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2章 学園パートの始まり

第17話 悪役貴族の青春学園生活(絶望編) 1

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 実技試験の翌日、貴族科では所属クラスが発表された。

「レオ君っ! 一緒のクラスだね!」

「うん。今後ともよろしくね」

 俺は最上位のAクラスに配属することとなり、無事にリリたんと甘い青春を送る準備が整ったってわけだ。

 しかし、懸念点もある。

「…………」

 Aクラスには勇者であるリアム・ウェインライトも所属しているのだが、初日から妙に視線を向けられるのだ。

 何だろう……。向こうはタイミングを図っているような雰囲気を出しつつも、俺をチラチラと見てくるのだが……。

「リアム、私の隣にお座りなさい?」

「あ、うん」

 彼がチラチラと俺を見てくるタイミングで、メインヒロインである侯爵令嬢マリア・レイエスがリアムに話しかける――という流れが続く。

 となると、当然ながらマリア嬢も俺をチラリと見てくるわけで。

 一体何なんだよ、これは。

「レオ君、一緒にご飯食べよ?」

「うん」

 まぁ、いいか!

 今はリリたんとの青春学園生活に集中しちゃお!

 勇者に関係するイベントが始まるのはまだ当分先だし、本来悪役として登場する俺も現段階では登場しないことになっているし。

 イベントの合間、学園生活が始まったばかりの今くらいは推しキャラとの青春を楽しんじゃってもいいよね!

 ――こうして、俺の青春学園パートが始まったわけだ。

 授業を受ける際はリリたんの隣に座り、真面目に授業を受ける彼女の横顔を堪能する。

「……♪」

 たまにリリたんは俺の視線に気付くと、可愛い笑顔を向けてくれるのだ。

 時にはノートの端っこに「授業が終わったら遊びに行かない?」なんて筆談を交わし、マイヒロインとの放課後デートを楽しむ。

「レオ君っ! 今日は東区を見て回ろう? 面白いお店が見つかるかもっ!」

 最初のデートの延長戦と言わんばかりに街ブラを楽しんだり。

「あ、アイスが売ってる! 一緒に食べよう?」

 別の日にはアイスを買って、ベンチに座りながら一緒に堪能したり。

 また別の日は目的もなく王都の中を歩き、結局はカフェでお茶しながらお喋りしてみたり。

 ……青春だ。

 これほどまでに充実した生活を送ったことがあっただろうか? 

 今の俺は前世で憧れていた全ての青春を体験している。

 ――しかし、この時の俺は充実した青春学園生活に夢中になりすぎていたと言わざるを得ない。 

 自身が掲げた『自分とリリたんの死亡フラグを折る』『勇者にはなるべく近付かない』という事項に対し、少々油断しすぎていたのだ。

 その結果……。

「ハーゲット君、少しいいかな?」

 授業の合間、便所へ向かうタイミングで勇者リアムに声を掛けられてしまった。

 振り向くと、リアムの顔には真剣な表情が浮かんでいる。

 マズい。

 完全に油断していた。

 ここ数日チラチラ見てきていることから、相手が何かしらのアクションを起こそうとしていることは簡単に察することができたじゃないか。

 なのに、話しかけるタイミングを自ら作ってしまうなんて。

 俺の馬鹿! ばか、ばか、ばか!

 しかし、こうして声を掛けられてしまっては……。露骨に無視するわけにもいくまい。

「へ、へえ! 子爵家のご子息がド田舎男爵家の芋息子に何の御用でございやしょう!?」

 俺は手を揉み揉みしながら下手に出ることにした。

 本来、子爵家に対しては「ハァン? 一つ上の爵位程度で偉そうにしてんじゃねえ!」が基本スタンスなのだが、今回ばかりは自分の信念を曲げてでも態度を変えるよ。

 変なやつだって感じて距離取ってくんねぇかな。

「そんな態度はよしてくれ。学園生活に実家の爵位なんて関係ないじゃないか。クラスメイトでしょう?」

 しかし、リアムは爽やかな笑みを浮かべながら「爵位は関係ない」と言う。

 これが普通のやり取りならね。

 リアムって良いヤツなんだなって思うだろうよ。

「ちょっと聞きたいことがあって」

「な、なに?」

 何を問われるんだ。

 今、俺の心臓はヘヴィメタレベルにドゥンドゥク跳ねてる。

「実技試験で戦った時のことなんだけど……。君、手加減してた?」

 ふぁああああああ!?

 演技が足りませんでしたかああああ!?

