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本編
100 2人の魔法少女 1
しおりを挟む挑発的な表情を浮かべながら空飛ぶ箒に跨るマキは、まるで戦闘機のような速さでリリィガーデン王国軍の頭上を駆ける。
「お姉様ッ! 今日こそ私が殺してあげるからねッ!」
彼女はそう言いながら、リリィガーデン王国軍の歩兵に対して炎の魔法を空爆のように落としていく。
落ちた炎の魔法は爆発を起こして訓練を終えたばかりの新兵共を爆殺していった。
魔法の素となる魔素のチャージが少なかったせいか、威力としてはそこまで高いものじゃない。だが、人を殺すには十分であった。
「魔導車を遮蔽物にして隠れろ!」
魔導車の装甲を盾にすれば防げたが、それでも逃げ遅れた兵士は出てしまった。
炎に飲まれて死亡してしまった者が数名。命は助かったものの、大火傷を負ってしまった者は多数。
麻薬汚染に乗じて連邦を堕とそうとしていたリリィガーデン王国軍にとって、この襲撃は痛手である。
「このクソガキがァァァッ! 今日こそぶっ殺してやりますわよォォォォッ!!」
彼女らに対抗できるとしたらリーズレット達だけだろう。
リーズレットはミニガンで箒を狙うが、パワーアップした箒が速すぎてなかなか捉えられない。
「リズ! 飛んでいるのをどうにかしないと!」
近接戦闘に特化しらラムダは空を飛ばれては手も足も出ない状態であった。
「わかっていますわよッ! 待っていなさい! 貴方はビッチ共が落ちたら存分に働いてもらいましてよ!」
空からリーズレットの近くに火球が落とされ、地面に落ちた瞬間に爆裂した。
土埃と熱波が混じり合い、彼女へ向かって衝撃波のようにやって来る。一瞬だけ顔を逸らし、片手で顔をガードする。
だが、すぐに顔を空へと上げて空を飛ぶクソビッチを落とさんと射撃を再開した。
戦闘開始から数分遅れで後方の街から出撃したナイト・ホークとイーグルが現場に到着。
本来であればサリィが対空兵器を破壊した後に投入されるはずだったが、全隊を指揮するマチルダがすぐに来いと要請したのだろう。
2種類の航空機は空を飛ぶマキとアリアを撃ち堕とすべく機銃を放つ。
しかし、箒に跨った魔法少女達は華麗に回避。アリアが空中で氷の槍を放ちながら多数の航空機を牽制して近寄らせない。
「お嬢様~! お任せ下さいですぅ!」
機動戦車を操縦するサリィがコックピット内で叫んだ。やはり頼りになるのは機甲侍女か。
彼女は小型ミサイルポッドを機動して空飛ぶ2人の魔法少女をロックオン。
シュパパッと発射された小型ミサイルは魔法少女達に向かって放たれた。
「アリア! 気を付けて!」
空を飛ぶ2人を追う小型ミサイルの方が若干ながら速度が上であった。
2人の体は魔法防御で覆われているが、跨っている箒は違う。ミサイルの直撃を受ければ壊れてしまうだろう。
徐々に距離を詰められる2人は空中を旋回しながら、後ろに着いたミサイルへ魔法を放つ。
マキは空中で炎の壁を作って、アリアはミサイルを直接凍らせて防ぐ。
「まだまだですぅ!」
だが、防がれると察していたサリィは追加で10発、それぞれ5発ずつのミサイルを発射。
防げるものなら防いでみろ、と言わんばかりに次弾装填を終えるサリィであったが……。
2人の魔法少女を追うミサイルが前方から発射された魔導兵器の攻撃で撃墜される。
魔法少女に攻撃され、存在が薄くなっていたが連邦軍の存在も忘れてはならない。加えて、連邦軍に混じって共に進軍する中には全身黒いアーマーを身に纏う部隊もいた。
「あの黒い部隊もいるか!」
共和国首都で部下を殺されたブライアンは、黒アーマー部隊の存在を忘れてはいない。いや、忘れられるはずがないだろう。
空には2人の魔法少女、前方からは連邦軍とマギアクラフト隊の混成部隊が迫る。
「マチルダッ! 魔法少女は任せなさい! 航空機と地上部隊は敵大隊の殲滅を優先! サリィ、フォローなさい!」
上と前、2方向から攻撃を仕掛けられる自軍の状況にリーズレットが叫ぶ。
「ナイト・ホークとイーグルは牽制しろ! 魔導車隊はコスモスと各チームに続けッ!」
リーズレットの指示を受け、自軍の指揮をするマチルダは各員に命令を下す。
空からナイト・ホークとイーグルが魔法少女を無視して一直線に連邦軍へ向かって行き、地上からは魔導車隊が魔法防御を破壊するべくコスモスとブラック・グリーンチームに続く。
周囲を見渡しやすい平地で遂に両軍の戦闘が始まった。
空を飛ぶナイト・ホークとイーグルは対空兵器をフレアで躱しながら地上部隊を掩護。
地上部隊は先頭を走るコスモスが囮になって仲間達をけん引する。
「させないって言ってるでしょッ!」
しかし、魔法少女達も黙ってはいない。
最も脅威となる空からの支援、ナイト・ホークとイーグルを進軍させまいと旋回して後を追う。
マキとアリアが手に魔素をチャージして尻を狙うが、地上から放たれたミニガンの弾がマキの跨る箒の先端をチリリと掠る。
「マジカルビッチッ! 貴女達の相手は私ですわよッ!!」
「クッソ! 邪魔なのよ!」
弾が掠ったマキは一瞬だけバランスを崩したが墜落はしなかった。
だが、敵軍に向かって行った航空機を追わせまいとリーズレットはミニガンを連射。
回転する銃身が徐々に赤熱していき、遂にはセーフティが起動して発砲がストップしてしまった。
「ファァックッ!!」
ミニガンのグリップから手を離したリーズレットは銃座から降りると、魔導車の後部座席にあったスナイパーライフルを引っ張った。
「サリィ! 援護なさいッ!」
スナイパーライフルにマガジンをセットしたリーズレットが叫ぶと、前方から迫る敵大隊に第一主砲をぶっ放していたサリィが再びミサイルポッドを起動する。
「ふぁいやーですぅ! ふぁいやーですぅ!」
サリィはマルチロックオンした2人の魔法少女にミサイルを発射。その直後、コックピット内にあったレバーを弾く。
第一主砲にある排出口から薬莢が飛び出し、次弾装填。
コックピットにある180度モニターに映し出された景色を右から左に素早く目で追って、敵の穴を見つける。
フットペダルと踏みながら左手の操縦桿を横に倒して、真横に戦車を移動させながら砲塔とコックピット部分を回転させた。
「ふぁいやーですぅ!」
横に走り出した戦車は2機の魔法防御兵器の間に徹甲弾を通した。魔法防御の間をすり抜けた弾が後方で航空機を狙う対空兵器を破壊。
これで自軍の航空機へ掛かるプレッシャーも軽減されるだろう。
再びコックピット内のレバーを弾いて第一主砲の排莢、そして次は特殊弾を装填。
フットペダルをベタ踏みしたまま左手の操縦桿を操り、砲塔を空飛ぶ魔法少女達へ向ける。
「お嬢様! いきますぅ!」
そう言って右手のトリガーを引いた。第一主砲から弾が飛び出し、魔法少女へと向かって行く。
マキとアリアはミサイルの処理を終え、再び空中から攻撃をしようとした矢先の事であった。
しかし、巨大な弾と言えど動きは直線。ミサイルのように追尾するわけじゃない。
「そんな弾――!?」
が、撃ち出された弾は途中で中身が弾けた。散弾のように、広範囲に小さな弾が拡散して魔法少女達へ迫る。
「このッ!」
マキは炎の壁を。アリアは氷の壁を。
それぞれ箒を守る為に魔法を発動して散弾を防ぐ。
しかし、それだけでは終わらない。次はまたミサイルが飛んで来た。
「しつこいッ!」
2人の魔法少女は速度を加速させ、空中で旋回しながら追って来るミサイルを迎撃し始めた。
