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2章 学園パートの始まり

第15話 実技試験 1

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「こ、こんばんは……」

「おっ!? あ、ああ、こんばんは……」

 驚いた。

 隣の部屋から出てきたのは、背の小さな女の子――にしか見えない男子……だよな?

 彼? はシャツにズボンという簡単な格好ではあるものの、顔が……。

 どう見ても顔が女の子にしか見えないほど童顔だ。青い髪も肩まで伸びたセミロングだし。

 更に華奢で体の線が細く、肌が白いことも女の子感を強める要因だと思う。

「――っ」

 俺がジロジロ見てしまったせいか、隣の住人は俺に背を向けて廊下を歩きだす。

 体を小さくするように背を丸め、オドオドしながら小走りする姿は不審者にしか見えなかったが。

「……どっちなんだろう?」

 いや、ここは男子寮だし、男に決まっているはずなんだが……。

 いまいち自分の答えを信じきれない。

 何にせよ、これから卒業まではお隣さんになるんだし、距離感は大切にしたいよな。

 そんなことを考えつつも、部屋に荷物を置いて息を吐く。

 時計を確認すると夕飯の時間まであと三十分程度となっていた。

「ちょいと早いが行くか」

 食堂の見学も兼ねて早めに出よう。

 再び鍵を持って部屋を出ると、寮の一階にある食堂へ向かった。

「めっちゃ広い」

 寮の食堂と聞くと、前世の学生時代に利用していた学食のイメージが強かった。

 だが、こちらの食堂は高級レストランだ。

 西側は一面ガラス張りで外の景色が見える作りになっているし、多数用意された席は一人から四人掛け用の丸いテーブルとやや豪華なイスが用意されている。

 肝心のキッチンは壁で遮られて見えなかったが、食事は注文形式で提供されるらしい。

 食堂勤め? らしきメイドさんに声を掛けて一人掛け用の席へ案内してもらうと、テーブルにはメニュー表が置いてあった。

 メニュー表には『四月のメニュー』とあるので、もしかしたら月毎にメニューが変わるのかもしれない。

 これは楽しみだ。

 メニューを見ていると、続々と生徒達が現れ始めた。

 既に友人を引き連れている者も見られるが、あれは家に仕える従者の子だろうか?

