7 / 57
1章 訳あり冒険者と追放令嬢
第6話 元貴族令嬢の冒険者デビュー 1
しおりを挟む朝が来た。
カーテンから差し込む朝日が眩しく、今日も良い天気だということが一目でわかる。
今日は情報収集と買い物、他にもサクッと旅費を稼げそうな依頼があれば受けようかな?
「さてと」
俺は横に顔を向けた。
そこには毛布に包まりながら眠るシエルの姿がある。
昨晩……いや、夕方頃からずっと彼女の愚痴と決意表明に付き合わされたわけだが。
「相当溜まっていたんだろうな」
夜まで飲み続けた彼女は酔い潰れて動けなくなってしまった。
結果、俺が背負って宿まで連れて行ったんだが……。その後も相当酷かったな……。
飲みすぎたせいで床を汚したのも驚いたが、とにかく彼女は寝相が悪い。
ベッドの上をくるくる周り、挙句の果てには俺の背中を蹴ってくる。夢の中でも歩いているのか? と思うくらい俺の背中を踏み踏みしてたな。
「もう同じベッドで眠るのは止めよう……」
宿代はしっかり管理しておこう、と心に決めた。
「おーい、起きろ~」
とにかく、さっさと行動に移さねば。
まずは彼女を起こして朝食を食べよう。
「ううん……」
体を揺すって起こすと、彼女の目が徐々に開いていく。
「あれ……。私……」
最初はぼーっとしていたが、次第に状況を理解し始めたようだ。
「……!」
昨晩のことも思い出したのか、カッと目を開いて俺の顔を見た。
続けて、部屋の中にベッドが一つしかないことにも気付いたらしい。
「い、一緒に寝ましたの!?」
「そうだよ。ここしか部屋が空いてなかったからね」
事実を明かすと、次は自分の恰好に気付いたようだ。
彼女は下着姿。着ていた服は床に散乱している状態。
彼女は毛布で自分の体を隠すと、キッと俺を睨みつけた。
「も、もしかして! いやらしいことを!?」
「寝ゲロ」
「え?」
「君が寝ゲロしたから脱がした。床も汚したね」
確かに俺は彼女の服の下にあったナイスバディを目撃したのは事実だ。
しかし、それどころの状況じゃなかったことも理解してほしい。
「…………」
「寝相が悪い君は夢の中で歩いていたのかな。寝ている間、ずっと俺の背中を蹴っていたよ」
事実を告げると、彼女は思い当たる節があったようだ。
実家でも御付きのメイドに「お嬢様は寝相が悪うございます」とでも言われていたのかな。
「……ごめんなさい」
彼女はそっと目を逸らしながら謝罪した。
「まぁ、別に構わないさ。君も色々あったからね」
俺は床に落ちていた彼女の服を拾って渡す。
「着替えて朝食を食べよう」
「え、ええ」
◇ ◇
宿の食堂で朝食を食べたあと、俺達は早速外へ繰り出した。
「今日はどうしますの? また旅を再開しますの?」
「まずは情報収集と買い物だね」
冒険者として生きていくことを決めたばかりの彼女に対し、俺は旅の基礎を教えることにした。
「旅を続けるには入念な準備が必要だよ」
「水や食料ですわね?」
「そう。それに情報も大事だ」
「情報?」
彼女はこてんと首を傾げる。
「次の目的地へ向かう前に最近の出来事について情報を集めるんだ」
たとえば、街道沿いに魔物が出たとか。向かう先では雨が続いたせいで川が氾濫しているとか。野盗が多くて治安が悪いとか。
魔物の情報、地理の情報、治安の情報など、とにかく情報を集める。
噂話レベルの話であっても、一応は耳に入れておく方がいい。
「冒険者組合はそういった情報も扱っているからね。困ったことがあれば冒険者組合に聞くといいよ」
というわけで、まずは冒険者組合へと向かった。
カウンターの向こう側にいる女性に声を掛け、街周辺の情報について求める。
「最近は安定していますねぇ。魔物も野盗も暴れているって情報は入っていません」
気候、治安共に良好。
治安に関しては、この街に冒険者が多いってことも関係しているのだろう。
街に立ち寄る冒険者も多いことから、旅費稼ぎに魔物狩りを行う者も多い。
野盗に関しても冒険者が多い場所で活動するのは自殺行為だと分かっている。稀に強気な野盗集団もいるけれど。
「旅費を稼ぐなら一つ先の街へ行った方が稼げると思いますよ」
曰く、更に西にある街では『ラプトル騒ぎ』が起きているようだ。
「ラプトルが出たのか?」
「はい。ロックラプトルが森の中に居座っているそうです」
ラプトルは『ドラゴンもどき』とも呼ばれる魔物だ。