だが、処理している間は空飛ぶ箒の機動が単純化する。
リーズレットはそのタイミングを狙った。
彼女の天才的な射撃センスを持ってマキの機動を予測する。
予想した通過地点に弾を置くようにトリガーを引いてスナイパーライフルを撃った。
弾が発射され、空へと向かう。その弾が向かう先にマキが進む。
丁度、箒の先。箒型魔導具の核となる部分に弾が吸い込まれるようにヒットした。
「ハッハーッ! ビンゴォですわよォ!!」
「うそッ!?」
貫通はしなかったものの、外装を突き破って内部構造を破壊されてしまったマキの箒から煙が噴出。
「マキッ!」
アリアの叫びも虚しく徐々に高度を落すマキ。
マキは安全に着地する為にもギリギリまで跨っているつもりだったようだが、それが仇となった。
「待ってましたッ!」
獲物が地上に落ちて来るのを待っていたラムダが、魔導車のボンネットを足場にして飛び掛かる。
人離れした脚力で飛んだラムダはマキの背中に飛びつき、彼女の襟を掴む。
「捕まえたッ!」
「離してッ!」
片手でマキの襟を持ち、もう片方の手には逆手に持ったナイフ。
振り解こうと暴れるマキの首元目掛けてナイフを突き刺そうとするが、マギアクラフト製の優秀な防弾・防刃グローブでナイフを掴まれてしまった。
「残念! でも、落ちるのは変わらないねッ!」
地面目掛けて落ちる2人。ラムダは掴んだマキを落下の下敷きにしてやろうと試みたが、低空飛行してきたアリアがラムダに氷の槍を放った。
「チッ!」
氷の槍はラムダの脇腹を狙っていた。
マキを下敷きにする事を諦めて、彼女の腹を蹴飛ばすと空中に再び飛び出した。
「ぎゃっ!?」
「マキ!」
腹を蹴られた事でマキは地面に背中から激突。
アリアが彼女を回収して空に逃げようとするが――
「させませんわよォッ!! ラムダァァァッ!!」
「わかってるよ!」
スナイパーライフルをその場に捨てて、アイアン・レディを抜いたリーズレットがトリガーを引く。
「邪魔ッ!」
マキを回収しようとしたアリアの背中を狙い、彼女の行動を牽制した。
リーズレットに氷の魔法を撃ち返して発砲を中断させようとするが、ナイフを構えたラムダが脇をすり抜けた。
「あッ!? マキッ!」
マズイ、とばかりに顔を歪めるアリア。
落下で背中を打ったマキは苦悶の表情を浮かべながらヨロヨロと立ち上がる。
「もらった!」
「ぐ、このッ!」
ナイフの刺突を躱せないと悟ったのか、マキは腕を振るって自分の前に炎の壁を作った。
これで相手は足を止めるだろう。そう思ってたようだが――ラムダは腕をクロスして自身の体を守りながら炎の壁を突破する。
「うそッ!?」
「残念だったね!!」
ラムダの着ていたパーカーの腕部分が燃えてしまう。
が、そんな事はお構い無し。相手を殺す事の方が重要であると、気にせずにナイフを振った。
「あッ!? ぐぅぅ!!」
完全に不意を突かれたマキは肩にある服の繋ぎ目部分を切り裂かれた。
そこは防弾・防刃性を持つ服の唯一脆い部分。スパッと切り裂かれた服にはマキの血が滲む。
「チッ! 浅かったッ!」
切り裂いたあと、脇にステップして距離を取ったラムダは燃えるパーカーの袖をナイフで切り裂いて捨てた。
彼の綺麗な肌には火傷が出来ているが、本人は大して気にしていない様子を見せる。
「アリア!」
地上戦はマズイ、そう悟ったのかマキはアリアを呼ぶが――
「逃がしませんわよォォォォッ!」
ラムダに続き、悪鬼羅刹のような表情を浮かべた怖いお姉様がアイアン・レディの銃口を向けて彼女へ迫るのであった。
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