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1章 訳あり冒険者と追放令嬢

第6話 元貴族令嬢の冒険者デビュー 1

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 朝が来た。

 カーテンから差し込む朝日が眩しく、今日も良い天気だということが一目でわかる。

 今日は情報収集と買い物、他にもサクッと旅費を稼げそうな依頼があれば受けようかな?

「さてと」

 俺は横に顔を向けた。

 そこには毛布に包まりながら眠るシエルの姿がある。

 昨晩……いや、夕方頃からずっと彼女の愚痴と決意表明に付き合わされたわけだが。

「相当溜まっていたんだろうな」

 夜まで飲み続けた彼女は酔い潰れて動けなくなってしまった。

 結果、俺が背負って宿まで連れて行ったんだが……。その後も相当酷かったな……。

 飲みすぎたせいで床を汚したのも驚いたが、とにかく彼女は寝相が悪い。

 ベッドの上をくるくる周り、挙句の果てには俺の背中を蹴ってくる。夢の中でも歩いているのか? と思うくらい俺の背中を踏み踏みしてたな。

「もう同じベッドで眠るのは止めよう……」

 宿代はしっかり管理しておこう、と心に決めた。

「おーい、起きろ~」

 とにかく、さっさと行動に移さねば。

 まずは彼女を起こして朝食を食べよう。

「ううん……」

 体を揺すって起こすと、彼女の目が徐々に開いていく。

「あれ……。私……」

 最初はぼーっとしていたが、次第に状況を理解し始めたようだ。

「……!」

 昨晩のことも思い出したのか、カッと目を開いて俺の顔を見た。

 続けて、部屋の中にベッドが一つしかないことにも気付いたらしい。

「い、一緒に寝ましたの!?」

「そうだよ。ここしか部屋が空いてなかったからね」

 事実を明かすと、次は自分の恰好に気付いたようだ。

 彼女は下着姿。着ていた服は床に散乱している状態。

 彼女は毛布で自分の体を隠すと、キッと俺を睨みつけた。

「も、もしかして! いやらしいことを!?」

「寝ゲロ」

「え?」

「君が寝ゲロしたから脱がした。床も汚したね」

 確かに俺は彼女の服の下にあったナイスバディを目撃したのは事実だ。

 しかし、それどころの状況じゃなかったことも理解してほしい。

「…………」

「寝相が悪い君は夢の中で歩いていたのかな。寝ている間、ずっと俺の背中を蹴っていたよ」
 
 事実を告げると、彼女は思い当たる節があったようだ。

 実家でも御付きのメイドに「お嬢様は寝相が悪うございます」とでも言われていたのかな。

「……ごめんなさい」

 彼女はそっと目を逸らしながら謝罪した。

「まぁ、別に構わないさ。君も色々あったからね」

 俺は床に落ちていた彼女の服を拾って渡す。

「着替えて朝食を食べよう」

「え、ええ」


 ◇ ◇


 宿の食堂で朝食を食べたあと、俺達は早速外へ繰り出した。

「今日はどうしますの? また旅を再開しますの?」

「まずは情報収集と買い物だね」

 冒険者として生きていくことを決めたばかりの彼女に対し、俺は旅の基礎を教えることにした。

「旅を続けるには入念な準備が必要だよ」

「水や食料ですわね?」

「そう。それに情報も大事だ」

「情報?」

 彼女はこてんと首を傾げる。

「次の目的地へ向かう前に最近の出来事について情報を集めるんだ」

 たとえば、街道沿いに魔物が出たとか。向かう先では雨が続いたせいで川が氾濫しているとか。野盗が多くて治安が悪いとか。

 魔物の情報、地理の情報、治安の情報など、とにかく情報を集める。

 噂話レベルの話であっても、一応は耳に入れておく方がいい。

「冒険者組合はそういった情報も扱っているからね。困ったことがあれば冒険者組合に聞くといいよ」

 というわけで、まずは冒険者組合へと向かった。

 カウンターの向こう側にいる女性に声を掛け、街周辺の情報について求める。

「最近は安定していますねぇ。魔物も野盗も暴れているって情報は入っていません」

 気候、治安共に良好。

 治安に関しては、この街に冒険者が多いってことも関係しているのだろう。

 街に立ち寄る冒険者も多いことから、旅費稼ぎに魔物狩りを行う者も多い。

 野盗に関しても冒険者が多い場所で活動するのは自殺行為だと分かっている。稀に強気な野盗集団もいるけれど。

「旅費を稼ぐなら一つ先の街へ行った方が稼げると思いますよ」

 曰く、更に西にある街では『ラプトル騒ぎ』が起きているようだ。

「ラプトルが出たのか?」

「はい。ロックラプトルが森の中に居座っているそうです」

 ラプトルは『ドラゴンもどき』とも呼ばれる魔物だ。

 ドラゴンに似た頭部を持つものの、その体はドラゴンよりずっと小さい。

 細い足を使って二足歩行するのだが、尻尾を持っている点も「もどき」と呼ばれる理由の一つだろう。

 ドラゴンもどきは他にもいて、陸のラプトルと空のワイバーン。この二種はどちらもドラゴンもどきと呼ばれている。

 しかし、基本的にラプトルはもっと南に生息しているはず。

 トーワ王国内にはワイバーンは生息しているものの、ラプトルは一体もいないと話を聞いていたのだが。

「どこから来たのかは不明ですが、ロックラプトルのせいで元々森に生息していた魔物が恐れをなして大移動を始めたらしいです」

 もどき、だったとしても「ドラゴン」という冠が付くのだ。

 その狂暴性と俊敏性、各種それぞれ持つ独特な特徴は他の生物を圧倒する。

 森に生息する他の魔物だけじゃなく、人間にだって脅威となる存在と言えるだろう。 

 そんな恐ろしいラプトルが森の中にいるらしく、ラプトルを恐れた他の魔物達が縄張りを捨てて大移動を開始。

 移動の際、餌に困った魔物達が畑の作物を食い荒らしたり、街道を行く旅人や商人を襲っているんだとか。

「なので、冒険者組合にたくさん依頼が舞い込んでいるみたいです」

 一番熱い依頼は『ラプトルの討伐』だそう。

「どうです? 褒賞金はたくさん出ると思いますよ」

 彼女はニッコリと笑って言った。確信犯だ。 

「ラプトルのことは置いといて。遺物に関する情報はあるかな?」

「遺物に関してですか」

 女性はファイルを開くと中身をパラパラと捲り始めた。

 目的のページを見つけたのか、しばらく彼女は情報を読み始める。

「……そのラプトルがいる街を越えた先にもう一つ街があるんですが、そっちで遺物遺跡が見つかったみたいですよ」

 曰く、街の近くに山があるのだが、最近になって土砂崩れが起きたという。

 土砂崩れが起きたあと、山の中でいくつか遺物遺跡の入口と思わしき洞窟が見つかった。

「山の中に遺跡が埋まってたと?」

「そうみたいですね」

 洞窟に突入した冒険者が見つけたのは、地下に続く古い階段。

 予想は大当たりだった、ということだ。

「そして、その遺跡から遺物が見つかったそうです」

 遺跡を見つけた冒険者が更に調査を進めると、中からいくつか遺物を見つけたそうだ。

 現地では大騒ぎになっており、現在も遺物の回収が進められているんだとか。

「なるほど……。分かったよ。ありがとう」

 俺は女性に礼を言ってカウンターを離れた。

 後に続くシエルに「外へ出よう」と告げる。

「遺跡が見つかった街に向かいますの?」

「そうだね」

 以前、蒼の聖杯を探していることは既に語っているが、彼女はしっかりそれを覚えていたようだ。

「ひとまず、隣街まで移動しようか」

 まずはラプトル騒ぎが起きている街まで移動。そこで改めて準備を行い、遺跡が見つかった街まで向かう。

「一気に目的地まで行きませんの?」

 彼女は「ここで準備を済ませ、乗り合い馬車に乗って向かうのはどうか?」と口にする。

「それもアリだけど、この機会を君の勉強に使おうと思ってね」

「勉強?」

「そう。冒険者になれば野宿はつきもの。早いうちに経験しておいた方がいいよ」

 トーワ王国は比較的魔物被害が少ない国だ。生息している魔物の種類も「弱い」と称されるものが多い。

 少しでも安全な場所で野宿を経験しておくのは悪くない。

「……ラプトルがいるのに?」

「たぶん、ラプトルはそんなに移動しないよ。野宿中に襲われるとしたら、移動してる魔物の方だね」

 シエルはそれでも嫌そうな顔をしているが。

 まぁ、馬車を使わない理由には旅費を節約したいってこともあるんだけどね。

 これを言ったら彼女が気を遣いそうだから言わないけど。

「話は分かりましたけど……。むしろ、よろしいの? 仮に新しく見つかった遺跡に蒼の聖杯があったら他人に奪われてしまうのではなくて?」

「大丈夫、大丈夫。そう簡単には見つからないよ」

 俺は楽観的ともとれる態度で否定した。

「いや、そう簡単には見つからないって……。そうかもしれませんけど……」

 逆にシエルの方が「本当に大丈夫か?」と心配になってしまったようだ。

「まぁ、とにかく。次は買い物を済ませようか」

「分かりましたわ」
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