 貴族科は貴族に連なる者しか所属できないクラスだが、逆に言えば貴族家(主家)との関係性が強い家の子も同時に入学できる仕組みだ。

 領騎士団団長の息子とかね。あとは親父の右腕となる家臣の息子とか。

 うちはそういうのが無いので、友達を作らない限りはぼっち飯なのだが。

 それはさておき、さっさと食事を済ませよう。腹減ったし。

 メイドさんを呼ぶにはベルを使用するらしく、お上品にベルをチリンチリンと鳴らすとボブヘアーなメイドさんがメニューを聞きにやって来てくれた。

「すいません、ここからここまで下さい」

 高級レストラン風の食堂ということもあって、メニューは『〇〇と〇〇の季節パスタ』だとか『〇〇領で採れた白身魚を使ったマリネ』だとかよくわからんモンが多い。

 美味いもんを見つけるついでに、今日はメニュー表の左半分を全て注文。

 タダな上に料理数に制限はないからこそできる芸当だ。

「……承知しました」

 メイドさんは「こいつマジかよ」って顔してたけどね。

 こちとら育ち盛りだからしゃーないわ。

 数分後、続々と料理が運ばれてくる。

 最初は軽いサラダ系から始まったが、メイン料理のパスタとかも美味そうじゃないか。

「……すごい食べるんだね」

 そう声を漏らしたのは、隣に座る男子生徒。

 俺と同じくぼっち飯を決め込むメガネを掛けた子だった。

「体を鍛えるためにもたくさん食わなきゃいけないからね」

 相手の家柄がどんなもんは知らないが、話しかけてきたのは向こうだからね。

 いつもの調子で返すも、向こうが「不敬だ!」とか言い出さなくてよかったよ。

「なるほど。騎士志望かい?」

「そんなところかな。おたくは?」

「僕は魔法研究方面に進む予定だよ」

 魔法研究方面ってことは、王都にある王立魔法研究所に進むつもりなのかな。

 家を継ぐと言わないってことは、彼は貴族家の次男・三男坊あたりなのだろう。

 貴族家に仕える魔法使いの家系なら、領地に戻って魔法使いになるって言うだろうし。

 こういった実家を継げない連中は実家を出て自立しないといけないため、進路希望は騎士・魔法研究・文官の三つに分かれるのがほとんど。

 貴族家出身のやつが騎士になれば自然とエリートコースに乗れるし、魔法研究を行う研究者に関してもそこそこ実力があればエリートコース。

 文官に関しても将来は〇〇局のお偉いさんになるのは確実だろう。

 貴族家出身というだけあって、何もない平民よりは確実に上へ行ける。どの分野でも平民の部下を従える指揮官になれるってわけだ。

 やっぱり血筋ってのは恐ろしいよな。良くも悪くも。

「お互い大変だね」

「そうだね。まずは明日の試験でAクラスに入らないと」

 気合を入れるメガネ君に「そうね」と返しつつ、俺は続々と届く料理を食い続けた。


 ◇ ◇


 翌日、いつも通りの時間――朝の四時に目が覚める。

「……走ろう」

 八歳の頃から続けている朝のルーティーンは欠かせない。

 動きやすい服に着替えたあと外に向かう。

 ランニングコースは王都一周にしておこう。

 足りなかったら二周走ればいいや。

 しかし、畑と山しかなかった実家と比べて……。街中をランニングするってのも新鮮でいいね。

 毎日続けていれば新しい発見が見つかりそうだ。

 ランニングを終えたあとは寮の庭で筋トレ。

 終えたら部屋の洗面台で顔と頭を洗ってスッキリだ。

 その後もルーティーン通り朝食を済ませるのだが、次から新しい日課が始まる。

 制服に袖を通し、首には貴族科を示す青いネクタイを巻くこと。

 制服に着替えることが新しくルーティーンに加わるってわけだ。

 貴族科の制服は青のジャケットにシャツとズボンが白。

 青いやつは貴族か、その関係者ってことになるので分かり易い。

 因みに、平民は濃い茶のジャケットとグレーのズボン。ネクタイの色は赤である。

「悪くない」

 青と白の組み合わせになった制服を身に着けて、鏡の前に立つがなかなか悪くない。

 母様譲りの顔面偏差値は学園の制服も見事に着こなしている。

「さて、行こう」

 入学一発目は入学式みたいな行事から始まる。

 学園長のありがた~い言葉を大きな講堂で聞き、そこから講師の案内で空き教室へ案内されて筆記試験開始。

 前世に比べて筆記試験のレベルはかなり落ちるので、筆記試験に関しては問題ないだろう。

 問題は次の実技試験だ。

「実技試験に関しては、皆さんの得意分野に合わせて行います」

 野外にある訓練場に案内されると、とんがり帽子を被った女性講師が試験の内容を語るのだが、これは将来の進路に合わせてという意味だ。

 魔法使い志望の生徒は前半の「魔法試験」に。文官志望もこちら。

 騎士志望の生徒は後半に行われる「模擬戦」で実力を見るらしい。

 後半の模擬戦志望の生徒は列から外れて待機してくれ、という旨が語られた。

「あの~。自分は魔法も体術も使うのですが」

 俺はどっちなのだろう? と思って講師に問うてみる。

「ああ、魔法剣士かな? でしたら、どちらも受けて下さい」

 ……どっちの成績も加点されるのだろうか? されなきゃやってらんが。

 言われた通り魔法の試験も受けることになったのだが、待っている間に見れたのは愛しのリリたんが試験を受ける様子である。

 制服に身を包みつつ、髪もポニーテールに。

 ゲームプレイ中に見慣れた姿は、やはり可愛い。

 いや、どんな姿でも可愛い!

「やっ!」

 愛しのリリたんは見事なファイアランスを構築し、的である案山子に向かって発射する。

 速度・威力共に平均より上だろうか。

 魔法が衝突した案山子には黒い焦げ跡が残っており、他の生徒よりも焦げ跡の規模が大きい。

「えへへ」

 そして、なんとリリたんは俺を見つけて手を振ってくれたのだ。

 かわいいっ!