ドラゴンに似た頭部を持つものの、その体はドラゴンよりずっと小さい。
細い足を使って二足歩行するのだが、尻尾を持っている点も「もどき」と呼ばれる理由の一つだろう。
ドラゴンもどきは他にもいて、陸のラプトルと空のワイバーン。この二種はどちらもドラゴンもどきと呼ばれている。
しかし、基本的にラプトルはもっと南に生息しているはず。
トーワ王国内にはワイバーンは生息しているものの、ラプトルは一体もいないと話を聞いていたのだが。
「どこから来たのかは不明ですが、ロックラプトルのせいで元々森に生息していた魔物が恐れをなして大移動を始めたらしいです」
もどき、だったとしても「ドラゴン」という冠が付くのだ。
その狂暴性と俊敏性、各種それぞれ持つ独特な特徴は他の生物を圧倒する。
森に生息する他の魔物だけじゃなく、人間にだって脅威となる存在と言えるだろう。
そんな恐ろしいラプトルが森の中にいるらしく、ラプトルを恐れた他の魔物達が縄張りを捨てて大移動を開始。
移動の際、餌に困った魔物達が畑の作物を食い荒らしたり、街道を行く旅人や商人を襲っているんだとか。
「なので、冒険者組合にたくさん依頼が舞い込んでいるみたいです」
一番熱い依頼は『ラプトルの討伐』だそう。
「どうです? 褒賞金はたくさん出ると思いますよ」
彼女はニッコリと笑って言った。確信犯だ。
「ラプトルのことは置いといて。遺物に関する情報はあるかな?」
「遺物に関してですか」
女性はファイルを開くと中身をパラパラと捲り始めた。
目的のページを見つけたのか、しばらく彼女は情報を読み始める。
「……そのラプトルがいる街を越えた先にもう一つ街があるんですが、そっちで遺物遺跡が見つかったみたいですよ」
曰く、街の近くに山があるのだが、最近になって土砂崩れが起きたという。
土砂崩れが起きたあと、山の中でいくつか遺物遺跡の入口と思わしき洞窟が見つかった。
「山の中に遺跡が埋まってたと?」
「そうみたいですね」
洞窟に突入した冒険者が見つけたのは、地下に続く古い階段。
予想は大当たりだった、ということだ。
「そして、その遺跡から遺物が見つかったそうです」
遺跡を見つけた冒険者が更に調査を進めると、中からいくつか遺物を見つけたそうだ。
現地では大騒ぎになっており、現在も遺物の回収が進められているんだとか。
「なるほど……。分かったよ。ありがとう」
俺は女性に礼を言ってカウンターを離れた。
後に続くシエルに「外へ出よう」と告げる。
「遺跡が見つかった街に向かいますの?」
「そうだね」
以前、蒼の聖杯を探していることは既に語っているが、彼女はしっかりそれを覚えていたようだ。
「ひとまず、隣街まで移動しようか」
まずはラプトル騒ぎが起きている街まで移動。そこで改めて準備を行い、遺跡が見つかった街まで向かう。
「一気に目的地まで行きませんの?」
彼女は「ここで準備を済ませ、乗り合い馬車に乗って向かうのはどうか?」と口にする。
「それもアリだけど、この機会を君の勉強に使おうと思ってね」
「勉強?」
「そう。冒険者になれば野宿はつきもの。早いうちに経験しておいた方がいいよ」
トーワ王国は比較的魔物被害が少ない国だ。生息している魔物の種類も「弱い」と称されるものが多い。
少しでも安全な場所で野宿を経験しておくのは悪くない。
「……ラプトルがいるのに?」
「たぶん、ラプトルはそんなに移動しないよ。野宿中に襲われるとしたら、移動してる魔物の方だね」
シエルはそれでも嫌そうな顔をしているが。
まぁ、馬車を使わない理由には旅費を節約したいってこともあるんだけどね。
これを言ったら彼女が気を遣いそうだから言わないけど。
「話は分かりましたけど……。むしろ、よろしいの? 仮に新しく見つかった遺跡に蒼の聖杯があったら他人に奪われてしまうのではなくて?」
「大丈夫、大丈夫。そう簡単には見つからないよ」
俺は楽観的ともとれる態度で否定した。
「いや、そう簡単には見つからないって……。そうかもしれませんけど……」
逆にシエルの方が「本当に大丈夫か?」と心配になってしまったようだ。
「まぁ、とにかく。次は買い物を済ませようか」
「分かりましたわ」
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
クラス転移で神様に?