「僕以外の人と戦っている君の動きは凄く鋭かったように思えるんだ。僕と戦っていた時も途中までは……。でも、最後だけどうにも納得できなくて」

 クソッタレがッ!!

 こいつ、しっかりと違和感を感じ取ってやがった!!

 だから才能に恵まれたは嫌いだッ!!

「本来なら僕は負けていたと思うんだけど……。ごめん、自惚れとかじゃなくて、こう……。あの日からずっとモヤモヤしているんだ」

 問うた本人は本当に申し訳なさそう。

 才能があって人も良いとか、さすがは主人公だよ。

 ――さて、どうする?

 どうやってこの状況を脱する?

 俺のは脳内に住む自分の分身達に緊急会議を実施させた結果……。

「……実は過去に色々あって」

 露骨に落ち込むような雰囲気を纏う。

「実家の領地に住む同年代からは少し避けられていてね」

 導き出した選択は「過去に何かあった感を出す」という作戦だ。

「……君の強さが原因で?」

「…………」

 リアムの問いに対し、俺は弱々しく笑うだけ。

 否定も肯定もしていないから嘘はついていない。

 同年代に避けられてたって部分は嘘だけど。むしろ、オークをぶっ殺したおかげで尊敬の眼差しで見られていたけど。

 何にせよ、向こうは肯定と取ったのだろう。

「でも、最初の方の模擬戦では普通に戦っていたよね?」

 あっ!? やべっ!! リアム以外のやつには普通に戦ってたじゃん!

 ここを指摘されるとマズい! と思ったのだが、言葉を出せずにオロオロしているとリアムの顔がハッとなった。

「あっ! もしかして、それが原因? 試験で戦っているうちに過去を思い出しちゃったとか?」

 おや?

「ご、ごめんね」

 勝手に解釈して勝手に謝罪してきたぞ?

 ………。

 ――ククク。計算通りッ!!

 お優しい勇者様には効果てきめんみてえだなぁ!

 俺は内心ほくそ笑み、このままの流れでフィードアウトできるかと思っていたのだが。

「でも! この学園に君の強さを否定する人はいないと思うよ? もっと自信と誇りを持っていいと思うんだ!」

 お優しい!

 でも、その優しさは今の俺にとって邪魔なんだよ!

 どうしよう、どうしよう……。

「で、でも、俺は田舎育ちだし、男爵家の人間だし……」

 苦し紛れに再び爵位を持ち出すも、リアムは俺の両肩に手を置いて首を振る。

「爵位なんて関係ないよ! それに爵位が必要なら君が強くなって功績を立てればいいじゃないか! 君が実力を示せば、周りの大人達もきっと認めてくれるはずだよ!」

 彼は真剣な顔で俺を真っ直ぐ見つめ、更に言葉を続ける。

「爵位が低いせいで馬鹿にされるのなら見返してやろう! 強さを示して、君の強さは必要だったのだと故郷の友人達に教えてやろう!!」

 ゲェーッ!!

 こいつはまごうことなき勇者だ! 馬鹿みたいにギンギラギンに輝く勇者様だッ!!

 弱者を見捨てず、己の正義を貫かんとする超模範的な勇者だ!!

「え、ええ……?」

 ここまで熱く説得されるとは思わなかった。

 女だったら確実に下半身びしょ濡れにしながら頬を赤らめていると思うよ。

 残念ながら俺は男なのでドン引きしてますけどね。

 ど、どうすりゃいいんだ? どうすればこの勇者から無関心を勝ち取れるんだ?

 脳をフル回転させるが、妙案は浮かんでこなかった……。

「明日の授業に実技があるでしょ? その時間にまた僕と戦おう!」

 成長することに積極的なリアムは熱い握り拳を見せる。

「君と戦うことで僕も強くなれる気がするんだ!! 君も共に強くなろう!!」

 熱血すぎません?

 設定資料集に「設定では熱血キャラです」なんて書かれていなかったと思うけど?

 プレイヤーの呪縛から解放された勇者ってこうなるものなの? 

「い、いや……」

「大丈夫! じゃあ、明日ね!」

 何が大丈夫なの!? 俺は全然大丈夫じゃないけど!?

 あまりの熱血っぷりと積極性に愕然としていると、リアムは爽やかな笑顔を浮かべて「次の授業、始まるよ!」と言いながら教室に戻って行ってしまう。

「ええ……」

 俺は彼の背中を見送ることしかできなかった。

 次の授業が開始される鐘の音と共に、俺は絶望しながら膝から崩れ落ちた……。
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