 そんでもって、次に目撃したのは――

「マリア・レイエスですわ」

 薄緑色の長い髪、毛先が三周ほどドリルってるのが特徴的な貴族令嬢。

 後に勇者パーティーの一人となるレイエス侯爵家のお嬢様、マリア・レイエスの実力披露である。

「おいきなさい!」

 彼女が放ったのも中級魔法の代名詞であるランス系であるが、彼女は得意とする風魔法のウインドランスを放った。

 放たれた瞬間、他とは違うという格の違いを見せつける。

 超高速で放たれたウインドランスは案山子の腹を貫通しながら破壊し、更には奥にあった分厚い壁にまで突き刺さる。

 壁には衝突した跡が残り、周囲からは「おおー!」と賞賛の声が上がった。

「ふふん! 当然の実力ですわ!」

 手で髪を払う彼女はドヤ顔まで披露するが、魔法に関してはさすがとしか言いようがない。

 学園一の魔法使いであり、魔王討伐の道中で数々の功績を挙げるに相応しい実力だ。

 加えて、侯爵家と家柄も良く、ナイスバディで顔面偏差値もトップクラスなんだからね。

 そりゃメインヒロインの一人になれますわ。

 そんな面白いものを目撃しつつも、遂に俺の番が回ってきた。

 まずは自身のプロフィールを伝えるところからスタート。そして、次は得意な魔法について伝える。

「君はどの魔法を使うの?」

「無属性魔法の衝撃波です」

 女性講師に告げると、後ろから「ぷっ。初級魔法かよ」という声が聞こえてきた。

 チラリと後ろを確認すると――おやおや、悪役みたいにイキってる貴族の坊ちゃんが笑いを堪えているじゃないか。

 周りの連中も釣られて笑いそうになってやがるが……。

「自分の魔法は的を殴らないと本来の威力を発揮できないんですが、殴ってもいいですか?」

「殴る……。魔法剣士?」

 女性講師は困惑するように首を傾げるが、確かに俺のような魔法の使い方は稀だろう。

 度々出てくる魔法剣士は剣に魔法を付与して戦う連中だが、俺は剣なんぞ持っていないしね。

 そんな状態で「的を殴りたい」と言うのだから、彼女が首を傾げるのも当然だ。

「まぁ、構いませんよ」

「どうも」

 というわけで、一発かましてやろうじゃないの。

「フゥゥ……」

 深く深呼吸をした後、俺は全力で的へ駆ける。

 走りながら拳を溜め、更には拳に魔法陣を貼り付け――

「ンダラァァァッ!!」

 全力でぶちかました。

 野外訓練場には強烈な爆発音が響き渡り、大量の土煙が舞う。

 拳が衝突した案山子の首は千切れるようにもげ、破片を散らしながら大部分が奥の壁に衝突した。

『…………』

 おやおや、皆さんダンマリかね? もっと「おー!」とか「うー!」とか言ってくれないの?

 講師に元に戻ると、彼女は驚きの表情のまま「今のは?」と問うてくる。

「衝撃波ですよ」

「……私が想像していた衝撃波とはだいぶ違うようですが」

 このタイミングで先ほど笑っていた貴族の坊ちゃんに名前を問う。

「……アーバン子爵家の長男、アダムだ」

 おいおい、子爵家かよ! うちの一個上じゃん。

 だがな、俺が子爵家如きにヘコヘコすると思ったら大違い。

 俺がヘコヘコするのは伯爵家以上からだからね。

 名前を聞いた後、再び女性講師に顔を向けた。

「パンチに衝撃波の威力を加えたと言えばいいでしょうか? 案山子のアダム君を簡単に粉砕したように、魔物の頭も吹っ飛ばせますよ」

 講師にニコリと笑みを浮かべつつ、そのまま後ろに並んでいたアダム君にも笑顔を向ける。

「自分はオークの顔面をぶっ飛ばしたこともありますが、人間の顔ならもっと簡単に粉砕できるでしょうね」

 笑顔の裏に「テメェみたいなイキり坊主、いつでも殺れるぞ? オオン?」と意味を込めて言ってやった。

「そ、そうですか。試験は以上になります。次は模擬戦の方へ向かって下さいね」

「分かりました」

 女性講師に頷きつつも、アダム君の真横を通り過ぎる際には邪悪な笑みを浮かべてやる。

「…………」

 アダム君、膝が笑っちまってるぜ。チビっちまったかな?

 本物の悪役貴族を舐めちゃいかんよ。

 ヘッヘッヘッ!!
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