空見 大
ファンタジー
集団転移に巻き込まれ、クラスごと異世界へと転移することになった主人公晴人はこれといって特徴のない平均的な学生であった。
異世界の神から能力獲得について詳しく教えられる中で、晴人は自らの能力欄獲得可能欄に他人とは違う機能があることに気が付く。
そこに隠されていた能力は龍神から始まり魔神、邪神、妖精神、鍛冶神、盗神の六つの神の称号といくつかの特殊な能力。
異世界での安泰を確かなものとして受け入れ転移を待つ晴人であったが、神の能力を手に入れたことが原因なのか転移魔法の不発によりあろうことか異世界へと転生してしまうこととなる。
龍人の母親と英雄の父、これ以上ない程に恵まれた環境で新たな生を得た晴人は新たな名前をエルピスとしてこの世界を生きていくのだった。
現在設定調整中につき最新話更新遅れます2022/09/11~2022/09/17まで予定
旦那様、どうやら御子がお出来になられたようですのね ~アラフォー妻はヤンデレ夫から逃げられない⁉
Hinaki
ファンタジー
「初めまして、私あなたの旦那様の子供を身籠りました」
華奢で可憐な若い女性が共もつけずに一人で訪れた。
彼女の名はサブリーナ。
エアルドレッド帝国四公の一角でもある由緒正しいプレイステッド公爵夫人ヴィヴィアンは余りの事に瞠目してしまうのと同時に彼女の心の奥底で何時かは……と覚悟をしていたのだ。
そうヴィヴィアンの愛する夫は艶やかな漆黒の髪に皇族だけが持つ緋色の瞳をした帝国内でも上位に入るイケメンである。
然もである。
公爵は28歳で青年と大人の色香を併せ持つ何とも微妙なお年頃。
一方妻のヴィヴィアンは取り立てて美人でもなく寧ろ家庭的でぽっちゃりさんな12歳年上の姉さん女房。
趣味は社交ではなく高位貴族にはあるまじき的なお料理だったりする。
そして十人が十人共に声を大にして言うだろう。
「まだまだ若き公爵に相応しいのは結婚をして早五年ともなるのに子も授からぬ年増な妻よりも、若くて可憐で華奢な、何より公爵の子を身籠っているサブリーナこそが相応しい」と。
ある夜遅くに帰ってきた夫の――――と言うよりも最近の夫婦だからこそわかる彼を纏う空気の変化と首筋にある赤の刻印に気づいた妻は、暫くして決意の上行動を起こすのだった。
拗らせ妻と+ヤンデレストーカー気質の夫とのあるお話です。
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
キャンピングカーで往く異世界徒然紀行
タジリユウ
ファンタジー
《第4回次世代ファンタジーカップ 面白スキル賞》
【書籍化!】
コツコツとお金を貯めて念願のキャンピングカーを手に入れた主人公。
早速キャンピングカーで初めてのキャンプをしたのだが、次の日目が覚めるとそこは異世界であった。
そしていつの間にかキャンピングカーにはナビゲーション機能、自動修復機能、燃料補給機能など様々な機能を拡張できるようになっていた。
道中で出会ったもふもふの魔物やちょっと残念なエルフを仲間に加えて、キャンピングカーで異世界をのんびりと旅したいのだが…
※旧題)チートなキャンピングカーで旅する異世界徒然紀行〜もふもふと愉快な仲間を添えて〜
※カクヨム様でも投稿をしております
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
ブラフマン~疑似転生~
臂りき
ファンタジー
プロメザラ城下、衛兵団小隊長カイムは圧政により腐敗の兆候を見せる街で秘密裏に悪徳組織の摘発のため日夜奮闘していた。
しかし、城内の内通者によってカイムの暗躍は腐敗の根源たる王子の知るところとなる。
あらぬ罪を着せられ、度重なる拷問を受けた末に瀕死状態のまま荒野に捨てられたカイムはただ骸となり朽ち果てる運命を強いられた。
死を目前にして、カイムに呼びかけたのは意思疎通のできる死肉喰(グールー)と、多層世界の危機に際して現出するという生命体<ネクロシグネチャー>だった。
二人の助力により見事「完全なる『死』」を迎えたカイムは、ネクロシグネチャーの技術によって抽出された、<エーテル体>となり、最適な適合者(ドナー)の用意を約束される。
一方、後にカイムの適合者となる男、厨和希(くりやかずき)は、半年前の「事故」により幼馴染を失った精神的ショックから立ち直れずにいた。
漫然と日々を過ごしていた和希の前に突如<ネクロシグネチャー>だと自称する不審な女が現れる。
彼女は和希に有無を言わせることなく、手に持つ謎の液体を彼に注入し、朦朧とする彼に対し意味深な情報を残して去っていく。
――幼馴染の死は「事故」ではない。何者かの手により確実に殺害された。
意識を取り戻したカイムは新たな肉体に尋常ならざる違和感を抱きつつ、記憶とは異なる世界に馴染もうと再び奮闘する。
「厨」の身体をカイムと共有しながらも意識の奥底に眠る和希は、かつて各国の猛者と渡り合ってきた一兵士カイムの力を借り、「復讐」の鬼と化すのだった。
~魔王の近況~
〈魔海域に位置する絶海の孤島レアマナフ。
幽閉された森の奥深く、朽ち果てた世界樹の残骸を前にして魔王サティスは跪き、神々に祈った。
——どうかすべての弱き者たちに等しく罰(ちから)をお与えください——〉
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる