、お茶がまずくなってしまいましたわ。

あんな出来損ないのポンコツ王子に惚れていたなんて、前世の私は見る目がありませんでしたね。

やり直し前の世界では、私がスタン殿下に惚れたことで、スタン殿下はフォスター公爵家の後ろ盾を得て、スタン殿下のような愚物が王太子になってしまった。

その結果、ファルケ殿下のように優秀な方が日陰を歩くことに……。

恋は盲目といいますが、やり直す前の世界の私の罪は重いですわ。

やり直し前の世界で私が卒業パーティで殺されたのは、愚王を作らないための神の処置だったのかもしれません。

「放っといていいのアリシア? あの様子だとスタン殿下は君を諦めていないよ。学園に入学したら、スタン殿下はこれ幸いと君に絡んでくんじゃないかな」

エデル殿下が心配そうな顔で尋ねてきた。

来月は学園の入学式がある。

私は十歳の誕生日から足の怪我を理由に、招かれた全てのパーティに断りの返事を書いてきました。

パーティには出席しない、公爵家を訪ねても門前払い。

私と接点を持ちたかったら、学園に通うしかありません。

スタン殿下のことですから、学園に入学したら陛下の監視から開放され、やりたいほうだいできると思っているのでしょうね。

王族が監視の目から開放されることなんてないのに。そのことに気づけるほど、スタン殿下は賢くないですからね。

「それが狙いですわ」

「学園でスタン殿下にわざと騒動を起こさせる気か?」

「ええ、あの方の愚かさ加減を皆に知ってもらういい機会だと思いますの」

スタン殿下に貴族の婿に入って、ぬくぬく暮らすなんてさせませんわ。

処分を下すなら徹底的にやらないと。スタン殿下には絶望を味わっていただきますわ。

「それにしてもエデル、本当に私と一緒に入学いたしますの?」

「もちろんだよアリシア。婚約者を放っておけない。スタンアホ王子に狙われているなら尚更ね」

今、スタンと書いてアホと読んでなかった?

エデル様は私より三年も年上。エデルを狙う暗殺者の驚異は三年前に解消されている。

毎度毎度毎度……屋敷を狙ってくる暗殺者にお父様が切れて、暗殺者の黒幕を退治したのです。

ゼーマン帝国では第一皇子と第二皇子は廃嫡になり、皇妃は幽閉された。

皇帝の弟が次の皇太弟に任ぜられることで、ゼーマン帝国の揉め事は解決した。

暗殺者の脅威がなくなったのでエデルは国に帰ることも可能だ。

しかしエデルは、フォスター公爵家の居心地が気に入ったのか未だにフォスター公爵家に留まっている。

しかも何かあれば私にベタベタとくっついてくるし、過保護な発言を連発してくる。

エデルは三年前に学園に入学できた。

しかしエデルは私と一緒じゃなければ嫌だと駄々をこねて、入学を見送った。

私、エデルに愛されているのかしら? それともただなつかれてるだけ?

どちらにしても、愛されてるなんて思い込みを持つのはやめておきましょう。

やり直す前の人生では、愛されてると思っていた婚約者に婚約破棄され、なつかれてると思った義弟に裏切られて、殺されたのですから。

あんな惨めな思いをするのは一度で充分ですわ。

言っておきますが、エデルは勉強ができなくて学園に通えなかった訳ではありませんわよ。

エデルは学者になれるほど優秀なんですからね。

「分かりました。エデル一緒に学園に通いましょう」

「アリシアは学園では車椅子に乗るつもり?」

「もちろんですわ。私は幼い頃に足に火傷を負って歩けなくなった設定ですもの」

エデル様の治療のおかげで、足は完治し、松葉杖なしで歩けるようになりました。

走ることも、ダンスも、木登りも余裕でできます。

火傷の痕もきれいさっぱりなくなりましたわ。

「僕はアリシアが車椅子で学園に通うことに賛成だよ。車椅子なら介護者の付き添いが必要だからね。なんの遠慮もなく君の側にいられる。それにパーティに参加しても君をダンスに誘う輩も現れない」

エデルはとても嬉しそうにほほ笑んでいた。

エデルが私に抱きつき、ほっぺにキスをした。

犬に舐められたようなものですわ。エデルが私に惚れているなんて、思いあがった感情は持てませんわ。

「アリシアのことは僕が守るからね。アリシアずっと一緒だよ」

妖艶な笑みを浮かべるエデルに不覚にもときめいてしまったことは、エデルには内緒です。

入学式まであと一カ月。入学準備は着々と進んでいく。

スタン殿下、入学式で会えるのを楽しみにしていますわ。

そのときは地獄への片道切符を差し上げますから、旅立つ準備をしておいてください。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

目を覚ました気弱な彼女は腹黒令嬢になり復讐する

音爽(ネソウ)
恋愛
家族と婚約者に虐げられてきた伯爵令嬢ジーン・ベンスは日々のストレスが重なり、高熱を出して寝込んだ。彼女は悪夢にうなされ続けた、夢の中でまで冷遇される理不尽さに激怒する。そして、目覚めた時彼女は気弱な自分を払拭して復讐に燃えるのだった。

【完結】もう誰にも恋なんてしないと誓った

Mimi
恋愛
 声を出すこともなく、ふたりを見つめていた。  わたしにとって、恋人と親友だったふたりだ。    今日まで身近だったふたりは。  今日から一番遠いふたりになった。    *****  伯爵家の後継者シンシアは、友人アイリスから交際相手としてお薦めだと、幼馴染みの侯爵令息キャメロンを紹介された。  徐々に親しくなっていくシンシアとキャメロンに婚約の話がまとまり掛ける。  シンシアの誕生日の婚約披露パーティーが近付いた夏休み前のある日、シンシアは急ぐキャメロンを見掛けて彼の後を追い、そして見てしまった。  お互いにただの幼馴染みだと口にしていた恋人と親友の口づけを……  * 無自覚の上から目線  * 幼馴染みという特別感  * 失くしてからの後悔   幼馴染みカップルの当て馬にされてしまった伯爵令嬢、してしまった親友視点のお話です。 中盤は略奪した親友側の視点が続きますが、当て馬令嬢がヒロインです。 本編完結後に、力量不足故の幕間を書き加えており、最終話と重複しています。 ご了承下さいませ。 他サイトにも公開中です

天才手芸家としての功績を嘘吐きな公爵令嬢に奪われました

サイコちゃん
恋愛
ビルンナ小国には、幸運を運ぶ手芸品を作る<謎の天才手芸家>が存在する。公爵令嬢モニカは自分が天才手芸家だと嘘の申し出をして、ビルンナ国王に認められた。しかし天才手芸家の正体は伯爵ヴィオラだったのだ。 「嘘吐きモニカ様も、それを認める国王陛下も、大嫌いです。私は隣国へ渡り、今度は素性を隠さずに手芸家として活動します。さようなら」 やがてヴィオラは仕事で大成功する。美貌の王子エヴァンから愛され、自作の手芸品には小国が買えるほどの値段が付いた。それを知ったビルンナ国王とモニカは隣国を訪れ、ヴィオラに雑な謝罪と最低最悪なプレゼントをする。その行為が破滅を呼ぶとも知らずに――

幼馴染みとの間に子どもをつくった夫に、離縁を言い渡されました。

ふまさ
恋愛
「シンディーのことは、恋愛対象としては見てないよ。それだけは信じてくれ」  夫のランドルは、そう言って笑った。けれどある日、ランドルの幼馴染みであるシンディーが、ランドルの子を妊娠したと知ってしまうセシリア。それを問うと、ランドルは急に激怒した。そして、離縁を言い渡されると同時に、屋敷を追い出されてしまう。  ──数年後。  ランドルの一言にぷつんとキレてしまったセシリアは、殺意を宿した双眸で、ランドルにこう言いはなった。 「あなたの息の根は、わたしが止めます」

精霊の愛し子が濡れ衣を着せられ、婚約破棄された結果

あーもんど
恋愛
「アリス!私は真実の愛に目覚めたんだ!君との婚約を白紙に戻して欲しい!」 ある日の朝、突然家に押し掛けてきた婚約者───ノア・アレクサンダー公爵令息に婚約解消を申し込まれたアリス・ベネット伯爵令嬢。 婚約解消に同意したアリスだったが、ノアに『解消理由をそちらに非があるように偽装して欲しい』と頼まれる。 当然ながら、アリスはそれを拒否。 他に女を作って、婚約解消を申し込まれただけでも屈辱なのに、そのうえ解消理由を偽装するなど有り得ない。 『そこをなんとか······』と食い下がるノアをアリスは叱咤し、屋敷から追い出した。 その数日後、アカデミーの卒業パーティーへ出席したアリスはノアと再会する。 彼の隣には想い人と思われる女性の姿が·····。 『まだ正式に婚約解消した訳でもないのに、他の女とパーティーに出席するだなんて·····』と呆れ返るアリスに、ノアは大声で叫んだ。 「アリス・ベネット伯爵令嬢!君との婚約を破棄させてもらう!婚約者が居ながら、他の男と寝た君とは結婚出来ない!」 濡れ衣を着せられたアリスはノアを冷めた目で見つめる。 ······もう我慢の限界です。この男にはほとほと愛想が尽きました。 復讐を誓ったアリスは────精霊王の名を呼んだ。 ※本作を読んでご気分を害される可能性がありますので、閲覧注意です(詳しくは感想欄の方をご参照してください) ※息抜き作品です。クオリティはそこまで高くありません。 ※本作のざまぁは物理です。社会的制裁などは特にありません。 ※hotランキング一位ありがとうございます(2020/12/01)

半月後に死ぬと告げられたので、今まで苦しんだ分残りの人生は幸せになります!

八代奏多
恋愛
 侯爵令嬢のレティシアは恵まれていなかった。  両親には忌み子と言われ冷遇され、婚約者は浮気相手に夢中。  そしてトドメに、夢の中で「半月後に死ぬ」と余命宣告に等しい天啓を受けてしまう。  そんな状況でも、せめて最後くらいは幸せでいようと、レティシアは努力を辞めなかった。  すると不思議なことに、状況も運命も変わっていく。  そしてある時、冷徹と有名だけど優しい王子様に甘い言葉を囁かれるようになっていた。  それを知った両親が慌てて今までの扱いを謝るも、レティシアは許す気がなくて……。  恵まれない令嬢が運命を変え、幸せになるお話。 ※「小説家になろう」「カクヨム」でも公開しております。

妹に婚約者を結婚間近に奪われ(寝取られ)ました。でも奪ってくれたおかげで私はいま幸せです。

千紫万紅
恋愛
「マリアベル、君とは結婚出来なくなった。君に悪いとは思うが私は本当に愛するリリアンと……君の妹と結婚する」 それは結婚式間近の出来事。 婚約者オズワルドにマリアベルは突然そう言い放たれた。 そんなオズワルドの隣には妹リリアンの姿。 そして妹は勝ち誇ったように、絶望する姉の姿を見て笑っていたのだった。 カクヨム様でも公開を始めました。

ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました

杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」 王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。 第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。 確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。 唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。 もう味方はいない。 誰への義理もない。 ならば、もうどうにでもなればいい。 アレクシアはスッと背筋を伸ばした。 そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺! ◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。 ◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。 ◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。 ◆全8話、最終話だけ少し長めです。 恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。 ◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。 ◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03) ◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます! 9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!

処理中です...