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本編

114 地上攻略開始

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 リリィガーデン王国主力部隊は敵基地に到達する前に補給を終える。

 そのタイミングで戦艦にいるリーズレットから『先制攻撃で敵基地前面に展開された兵器に行う。初撃が当たったと同時に突撃せよ』と連絡が入った。

 敵基地前面にはミサイルを積んだ自走兵器、魔法防御を展開した兵器と砲を積んだ魔導兵器や対空兵器。

 加えて連邦や共和国から買い上げたであろうドラゴンライダーが空を警備して、ミサイルの発射準備を進めているように見えた。

「そろそろか」

 双眼鏡で敵基地の様子を覗き見るマチルダがそう呟くと、情報部の軍人が空を指差しながら叫ぶ。

「来ます!」

 マチルダが空を見上げると、そこには6時間前に敵の基地を攻撃したレディ・バスターが見えた。

 今度は同時に3発のレディ・バスターが落ちて来るが、敵も当然ながら学習しているだろう。

 拡散して驚異的な威力を発揮する前に対空兵器で撃ち落すつもりのようだ。

 敵基地に展開された対空兵器が起動し、保険として魔法防御を発生させる魔導兵器が起動する。

「全軍、突撃準備ッ!」

 マチルダは魔導車に飛び乗り、全軍がエンジンをスタート。

 最前列にはサリィの駆る機動戦車がスタンバイ状態で待機する。

 空中から落ちて来るレディ・バスターの内、1つが対空兵器で破壊されてしまった。

 しかし、残り2つは無事に拡散に成功。再び小さな杭がマギアクラフト兵達の頭上から降り注ぐ。

 杭は魔法防御に守られていなかった兵器や地面に突き刺さり、驚異的な爆発を見せた。

 敵が受けた被害は攻撃型魔導兵器が3機破壊され、巻き添えを食らった兵器が100人程度といったところか。

「いきますぅ!」

 リリィガーデン王国主力部隊は作戦通りに突撃を開始。先頭を行くサリィは走り出しながら敵の魔法防御兵器に狙いを定めた。

『一気に決めるべく、出し惜しみはナシ』

 そう命令を受けたサリィは主砲にAMBを装填。

 敵基地正面に位置する魔法防御兵器に向かって主砲を放った。

 敵は魔法防御のおかげで通常弾は無効化すると思っているのだろう。顔には余裕の表情があって、サリィに向けて攻撃型魔導兵器の砲を向けるよう叫ぶ。

 が、2秒後には淡い青色を見せる魔法防御の膜をAMBが突き破った。

 AMB特有の魔法を無効化する性質、それに合わせて機動戦車の持つスペックが合わさって真正面から魔導兵器をぶち抜く。

 ぶち抜いても尚、弾は真っ直ぐ進んだ。後方にあったリフトのシャッターまでも貫いてみせたのだ。

 ただ、その貫徹力を見たマギアクラフト兵達は魔導兵器の爆発に飲まれて驚いた顔のまま、あの世へ行ってしまったが。

「ドラゴンライダーを出せ!」

 前方からリリィガーデン王国軍の軍勢を見た別の者は空飛ぶイーグルとナイト・ホークに対してドラゴンライダーをぶつけようとした。

 空に飛び立ったドラゴンライダーは全部で200以上。

 地上から空を見上げれば視界を覆い尽くすほどのドラゴンが空を舞っているように見えるだろう。

 しかも、今回投入されたのはワイバーンではなく正真正銘のドラゴンだった。

 そのドラゴンに魔導兵器を装着させて、ドラゴン特有のブレスに加えて騎手が中型の魔法弾を連射できるようになっていたのだ。

 機動力に加えて火力を強化した、といった具合である。

 これで制空権を手にして、戦場をコントロールしてやろうという考えだったのだろう。

 が、甘すぎる。

 空の支配者に対し、ドラゴンなんてクソトカゲが対抗できるわけがない。

 ナイト・ホーク、イーグルでさえも敵わぬだろう。

 空は妖精共の狩場と化しているのだから。

 音速で飛来したバトル・フェアリーがミサイルを撃てばドラゴンは空中で爆発四散。

 すれ違いざまに機関砲を放てばドラゴンの分厚い肉は穴だらけになった。

 たった5機。たった5機の無人機に成す術も無く、200以上いたドラゴンは次々に堕ちて行く。

「フゥー! 最高だぜ!」

 ナイト・ホークとイーグルの操縦士達は歓声を上げると、サリィの放つAMBによって魔法防御を失くした敵兵共に掃射を開始。

 空から放たれたロケットランチャー、機銃による掃射。加えて地上の魔導車部隊による制圧射撃に敵兵は圧倒されていく。

「クソッ! 退避を――」

 系統の違う、アイアン・レディ独自の技術で生まれた兵器に押されるマギアクラフト隊。

 退避を選択する者もいるが、逃げる隙など与えられない。なんとか地下まで向かおうとリフトを動かしに走る者もいたが……。

 既にリフトが地上に向かって動き出しているではないか。

 タイミングよく地下まで逃げられそうだ、と思った兵士は背後を気にしながらリフトを待った。

 そして、リフトが地上に到着すると――開くはずのシャッターが開かない。それどころか、一点が赤熱して溶け始めた。

「う、うわあああ!?」

 全体が赤熱し始め、遂にはシャッターがドロドロに溶ける。

 中からは黒い炎が噴き出して、リフトを待っていたマギアクラフト兵を巻き込みながらリリィガーデン王国軍の魔導車隊に炎が伸びた。

 一台の魔導車が完全に炎へ飲まれると一瞬で蒸発するように消え失せる。

「何だ!?」

 辛うじてバックし、難を逃れた魔導車にはマチルダが乗っていた。

 魔導車を一瞬で消し去った黒い炎は徐々に大きくなって、巨大な炎の塊へと変わると爆弾のように破裂して周囲に被害をもたらした。

「あれは……」

 マチルダとは別の位置、ナイフによる近接戦闘を行っていたラムダも異変に気付くと顔をそちらに向けて小さく呟く。

 色と威力は違うが、見覚えのある炎であると彼の感覚が言っていた。

 その証拠に、リフトから姿を現したのは真っ白なセミロングの髪を揺らしながら黒いアーマーを体に纏い、スカート姿の少女。

 魔法少女マキが地上にやって来た。

 ラムダはマキの顔を見ると、見覚えがあると感じる。

 あれは、西部で戦って逃げた魔法少女であるとラムダは思い出す。

 同時に炎を操作する厄介な行動も。 

「あいつッ!」

 部隊に被害を与える前に首を刈ろうと駆け出すが、マキは口角を上げながら手を前に突き出した。

 すると、炎の竜巻が生み出されて空に飛んでいたイーグルが1機飲み込まれてしまう。

 一瞬で破壊され、蒸発してしまったイーグルは残骸すらも地上には落ちない。まるで最初からいなかったと思わせるような、それほどまでに何もかも一瞬で消え失せた。   

「死んじゃえ」

 マキがもう片方手も前に突き出すと、もう1つ炎の竜巻が生まれた。

 今度は魔導車隊の1部を飲み込むが近くで戦闘していたマギアクラフト兵も巻き込んで全てを無にする。

 空高くまで背を伸ばした2つの黒い炎で出来た竜巻。マキが突き出した手を合わせると、竜巻もそれに連動して動き出す。

 2つの炎の竜巻は合体すると巨大な黒い炎で作られた竜に変わる。

 まるで咆哮した竜が空気を振動させるかのようにゴウゴウと燃える炎は、周囲にあった全てを溶かし始めた。

「邪魔ですぅ!」

 炎を散らそうとサリィが通常弾を放つが、弾は炎に着弾した瞬間に消え失せた。

 炎に溶かされ、無効化されてしまったようだ。

 厄介な機動戦車の存在に気付いたマキはそちらを見ると、炎の竜が持つ顔も同じくサリィの駆る機動戦車へ向けられた。

 弾が無効化されてしまうとなれば、不利なのはサリィか。

 コックピット内にいるサリィはどう行動するべきか悩むが――その時、北側の空から1機のナイト・ホークが接近してくる。

「ファッキンマザーファッカアアアア!!」

 戦場に急接近してきたナイト・ホークのドアが開け放たれ、叫び声と共に姿を現したのはロケットランチャーを構えたリーズレットであった。

 彼女はロケットランチャーを炎の竜へ向けて放つ。だが、やはり無効化された。

「チッ!」

 舌打ちしながら地上を見て、そこに魔法少女のマキを見つけると操縦士であるロビィに叫ぶ。

「ロビィ、支援なさい!」

『ウィ、レディ』

 互いに頷き合うと、リーズレットは座席にあった対物ライフルを肩に掛ける。そして、空飛ぶナイト・ホークからジャンプして飛び出した。

 飛び降りるには高すぎる。だが、それは凡人ならばの話である。

 飛び降りたリーズレットは着地の瞬間にパワー・ハイヒールを起動して衝撃を吸収させると華麗に着地を決める。

「クソビッチッ! 決着を付けますわよッ!」

 そして、対物タイフルを手に構えながらマキへと駆け出す。

「望むところよ、お姉様。今度こそ、殺してやるんだからァァッ!」

 対し、リーズレットの姿を見たマキも挑発的に笑いながら魔力を手に溜めて迎え撃つ。

 こうして、最強の淑女であるリーズレットと真の魔法少女となったマキによる最後の戦闘が遂に始まった。
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